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Ⅲ.夏の章
小噺◆酔いどれ問答
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【ブクマ200件御礼】
「やぁロイ、良い夜だな」
「……国王がこんな時間にこんな場所で、護衛も付けずなにしてやがる」
「ちょっと晩酌だよ。目が冴えてね。お前もどうだ?」
「断る、警備中だ」
「相変わらずだな、まぁ座れよ。話し相手がいなくてくさくさしてたところなんだ。それに警備なら、私を守るのが最優先だろう?」
「適当言いやがって……てめえはどうも昔から国王の自覚に欠ける」
「ははは、私にそんなことを言うのはお前1人くらいなものだよ。世間では、私ほどらしい国王もいないともっぱら評判なんだがね」
「だったら護衛のひとりでもつけてやれ。問題が発覚してあとで処分を受けるのは騎士の方だぞ」
「お前はなにも言わないだろう? だったら大丈夫だ。私も、なにも言わないから」
「……クソが」
「お前のそういうところが好きだよ、ロイ。乾杯」
「言ってろ。……うめぇな」
「だろう? 研究所の職員の地元で作っている蜂蜜酒なんだ。南東の、あの小さい島……なんといったかな……」
「ノカラ島か」
「そう、それだ。よく覚えていたな」
「仕事で何回か行ったからな。むしろてめえはなんで覚えてない、国王だろ」
「私は国王の自覚に欠けるからねぇ……ソフィアのほうがよっぽど優秀だし、お前のほうがよっぽど求心力がある。私はどれも中途半端。結局努力だけではどうにもならない……忌々しい、血筋だけで王座にしがみついてる。値札だけが立派な粗悪品みたいなものだ。どうだろう、そろそろお前に王位を渡そうか。あんなもの、誰がなったって一緒なんだ」
「酔ってんのか」
「酔ってないさ、酔ってない。お前は昔から変わらないなぁ。国王になれば権力も名声も、法も金も思いのままなのに。それこそ宗教の自由化だって……」
「てめえがまだ成し得てないことが、俺にできるわけねえだろ」
「やっぱりそこには反応するのか。なに、お前が言うなら大司教どもも聞く耳を持たざる得まいよ。私が言うよりよっぽどな」
「馬鹿げたことを……」
「それにしても、お前はずいぶんあの子にご執心だな。何故だ? どこかで会ったことでもあるのか? 秘密主義は良くないぞロイ」
「クダ巻いてんなら戻るぞ」
「まぁそう言うなよ。じゃあ話題を変えよう……お前の奥方はどうしてる? 最近、ダンスを習わせているそうじゃないか」
「……」
「ん?」
「……昨日、誕生日だったらしい」
「ンブッ!!」
「汚ねえ、吹くんじゃねぇ」
「だってお前……! ぶは、あはははは! その顔、は、反則だろう……っ!」
「てめえに言ったのが間違いだった。もう戻る」
「あー待て待て待て! 悪かった、謝るから! それにその顔じゃ、何も祝えなかったんだろう?」
「……」
「お前にも詰めの甘いところがあるものなんだな。このあいだの風邪といい……」
「そんなこと言うが、てめえは把握してんのか。……正直、人が生まれたの死ぬだのに、俺はそこまで関心がない」
「だろうね……でもそれなら、今さら気にしなくてもいいじゃないか。自分はそういう視点なんだと奥方に教えてやればいい」
「……あいつもそこは分かってる……いや、分かってないかも知れねえが……どっちにしろ、少しも期待されてなかった」
「あぁ……」
「そのくせ、てめえの女房からもらった贈り物には跳ねて喜んでた……あぁクソ……」
「ああ、そう言えば用意してたな……そうか、教えてやればよかった、すまない」
「……いや……結局、こっちの落ち度だ」
「殊勝だな、お前らしくもない。これから用意するのか?」
「そう出来ればとも思うが……女の好みなんざ全く分からねえ」
「はは、だろうね。……いや、お前が女への贈り物に悩むだけ進歩じゃないか。せいぜいしっかり悩めばいい。ああ……楽しいなぁ……」
「人で楽しんでんじゃねえ」
「そんなこと言って。お前も案外楽しんでるだろう? 式のときだってずいぶんやってくれたじゃないか。あのドレスを見たソフィアの驚きようと言ったら……私に詰め寄ってくるんじゃないかと肝が冷えたぞ」
