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16話
しおりを挟む「シランの花ですね」
レンブラントは持っていた花をロミルダの墓石の前に置いた。
「祖父がこの花を君のお祖母様にと、僕に持たせたんだ」
彼女は、白や薄ピンクの花の名前をシランと言った。レンブラントは花には詳しくないので、良く分からないまま受け取り持って来ただけだ。
「ダーヴィット様が……」
またあの顔だ。彼女は穏やかに笑みを浮かべ、シランの花束を見つめていた。
「あなたを忘れない、変わらぬ愛」
突然発せられた言葉に、レンブラントは首を傾げる。
「シランの花言葉です」
なるほど、この花にそんな意味があったとは思わなかった……。
レンブラントはしゃがみ込み、自分で持って来た花束を凝視する。あの日のロミルダに寄り添うダーヴィットの姿を思い出した。
「ただ、好きな人と一緒にいたいだけなのに……難しいですね」
彼女を仰ぎ見ると、切なそうに話しているのに彼女の顔はやっぱり微笑んでいた。もやもやとする。
『見識の狭さはお前の欠点だ』
不意に祖父の言葉が頭を過り、唇をキツく結ぶ。
「君のお祖母様は、どんな方だったんだい」
決めつけるのではなく、彼女を知るべきだ。それに、彼女という人間を理解したい、彼女にもっと近付きたいと思っている自分がいる。不思議だった、こんな気持ちは生まれて初めてだ。
「お祖母様は、淑女の鑑と呼ぶに相応しく気高く、厳しくも本当に優しい人でした」
先程教会に寄付を寄せ、慈善活動をしていたと言っていた事を思い出した。彼女の口振りやそれらを踏まえても、きっと立派な人間だったのだろうと直ぐに想像が出来た。
「私は誰かの為に笑うのよ。笑顔は人を幸せにしてくれる、だから辛い時も悲しい時も笑っていたいの、それが口癖でした。……でも、私はお祖母様みたいになれそうもありません」
フワリと風が彼女の長い髪を揺らした瞬間、くしゃりと歪んだ彼女の笑みが見えた。口角を無理矢理上げて目を細めている。
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「君のお祖母様は確かに立派な方だったかも知れない。でも君は君だ。彼女の様になる必要などないよ」
「レンブラント様……」
不謹慎かも知れないが、目を丸くしながら見上げてくる彼女は、やはり愛らしいと思った。
暫く抱き合ったままでいたが、近くで鳥の羽音が聞こえた事で我に返り現実に引き戻される。改めて今の状況を見て、顔が熱くなるのを感じた。
「す、すまないっ。ドレスを汚してしまった」
誤魔化す様にしてレンブラントはティアナを抱き起こし、ドレスの汚れを軽く叩き落とす。
「気になさらないで下さい。これくらい大した汚れではありませんから」
そう言ってクスリと笑った彼女に、レンブラントもつられて笑った。そして思う。
「その笑顔の方が、僕は好きだな」
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