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Ⅱ.春の章
小噺◆保護者たち、手下ども
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【ブクマ100件御礼記念】
「しっ、失礼します!」
「あぁ、そんなに硬くならないで。急に呼び出してすまなかったね、掛けなさい」
「はっ、ははっ……!(ひぇええ、陛下の私室の、椅子に、こ、腰掛ける……?! そんな畏れ多かこつ! ばってん、座らにゃご命令に背くことになりかねん……あああ父ちゃん、おいに力を貸してくれ……っ)」
「なにか飲むかい? 珈琲か紅茶か、なんなら酒でも……」
「いえっ、いえぇ! 申し訳なか! どうぞお気になさらんでください!(あああこん偉大な陛下に気を遣わせるとは、セブロ一生の恥たい! 母ちゃん、おいはどうしたらよかね? 陛下のおかげでこうして王宮で仕事までできるようになったばってん、まったく恩に報いとらん、おいは……!)」
「そうか……さて、セブロ」
「は、はいッ!」
「君も忙しいだろうから、まだるっこしい挨拶は抜きにして本題に入ろうと思うんだ、構わないかな? 本題というのは……つまりソフィアのことなんだがね。今朝そちらに伺っただろう?」
「は……たしかにおいで頂きました……(綺麗だったばい。なんとまぁ、あげな美しか少女がこん世におるとは驚いた。まるで絵から飛び出てきたような、それに……)」
「そう。ヒルダから、君とソフィアの議論が白熱していたと聞いてね。ソフィアはーー」
「(はっ! もしやそれで陛下のご不興を買って?!)もっ! 申し訳ありません!! おおお王妃様におかれましては、そのっ、確かに天使のごとくお美しかとは思いましたがっ、決して! 他意があったわけでは……っ!」
「ん? ……あぁ! あはははっ、違う違う! セブロ、顔を上げてくれ。むしろ私は君に礼が言いたくてね」
「は……?」
「君が一研究者としてソフィアと対等に向き合ってくれたこと、感謝するよ。ソフィアはそちらがずいぶん気に入ったみたいでね。もし君たちの邪魔にならないなら、時おり視察の名目で彼女をそちらに寄越したいんだが、どうかな?」
「あ、いえ、それは……光栄なことでございます……」
「正直に言ってくれ。ソフィアの頭脳が君たちに及ばないようなら、この話はなしにする。権限を行使して君たちの邪魔をしたいわけではないんだ」
「いえ、本当に…………王妃様がこちらの研究に加わってくださるなら、それはいずれ、こん国の大きな財産になるかと存じます。たしかに対食人獣の経験でいえば、まだ浅いとこもあるとですが……王妃様は自分の経験の浅さを的確に理解しとります。自分の弱点を自覚しとる人間はつよか。分からんとこは聞いて、噛み砕いて、ふかく理解して……王妃様にはもう研究者としての地盤が出来上がっとです」
「……そうか……」
「それに、シガルタにある情報も隠すことなく教えてくださった……寛大なお方です。あん方が研究を続けてくださるとは、おおっきな国益に通じます。……王妃様がお忙しくなければ、むしろ来ていただけっとは、この上ない喜びです」
「うん……セブロ、よく言ってくれた。であればやはり、ソフィアをそちらへ寄越せるよう手配しよう。侍女たちも付いてすこし物々しくなるだろうが。……セブロ」
「は、はい」
「いまのところ、研究所がソフィアの唯一の息抜きなんだ。彼女も君には心を許している。だから研究所は、王妃の拠り所でもあってほしい。
私には、無理だろうから」
「そ、そげなっ……陛下のお心遣い、きっと王妃様にも届いております! きっと、きっとーー」
「心遣い、ね。……いや違う、こんなものは、ただのーー……」
「……陛下……?」
「いや、すまない、なんでもないんだ。では詳しい日程や時間調整は後日、書面にして託すから、ヒルダと一緒に確認してくれ。いいね?」
「は、ははっ」
「では要件は以上だ。セブロ、頼んだよ」
「は! で、では失礼いたします……陛下」
(……なんちゅう、なんちゅう顔をされとるとか。この一国の王様が。大国に君臨し、下々にあんなに慕われ、歴代一の名君と呼ばれる陛下が。どうしてあんな、あんな……)
***
「いち、に、さん。いち、に、さん。リズムを取って~、……っとと」
「ぅ、あ……ごめん先生、ありがと!」
「いえいえ。んで、さっきみたいな時は力を抜いて、ある程度相手に任せて立て直しましょ? ……そうそう、いいっすよ」
「ん……でもそれって先生相手だからすんなりいくけど、他の人じゃ……」
「まあ一概には言えないっすけど、軍長なら大丈夫っす。それに相手に合わせられずに自分ひとりでどうにかしようとした方が、かえって悪化する場合もあるんで、気ぃつけてください」
「はぁい」
(……素直だよなー。技術的にはまだまだだけど、かなり頑張ってる。自主練もキッチリやりこんでるし、勘も悪くない。目に見えて上達してるからこっちも教え甲斐があるわ。これなら充分間に合うかな……むしろちょっと小難しいこと教えても……)
「……そうそう、んじゃ、あとちょっとしたら、……ッ!」
「……ん? 先生?」
「い、いえ、なんでもないっす……(また! また来た! 超怖えよ! …………あ、行った)そろそろ休憩にしましょうか」
「はーい! エメー、水くれー!」
(あー怖かった。これで2……いや3回目か、軍長来たの。見てぇならもういっそガッツリ見てくれたほうが……いやいや、やっぱそれは無理だわ。考えただけで身体が固まる。
ってか何なの、なんでチラチラ見にくんの。しかも奥様にバレないくらい一瞬だけだし。あれで何が分かんの? ……俺?! もしかして俺が教師役として適切かどうか見られてんの?! ……うわー想像したら胃が……)
「……ーーせい、先生ってば!」
「は、はいっ?!」
「はい炭酸水、なにぼーっとしてんの?」
「あ……どうも、すんません」
「ふふっ、変な先生」
(……まぁ、心配なのかな。赤目だし、もともと指南役だったデルツェ副隊長ともなんか折り合い悪くてダメになったらしいし……赤目ってそんな、気にすることかぁ? 俺にはよく分かんねぇな)
「なぁエメー、今日帰ったらさ、また……」
「今日は駄目。あんたそろそろ練習しすぎ、一旦休みな」
「えぇー、いいじゃんか! 練習大事なんだぞ! それにこんな下手くそなまま閣下となんて……っ」
(……なんつーかなぁ。奥様って)
「……身体を休ませることも大事っすよ。今日は確かに、練習以外はやめといてください。それから夜は足冷やしてから寝てくださいね。先生の命令っすから」
「ぅ、うう……はぁい……」
(奥様って案外ちゃんと……?)
(あー、理解できねぇ。奥様は軍長のこと怖くねぇのかな。俺なんかそばに寄られるだけでガッチガチに緊張すんのに。肝が据わってるっつーか、なんつーか……)
(でもいいなぁ、夫婦って……俺も早く嫁さんほしー!)
「しっ、失礼します!」
「あぁ、そんなに硬くならないで。急に呼び出してすまなかったね、掛けなさい」
「はっ、ははっ……!(ひぇええ、陛下の私室の、椅子に、こ、腰掛ける……?! そんな畏れ多かこつ! ばってん、座らにゃご命令に背くことになりかねん……あああ父ちゃん、おいに力を貸してくれ……っ)」
「なにか飲むかい? 珈琲か紅茶か、なんなら酒でも……」
「いえっ、いえぇ! 申し訳なか! どうぞお気になさらんでください!(あああこん偉大な陛下に気を遣わせるとは、セブロ一生の恥たい! 母ちゃん、おいはどうしたらよかね? 陛下のおかげでこうして王宮で仕事までできるようになったばってん、まったく恩に報いとらん、おいは……!)」
「そうか……さて、セブロ」
「は、はいッ!」
「君も忙しいだろうから、まだるっこしい挨拶は抜きにして本題に入ろうと思うんだ、構わないかな? 本題というのは……つまりソフィアのことなんだがね。今朝そちらに伺っただろう?」
「は……たしかにおいで頂きました……(綺麗だったばい。なんとまぁ、あげな美しか少女がこん世におるとは驚いた。まるで絵から飛び出てきたような、それに……)」
「そう。ヒルダから、君とソフィアの議論が白熱していたと聞いてね。ソフィアはーー」
「(はっ! もしやそれで陛下のご不興を買って?!)もっ! 申し訳ありません!! おおお王妃様におかれましては、そのっ、確かに天使のごとくお美しかとは思いましたがっ、決して! 他意があったわけでは……っ!」
「ん? ……あぁ! あはははっ、違う違う! セブロ、顔を上げてくれ。むしろ私は君に礼が言いたくてね」
「は……?」
「君が一研究者としてソフィアと対等に向き合ってくれたこと、感謝するよ。ソフィアはそちらがずいぶん気に入ったみたいでね。もし君たちの邪魔にならないなら、時おり視察の名目で彼女をそちらに寄越したいんだが、どうかな?」
「あ、いえ、それは……光栄なことでございます……」
「正直に言ってくれ。ソフィアの頭脳が君たちに及ばないようなら、この話はなしにする。権限を行使して君たちの邪魔をしたいわけではないんだ」
「いえ、本当に…………王妃様がこちらの研究に加わってくださるなら、それはいずれ、こん国の大きな財産になるかと存じます。たしかに対食人獣の経験でいえば、まだ浅いとこもあるとですが……王妃様は自分の経験の浅さを的確に理解しとります。自分の弱点を自覚しとる人間はつよか。分からんとこは聞いて、噛み砕いて、ふかく理解して……王妃様にはもう研究者としての地盤が出来上がっとです」
「……そうか……」
「それに、シガルタにある情報も隠すことなく教えてくださった……寛大なお方です。あん方が研究を続けてくださるとは、おおっきな国益に通じます。……王妃様がお忙しくなければ、むしろ来ていただけっとは、この上ない喜びです」
「うん……セブロ、よく言ってくれた。であればやはり、ソフィアをそちらへ寄越せるよう手配しよう。侍女たちも付いてすこし物々しくなるだろうが。……セブロ」
「は、はい」
「いまのところ、研究所がソフィアの唯一の息抜きなんだ。彼女も君には心を許している。だから研究所は、王妃の拠り所でもあってほしい。
私には、無理だろうから」
「そ、そげなっ……陛下のお心遣い、きっと王妃様にも届いております! きっと、きっとーー」
「心遣い、ね。……いや違う、こんなものは、ただのーー……」
「……陛下……?」
「いや、すまない、なんでもないんだ。では詳しい日程や時間調整は後日、書面にして託すから、ヒルダと一緒に確認してくれ。いいね?」
「は、ははっ」
「では要件は以上だ。セブロ、頼んだよ」
「は! で、では失礼いたします……陛下」
(……なんちゅう、なんちゅう顔をされとるとか。この一国の王様が。大国に君臨し、下々にあんなに慕われ、歴代一の名君と呼ばれる陛下が。どうしてあんな、あんな……)
***
「いち、に、さん。いち、に、さん。リズムを取って~、……っとと」
「ぅ、あ……ごめん先生、ありがと!」
「いえいえ。んで、さっきみたいな時は力を抜いて、ある程度相手に任せて立て直しましょ? ……そうそう、いいっすよ」
「ん……でもそれって先生相手だからすんなりいくけど、他の人じゃ……」
「まあ一概には言えないっすけど、軍長なら大丈夫っす。それに相手に合わせられずに自分ひとりでどうにかしようとした方が、かえって悪化する場合もあるんで、気ぃつけてください」
「はぁい」
(……素直だよなー。技術的にはまだまだだけど、かなり頑張ってる。自主練もキッチリやりこんでるし、勘も悪くない。目に見えて上達してるからこっちも教え甲斐があるわ。これなら充分間に合うかな……むしろちょっと小難しいこと教えても……)
「……そうそう、んじゃ、あとちょっとしたら、……ッ!」
「……ん? 先生?」
「い、いえ、なんでもないっす……(また! また来た! 超怖えよ! …………あ、行った)そろそろ休憩にしましょうか」
「はーい! エメー、水くれー!」
(あー怖かった。これで2……いや3回目か、軍長来たの。見てぇならもういっそガッツリ見てくれたほうが……いやいや、やっぱそれは無理だわ。考えただけで身体が固まる。
ってか何なの、なんでチラチラ見にくんの。しかも奥様にバレないくらい一瞬だけだし。あれで何が分かんの? ……俺?! もしかして俺が教師役として適切かどうか見られてんの?! ……うわー想像したら胃が……)
「……ーーせい、先生ってば!」
「は、はいっ?!」
「はい炭酸水、なにぼーっとしてんの?」
「あ……どうも、すんません」
「ふふっ、変な先生」
(……まぁ、心配なのかな。赤目だし、もともと指南役だったデルツェ副隊長ともなんか折り合い悪くてダメになったらしいし……赤目ってそんな、気にすることかぁ? 俺にはよく分かんねぇな)
「なぁエメー、今日帰ったらさ、また……」
「今日は駄目。あんたそろそろ練習しすぎ、一旦休みな」
「えぇー、いいじゃんか! 練習大事なんだぞ! それにこんな下手くそなまま閣下となんて……っ」
(……なんつーかなぁ。奥様って)
「……身体を休ませることも大事っすよ。今日は確かに、練習以外はやめといてください。それから夜は足冷やしてから寝てくださいね。先生の命令っすから」
「ぅ、うう……はぁい……」
(奥様って案外ちゃんと……?)
(あー、理解できねぇ。奥様は軍長のこと怖くねぇのかな。俺なんかそばに寄られるだけでガッチガチに緊張すんのに。肝が据わってるっつーか、なんつーか……)
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