「あれは……別に楽しんだわけじゃねえ。必要に迫られて、だ」
「そうか? その割にはいいドレスだったじゃないか。あ……ドレスはどうなんだ?」
「あ?」
「贈り物だよ。それこそ、最終日の舞踏会にはあの子も来るんだろう? 今からならなんとか間に合う」
「いや、もう発注してある」
「……ッぐ、ぶ…………いや、すまん。でもそれならそれを贈り物と言って渡してしまえばいいじゃないか」
「……」
「気難しいな、お前は」
「何も言ってねえだろ」
「顔を見ればわかるさ、何年一緒にいたと思ってる。ロイ、お前の気持ちもわかるが、男と女なら多少の小狡さは必要だと思うぞ」
「……考えておく」
「強情だ」
「それよりてめえは考えてんのか。その、嫁の贈り物とやらを」
「この私がぬかると思うか? ……まぁ、彼女に受け取ってもらえるかどうかは分からないが……」
「……なんで」
「聞くのか、そこを。流してくれてもいいだろうに」
「こっちが洗いざらいぶちまけてんのに、てめえだけ隠すのは筋が通らねえだろ」
「とんでもない屁理屈だな……簡単だよ、うちはお前のところとは違う。それだけだ」
「は……?」
「お前はいいな。立場も、言葉も、なにひとつ偽りなく、隠すことなく生きていける。あの子もだ。お前たちは着の身着のままどこでも生きていけるが、私たちは違う。私たちは王族としてのみ……」
「おいやめろ。もう飲むんじゃねえ二日酔いだぞ」
「私に、指図するなロイ。いまのお前は、わたしに、命令できる、立場にはないぞ」
「クソッ……だから言ったんだ。ほら掴まれ、仮眠室でいいのか」
「いい、ひとりで行ける、頼らなくても……あぁ、鐘だ。交代の時間だぞロイ」
「うるせえさっさと寝やがれ酔っ払い。侍従たちが目ぇひん剥いてんじゃねえか」
「あぁ……ひどいな目が回る。死にそうだ。いま私が死ねば、お前が真っ先に疑われる……そうなれば……あれを……」
「じゃあな。せいぜい二日酔いにでもなって休ませてもらえ。仕事のしすぎだ」
「お前がそれを言うか……ロイ」
「なんだ」
「話し相手になってくれて助かったよ、ありがとう」
「……」
「やぁロイ、良い夜だな」
「……国王がこんな時間にこんな場所で、護衛も付けずなにしてやがる」
「ちょっと晩酌だよ。目が冴えてね。お前もどうだ?」
「断る、警備中だ」
「相変わらずだな、まぁ座れよ。話し相手がいなくてくさくさしてたところなんだ。それに警備なら、私を守るのが最優先だろう?」
「適当言いやがって……てめえはどうも昔から国王の自覚に欠ける」
「ははは、私にそんなことを言うのはお前1人くらいなものだよ。世間では、私ほどらしい国王もいないともっぱら評判なんだがね」
「だったら護衛のひとりでもつけてやれ。問題が発覚してあとで処分を受けるのは騎士の方だぞ」
「お前はなにも言わないだろう? だったら大丈夫だ。私も、なにも言わないから」
「……クソが」
「お前のそういうところが好きだよ、ロイ。乾杯」
「言ってろ。……うめぇな」
「だろう? 研究所の職員の地元で作っている蜂蜜酒なんだ。南東の、あの小さい島……なんといったかな……」
「ノカラ島か」
「そう、それだ。よく覚えていたな」
「仕事で何回か行ったからな。むしろてめえはなんで覚えてない、国王だろ」
「私は国王の自覚に欠けるからねぇ……ソフィアのほうがよっぽど優秀だし、お前のほうがよっぽど求心力がある。私はどれも中途半端。結局努力だけではどうにもならない……忌々しい、血筋だけで王座にしがみついてる。値札だけが立派な粗悪品みたいなものだ。どうだろう、そろそろお前に王位を渡そうか。あんなもの、誰がなったって一緒なんだ」
「酔ってんのか」
「酔ってないさ、酔ってない。お前は昔から変わらないなぁ。国王になれば権力も名声も、法も金も思いのままなのに。それこそ宗教の自由化だって……」
「てめえがまだ成し得てないことが、俺にできるわけねえだろ」
「やっぱりそこには反応するのか。なに、お前が言うなら大司教どもも聞く耳を持たざる得まいよ。私が言うよりよっぽどな」
「馬鹿げたことを……」
