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溢れる気持ちの受け止め方を5
しおりを挟む見れば見るほど間違いなく、べろんべろんに酔っている。
それは確かだけれど……僕が話を振った途端、彼は生き生きとした酔っ払いに変貌した。
「あと、客相手には完璧な営業スマイルなのに、俺には急に不愛想になったりするとこもかなりツボっすね、気を許してもらってんのかなって。だから俺、慎さんの仏頂面も大好きっす。
それから、結構拗ねたりヤキモチ妬いたりする方なのに、隠そうとして隠しきれてなかったりとか、かくれんぼして尻尾が見えてる猫みたいっすよね!」
「ね、って。それ、僕の悪口だろう! どう聞いても悪口にしか聞こえないんですが!」
不愛想やら仏頂面やら僕の可愛げのないところばかり吊し上げては、嬉しそうに可愛い、好き、を連発する。
挙句の果てには間抜けな猫に喩えたりしながら、「ね!」と同意を求められた。
「く…………ぶはっ! くくく」
「……佑さん、笑い過ぎ」
カウンターの中で大うけしている佑さんにも、陽介さんは全く気付いてないらしい。
とろん、とした目で僕を見ると「うしっ」と何故か気合をいれて、漸くモヒートを飲み干す。
そしてまた、僕の可愛いと思っているらしいところを暴露し始めた。
「それから、言葉遣いが時々ぽろって、擬音? 擬態? 語? ほかほかとか、まあるくとかやわかいとか、堅苦しい敬語なのに、そういうのが混じるとこも可愛くて。くるくるー、とか。あと」
「……まだあるんですか、僕の悪口は」
恥ずかしすぎて、聞くに耐えない。
まるで拷問だ。
こんな話題、振るんじゃなかったと若干……いや、かなり後悔していたけれど。
「ん……それから」
と、彼の声のトーンが、また変わった。
「本当は、すごく、優しいトコ。客相手に話してる時は勿論だけど、特に俺に帰れとか悪態付いてる時も、本当は俺の身体を気遣ってくれてたり、とか。
そういうとこ、素直に出せないとこも、好きです」
すごく、すごく優しい声で、酔いが回って目なんかもう焦点も合っていないのに。
くらくらと、頭を揺らしながら、笑う横顔に、釘付けになった。
なんて、嬉しそうに幸せそうに
僕の話をするんだろう。
「最初は、顔とか、仕草とか……話し方とか、慎さんの纏う雰囲気に惹かれて……でも知れば知るほど、可愛いくて、好きになって、良かったと、ほんとに」
前屈みになった顔が、テーブルに付きそうになって慌てて持上げる、そんな動作を何度か繰り返し。
閉じかけた目を無理矢理にこじ開け、懸命に言葉を繋ぐ。
「どんな顔も、好きだけど、泣いてほしく、ないなあと、思う」
どんな顔も好き、だなんて。
すごい、殺し文句だ。
彼の「好き」はいつだって真っすぐだった。
今だって、そうだ。僕の無茶振りに付き合わされて、勝敗が決まってることはある程度予測していただろうに、背を向けずに真正面から、受け止めてくれた。
限界なんて、とっくに超えてた、きっと。
「……ごめん」
テーブルに突っ伏した彼に、堪らず出た声は涙声だった。
薄らと目を開けた彼が、ぼやけた目で僕を見る。
「ごめん。陽介さん、ごめん」
こんな無茶な酔わせ方をして。
貴方は黙って最後まで付き合ってくれる、優しい人だって僕はわかっててやったんだ。
僕は貴方に、ずっと甘えてた。
「まこと、さん」
こんな酷いことをしている僕を
気遣うような声で、名前を呼ぶ。
ごめん、とまた謝りかけた、声が止まった。
ゆっくり持ち上げられた手が、僕に向かってまっすぐ伸びて、僕の頬を撫でて、優しく涙を拭い。
暖かい指が力なく落ちて、彼は意識を飛ばした。
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