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彼女が試したかったもの4
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――――――――――――――――
――――――
「まあ、だから僕も悪いから自業自得なんだけど」
「いやいやいやちょっと待って、待ってください」
慎さんが酔い覚ましのコーヒーを淹れてくれながら、昔の経緯を話してくれた。
ソファ席に座る俺のところまでカップを二つ持ってきたところで、どこに座ればいいのか迷った様子だったから、ポンと俺の隣の座面を叩いたら、ちょっと照れ乍ら大人しく座る。
かわええ。
無茶苦茶かわええけど、今はそれは横に置いておいて、だ。
「その話のどこに慎さんの悪い要素があるんすか。ないっすよ全く」
「ないことないでしょう。懐かしいからってノコノコついてった僕も」
「信用してただけじゃないすか、その幼馴染を」
ぽかん、と此方を見上げる顔は、本当に驚いてるみたいだった。
寧ろ俺の方がわからない、なんで『僕が悪い』になるのか。
「そう、ですか」
「そうっすよ」
洗脳でもされてたんじゃないだろうか、と思ってしまう。
思い詰めてしまうくらいに、何か酷いことを言われたのだろうか。
「でも、その後、僕のやった仕返しはかなり、性格が悪いと……」
「彼女に洗いざらいぶちまけたことっすか? 違いますよ、友達が心配だったからじゃないっすか」
っつーか。
慎さんの友達と付き合っといて、慎さんに手を出すって時点で何があろうとその男が最低だ。
「……そんなの知りたくなかったって泣かれた」
「そのお友達も可哀想だとは思いますけど、だからって慎さんは悪くないです」
外に出るのが怖くなって学校に来なくなった慎さんを心配して、その友達は何度も家に尋ねてきていたらしい。
誰にも閉じこもる理由を言えなくて、追い詰められて打ち明けてしまった。
慎さんはそれも悪いことのように考えているみたいだけど。
勿論、仕返し的な感情があったっておかしくない。
だけど、そんな男と付き合ってる友人を心配したのも絶対あるはずだ。
「……そう、だったかな。もう何年も経ち過ぎて、感情を追いかけるのは難しい」
コーヒーカップをテーブルに置いて、慎さんは背もたれに身体を預けずるずるとソファに沈み込む。
スリッパも脱いで足を上げて、ソファで三角座りをし小さく纏まって余り感情の籠らない目で、記憶をたどっているみたいだった。
「女の格好をしたのは卒業式に学校の制服を着たのが最後でしたね。まるきり男になりきるようになったのは、最初はあてつけだったんです」
「僕は忘れてない、って、あいつに教えてやりたかったんだけど……元々男っぽい格好の方が楽だったし、その方が抵抗なく外に出れたから。
短大卒業したらいよいよ女でいる必要もなくなって、佑さんに頼んでここに置いてもらったんです。佑さんは姉と仲たがいしてその頃にはもう離婚しちゃってたんですけど……僕が最後までされたと思ってるから同情も大きいんだと思う」
「……なるほど」
「結局、佑さんに甘えてずるずるここまで。……何年経ったんだろ」
指折り数えながら、彼女は視線を天井に向ける。
「六年、っすかね? 男の格好もめっちゃ似合いますけど」
「っていうか、女の制服なんて本当、似合いませんでしたよ。上はブレザーでリボンじゃなくてネクタイだからまだいいんですけど……スカートが。
短くすればなんか派手に見えるし、長くすれば二昔前くらいのヤンキーみたいで」
「膝丈は?」
「……無理して女子高生のコスプレしてるOLみたいだった」
彼女が余り、重みを感じさせないような話し方をするから、俺もできるだけ軽く答えるようにしているけれど。
「……いつか全種類見て見たいっす」
「絶対嫌です」
本当は、はらわた煮えくり返っていた。
……くそ。
感情のぶつけどころが見つからなくて、かといって平常心でもいられず、頭を抱えて顔を隠した。
今すぐ飛んでって半殺しにしてやりてぇ。
話辛いのだろうところは端折られながらも、俺が聞いてこれだけ平静でいられないのに。
慎さんは、悔しさとか誰にも言わずに、佑さんにすら言わずに飲み込んで、おまけに理不尽な罪悪感まで植え付けられて。
ぎり、と奥歯を精一杯噛みしめてから、力を抜いて深く息を吐き出した。
悔しくて、泣けてくる。
「陽介さん? やっぱり気分悪いですか?」
隣に座った慎さんが、俺の肩に手を添える。
「んー、大丈夫っす」
「ほんとですか」
「はい。二、三日、あんま寝てなかったんで欠伸かみ殺してました」
俺が顔を上げて笑うと、ほっとしたように表情を緩める。
飲ませすぎたことを気にしてくれてたんだなあ、と思うとまた、可愛い、好きだの感情が胸の奥から溢れてくる。
肩に添えられた手の甲に、ちょっと指で触れてから表情を窺って、それからゆっくり両手に取った。
細くて、白い指、ちっちゃい爪。
これからは、ちゃんと俺が守ろう。
親指で何度も指や手のひらを撫でながら、心の中で改めて誓っていると「あの」と、少し遠慮気味の声がする。
「なんすか?」
「……貴方に、お願いしたいことがあって」
「はい、言ってください、なんでも」
ああ、もう。
もじもじする慎さん、たまらん。
なんて呑気に浸っていれば、彼女は驚くべき言葉を口にした。
「二月に、その幼馴染の結婚式があるんです。家族ぐるみの付き合いだから行かないわけにはいかなくて」
「…………は?」
んじゃそりゃ!
