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あなたにふれたい5
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「慎さん?」
嫌がるどころか……これ、もしかして。
結構、脈ありなんじゃないだろうか。
耳まで真っ赤に染め上げた様子に、ついまた一つ、欲求が生まれる。
やばい、まずい。
抱きしめたい。
きゅっとまた強く握った手の中で、今度はぴくっと指先に力が籠る。
いやいやいやちょっと待て。
さっき誓いを立てたとこじゃないか。
怖がらせない傷つけない。
今は何も、聞かない。
暴走しそうな欲求を抑えるべく念仏みたいに脳内で唱えて。
あ、でも。
抱きしめたりそれ以上は勿論まずいに違いないが……ほら、キスとか。
頬とか額なら。
行けるんじゃないか。
唱え続けた念仏も全く効果を見せることなく、暴走寸前の欲求は。
「お前ら何やってんの」
「ぎゃああああ!」
「ぶっ」
失笑混じりの佑さんの声と、飛び跳ねて驚いた慎さんから繰り出された平手打ちによって、阻止された。
「さわんなこの変態がぁ!」
「へ、へんた……」
変態って。
指にキスしただけで変態って。
確かに、男が男にキスするのはゲイではない人間からすれば変態かもしれないが。
慎さんは、実は女なのであって。
慌てて逃げ出し、店の奥へと姿を消した慎さんの背中を茫然と見送りながら、背後で佑さんの大爆笑を聞く。
そうか。
慎さんの秘密には気付かなかったフリを通すと決めたということは、暴走寸前の欲求不満を今後も抱え続けるということなのだ。
仕方ない。
この恋はまず、己の下半身との闘いに打ち勝たねばならないらしい。
慎さんが店の奥に引っ込んで出て来なくなってしまったので、佑さんにさっきまでの出来事を俺が知ってる辺りから簡単に説明した。
「あのオヤジ、ほんとに油断も隙もねーな」
「出入り禁止にしてくださいよ! 慎さんの安全の為に!」
思い出すほど腹が立つ!
のらりくらりとした態度で悪びれもせず、それでいてすぐに非は認めて帰って行った。それは良いのだが……あのオヤジがぽろっと漏らした一言が、なんだか妙に引っかかる。
”どうやら君は恋愛対象ではなかったようだし”
あの言い方が、何か含みを持たせているようで気になったのだ。
もしかして俺と同じように気付いたのか、と思ったけれど……あのオッサンと慎さんの間でどんなやりとりがあったのか、わからないから何とも言えない。
……ってか、バレたら狙われる可能性はなくなるから心配ないのか、逆に?
変にあちこち言いふらされたら困るだろうけど、そんなことをしたってなんのメリットもないはずだ。
悶々と悩んでいると、「なんだよ」と訝しい声をかけられ顔を上げる。
「なんか他に、気になってることでもあんのか」
「いや……えー……っと」
ありますとも。
慎さんの本当の性別だとか、それがあのオッサンにばれたかもしれないけどそれがいいのか悪いのか、とか。
……性別を偽る、事情とか。
佑さんは……知ってるよな?
当然知ってるはずだ、元とはいえ義理の兄なら。一度は家族、親戚になったってことなんだから、知らない方がおかしい。
慎さんには知らないフリをすると決めたけど、この人になら聞いてもいいだろうか。
悩んで黙り込んでいても答えは出ない、そう思ったら躊躇ってるのも馬鹿らしくなった。
だって多分この人は、俺がいつ気付くのかを待ってるような気がしたんだ。
「……女の人ですよね?」
「そうだよ」
「え」
打てば響くような速さであっさりと返事があったことに、俺の方が驚いて言葉に詰まる。
佑さんは平然とした顔で、沸かしたポットからカップに湯を注ぐ。
すぐにインスタントコーヒーの香りが店内を満たした。
「あのオッサンは気付いたか?」
「いや、それはわかんないっす。もしかしたら、とは思ったんすけど……」
カップが一つ差し出されて、受け取りながら眉を顰める。
何か納得がいかないというか……こんなあっさり認めて良かったのかと、逆にこっちが心配させられる。
「で、お前は。気付いてどうすんの」
「知らないフリしときます。慎さんが話してくれるまで」
そう言うと、佑さんがいつになく優しい表情で口元を緩めた。
まるで「それでいい」と褒められているような気がして、むすっとして目を逸らす。
その微妙に子供扱いな空気が、腹立つような照れくさいような複雑な心境だった。
「いいんすか、そんなあっさり認めちゃって。秘密じゃなかったんすか」
「いいんだよ。お前は多分、優しい奴だと思ってた」
「……」
そんな風に言われたのは初めてで、流石に気恥ずかしくなって顔が熱い。
