優しさを君の傍に置く

砂原雑音

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多分トモダチ?と多分恋バナ3

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「よーっし、じゃあ今日はいっぱいしゃべろーっ!」



翔子さんが持ってきたおやつをテーブル席いっぱいに広げていて、僕はホットコーヒーを二つ、隙間を見つけて置いた。



「で、神崎さんは何を聞きたいの? 陽ちゃんのこと?」



と、いきなり核心を突かれて面食らう。
どうしてわかったんだ、と顔に出たんだろう。



「だって! 女が、女友達を欲しがる時って恋バナしたい時じゃない?」



余りにも図星過ぎて、ぐうの音も出なかった。


だけど、いざ話すとなると何から話せばいいのか、わからない。



「……恋バナ、っていうか。相談したいことがあって」

「あ、はい! 相談ってことは内緒話? 陽ちゃんにだけ内緒? それ聞いとかないと、私ホイホイ喋っちゃう方だからさ」

「ホイホイは困る!」



恐ろしいことを言うな!
とにかく今日話すことは二人だけの秘密で、とお願いすると彼女はビシッと敬礼をしてみせた。



「おっけー。内緒って言ってくれてたらちゃんと守るよ。私馬鹿だからさー、判断つかないの。ちゃんと言っといてくれたら言わないよ」



彼女が自分を滑稽に見せ乍らそう言うので、僕は少し首を傾げる。



「そうですか? 判断の基準が人と違うんだろうな、とは思いましたけど馬鹿だと思ったことはありませんが」



僕がそう言うと、彼女はちょっと目を見開いてきょとんとすると、数瞬後にははにかむように笑った。
こういう表情が少し、陽介さんと似ている、なんて。


ちょっと、ヤキモチを妬きそうになった。
彼と付き合ったことがあるから、似ているところがあるのかもしれない、と思ってしまったから。



「で?」



まさにウキウキといった様子でこちらを見る翔子さんから、思わず目を逸らす。
僕から誘っておきながら、いざとなると何から話せばいいのかわからなくて、つい膝の上で指が遊んだ。


そんな僕を見かねたのか、彼女から助け船が出された。



「陽ちゃんとの時のことを聞きたいの? それとも一般的な?」

「……一般的な、かな」



翔子さんと付き合ってた時の陽介さんのこと、なんて、物凄く気にはなる。
けど、聞いたらなんか平静ではいられなくなる気がして、怖くて聞けない。



「……その。翔子さんの……」

「うんうん?」

「…………初めての時とかって。どんな」



ああ、なんか。
セクハラしているような気がしてしまうのは、どうしてだろう。



「え……あ、あー……」

「その、怖かったですか?」

「そりゃまあ。でも、興味の方が大きかったかな、私の場合。でも人に寄ると思う。怖いし痛いし何回も失敗したっていう子もいるし」

「失敗?」

「女が悪いとかじゃなくてさ、男の技量とか気遣いとかそういうのも必要じゃない。怖いっていうのを理解してくれるかどうか、とか」

「……そういうものですか」

「ねえ、つまり神崎さんは処女ってこと?」



ずばん!
と直球が来た。


が、ここで話さなければなんの意味もないのだ。
「まぁ」と頷くと、翔子さんは少し難しい顔をして、暫し腕組みをする。



「ごめん、もうひとつ。聞かなきゃ始まらないから聞くけど、なんか男にトラウマでもあるの?」



ある意味、僕に関して言えば彼女は相談相手として最適であったかもしれない、とこの時思った。


僕が言い出しにくいことでも、必要とあれば彼女の方から言葉にしてくれるのだから。



「昔、ちょっと怖い思いをしたことがあって。寸前で逃げては来たのですが……そういったことにはどうしても恐怖感があって」

「そうなんじゃないかなあ、とはちらっと思ってた。いくら外見が男っぽいからって、男のフリして生活するのってよっぽどだと思うもんねえ」



ん、と差し出されたポッキーを受け取って、別に食べたくもないのだけどなんとなく口にくわえる。
少しビターな味だった。



「陽介さんは知ってるので、すごく慎重に接してくれてはいるんですけどそれでは何一つ、進めない気もして」

「神崎さんは、陽ちゃんとそういうことしたいとは思うんだ?」

「と、聞かれるとわからないんです。したいかどうかなんてしたことないからわからないし、でも……男の人はしたいものなんじゃないか、と。…………ね、ねちっこいって、貴女も言ってたじゃないですか」



僕がちょっと恨めしそうに視線を向けると、「あ!」と彼女は口許を抑えてバツが悪そうに目を逸らした。



「ごめん。私無神経なこと言ったあ」

「……いえ、別にいいですけどね、それ以上詳細は知りたくありませんが」

「もー……私、自分はそういうの聞かされても平気なもんだから、つい自分も喋っちゃうんだよね」

「僕は聞きたくありませんからね!」

「わかったわかった。で……陽ちゃんがねちこいのに我慢してるんじゃないか、と」

「……僕は、したいかと聞かれるとわからないけど、陽介さんにだけ我慢ばかりさせるのは、違うでしょう?」



それでは、陽介さんにばっかり負担がかかる。
最初はそれで良くても、いつか絶対無理も生じるんじゃないかと思ってしまう。


翔子さんは、んー、と小さな唸り声を上げ、黙り込んでしまった。



「……すみません、難しいですよね」

「んー? うん、難しいのは難しいんだけどね……私は私の意見を言うべきなのかどうか、迷ってる」

「どういう意味ですか?」

「うん、だって。そういうのって、人それぞれ絶対違うと思うから正解なんてどこにもないと思うの。だから、私の意見を言って神崎さんが気にし過ぎたりすると、余計に逆効果になったら怖いもん」

「……それぞれ、ですか」

「それぞれだよ。短大の友達にもいたよ、電車で痴漢にあってから気持ち悪くなって彼氏と別れたとか。でも、私は面倒くさくて暫く放置してた方だけど」

「は……ほ、放置?!」

「スカートまくり始めたとこで、足踏んづけた。私はもうその時処女じゃなかったし、処女だったらまた何か違うのかなー」



そうして、彼女はまた考え込むと、一度頷いて口を開いた。



「……トラウマ、陽ちゃんが知ってるなら、陽ちゃんに任せとくのがいいんじゃないかな、と、思うけど」

「でも……いつまでもこのままなんじゃないかと思うと、それも怖い。前に進めるなら、進みたいんです」

「それもわかる。怖いものだと思ってるセックスを、ちゃんとした記憶で上書きしたいんだよねえ」



”上書き”



彼女が言ったその一言に、はっとする。


ずっと、どうにかしたいとは思っていたけど、その為にどうすればいいのか。
それを考えると何か靄がかかったようにぼんやりとして、先が見えない中に居るような気がしてた。


陽介さんと、普通の恋人のようになりたい。
変に気を遣わせることなく、僕も気兼ねすることもない、そういう関係になりたい。


その為に、僕は記憶の上書きをしたいのだ。


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