慎さんはここまで苦しんで来たのに、そいつは結婚すんのか!
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「まあ、だから僕も悪いから自業自得なんだけど」
「いやいやいやちょっと待って、待ってください」
慎さんが酔い覚ましのコーヒーを淹れてくれながら、昔の経緯を話してくれた。
ソファ席に座る俺のところまでカップを二つ持ってきたところで、どこに座ればいいのか迷った様子だったから、ポンと俺の隣の座面を叩いたら、ちょっと照れ乍ら大人しく座る。
かわええ。
無茶苦茶かわええけど、今はそれは横に置いておいて、だ。
「その話のどこに慎さんの悪い要素があるんすか。ないっすよ全く」
「ないことないでしょう。懐かしいからってノコノコついてった僕も」
「信用してただけじゃないすか、その幼馴染を」
ぽかん、と此方を見上げる顔は、本当に驚いてるみたいだった。
寧ろ俺の方がわからない、なんで『僕が悪い』になるのか。
「そう、ですか」
「そうっすよ」
洗脳でもされてたんじゃないだろうか、と思ってしまう。
思い詰めてしまうくらいに、何か酷いことを言われたのだろうか。
「でも、その後、僕のやった仕返しはかなり、性格が悪いと……」
「彼女に洗いざらいぶちまけたことっすか? 違いますよ、友達が心配だったからじゃないっすか」
っつーか。
慎さんの友達と付き合っといて、慎さんに手を出すって時点で何があろうとその男が最低だ。
「……そんなの知りたくなかったって泣かれた」
「そのお友達も可哀想だとは思いますけど、だからって慎さんは悪くないです」
外に出るのが怖くなって学校に来なくなった慎さんを心配して、その友達は何度も家に尋ねてきていたらしい。
誰にも閉じこもる理由を言えなくて、追い詰められて打ち明けてしまった。
慎さんはそれも悪いことのように考えているみたいだけど。
勿論、仕返し的な感情があったっておかしくない。
だけど、そんな男と付き合ってる友人を心配したのも絶対あるはずだ。
「……そう、だったかな。もう何年も経ち過ぎて、感情を追いかけるのは難しい」
コーヒーカップをテーブルに置いて、慎さんは背もたれに身体を預けずるずるとソファに沈み込む。
スリッパも脱いで足を上げて、ソファで三角座りをし小さく纏まって余り感情の籠らない目で、記憶をたどっているみたいだった。
「女の格好をしたのは卒業式に学校の制服を着たのが最後でしたね。まるきり男になりきるようになったのは、最初はあてつけだったんです」
「僕は忘れてない、って、あいつに教えてやりたかったんだけど……元々男っぽい格好の方が楽だったし、その方が抵抗なく外に出れたから。
短大卒業したらいよいよ女でいる必要もなくなって、佑さんに頼んでここに置いてもらったんです。佑さんは姉と仲たがいしてその頃にはもう離婚しちゃってたんですけど……僕が最後までされたと思ってるから同情も大きいんだと思う」
「……なるほど」
「結局、佑さんに甘えてずるずるここまで。……何年経ったんだろ」
指折り数えながら、彼女は視線を天井に向ける。
「六年、っすかね? 男の格好もめっちゃ似合いますけど」
「っていうか、女の制服なんて本当、似合いませんでしたよ。上はブレザーでリボンじゃなくてネクタイだからまだいいんですけど……スカートが。
短くすればなんか派手に見えるし、長くすれば二昔前くらいのヤンキーみたいで」
「膝丈は?」
「……無理して女子高生のコスプレしてるOLみたいだった」
彼女が余り、重みを感じさせないような話し方をするから、俺もできるだけ軽く答えるようにしているけれど。
「……いつか全種類見て見たいっす」
「絶対嫌です」
本当は、はらわた煮えくり返っていた。
……くそ。
感情のぶつけどころが見つからなくて、かといって平常心でもいられず、頭を抱えて顔を隠した。
今すぐ飛んでって半殺しにしてやりてぇ。
話辛いのだろうところは端折られながらも、俺が聞いてこれだけ平静でいられないのに。
慎さんは、悔しさとか誰にも言わずに、佑さんにすら言わずに飲み込んで、おまけに理不尽な罪悪感まで植え付けられて。
ぎり、と奥歯を精一杯噛みしめてから、力を抜いて深く息を吐き出した。
悔しくて、泣けてくる。
「陽介さん? やっぱり気分悪いですか?」
隣に座った慎さんが、俺の肩に手を添える。
「んー、大丈夫っす」
「ほんとですか」
「はい。二、三日、あんま寝てなかったんで欠伸かみ殺してました」
俺が顔を上げて笑うと、ほっとしたように表情を緩める。
飲ませすぎたことを気にしてくれてたんだなあ、と思うとまた、可愛い、好きだの感情が胸の奥から溢れてくる。
肩に添えられた手の甲に、ちょっと指で触れてから表情を窺って、それからゆっくり両手に取った。
細くて、白い指、ちっちゃい爪。
これからは、ちゃんと俺が守ろう。
親指で何度も指や手のひらを撫でながら、心の中で改めて誓っていると「あの」と、少し遠慮気味の声がする。
「なんすか?」
「……貴方に、お願いしたいことがあって」
「はい、言ってください、なんでも」
ああ、もう。
もじもじする慎さん、たまらん。
なんて呑気に浸っていれば、彼女は驚くべき言葉を口にした。
「二月に、その幼馴染の結婚式があるんです。家族ぐるみの付き合いだから行かないわけにはいかなくて」
「…………は?」
んじゃそりゃ!
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