19 / 96
18話
しおりを挟む「最近随分と機嫌が良いな」
「そんな事ないよ」
揶揄う様にクラウディウスに言われたレンブラントは、しれっと否定をするが強ち間違ってはいないと思った。
ロミルダの墓参りに行ってから数日が経つ。実はあの日墓参りを終えた後、フレミー家に戻り彼女とお茶をした。短い時間だったが、控えめに言って、凄く愉しかった。これまで様々な女性とお茶やデートを経験してきたが、精神的負担が大きく疲労疲弊するばかりで、愉しめた事は一度もない。あくまで彼女は恋愛対象外だが、友人として付き合う分には問題はない筈だ。なので次は友人として正式にお茶に誘う予定だ。愉しみで仕方がない。
「ん?あれってティアナ嬢とミハエル王子だよな」
レンブラント達は午前の執務が長引き、少し遅めの昼食を取ろうと中庭へと向かっていたのだが、ヘンリックの声にその場の視線は少し先のガゼボに集まる。
「あのミハエルが、珍しいな」
遠目だが、二人きりで仲良くお茶をしているのが分かった。その光景を見たレンブラントは固まった。
「いやだが、以前彼女を連れて来ていた事を考えると、やはりそう言う事なのか。ミハエルにはまだ婚約者もいないしな」
「そうなんですか、それは残念ですね。私はもしかしたらレンブラントと彼女が……なんて、思っていたのですが」
「でもあれは勘違いだっただろう。結局、彼女の祖母がレンブラントの祖父に会いたがっていただけで、彼女はレンブラントにはまるで興味は無かったしさ」
ティアナの事は簡潔には説明をしたので、彼等はその全貌は知ってはいるのだが……随分と好き勝手言ってくれる。少し……かなり浮かれていたレンブラントだったが、頭から冷や水を浴びせられた気分になった。
確かにヘンリックの言う通りだ。ティアナは別にレンブラントの事を好きでも興味がある訳でもない。自分を付け回していたのもロミルダの為だった訳で、先日墓参りに同行してその帰りにお茶に誘ってくれたのも、彼女からしたらただ単にお礼の気持ちしかなかったのだろう。心の何処かで、もしかしたら……などと思っていた自分が恥ずかしい……。
改めてティアナとミハエルを見た。二人は同い年で学友であり気心も知れている。心なしか、彼女も自分とお茶をしていた時より愉しそうに見えた。しかも相手は第三王子だ。太刀打ちなど出来ない。諦める他ない……。胸が締め付けられる感覚を感じ苦しさを覚える。
「っ……」
そこまで思考を巡らせたレンブラントは、気が付いてしまった。つい先程まで彼女とは友人としてなどと考えていた筈なのに、いつの間にか自分は彼女を……。
「そもそもミハエル王子とはただの学友だろう?だって彼女、もう結婚するらしいし」
「は⁉︎結婚⁉︎」
余りの衝撃な発言に思わず叫んでしまった。クラウディウスやテオフィルは、ヘンリックの発言よりレンブラントの様子に驚き目を見張っている。だがそんな事を気にしている場合ではない。
「彼女が結婚って、どう言う事⁉︎」
ヘンリックの両肩を勢いよく掴み揺さぶる。
「お、おい、レンブラント!落ち着けよ!揺らすな‼︎」
「ごめん……」
動揺し過ぎて思わず取り乱したが、レンブラントは我に返り謝罪をして手を離した。
「詳しくは知らないが、たまたま知り合いがアルナルディ家の話をしていて、かなり年上の男に嫁がされるから不憫だとか言っていたぞ。確か、三十歳くらい上とか言っていたな」
「男性が年上なのは一般的ですが、三十歳もとは、流石に余り聞きませんね」
「下位の貴族の娘が、家の為に高位の貴族に嫁ぐと言うならば話は分かるが、彼女の生家は侯爵家だしな。そうなると相手は余程有益な人物なのだろうな」
確かにクラウディウスの言う通りだ。ティアナの立場でかなりの有益となると、同格以上でありそれこそ公爵家若くは王族となる。彼女より三十歳も上となると、相手は五十歳近い年齢だ。そんな年で未だに未婚の人物などいただろうか。いや、その年なら初婚ではなく再婚か……?レンブラントは頭を悩ませるが、これといって思い当たる人物がいない。
「……」
「レンブラント、どうした?」
急に黙り込んだレンブラントを心配したクラウディウスに顔を覗き込まれ、目が合った。だがレンブラントは黙ったまま彼を凝視する。
「レンブラント?」
「……クラウディウス、僕暫く休みを貰う。必要最低限は勿論やるから、書類はロートレック家の屋敷に届けさせて」
レンブラントはそれだけ言うと踵を返した。
「おい!レンブラント!一体どうしたんだよ⁉︎」
「ヘンリック、レンブラントの好きにさせてあげなよ」
背中越しにヘンリックが呼び止める声と、クラウディウスがそれを宥める声が聞こえた。
5
お気に入りに追加
637
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。

【本編完結・番外編追記】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。
As-me.com
恋愛
ある日、偶然に「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言する婚約者を見つけてしまいました。
例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃりますが……そんな婚約者様はとんでもない問題児でした。
愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。
ねぇ、婚約者様。私は他の女性を愛するあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄します!
あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。
番外編追記しました。
スピンオフ作品「幼なじみの年下王太子は取り扱い注意!」は、番外編のその後の話です。大人になったルゥナの話です。こちらもよろしくお願いします!
※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』のリメイク版です。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定などを書き直してあります。
*元作品は都合により削除致しました。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。

二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました
As-me.com
恋愛
完結しました。
とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。
例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。
なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。
ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!
あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。
※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。
たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。
その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。
スティーブはアルク国に留学してしまった。
セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。
本人は全く気がついていないが騎士団員の間では
『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。
そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。
お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。
本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。
そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度……
始めの数話は幼い頃の出会い。
そして結婚1年間の話。
再会と続きます。

誰も残らなかった物語
悠十
恋愛
アリシアはこの国の王太子の婚約者である。
しかし、彼との間には愛は無く、将来この国を共に治める同士であった。
そんなある日、王太子は愛する人を見付けた。
アリシアはそれを支援するために奔走するが、上手くいかず、とうとう冤罪を掛けられた。
「嗚呼、可哀そうに……」
彼女の最後の呟きは、誰に向けてのものだったのか。
その呟きは、誰に聞かれる事も無く、断頭台の露へと消えた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる