11 / 96
10話
しおりを挟む先日、彼女が中庭から去って行った後、ミハエルから釘を刺された。
『レンブラント、約束は必ず守れよ』
彼と接する機会はそう多くないが、ミハエルの事は昔から良く知っている。兄王子二人に比べて影が薄く、寡黙で人を寄せ付けない、そんな人物だった。
だからこそ意外だった。そんな彼が彼女を連れて現れ、更にはこうやって彼女を援護する事も。
『彼があんな風に、他人を気に掛けるなんて驚いたな』
兄であるクラウディウスも、そんな弟のミハエルに目を見張る。
無論彼から言われるまでもなく、彼女との約束は守るつもりだ。
その日レンブラントは、仕事がごたつき夜遅くに屋敷に帰宅したので祖父に会うのが、翌日の夜になってしまった。
『失礼致します、レンブラントです』
少し緊張しながら扉越しに声を掛けた。
祖父は既に息子、レンブラントにとっては実父であるランドルフに家督を譲り隠居しており、本邸ではなく同敷地内にある別邸で暮らしている。故に、普段はほぼ顔を合わす事はない。またレンブラントは昔から祖父が少し苦手だった。寡黙で無表情、何を考えているか分からない。笑っている所など見た事すらなかった。そんな理由もあり、意識的に別邸には近付く事もない。
『……何だ』
許可を得て部屋に入ると、祖父はこちらに背を向け座りながら読書をしており、レンブラントには見向きもしない。
ランドルフには兄弟はおらず、レンブラントは彼にとって唯一の孫なのだから、もう少し反応があっても良いのでは?と昔から思っていたが相変わらずだ。まあ、今更で気にはしない。
『聞いて頂きたい事があります』
祖父は静かに本を閉じるとゆっくりと身体をレンブラントへと向き直った。鋭い青眼の瞳と目が合う。
昔、祖父はかなり女性等からモテていたそうだ。文武両道、容姿、家柄、全てにおいて完璧だったと今は亡き祖母から聞いた。歳はとったがそれは今もでも変わない。レンブラントと同じ深みのある金髪は白髪へと変わり、眉目秀麗と言われた整った顔には皺が目立つが、今でもその表現が良く似合うと思う。
『とある人から、お祖父様へ言伝を預かって参りました』
眉一つ動かす事なく射抜く様な視線に居心地の悪さを感じながらも、グッと堪えて話を続ける。
『ロミルダ・フレミーが貴方に会いたがっている』
驚いた。レンブラントが”ロミルダ”そう口にした瞬間、祖父の瞳が揺れた。そして僅かに唇を開き「ロミルダ……」そう呟いたのが聞こえた。
『この伝言を頼んできたのは、ロミルダ・フレミー様の孫娘です』
ロミルダ・フレミーが一体誰なのか、気になったレンブラントは侍従に調べさせていた。ただ時間が余りなく大した情報は掴めなかった。あの少女ティアナ・アルナルディの祖母、分かったのはそれだけだ。
『彼女は、お祖父様に会って話したい事があるとも言っていました』
『……そうか』
瞳を伏せ手で顔を覆い、悩む様な仕草を見せる。暫し沈黙が流れ、大した時間ではなかった筈だが、レンブラントには長く感じた。
『すまないが、その孫娘とやらを連れて来て貰えないか。私も彼女と話がしたい』
馬車にティアナを乗せロートレック家へと向かう道中、レンブラントは昨夜の事を思い出していた。
向かい側に座っているティアナを盗み見ると、落ち着かない様子で何度も居住まいを正していた。やはりまだまだ子供だと、思わず笑いそうになる。
「?」
そんなレンブラントに気が付き彼女は赤い大きな瞳を丸くしながら小首を傾げる。
可愛い……。
「っ⁉︎」
いやいや‼︎今僕は一体何を思ったんだ⁉︎あり得ないだろう⁉︎相手は六歳も年下の少女なんだぞ⁉︎
内心激しく動揺をし顔全体を手で覆いながら、やはり指の隙間から彼女を盗み見る。
「???」
レンブラントの異変に今度は眉根を寄せ、困惑している。
やっぱり、可愛い……。
屋敷に着くまでの間、今度はレンブラントが落ち着かなくなり、居住まいを正したり無駄に足や腕を組み直したりを繰り返した。
6
お気に入りに追加
637
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。

【本編完結・番外編追記】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。
As-me.com
恋愛
ある日、偶然に「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言する婚約者を見つけてしまいました。
例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃりますが……そんな婚約者様はとんでもない問題児でした。
愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。
ねぇ、婚約者様。私は他の女性を愛するあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄します!
あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。
番外編追記しました。
スピンオフ作品「幼なじみの年下王太子は取り扱い注意!」は、番外編のその後の話です。大人になったルゥナの話です。こちらもよろしくお願いします!
※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』のリメイク版です。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定などを書き直してあります。
*元作品は都合により削除致しました。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。

二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました
As-me.com
恋愛
完結しました。
とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。
例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。
なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。
ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!
あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。
※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。
たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。
その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。
スティーブはアルク国に留学してしまった。
セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。
本人は全く気がついていないが騎士団員の間では
『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。
そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。
お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。
本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。
そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度……
始めの数話は幼い頃の出会い。
そして結婚1年間の話。
再会と続きます。

誰も残らなかった物語
悠十
恋愛
アリシアはこの国の王太子の婚約者である。
しかし、彼との間には愛は無く、将来この国を共に治める同士であった。
そんなある日、王太子は愛する人を見付けた。
アリシアはそれを支援するために奔走するが、上手くいかず、とうとう冤罪を掛けられた。
「嗚呼、可哀そうに……」
彼女の最後の呟きは、誰に向けてのものだったのか。
その呟きは、誰に聞かれる事も無く、断頭台の露へと消えた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる