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真実の愛、その末路
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「確かにここへ入られたのだけど……」
先ほど、同じようにこのテラスに入った人物を追いかけたというのに、いない。ということは、庭園だ。テラスの端は庭園へと降りられるように数段のステップがある。
だが、月明りだけが頼りの庭に降りるのは気後れした。何よりアンジェが探している人物は黒髪で、今日の衣装も黒が基調だった。
暗闇の中目を凝らしていると、すぐ近くでかさりと音が聞こえたような気がした。
「ローレン公爵令嬢様」
しかし、そう呼んだ声はアンジェの背中から。男の声ではなく、鈴の転がるような可愛らしい声だった。
「よい夜ですわね。こんなところでおひとりで、どなたかお待ちなのでしょうか」
ダリア・ルブ男爵令嬢――先ほどまで王太子殿下の隣にいたのにいつのまに?
返事をするべきか迷う。アンジェは公爵家で、その家格の差は明らかだ。下位の者から上位の者へ先に声をかけるのは、マナーに反する。
上位の者としてマナー違反は許してはならない。目を合わせるべきではないのだが、ややこしいのは今彼女が王太子の恋人だということだった。
「月が美しくて、気まぐれに」
結局、アンジェは扇で表情を隠しつつ返事をした。無視をしただのと後で王太子に告げ口される方が、面倒なことになりそうだから。
「ダリア様は、どうしてこちらに?」
「……私、貴女にどうしても謝りたくて」
その言葉にひとつしか思い当たることがなく、アンジェは眉を顰める。王太子殿下のことには触れたくないのに、彼女はどうあっても自分が優位だと知らしめたいらしい。
「……いやだ、怖いお顔。ああ、どうか恨まないでくださいな」
「どういう意味でしょうか?」
「お心の移ろいを止めることなど、私にはできなくて……」
悲しそうな表情がわざとらしいくらいに、アンジェには彼女のセリフが芝居がかって聞こえた。
「それは、アンジェ様もよくご存知のことでしょう?」
貴女も奪った側なのだから、文句は言えないわよね?
つまり、そう言っている。
微笑みながら、どう切り返そうか逡巡する。王太子殿下に告げ口されてはかなわないし、今は彼女に構うより一刻も早く捕まえたい相手がいるのだが……。
「ええ、そうね……わたくしも、やはり義姉には敵わなかったのだと痛感しているところです」
悪意とは取られぬよう、しかし少々ショックを受けてお帰りいただこう。
「……クリスティナ様、ですって?」
意味がわからない様子のダリアに、アンジェはほうと悲しげなため息をこぼして言った。
「今日、おふたりを見ていて思い出したのです。義姉と殿下が並んだ姿は本当に、美しくて」
アイスブルーを刺し色に使った彼女のドレスは、レースよりも細かな宝石が多くあしらわれ義姉が好みに近い。アイスブルーといえば、義姉の瞳の色。同じ銀髪だが背は低く顔立ちは甘く可愛らしいので、凛としたクリスティナ・ローレンの立ち姿とは似つかないが、このドレスを贈ったのが、カーライルだというのなら。今のセリフは、彼女には効いたはずだ。
「わ、私がクリスティナ様の身代わりだっていうの!?」
「まあ、そんな。私はそんなつもりでは……ただ、義姉を懐かしく思い、我が身の愚かさを悔やんでいるだけですのに」
こんな程度で狼狽えるなんて。その程度の覚悟でよくも喧嘩をふっかけたものだと扇の中で小さく舌を出した。
先ほど、同じようにこのテラスに入った人物を追いかけたというのに、いない。ということは、庭園だ。テラスの端は庭園へと降りられるように数段のステップがある。
だが、月明りだけが頼りの庭に降りるのは気後れした。何よりアンジェが探している人物は黒髪で、今日の衣装も黒が基調だった。
暗闇の中目を凝らしていると、すぐ近くでかさりと音が聞こえたような気がした。
「ローレン公爵令嬢様」
しかし、そう呼んだ声はアンジェの背中から。男の声ではなく、鈴の転がるような可愛らしい声だった。
「よい夜ですわね。こんなところでおひとりで、どなたかお待ちなのでしょうか」
ダリア・ルブ男爵令嬢――先ほどまで王太子殿下の隣にいたのにいつのまに?
返事をするべきか迷う。アンジェは公爵家で、その家格の差は明らかだ。下位の者から上位の者へ先に声をかけるのは、マナーに反する。
上位の者としてマナー違反は許してはならない。目を合わせるべきではないのだが、ややこしいのは今彼女が王太子の恋人だということだった。
「月が美しくて、気まぐれに」
結局、アンジェは扇で表情を隠しつつ返事をした。無視をしただのと後で王太子に告げ口される方が、面倒なことになりそうだから。
「ダリア様は、どうしてこちらに?」
「……私、貴女にどうしても謝りたくて」
その言葉にひとつしか思い当たることがなく、アンジェは眉を顰める。王太子殿下のことには触れたくないのに、彼女はどうあっても自分が優位だと知らしめたいらしい。
「……いやだ、怖いお顔。ああ、どうか恨まないでくださいな」
「どういう意味でしょうか?」
「お心の移ろいを止めることなど、私にはできなくて……」
悲しそうな表情がわざとらしいくらいに、アンジェには彼女のセリフが芝居がかって聞こえた。
「それは、アンジェ様もよくご存知のことでしょう?」
貴女も奪った側なのだから、文句は言えないわよね?
つまり、そう言っている。
微笑みながら、どう切り返そうか逡巡する。王太子殿下に告げ口されてはかなわないし、今は彼女に構うより一刻も早く捕まえたい相手がいるのだが……。
「ええ、そうね……わたくしも、やはり義姉には敵わなかったのだと痛感しているところです」
悪意とは取られぬよう、しかし少々ショックを受けてお帰りいただこう。
「……クリスティナ様、ですって?」
意味がわからない様子のダリアに、アンジェはほうと悲しげなため息をこぼして言った。
「今日、おふたりを見ていて思い出したのです。義姉と殿下が並んだ姿は本当に、美しくて」
アイスブルーを刺し色に使った彼女のドレスは、レースよりも細かな宝石が多くあしらわれ義姉が好みに近い。アイスブルーといえば、義姉の瞳の色。同じ銀髪だが背は低く顔立ちは甘く可愛らしいので、凛としたクリスティナ・ローレンの立ち姿とは似つかないが、このドレスを贈ったのが、カーライルだというのなら。今のセリフは、彼女には効いたはずだ。
「わ、私がクリスティナ様の身代わりだっていうの!?」
「まあ、そんな。私はそんなつもりでは……ただ、義姉を懐かしく思い、我が身の愚かさを悔やんでいるだけですのに」
こんな程度で狼狽えるなんて。その程度の覚悟でよくも喧嘩をふっかけたものだと扇の中で小さく舌を出した。
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