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Ⅶ.日向の章(おまけ)
夫の心、妻知らず③
しおりを挟むヒエロンド南方都市、場末の酒屋にて。
安酒を前に3人組は沈黙していた。
***
「えっ、あ? ろ、ロイ教官……っ!」
赤ワインを片手に突然声をかけてきた夫は、一見いつもと変わらない無表情だ。しかし。
「俺の女になんの用だ」
「えっ?!」
「や、ロイ、違うんだよ。ちょっと雑談してただけ!」
ああ、もうっ!
アイリーンは心の中でそう叫んでいた。または吠えていた。やっぱり怒ってる、というより、これはもはや殺気に近い。
早めに切り上げればよかった。でも、顔見知りのご令嬢たちとの会話に気疲れしていたのだ。アイリーンは以前、そういった女性たちとうかつに仲良くなろうとして痛い目を見ていた。あの時のことを考えると、今でも貴婦人との距離の取り方がわからなくなる。3人組との会話がどれだけ心を気楽にさせたか。
大体、ロイが悪いんじゃないか。
そんな思いがぽつりと芽生える。急に連れてきたと思ったら、仕事の話があるからとほったらかしにされた。彼らが声をかけてくれたのは、そんな自分を憐んでの事かもしれないのに。
「え、あの、……女?」
「こいつは俺の嫁だ」
「ひぇ……ッ」
あーあ。完全に萎縮させてしまった。
「しっ、失礼しました!」
「ううん。むしろこっちこそ、言わなくてごめ、んひゃッ……?!」
彼らが心底気の毒で、どうにか気持ちを和らげてやりたくて声をかけた途端、腰のあたりでぞわぞわと強烈な違和感を覚えてアイリーンは飛び上がった。
なに、なんだ?!
事態を把握できないまま夫を見る。冷然とした横顔。視線は合わない。太ももになにか冷たいものが、わずかに流れてゆくのを感じた。これは……
「ッ……!」
「で。用があるならさっさと言え」
「いっ、いえいえ! その、我々は話をしていただけで、なっ?」
彼らを助けてやりたいが、そうもいかなくなってしまった。恐らくワインを……夫がワインを、腰へと流し込んでいる。拘束されたわけでもないのに、口を、動きを、塞がれてしまった。くらくらとこの状況に、漏らしたような不快感にめまいがする。
なんてことを!
「ッ……!」
またとろりと流される。自覚してしまえば、より一層感覚は過敏になった。内腿から足首まで、ゆっくりとワインがこぼれ落ちてゆく。立っていられない。ドレスや3人組に、ご令嬢たちに、誰かにバレてしまってないか。彼らには悪いが、アイリーンはもう一刻も早く帰りたくて、この場から逃れたくて仕方なかった。誰かにバレる前に、はやく!
「な、なぁ、ロイ……」
「あ?」
「お、オレ、もう帰りたいぃ……っ」
悪質ないたずらを仕掛けている張本人はずっと飄々とした面持ちで、混乱する。どうしてこんな事をしてくるのか。いくら機嫌が悪いからといって、こんなの横暴以外の何物でもない。でも深くは考えられなかった。顔が、身体が羞恥で赤く染まる。
はたして、願いは聞き届けられた。
夫は3人組と手短に言葉を交わすと、アイリーンの腰をしっかりと掴みながら会場をあとにした。傍目には、仲のいい夫婦としか見えないだろう。でもアイリーンは馬車に乗るまで戦々恐々としていた。
「~~っ! ロイ! なんであんな事したんだよ!」
「あ? うるせえぞキャンキャン吠えんな」
「み、みんなの前であんな! 訳わかんねえよ、どういうつもりなんだよ! 服も濡れちゃうし、それに……ッ」
「うるせえってのが聞こえねえのか」
言葉で突き放された途端。
「あっ、いや、いやぁ……ッ!」
ドレスが引き下げられ、片方の胸があらわになる。夫はそれを持ち上げ、大きく口を開いて、先端を咥え込んだ。ぴりぴりと、すぐに強い刺激が脳髄を溶かす。歯を立てられた痛みですら、痛みだけで終わってくれない。
「あゥ……っや、やめ……」
「やめて欲しけりゃ黙ってろ。でなきゃ犯す。いいな」
物騒すぎる物言いに、それ以上言及することはできない。やっぱりひどくご機嫌ななめだ。でもどうして。聞きたいことばかりだが、アイリーンは大人しくドレスを直した。ただ最後にボソリと呟いた「ロイの馬鹿」という言葉だけは、どうやら見逃してもらえたらしかった。
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