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33話
しおりを挟む「綺麗……」
「もう少し近くで見ようか」
花火が上がり始めると、レンブラントはティアナを手を引き、良く見える場所へと移動した。と言っても、ミハエル達から大して離れてはいない。十分に視界に入る距離だ。
ミハエルは隣に座っているクラウディウスに目を向ける。此処に来て直ぐ説教をされてしまった。でも本当に他意はなかった。デートとかそんなつもりでティアナを誘った訳じゃない。ただ、今こうして視界に広がっている光景や感覚を、一緒に味わって貰いたいと思っただけだ。だが、兄から言われて冷静になって考えると、確かにそうだと反省をした。
「ミハエル、酒は苦手だったか」
「いえ、そんな事は」
「なら、もっと飲んで食べて愉しめ」
クラウディウスとこうやって一緒に酒を飲む日が来るなんて思わなかった。不思議な感じがする。兄の事は昔から苦手だし、正直関わりも少ないので、余り良く知らない。多分兄も同じだ。互いに、酒が飲めるかどうかすら分からないくらいに……。
「そう言えば先程のレンブラントの話……相手の男は今どうしているんですか」
レンブラントの事は興味も関心もない。だが、認めたくないが、彼はかなり優秀な人間だ。そんな彼と張り合っていた人間がどんな人物なのかは、気になる。
「あぁ、彼なら騎士団に所属しているよ。君も知っていると思うけど」
騎士団に特別知り合いはいない。ならそれなりの役職についている人物に絞られる。
「史上最年少で騎士団、副団長の座を拝命した、ユリウス・ソシュール。分かるだろう?」
学院を卒業して程なくして副団長に就任した男だ。当時、社交界ではかなり噂になっていたのを覚えている。名門ソシュール侯爵家の嫡男ともあり、女性達からも人気がある。ただ彼はレンブラントとは違い、愛想はなく群がる女性達を歯牙にも掛けないと聞いた。ミハエルも何度か挨拶くらいした記憶はあるが、確かに感情が薄く冷淡な印象しかない。レンブラントとは好敵手と言っていたが、全く正反対なのだと考えると少し面白い。
「ユリウスは今遠征に出ているんだが、もう随分と姿は見掛けていないな。天才と呼ばれている彼でも、経験だけは積む必要があるからね。聞いた話では、場所を変えながら国境沿いの警備の手法を学んでいるらしいな」
酒も進み、ミハエルはほろ酔いになる。そろそろ自制しておこうと、グラスをテーブルに置いた。クラウディウスを見ると頬が少し赤く見えて、手が止まっており兄も同じだと分かった。テオフィルは元々余り飲んでいない様子で素面と変わらず、ヘンリックに至っては、もはや論外だ。そんな中、エルヴィーラだけが、顔色一つ変えずに水の様に酒を飲み続けていた。
流石、この兄の婚約者なだけはある、普通ではなさそうだ。別に悪い意味ではない。ただ女性で此処まで強いとは、逆に称賛に値すると思った。
「ミハエル様。”格別”、私にも分かりました」
日付が変わる前に、ミハエル達は撤収をした。帰り際、ティアナから呼び止められると、はにかみながらそう言われた。些末な事だが、凄く嬉しく思えた。
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