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36話
しおりを挟む関わりたくないけど、向こうからやって来る場合はどうしたら良いのだろうか。ヴェローニカと出会した翌日から、彼女はティアナに付き纏う様になった。始業前、休み時間や放課後など隙あらばやって来ては、嫌味や悪口を言われている。
そしてこれは後から知ったのだが、ヴェローニカは最近学院に転入して来たばかりで、クラスは隣だった。同じクラスではない事だけが救いだと思う。
「失せろ、ブス」
「誰がブスだっていうんですの⁉︎」
ヴェローニカがやって来る度に、ミハエルが何だかんだと彼女を追い払ってくれる。但しかなり口は悪い。どちらも良い勝負だと思いながら、一歩引いてティアナは二人を眺めていた。
「ティアナ・アルナルディ。そろそろ潔く身を引く気になりまして?私とレンブラント様は、昔からの仲で貴女なんて入る隙は一ミリたりともありませんの。どういった経緯で婚約者の座に収まったかは知りませんけど、レンブラント様も迷惑されますのよ。ほら、レンブラント様って、誰にでもお優しいから勘違いしてしまうのも分からなくはありませんけど、そろそろ彼を解放して下さい。私達、愛し合ってますの。だから一秒でも早く婚約解消するなり破棄されるなりなさって下さいませ」
ティアナは、今日の帰り間際にヴェローニカから言われた事を思い出していた。日に日に彼女からティアナに対して当たりが強くなっているのを感じている。特に今日はミハエルが、風邪で学院を休み居なかったので何時も以上に凄かった。
因みに今朝、彼の侍従がわざわざフレミー家へとやって来てティアナに知らせてくれた。多分お弁当を二人分作らない様にと配慮してくれたのだと思われる。侍従の話では、ミハエルは高熱を出しているそうで、この分では暫く休みだろう。ティアナは、侍従に庭の花を束ねてお見舞い代わりに手渡した。本当なら花薬を作ってあげられたなら良かったのだが、情けないがティアナにはこれが精一杯だ。もっと確りしなくてはと思う。ミハエルも暫く休みなのだから、ヴェローニカの事も自分でどうにかしなくてはならない。
レンブラント様……どうしていらっしゃるかしら……。
ヴェローニカが現れてから、ティアナはレンブラントと一度も会えていない。その前までは数日に一回は必ず会いに来てくれたり、お茶に誘って貰えていた。それでも救いなのは、数日に一回は彼から手紙と贈り物は届けられる……だが、そうじゃない。
レンブラント様に、会いたい……。
でも自分は偽者で、自分から会いたいなんて言う事は出来ない。それにもしヴェローニカの話している事が真実だとしたら……。
私は、もう用済みね……。
彼にとってティアナは、女避けでしかない。聞いた話では、ヴェローニカは転入前は修道院にいたそうだ。理由までは知らないが、もしかしたレンブラントは彼女が帰って来るのをずっと待っていたのかも知れない。だがレンブラントも結婚適齢期であり、両親等や周りから煩く言われない為にも、偽の婚約者が必要だったのだろう。
『ほら、レンブラント様って、誰にでもお優しいから』
きっと優しい彼はヴェローニカが帰って来たが、ティアナが不憫で言い出せないでいるのかも知れない。だから急に会ってくれなくなったのだろう。それならやはり、こちらから言うべきだろうか……。
ティアナはベッドに横になり丸くなる。ニクラスは全然捕まらないし、花薬の件もあって今はそれどころではないのに……延々とレンブラントの事ばかりを考えてしまう。何時の間に自分は、こんなにも彼の事が好きでしょうがなくなったのだろう……。
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