42 / 96
41話
しおりを挟む 「襲われないようにする方法ないんですか?」
「犯人に止めてもらうしかないわね。殺意を向けられる心当たりは?」
普通に生きていたらそんな事は滅多に無いだろう。
けれど周囲からすれば葵は棗累が失踪した原因だ。そのせいで母親は自殺未遂にまで至っている。彼らに近しい人ほど葵を憎んでいる事だろう。
大勢の女子から愛を囁かれる彼の死を悼む人数だけ殺意があるのだ。
「……多すぎて分からないです……」
「小さいのはノーカウント。日常ではありえない激しい憎しみを向けられる事があったはずよ。例えばあなたのせいで大切な人の死に目に会えなかったとか」
きっとお姫様はこの愛らしい顔で真実を突きつけるだろう事は予想していた。
一体何が目的かは分からないけれど、まるで真実を知っているような口ぶりは現実を再認識させられる。
「やっぱり累先輩は私を憎んでるんですね……」
「どうかしら。あなたが彼の大切な人を殺したの?」
「違うわ!そんな事してない!」
「では何故憎まれてると思うの?」
「……私が連れ出した間に弟さんが亡くなったんです。でも人を殺したいなんて、そんな事思う人じゃなかった」
「普段そんな人じゃないからこそ憎しみは人一倍深いんじゃないかしら」
リゼは憎まれても仕方ないわね、と大きく何度も頷いた。
彼じゃないわよと言って欲しかったけれど、そんな優しい嘘すら吐いてくれなかった。
相変わらず穏やかに微笑んでいるけれど、それが嘲笑なのか同情なのか軽蔑なのか意図は見えてこない。葵は俯きため息を吐いたけれど、そっとリンが頭を撫でてくれる。
「だが吉報でもあるだろう。彼はまだ生きてるという事だ」
「……そっか。そうですよね。失踪しただけで遺体が見つかったわけじゃ無いし」
「見つけて謝って許してもらえれば助かるかもしれないわね」
「あの、何か探す方法無いですか」
「あるわ。あの生クリームが何処から来たかつきとめれば良いの」
「何処って、沸いて出てきたのに出所があるんですか?」
「あれらは心の在処――身体から滲み出る物で宙に出現するわけではない。あの量で外から入って来たという事は、ここにやって来れる距離にいるんだろう」
「それに何処にでも出現できるなら直接内臓に現れて破裂させるでしょ」
「そ、そっか……」
急にグロテスクな事を言われ思わず想像してしまった。
しかしそれなら防ぎようはあるという事だ。窓ガラスを割って部屋中をべとべとにする物理的存在なら水をかけて溶かしてしまえばそれまでだ。
よしよしと葵は頷いたけれど、それを諫めるようにリンがコンコンとテーブルを突いてくる。
「一人で立ち向かおうなどと思うな」
「え、だ、駄目ですか」
「駄目というより無駄だ。溶かしても憎しみは無限に湧き出る。終わりなど無い」
「……そうですよね」
それにあんな大量の生クリームを解かせるだけの水を都合よく持ってるとは限らない。持っている事の方が珍しいだろう。
しかし、ならばどうしろと言うのか。襲われて死ぬのを待てと言うのか。
そんな葵の不安に気付いたのか、リゼはクスッと笑って葵の顔を覗き込んできた。
「大丈夫よ。手伝ってあげる。一人じゃ危ないからね」
お姫様は相変わらず穏やかに、そして意味ありげに微笑んでいた。
「犯人に止めてもらうしかないわね。殺意を向けられる心当たりは?」
普通に生きていたらそんな事は滅多に無いだろう。
けれど周囲からすれば葵は棗累が失踪した原因だ。そのせいで母親は自殺未遂にまで至っている。彼らに近しい人ほど葵を憎んでいる事だろう。
大勢の女子から愛を囁かれる彼の死を悼む人数だけ殺意があるのだ。
「……多すぎて分からないです……」
「小さいのはノーカウント。日常ではありえない激しい憎しみを向けられる事があったはずよ。例えばあなたのせいで大切な人の死に目に会えなかったとか」
きっとお姫様はこの愛らしい顔で真実を突きつけるだろう事は予想していた。
一体何が目的かは分からないけれど、まるで真実を知っているような口ぶりは現実を再認識させられる。
「やっぱり累先輩は私を憎んでるんですね……」
「どうかしら。あなたが彼の大切な人を殺したの?」
「違うわ!そんな事してない!」
「では何故憎まれてると思うの?」
「……私が連れ出した間に弟さんが亡くなったんです。でも人を殺したいなんて、そんな事思う人じゃなかった」
「普段そんな人じゃないからこそ憎しみは人一倍深いんじゃないかしら」
リゼは憎まれても仕方ないわね、と大きく何度も頷いた。
彼じゃないわよと言って欲しかったけれど、そんな優しい嘘すら吐いてくれなかった。
相変わらず穏やかに微笑んでいるけれど、それが嘲笑なのか同情なのか軽蔑なのか意図は見えてこない。葵は俯きため息を吐いたけれど、そっとリンが頭を撫でてくれる。
「だが吉報でもあるだろう。彼はまだ生きてるという事だ」
「……そっか。そうですよね。失踪しただけで遺体が見つかったわけじゃ無いし」
「見つけて謝って許してもらえれば助かるかもしれないわね」
「あの、何か探す方法無いですか」
「あるわ。あの生クリームが何処から来たかつきとめれば良いの」
「何処って、沸いて出てきたのに出所があるんですか?」
「あれらは心の在処――身体から滲み出る物で宙に出現するわけではない。あの量で外から入って来たという事は、ここにやって来れる距離にいるんだろう」
「それに何処にでも出現できるなら直接内臓に現れて破裂させるでしょ」
「そ、そっか……」
急にグロテスクな事を言われ思わず想像してしまった。
しかしそれなら防ぎようはあるという事だ。窓ガラスを割って部屋中をべとべとにする物理的存在なら水をかけて溶かしてしまえばそれまでだ。
よしよしと葵は頷いたけれど、それを諫めるようにリンがコンコンとテーブルを突いてくる。
「一人で立ち向かおうなどと思うな」
「え、だ、駄目ですか」
「駄目というより無駄だ。溶かしても憎しみは無限に湧き出る。終わりなど無い」
「……そうですよね」
それにあんな大量の生クリームを解かせるだけの水を都合よく持ってるとは限らない。持っている事の方が珍しいだろう。
しかし、ならばどうしろと言うのか。襲われて死ぬのを待てと言うのか。
そんな葵の不安に気付いたのか、リゼはクスッと笑って葵の顔を覗き込んできた。
「大丈夫よ。手伝ってあげる。一人じゃ危ないからね」
お姫様は相変わらず穏やかに、そして意味ありげに微笑んでいた。
5
お気に入りに追加
637
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。

