正しい契約結婚の進め方

砂原雑音

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理想の妻像

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「いやいや、良いお相手に恵まれたようで、羨ましい限りです」


 仲良し……もはや溺愛アピールを目の前で繰り広げられ、父親の方は顔を引きつらせながらも笑い娘さんの方は若干恨みがましい目を向けていたが、これ以上は無駄と思ったのか会釈をして離れていった。


「ね? 七緒が横にいてもこの調子だ。俺がひとりだった時は息を吸うように娘を紹介されるんだ。あと姪とか」


 隣の金太郎飴が、はははと笑いながら言った。私も微笑みを保ったまま言い返す。


「ふふふ、やっぱりモテるじゃないですか」
「これをモテると本当にそう思う?」
「……いや、でも。ネームバリューも含めて高輪さんですよ!」
「ネームバリューって言わないでくれるかな」


 しかもそんな力強く……とぼやかれた。そしてネームバリューに関しては大ブーメランだ。私も『香月』だからこの縁に繋がったわけであって。それに高輪さんの場合は、ネームバリューなんかなくても、父親の方からの斡旋がなくなるだけで女性はほっとかないと思う。
 それからも、女性連れに限らずたくさんの人が代わる代わる挨拶に訪れる。女性がいるいないに関わらず彼は溺愛アピールを続けていたけれど、特にあからさまな視線や態度を見せる相手には徹底していた。
 その度に私を全面に押し出していちいち誉めそやすから、私はもう冷や汗を掻き過ぎて脱水症状になりそうだった。


「……緊張してる?」


 パーティが始まって間もなく、壇上近くにふたりで待機しているときに、彼が私の顔を覗き込む。もうじき、高輪さんが壇上に上がってその後、遅れて私が呼ばれる。
 婚約したことをこの場で広めるためだ。もう充分知れ渡っている気はするけど、正式なものだとはっきりとさせておくにはこうするのが一番だという。


「大丈夫ですよ」


 そう答えたけれど、少し手が震えていた。心臓の音も、心なしか大きく響く。


「大丈夫、上がった先には俺がいるんだから」
「……はい。心強いです」


 人の目があるから言った言葉ではなく、本当にそう思った。素直に頷いて微笑むと、彼が一瞬驚いたように目を見開く。素直に言っただけなのに驚くなんて失礼な。


「なんていうか……七緒はずるいな」
「なんですか、それ」
「いつもはつれない素振りで頑張ってるのに、急にかわいいことを言うから」


 素振りで頑張っている、という言い方が引っかかり私は眉根を寄せる。ふ、と彼は意地悪そうに微笑むと、急に強く私を抱き寄せた。


「約束をふたつ守れてないから、これはお仕置き」
「えっ?」
「敬語が取れてないし、名前も結局そのままだ」
「あ」


 そうだった、と口元を押さえようとする前に顎をくいと持ち上げられた。強制的に上向かされ、頬に息がかかる。
 目を見開いている間に、唇にほど近い辺りへ口づけられた。
 壇上に上がる前とはいえ、ここはパーティ会場でありたくさんの人の目がある。女性の歓声とも悲鳴ともいえる声に、どよめきや拍手の音が聞こえる中、たっぷりと十秒くらい彼は私を離さなかった。

 唇が離れ、高輪さんの薄い茶色の瞳が視界に入る。驚いて頭が真っ白になっている中、その瞳の色がきれいだなあと見惚れてしまった。
 口づけた後を親指で拭われて、その仕草ではっと我に返る。ぼんっと音がしてもおかしくないほど、顔が一気に熱くなった。


「た……、征一郎さんっ」
「続きはあとでゆっくり」


 そう言って、くるりと背を向けた彼が離れていく。
 この後、私も壇上にあがるの?
 この空気の中で!?
 先に壇上でにこやかに全体を見渡す彼を見つめながら、嘘でしょと口の中で呟いた。


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