【拝啓、天国のお祖母様へ 】この度、貴女のかつて愛した人の孫息子様と恋に落ちました事をご報告致します。

秘密 (秘翠ミツキ)

文字の大きさ
上 下
34 / 96

33話

しおりを挟む


「綺麗……」

「もう少し近くで見ようか」

 花火が上がり始めると、レンブラントはティアナを手を引き、良く見える場所へと移動した。と言っても、ミハエル達から大して離れてはいない。十分に視界に入る距離だ。

 ミハエルは隣に座っているクラウディウスに目を向ける。此処に来て直ぐ説教をされてしまった。でも本当に他意はなかった。デートとかそんなつもりでティアナを誘った訳じゃない。ただ、今こうして視界に広がっている光景や感覚を、一緒に味わって貰いたいと思っただけだ。だが、兄から言われて冷静になって考えると、確かにそうだと反省をした。

「ミハエル、酒は苦手だったか」

「いえ、そんな事は」

「なら、もっと飲んで食べて愉しめ」

 クラウディウスとこうやって一緒に酒を飲む日が来るなんて思わなかった。不思議な感じがする。兄の事は昔から苦手だし、正直関わりも少ないので、余り良く知らない。多分兄も同じだ。互いに、酒が飲めるかどうかすら分からないくらいに……。

「そう言えば先程のレンブラントの話……相手の男は今どうしているんですか」

 レンブラントの事は興味も関心もない。だが、認めたくないが、彼はかなり優秀な人間だ。そんな彼と張り合っていた人間がどんな人物なのかは、気になる。

「あぁ、彼なら騎士団に所属しているよ。君も知っていると思うけど」

 騎士団に特別知り合いはいない。ならそれなりの役職についている人物に絞られる。

「史上最年少で騎士団、副団長の座を拝命した、ユリウス・ソシュール。分かるだろう?」

 学院を卒業して程なくして副団長に就任した男だ。当時、社交界ではかなり噂になっていたのを覚えている。名門ソシュール侯爵家の嫡男ともあり、女性達からも人気がある。ただ彼はレンブラントとは違い、愛想はなく群がる女性達を歯牙にも掛けないと聞いた。ミハエルも何度か挨拶くらいした記憶はあるが、確かに感情が薄く冷淡な印象しかない。レンブラントとは好敵手と言っていたが、全く正反対なのだと考えると少し面白い。

「ユリウスは今遠征に出ているんだが、もう随分と姿は見掛けていないな。天才と呼ばれている彼でも、経験だけは積む必要があるからね。聞いた話では、場所を変えながら国境沿いの警備の手法を学んでいるらしいな」

 酒も進み、ミハエルはほろ酔いになる。そろそろ自制しておこうと、グラスをテーブルに置いた。クラウディウスを見ると頬が少し赤く見えて、手が止まっており兄も同じだと分かった。テオフィルは元々余り飲んでいない様子で素面と変わらず、ヘンリックに至っては、もはや論外だ。そんな中、エルヴィーラだけが、顔色一つ変えずに水の様に酒を飲み続けていた。
 流石、この兄の婚約者なだけはある、普通ではなさそうだ。別に悪い意味ではない。ただ女性で此処まで強いとは、逆に称賛に値すると思った。


「ミハエル様。”格別”、私にも分かりました」

 日付が変わる前に、ミハエル達は撤収をした。帰り際、ティアナから呼び止められると、はにかみながらそう言われた。些末な事だが、凄く嬉しく思えた。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

【本編完結・番外編追記】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。

As-me.com
恋愛
ある日、偶然に「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言する婚約者を見つけてしまいました。 例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃりますが……そんな婚約者様はとんでもない問題児でした。 愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。 ねぇ、婚約者様。私は他の女性を愛するあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄します! あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 番外編追記しました。 スピンオフ作品「幼なじみの年下王太子は取り扱い注意!」は、番外編のその後の話です。大人になったルゥナの話です。こちらもよろしくお願いします! ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』のリメイク版です。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定などを書き直してあります。 *元作品は都合により削除致しました。

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。

たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。 その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。 スティーブはアルク国に留学してしまった。 セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。 本人は全く気がついていないが騎士団員の間では 『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。 そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。 お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。 本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。 そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度…… 始めの数話は幼い頃の出会い。 そして結婚1年間の話。 再会と続きます。

誰も残らなかった物語

悠十
恋愛
 アリシアはこの国の王太子の婚約者である。  しかし、彼との間には愛は無く、将来この国を共に治める同士であった。  そんなある日、王太子は愛する人を見付けた。  アリシアはそれを支援するために奔走するが、上手くいかず、とうとう冤罪を掛けられた。 「嗚呼、可哀そうに……」  彼女の最後の呟きは、誰に向けてのものだったのか。  その呟きは、誰に聞かれる事も無く、断頭台の露へと消えた。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

処理中です...