10 / 96
9話
しおりを挟むレンブラントにダーヴィットに会わせる事が出来ないと言われ、その理由も聞かされたティアナは酷く落胆はしたが納得をした。確かに彼の言う通りだ。彼にとって自分は不審者でしかない。
本当は理由を説明しようかとも思った。だがそれは躊躇わられた。貴方の祖父の昔の恋人が、祖父に会いたがっているなどと言われて気分が良い筈もない。しかも、もう四十年以上も前の話だ、今更何なんだと思うだろう。とても理解して貰えるとは思えない。やはり何か裏があるのではと思われるだけだろう。
そもそも彼は祖母の事を覚えているのだろうか……。
此処に来て急に冷静になり、そんな事が頭を過ぎった。ロミルダの心の中にはずっと彼が居た。だから彼もまたそうなのだと勝手に思い込んでいた。
だが普通に考えれば、四十年以上も前の恋人の存在など忘れているに決まっている。ダーヴィット本人に直接会えた所で、彼が態々ロミルダに会いに来てくれるかも分からない。
一人意気込んで、莫迦みたい……。
祖母の余命宣告と自分の急な結婚が重なり、半ばパニック状態になっていたのかも知れない。色んな人に迷惑を掛けて、本当に自分は莫迦だ。
「ロミルダ・フレミーが貴方に会いたがっています、そうお伝え下さい」
ただせめて、祖母の想いだけでも届けられたら……そんな思いでレンブラントに言伝を託した。
踵を返し彼等に背を向けたティアナは、その場を後にした。
気落ちしながら帰路についたティアナは部屋に引き籠った。
翌日、ロミルダに会いに行く予定だったが、彼女に合わせる顔がないと結局行けず仕舞いになってしまった。
モニカ達はそんなティアナを心配そうに見ていたが、一人になりたくて部屋から出て行って貰った。少し自暴自棄になっていた。
更にその翌日ー。
アルナルディ家の屋敷にまさかの人物が訪ねて来た。
モニカは慌てた様子で部屋に入って来ると、ティアナに来客だと告げる。ティアナは相手の名前を聞いて驚きながらも、彼の待つ客間へと急いだ。
「レンブラント様……」
客間の扉を開ける前に一度深呼吸をして自分を落ち着かせた。ティアナが中へと入ると、長椅子に座る彼がいた。
「急に来てしまって、すまない」
「い、いえ……。こちらこそ先日は不躾に、申し訳ありませんでした」
ティアナは軽く会釈をしてレンブラントの正面へと腰を下ろした。
「あのそれで、私に何か御用でしょうか……」
もしかして先日のティアナの言動に対して、苦情を言いに来たのだろうか?一瞬そう思ったが、忙しいであろう彼が自らそんな理由で態々来訪しないだろうと考え直した。でも、なら一体何しに来たのか分からない。
「君、変わってるって言われるだろう」
「え……」
出されたお茶を優雅に啜るレンブラントに、そう言って苦笑された。ティアナは意味が分からず、思わず間の抜けた声が洩れてしまう。
「先日、君の方から態々僕に会いに来た筈だ。本来なら用があるのは君の方だろう」
「……確かにそうですが、私の要件は断られてしまったので」
レンブラントが何を言いたいのかがさっぱり分からずティアナは困惑し眉根を寄せた。
「ロミルダ・フレミーが貴方に会いたがっている、約束通り君からの言伝は伝えたよ」
「……」
「祖父に話したよ、君の事も」
心臓が脈打ち緊張をする。彼がカップを受け皿に置く音が嫌に耳についた。
「支度をしておいで。祖父が、ダーヴィット・ロートレックが、是非君に会いたいと言っている」
6
お気に入りに追加
637
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【本編完結・番外編追記】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。
As-me.com
恋愛
ある日、偶然に「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言する婚約者を見つけてしまいました。
例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃりますが……そんな婚約者様はとんでもない問題児でした。
愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。
ねぇ、婚約者様。私は他の女性を愛するあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄します!
あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。
番外編追記しました。
スピンオフ作品「幼なじみの年下王太子は取り扱い注意!」は、番外編のその後の話です。大人になったルゥナの話です。こちらもよろしくお願いします!
※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』のリメイク版です。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定などを書き直してあります。
*元作品は都合により削除致しました。

二度目の召喚なんて、聞いてません!
みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。
その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。
それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」
❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。
❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。
❋他視点の話があります。

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました
As-me.com
恋愛
完結しました。
とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。
例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。
なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。
ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!
あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。
※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

妾に恋をした
はなまる
恋愛
ミーシャは22歳の子爵令嬢。でも結婚歴がある。夫との結婚生活は半年。おまけに相手は子持ちの再婚。 そして前妻を愛するあまり不能だった。実家に出戻って来たミーシャは再婚も考えたが何しろ子爵領は超貧乏、それに弟と妹の学費もかさむ。ある日妾の応募を目にしてこれだと思ってしまう。
早速面接に行って経験者だと思われて採用決定。
実際は純潔の乙女なのだがそこは何とかなるだろうと。
だが実際のお相手ネイトは妻とうまくいっておらずその日のうちに純潔を散らされる。ネイトはそれを知って狼狽える。そしてミーシャに好意を寄せてしまい話はおかしな方向に動き始める。
ミーシャは無事ミッションを成せるのか?
それとも玉砕されて追い出されるのか?
ネイトの恋心はどうなってしまうのか?
カオスなガストン侯爵家は一体どうなるのか?

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。
たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。
その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。
スティーブはアルク国に留学してしまった。
セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。
本人は全く気がついていないが騎士団員の間では
『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。
そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。
お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。
本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。
そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度……
始めの数話は幼い頃の出会い。
そして結婚1年間の話。
再会と続きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる