16 / 96
15話
しおりを挟む「本当は祖父が来る筈だったんだけど、余り体調が良くなくて……ほら、もう年だからさ、だから仕方なく代わりに僕が……」
翌日、レンブラントはフレミー家の屋敷を訪ねた。何の連絡もせずに来てしまったが、無作法な男だと思われないだろうか……やはり一報入れてから来た方が良かったかも知れない。早る気持ちを抑えられず、昨日の今日で来てしまった。馬車を降り、門の前で今更ながらにレンブラントは後悔をする。そもそも彼女の自邸はアルナルディ家だ。フレミー家にいない可能性が高い……。やはり今日は出直そうと、踵を返した時だった。フレミー家の使用人に声を掛けられた。
ティアナの名前を出すと、使用人は彼女を呼びに行った。どうやら屋敷に来ているらしい。思わず顔がダラシなく緩むのを自分で感じて、気を引き締めた。
別に彼女に会いに来た訳じゃない。あくまで、僕はお祖父様の代理で来ただけだ……。
客間に通されたレンブラントは、彼女が来るまでの間落ち着かず、椅子に座らずに部屋の中をウロウロとしていた。そして程なくしてティアナが部屋に入って来た所で慌てて椅子に座った。
レンブラントはダーヴィットから持って行く様に言われた花束をティアナに見せながら、言い訳をツラツラと並べる。
「それで、その……君のお祖母様に花をお供えしたいんだけど、良いかな」
「そうだったんですね。わざわざありがとうございます。支度をしますので、少しだけお待ち頂いても宜しいですか」
迷惑に思われないか心配だったが、杞憂に終わる。ティアナは快く了承してくれた。
フレミー家の馬車に乗り込んだ。年頃の男女が二人きりで馬車に乗るなど、流石に不謹慎だと思い別々の馬車にすると提案をしようとしたが、彼女は別段気にする様子もなくレンブラントに同じ馬車に乗る様に促してきた為、素直に乗った。
断じてやましい気持ちなどない!
そう平常心を装い、彼女の向かい側に座った。
そもそもだ。自分は彼女を恋愛対象として認識をしていない。六歳も年下なんだ。だから別に、問題はない。彼女を盗み見ながら、延々とそんな事を考えていると、何時の間にか目的地に到着をした。
「生前お祖母様が、寄付をしていた教会なんです」
着いた先は、街外れの小さな教会だった。彼女は慣れた様子で教会の中に入るとシスターに挨拶をする。
「昔は良く、お祖母様に連れられて慈善活動をしに来ていたんですけど、ここ数年はお祖母様も年の為に身体が動かし辛いと仰って、今は私一人で通っているんです」
建物の裏に出ると庭に出た。庭一面に花が咲いていて、どこかフレミー家の庭を思い出させた。ティアナは庭を抜け、林を歩いて行く。レンブラントはその後に続いた。
「この林を抜けた場所に、お墓があります」
林を抜け出た瞬間、吹き抜ける風を感じた。視界には無数の墓石が映る。墓所には何度も来た事はあるが、こんなに美しい墓所を見るのは初めてだ。天から日が差し込み、白色の墓石を照らし出している。丈の低い無数の花が隙間なく咲き乱れていて、まるで花畑の様だった。
6
お気に入りに追加
637
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。

【本編完結・番外編追記】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。
As-me.com
恋愛
ある日、偶然に「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言する婚約者を見つけてしまいました。
例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃりますが……そんな婚約者様はとんでもない問題児でした。
愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。
ねぇ、婚約者様。私は他の女性を愛するあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄します!
あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。
番外編追記しました。
スピンオフ作品「幼なじみの年下王太子は取り扱い注意!」は、番外編のその後の話です。大人になったルゥナの話です。こちらもよろしくお願いします!
※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』のリメイク版です。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定などを書き直してあります。
*元作品は都合により削除致しました。

二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました
As-me.com
恋愛
完結しました。
とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。
例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。
なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。
ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!
あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。
※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。
たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。
その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。
スティーブはアルク国に留学してしまった。
セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。
本人は全く気がついていないが騎士団員の間では
『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。
そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。
お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。
本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。
そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度……
始めの数話は幼い頃の出会い。
そして結婚1年間の話。
再会と続きます。

誰も残らなかった物語
悠十
恋愛
アリシアはこの国の王太子の婚約者である。
しかし、彼との間には愛は無く、将来この国を共に治める同士であった。
そんなある日、王太子は愛する人を見付けた。
アリシアはそれを支援するために奔走するが、上手くいかず、とうとう冤罪を掛けられた。
「嗚呼、可哀そうに……」
彼女の最後の呟きは、誰に向けてのものだったのか。
その呟きは、誰に聞かれる事も無く、断頭台の露へと消えた。

悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる