16 / 18
《十六》
しおりを挟む──ああもうきっと「お嬢さん」とは呼んでいただけないのだわ……。
快楽に目の前が真っ白になるなか、頭の片隅でうっすらと悟る。
それが悲しいのか、嬉しいのかは、よくわからない。でもやはり悲しい気がした。名前を呼ばれるたび、胸の奥がきしんで、押しつぶされるように痛む。涙だって出る。
「あああっ……いく、ぃ、くっ、いくの、も、いくうう……ん~~~~……っ!」
「は、ァ……ッ、ああくそっ、良い、こんなに……胡蝶、胡蝶、胡蝶……っ」
「ぅ、ンッ!? あ、だめっ、今いっ、た、のにぃ!」
達したそばから腰を打ちつけられ、目の前にチカチカと星が飛ぶ。男はぶるりと震えたかと思えば、その身をかがめて肌と肌を密着させ、鼻先にまでにじり寄ってきた。
「言ったでしょう、乱暴にする、と……辛抱してください。僕がどれだけあなたに執着していたか、今更それを、知らないあなたではないでしょう……!」
普段なにがあっても波立たない暗い瞳が、飢えたけもののようにぎらぎらと欲深く光っている。わたしはまずよろこびを感じた。恐ろしさも悲しみも、この男の情欲の前に霧散する。この男に喰われるよろこびに、一抹の悲しみはあっけなく消え去ってしまう。
「う、ああっ、ああああっ」
「ああ胡蝶……こうしてあなたを、どれだけこの手に抱きたかったか……あの男ではなく、僕の腕のなかで果ててほしいと、どれだけ……まだ、足りません。こんなものでは、全然、足りない……!」
「ふっ、ぅ、い、く、また、い、くぅうう……ッ!」
また達してしまう。男はまだ達しておらず、お互いの愛液にまみれ、もはやなんの引っかかりもないほどどろどろになった肉杭を引き抜いた。かと思えば、いとも簡単に体を転がされて、うつぶせになる。
「んううううっ!!」
ああくる、と思った瞬間にはもう貫かれていた。また『潮吹き』とやらが起こって、脚もシーツもびしゃびしゃだ。背中に覆いかぶさられ、ぴったりとくっつく汗みどろの肌にさえ快楽を拾ってしまってどうしようもない。
がくん、と膝が折れた。
ぺしゃんこになったわたしに重なって、律動が、激しくなる。
「やぁあああっ! もう、もういって、いってくださ、い! こんなの、こ、われ……っまた、ぁああ……!」
「は、ご冗談を……たとえ今いったって離してやれるわけがないのに……ああでも、いいですね……僕が壊したあなたのなかで、僕も果てたい」
暗い暗いよろこびに浸る。
えぐれた目にくちづけられ、組み敷かれ、抵抗もさせてもらえないほど求められていることがうれしい。このうつくしく聡明な男に縋られているのがうれしい。『旦那様』を殺めたその腕に抱かれていることが、心底、うれしい。
「あ、ああ、あっ……いく……も……あ゛あああ……っ!!」
「ッぐ…………イクッ……!」
熱い屹立が最奥まで打ちつけられて、とうとうわたしたちは堕ちるところまで堕ちた。余韻に感じ入って震える体からぬぷぬぷと肉塊が引き抜かれ、愛液だか精液だかわからない泡立ったものがあふれてシーツを汚してゆく。
「ああ……胡蝶……」
わたしは残った力でなんとか体を上に向けた。
手を伸ばして、目のふちの赤いその人を腕に抱く。ふう、ふう、と荒い息が耳もとをかすめる。それはまるでけもののようで、わたしたちはけものになったのだと、わたしが彼をけものにしたのだと理解して、目を閉じた。
2
あなたにおすすめの小説
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
最強魔術師の歪んだ初恋
る
恋愛
伯爵家の養子であるアリスは親戚のおじさまが大好きだ。
けれどアリスに妹が産まれ、アリスは虐げれるようになる。そのまま成長したアリスは、男爵家のおじさんの元に嫁ぐことになるが、初夜で破瓜の血が流れず……?
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる