【R18】だれがフィクションだと言った 〜圧倒的モブ田中A子のセフレ生活〜

サバ無欲

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4.これはフィクション?

その6、映子ちゃんは俺の彼女。①

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大塚さんは優秀だった。
食堂での騒ぎを聞きつけ、俺に即座にラインを飛ばした。

内容はひとこと。
『映子先輩が秘書課にからまれてます』

……どうやら相当、だだ漏れだったらしい。


「人のこと、勝手に振らないでよ」
「えっアッファ、アキヒトサン」
「ぶふっ」


ほんと久しぶりに見た映子ちゃんのロボ化につい吹きだしてしまう。それまでの緊迫した雰囲気が台無しだ。まったくかわいい。

でも、彼女の腰に片手を回すと、身体中が小刻みに震えていた。目のふちがじんわりと赤くて、声がうわずって。今にも泣き出す手前のその表情を見て、息苦しいほどの後悔が襲う。

ごめんね。
もっと早くに来てあげればよかった。

様子を伺ってないで、すぐそばに駆けつければよかった。独りで、この気の強いばかりの性悪三人と対峙して、どれだけ心細かったか。


『コネじゃない!』


それでも懸命に声を上げ続けた彼女に、


『恋人です!』


俺がどれだけ惚れてるか。


「ねぇ、映子ちゃん」
「ア、ゥア」


邪魔だからトレーはテーブルに置いて、改めて、今度は向かい合って両手を映子ちゃんの腰に回す。ガチン、ガチンと鈍い鉄の音がしそうなほど、映子ちゃんは固まっていた。


「元恋人なんて寂しいこと、言わないでよ。この間の喧嘩……まだ怒ってる?」
「エ、ウ、イェア」
「俺は別れる気ないよ。いくらでも謝るし、映子ちゃんが望むならどんな事でもするけど、別れるのだけは絶対に嫌。ねえ、映子ちゃん」
「ハ、ハヒ……」


丸い頬をなぞる。
キスしたいところをぐっと堪える。

まだダメだ。
今は。


「俺を、ちゃんと映子ちゃんの彼氏でいさせてよ」
「……」
「駄目?」


その時の映子ちゃんは、今までで一番綺麗だった。
口をはくはくと二、三回動かして、そのうち開いたままになって。小刻みにわななく唇とともに、うるうると瞳に膜が張られて、みるみるうちにそれは決壊した。涙は頬をまあるく伝って、俺の指先をあたたかく濡らす。


言葉もなく首を左右に強く振る彼女が、例えようもなく綺麗だった。


「……ありがと」
「あ、あきひとさ、私こそ……っ」
「おいで、映子。泣かないで」


腰に回していた腕を一度ほどいて、小さな頭と細いなで肩を包みこむ。誰にも見せたくなかった。こんな、綺麗な俺の彼女を。

ふら、と映子ちゃんの足が脱力する。
緊張が抜けたらしい。
そういえば、さっき性悪女のひとりがいい事を言っていたな。ありがたく使わせてもらおう。


「医務室行こうか、映子ちゃん」
「え……」
「疲れてるんでしょ? さっき彼女たちも勧めてくれてたし」
「ひゃあっ! あ、秋人さん!」


驚いているけど、すんなりと腕におさまった。
少し会わないうちに余計に軽くなったような気がする。苦々しさと懐かしさ(って言うほど長く離れていたわけではないけど)に息が詰まるけど、顔を赤く染めて胸の中にいてくれるから、よしとしよう。

視線を落とすと、唖然とした二人と、上辺だけのうすら寒い笑みを浮かべた一人が目に入る。そうだ。


「瀬崎さん、だっけ?」
「はい、久遠専務」
「上に言っといて。大塚さんは今までの秘書みたいに変な色仕掛けしないから安心してるって」
「……はい」
「ああ、それから。今、カンボジアの子会社への派遣社員を探してる最中なんだけど、瀬崎さん、よかったらどう?」
「……いえ……」
「そう、残念! ……まぁでも、辞令があれば行かざるを得ないけどね。俺も、そうしてきたし」
「……」
「いいキャリアになるよ。あくまで実力次第だけど」


均等に形作られた唇がひく、と引きつった。
いまだに腹が立つけど、ここら辺が引き際だろう。これ以上、無駄な時間を浪費したくもない。

しんと静まった社員の視線を受けて、食堂を出たところで、優秀な秘書がふたつの鞄をもって待っていた。ひとつは俺の。もうひとつは映子ちゃんのものらしい。


「びゃっ、早織ちゃ……っ!」
「大塚さん、それ」
「早退届を出しておきます。三時からの会議だけは、家のパソコンで出席なさってくださいね」
「……ははっ、最高」
「映子先輩」
「は、ハイ!」


わたわたと動き始めた映子ちゃんを仕方なく降すと、彼女は大塚さんから、結構痛そうなデコピンを食らっていた。んぎゅう、と変な声がする。


「今度、映子先輩のおごりで焼肉連れてってください。尋問させてもらいますから」
「ぁい……」
「さぁもう行ってください。これ以上いられると邪魔です。下にタクシー呼んでありますんで」


ほんと、気が効く。


「何から何までありがとう」
「給料あげてくださいね」
「検討する!」


映子ちゃんとふたり、走って逃げる。
彼女は一瞬「制服……」と言いかけて、首を振った。着替える時間すら惜しいと思ってくれているらしかった。ほかの会社の連中がいて狭いエレベーターのなかで手を握る。


「……」


握り返してくれたから。
もう離さない。


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