「これでも職業柄、人を見る目はあるつもりだからな」と続けて佑さんが笑った。
嫌がるどころか……これ、もしかして。
結構、脈ありなんじゃないだろうか。
耳まで真っ赤に染め上げた様子に、ついまた一つ、欲求が生まれる。
やばい、まずい。
抱きしめたい。
きゅっとまた強く握った手の中で、今度はぴくっと指先に力が籠る。
いやいやいやちょっと待て。
さっき誓いを立てたとこじゃないか。
怖がらせない傷つけない。
今は何も、聞かない。
暴走しそうな欲求を抑えるべく念仏みたいに脳内で唱えて。
あ、でも。
抱きしめたりそれ以上は勿論まずいに違いないが……ほら、キスとか。
頬とか額なら。
行けるんじゃないか。
唱え続けた念仏も全く効果を見せることなく、暴走寸前の欲求は。
「お前ら何やってんの」
「ぎゃああああ!」
「ぶっ」
失笑混じりの佑さんの声と、飛び跳ねて驚いた慎さんから繰り出された平手打ちによって、阻止された。
「さわんなこの変態がぁ!」
「へ、へんた……」
変態って。
指にキスしただけで変態って。
確かに、男が男にキスするのはゲイではない人間からすれば変態かもしれないが。
慎さんは、実は女なのであって。
慌てて逃げ出し、店の奥へと姿を消した慎さんの背中を茫然と見送りながら、背後で佑さんの大爆笑を聞く。
そうか。
慎さんの秘密には気付かなかったフリを通すと決めたということは、暴走寸前の欲求不満を今後も抱え続けるということなのだ。
仕方ない。
この恋はまず、己の下半身との闘いに打ち勝たねばならないらしい。
慎さんが店の奥に引っ込んで出て来なくなってしまったので、佑さんにさっきまでの出来事を俺が知ってる辺りから簡単に説明した。
「あのオヤジ、ほんとに油断も隙もねーな」
「出入り禁止にしてくださいよ! 慎さんの安全の為に!」
思い出すほど腹が立つ!
のらりくらりとした態度で悪びれもせず、それでいてすぐに非は認めて帰って行った。それは良いのだが……あのオヤジがぽろっと漏らした一言が、なんだか妙に引っかかる。
”どうやら君は恋愛対象ではなかったようだし”
あの言い方が、何か含みを持たせているようで気になったのだ。
もしかして俺と同じように気付いたのか、と思ったけれど……あのオッサンと慎さんの間でどんなやりとりがあったのか、わからないから何とも言えない。
……ってか、バレたら狙われる可能性はなくなるから心配ないのか、逆に?
変にあちこち言いふらされたら困るだろうけど、そんなことをしたってなんのメリットもないはずだ。
悶々と悩んでいると、「なんだよ」と訝しい声をかけられ顔を上げる。
「なんか他に、気になってることでもあんのか」
「いや……えー……っと」
ありますとも。
慎さんの本当の性別だとか、それがあのオッサンにばれたかもしれないけどそれがいいのか悪いのか、とか。
……性別を偽る、事情とか。
佑さんは……知ってるよな?
当然知ってるはずだ、元とはいえ義理の兄なら。一度は家族、親戚になったってことなんだから、知らない方がおかしい。
慎さんには知らないフリをすると決めたけど、この人になら聞いてもいいだろうか。
悩んで黙り込んでいても答えは出ない、そう思ったら躊躇ってるのも馬鹿らしくなった。
だって多分この人は、俺がいつ気付くのかを待ってるような気がしたんだ。
「……女の人ですよね?」
「そうだよ」
「え」
打てば響くような速さであっさりと返事があったことに、俺の方が驚いて言葉に詰まる。
佑さんは平然とした顔で、沸かしたポットからカップに湯を注ぐ。
すぐにインスタントコーヒーの香りが店内を満たした。
「あのオッサンは気付いたか?」
「いや、それはわかんないっす。もしかしたら、とは思ったんすけど……」
カップが一つ差し出されて、受け取りながら眉を顰める。
何か納得がいかないというか……こんなあっさり認めて良かったのかと、逆にこっちが心配させられる。
「で、お前は。気付いてどうすんの」
「知らないフリしときます。慎さんが話してくれるまで」
そう言うと、佑さんがいつになく優しい表情で口元を緩めた。
まるで「それでいい」と褒められているような気がして、むすっとして目を逸らす。
その微妙に子供扱いな空気が、腹立つような照れくさいような複雑な心境だった。
「いいんすか、そんなあっさり認めちゃって。秘密じゃなかったんすか」
「いいんだよ。お前は多分、優しい奴だと思ってた」
「……」
そんな風に言われたのは初めてで、流石に気恥ずかしくなって顔が熱い。
「これでも職業柄、人を見る目はあるつもりだからな」と続けて佑さんが笑った。
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