「それにしても、お前はずいぶんあの子にご執心だな。何故だ? どこかで会ったことでもあるのか? 秘密主義は良くないぞロイ」
「クダ巻いてんなら戻るぞ」
「まぁそう言うなよ。じゃあ話題を変えよう……お前の奥方はどうしてる? 最近、ダンスを習わせているそうじゃないか」
「……」
「ん?」
「……昨日、誕生日だったらしい」
「ンブッ!!」
「汚ねえ、吹くんじゃねぇ」
「だってお前……! ぶは、あはははは! その顔、は、反則だろう……っ!」
「てめえに言ったのが間違いだった。もう戻る」
「あー待て待て待て! 悪かった、謝るから! それにその顔じゃ、何も祝えなかったんだろう?」
「……」
「お前にも詰めの甘いところがあるものなんだな。このあいだの風邪といい……」
「そんなこと言うが、てめえは把握してんのか。……正直、人が生まれたの死ぬだのに、俺はそこまで関心がない」
「だろうね……でもそれなら、今さら気にしなくてもいいじゃないか。自分はそういう視点なんだと奥方に教えてやればいい」
「……あいつもそこは分かってる……いや、分かってないかも知れねえが……どっちにしろ、少しも期待されてなかった」
「あぁ……」
「そのくせ、てめえの女房からもらった贈り物には跳ねて喜んでた……あぁクソ……」
「ああ、そう言えば用意してたな……そうか、教えてやればよかった、すまない」
「……いや……結局、こっちの落ち度だ」
「殊勝だな、お前らしくもない。これから用意するのか?」
「そう出来ればとも思うが……女の好みなんざ全く分からねえ」
「はは、だろうね。……いや、お前が女への贈り物に悩むだけ進歩じゃないか。せいぜいしっかり悩めばいい。ああ……楽しいなぁ……」
「人で楽しんでんじゃねえ」
「そんなこと言って。お前も案外楽しんでるだろう? 式のときだってずいぶんやってくれたじゃないか。あのドレスを見たソフィアの驚きようと言ったら……私に詰め寄ってくるんじゃないかと肝が冷えたぞ」
「あれは……別に楽しんだわけじゃねえ。必要に迫られて、だ」
「そうか? その割にはいいドレスだったじゃないか。あ……ドレスはどうなんだ?」
「あ?」
「贈り物だよ。それこそ、最終日の舞踏会にはあの子も来るんだろう? 今からならなんとか間に合う」
「いや、もう発注してある」
「……ッぐ、ぶ…………いや、すまん。でもそれならそれを贈り物と言って渡してしまえばいいじゃないか」
「……」
「気難しいな、お前は」
「何も言ってねえだろ」
「顔を見ればわかるさ、何年一緒にいたと思ってる。ロイ、お前の気持ちもわかるが、男と女なら多少の小狡さは必要だと思うぞ」
「……考えておく」
「強情だ」
「それよりてめえは考えてんのか。その、嫁の贈り物とやらを」
「この私がぬかると思うか? ……まぁ、彼女に受け取ってもらえるかどうかは分からないが……」
「……なんで」
「聞くのか、そこを。流してくれてもいいだろうに」
「こっちが洗いざらいぶちまけてんのに、てめえだけ隠すのは筋が通らねえだろ」
「とんでもない屁理屈だな……簡単だよ、うちはお前のところとは違う。それだけだ」
「は……?」
「お前はいいな。立場も、言葉も、なにひとつ偽りなく、隠すことなく生きていける。あの子もだ。お前たちは着の身着のままどこでも生きていけるが、私たちは違う。私たちは王族としてのみ……」
「おいやめろ。もう飲むんじゃねえ二日酔いだぞ」
「私に、指図するなロイ。いまのお前は、わたしに、命令できる、立場にはないぞ」
「クソッ……だから言ったんだ。ほら掴まれ、仮眠室でいいのか」
「いい、ひとりで行ける、頼らなくても……あぁ、鐘だ。交代の時間だぞロイ」
「うるせえさっさと寝やがれ酔っ払い。侍従たちが目ぇひん剥いてんじゃねえか」
「あぁ……ひどいな目が回る。死にそうだ。いま私が死ねば、お前が真っ先に疑われる……そうなれば……あれを……」
「じゃあな。せいぜい二日酔いにでもなって休ませてもらえ。仕事のしすぎだ」
「お前がそれを言うか……ロイ」
「なんだ」
「話し相手になってくれて助かったよ、ありがとう」
「……」
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