【本編完結・番外編追記】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。
As-me.com
恋愛
ある日、偶然に「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言する婚約者を見つけてしまいました。
例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃりますが……そんな婚約者様はとんでもない問題児でした。
愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。
ねぇ、婚約者様。私は他の女性を愛するあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄します!
あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。
番外編追記しました。
スピンオフ作品「幼なじみの年下王太子は取り扱い注意!」は、番外編のその後の話です。大人になったルゥナの話です。こちらもよろしくお願いします!
※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』のリメイク版です。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定などを書き直してあります。
*元作品は都合により削除致しました。

二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました
As-me.com
恋愛
完結しました。
とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。
例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。
なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。
ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!
あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。
※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。
たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。
その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。
スティーブはアルク国に留学してしまった。
セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。
本人は全く気がついていないが騎士団員の間では
『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。
そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。
お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。
本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。
そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度……
始めの数話は幼い頃の出会い。
そして結婚1年間の話。
再会と続きます。

誰も残らなかった物語
悠十
恋愛
アリシアはこの国の王太子の婚約者である。
しかし、彼との間には愛は無く、将来この国を共に治める同士であった。
そんなある日、王太子は愛する人を見付けた。
アリシアはそれを支援するために奔走するが、上手くいかず、とうとう冤罪を掛けられた。
「嗚呼、可哀そうに……」
彼女の最後の呟きは、誰に向けてのものだったのか。
その呟きは、誰に聞かれる事も無く、断頭台の露へと消えた。

悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる