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27話
しおりを挟むティアナは緊張しながら前を歩くレンブラントの背中を見た。実は今日、王太子であるクラウディウスからお茶の招待を受けている。数日前に、レンブラントから話をされて、初めは丁重に断った。一応レンブラントの婚約者ではあるが、あくまでも自分は偽物に過ぎない。時がくれば、この婚約は解消されるのだ。余り出しゃばるのは良くない。だが、レンブラントからの強い希望で招待を受ける事になってしまった。
「やあ、ティアナ嬢、良く来たね」
城の中庭に到着すると、そこには既にお茶の準備が整っており、今日の顔ぶれは揃っていた。
「クラウディウス殿下、本日はお招き頂きまして、ありがとうございます」
ティアナは挨拶をするとレンブラントに促され、円卓の席に着く。
「緊張しないで、楽にして構わない」
楽にして構わないって、そんな事を言われても困る……。
ティアナは必死に笑顔を作るが、引き攣るのが分かった。以前此処に来た事はあるが、何しろあの時は切羽詰まっていて、気にする余裕など無かった。だが冷静な状態の今、あの時の自分の度胸が凄いと感じる。
ティアナは、改めて顔ぶれを確認する。相手は王太子やその婚約者、更にその側近兼友人等だ。レンブラントを含め、彼等は将来この国を担う存在であり、ティアナとは住む世界が違い過ぎる。
「ティアナ嬢、改めて紹介しよう。私の左隣に座っているのが、私の婚約者のエルヴィーラだ。その隣は側近のヘンリック、私の右隣に座っているのが同じく側近のテオフィル、そして私が、この国の第一王子のクラウディウスだ。皆、レンブラントの昔からの友人でもある。君は、そんなレンブラントの大切な人だ。ならば、私達にとってもそれは同じ事だ。これからは、何か困り事などがあれば、遠慮なく私達を頼ってくれていい」
丁寧に御礼を返すが、レンブラントの婚約者と言っても自分は偽物なので気が引けてしまう。
「今日の主役はティアナ嬢だからね、エルヴィーラにアドバイスを貰って色々と用意させたんだ」
その言葉にテーブルの上に視線を遣ると、人数分の倍はあるだろうか、お菓子が沢山並べられていた。スコーンやパイなどの一般的な茶菓子から、物珍しい物まである。お菓子がキラキラと輝いている。数口飲んだお茶も、味が違うのが分かる。
なんと言うか……高そう。
流石、王族だ、格の違いを思い知った。ふと先日、レンブラントに出したアップルパイを思い出す。彼だってきっと、こんな高級品ばかりを口にしてきた筈だ。美味しいと言ってくれたが、こんな物を出されたら、あれがお世辞だと嫌でも分かる。段々と気分が沈んでくる。そんな事を考えていると、食べている高級菓子もお茶の味も良く分からなくなってきた。
「ティアナ、大丈夫?」
様子のおかしいティアナに気が付いたレンブラントが、そっと耳打ちをしてきたので、慌てて頷き、笑顔を作った。
「それにしてもレンブラントに婚約者なんて、一生出来ないと思ったのにさ」
たわいの無い話が続きティアナは彼等の話を笑顔で聞き、たまに相槌を打っていた。そんな中、ある事に気が付いた。エルヴィーラだ。彼女だけは一言も話していない。ずっと、ニコニコと笑みを浮かべているだけだった。
「そう言えばティアナ嬢はさ、レンブラントの事どう思ってるんだ」
「え……」
まさかそんな質問されるとは思っておらず、ティアナは固まってしまった。これは一体どう答えるのが正解なんだろうか……。
お慕いしております、が無難かしら。でも本人の前で、幾ら嘘でもそんな恥ずかしい事、言える訳ない!なら尊敬してます、とか……?いやいや、そんな事言う程まだレンブラント様の事をよく知らないし……どうしよう。
困り果てて隣にいるレンブラントに視線で助けを求めるが、何故か彼は期待に満ちた目で見てくる。質問してきたヘンリックは無論の事、クラウディウスやテオフィル等からも、興味津々なのだろうと分かるくらい視線が痛い……。これは何かの試練なのだろうか……。嫌な汗が背を伝うのを感じた。
「……」
そんな時だった。静かにエルヴィーラが席を立った。そしてティアナの元までやって来ると、ティアナの左隣に座っていたレンブラントを無言で凝視する。彼は暫く気不味そうにしていたが、やがて諦めた様にため息を吐くと席を立った。
「どうぞ、エルヴィーラ」
レンブラントの言葉に、彼女はニッコリと笑い空いた席に座った。どうやらレンブラントの席に座りたかったらしい。レンブラントは肩を落としながら、彼女の席へと移動した。
彼女はティアナの横に座ると、テキパキとお茶菓子をティアナの皿に乗せ始めた。ヘンリック達が何か言おうとすると、視線でそれを止める。何だかよく分からないが、凄みを感じた。
「ティアナ嬢、すまないね。エルヴィーラは、身内以外とは話す事が出来ないんだ」
直ぐに何を言われたのか飲み込めないで戸惑っていると、クラウディウスは更に説明をしてくれる。
「エルヴィーラは、とある事が原因で家族と私以外とは話せなくなってしまったんだ。だから話さないのは、君に対して悪意がある訳じゃ無い。寧ろ、エルヴィーラは君と仲良くしたいみたいだな」
彼女を見ると目が合った。そして彼女はまたニッコリと微笑む。
「君さえ良ければ、仲良くしてやって欲しい」
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