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理想の妻像
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そこからはまあ、大変だった。
覚悟はしていたけれど、開宴までの短い時間もパーティの最中も、高輪さんと個人的な繋がりを持とうとする人たちが、隙を見ては話しかけてくる。いや、隙が無ければ作ればいいじゃないの、というノリの方々もいた。
その中で、若い女性を連れてくる人たちは、隣に婚約者(私)が立っていても目的が透けて見えて彼が辟易とするのがよくわかった。
そりゃ金太郎飴にもなる。お手本のような作り笑いを浮かべた状態で、受け流しておく方が楽なのだ。
ただ、彼は無意味に受け流しているだけではなかった。
まず、最初に声をかけてきた親子。高輪グループの下請け会社社長で、やはり娘を高輪さんに近付けようと連れて来たらしかった。その父親の方と話していると、その斜め後ろに立つ娘さんが声をかけて欲しそうにちらちらと高輪さんを見る。けれど、彼は一瞥もしない。父親から紹介されてようやく目は向けたものの、話す相手は常に父親だ。
「娘は大人しいというか、今時慎ましすぎるのも時代にそぐわないとは思うのですが」
ほら、と父親に促されて一歩前に出てきた彼女は、期待にほんのり頬を染めている。が、婚約者連れの男にそんな表情を見せる女性の何が大人しいのだろうか。
「これでも自慢の娘なのです。親の欲目ですが」
「それはそうでしょう、綺麗なお嬢さんですね」
「まあ、ありがとうございます」
褒められて嬉しそうに微笑む表情には、自信が溢れているように感じられた。また一歩高輪さんに近付こうとしたのだが、それはすぐに止まった。
「女性は良いですね、場を華やかにしてくれる」
すぐに父親の方に視線を戻し、話を彼女自身から女性全般に逸らしてしまったからだ。
「もちろん、私の婚約者も」
「えっ」
この流れでいきなり水を向けられて、ぎょっとした。
思わず声が出てしまったけれど、表情を崩さなかっただけでも褒めてもらいたい。高輪さんが私の背に手を当てて、それこそうっとりとした表情を向けてくる。迫真の演技だった。
「ああ、ご婚約されたというお噂は本当でしたか」
相手も笑顔を崩さなかったのは、さすがだと思う。娘さんの方は、思い切り顔に出ているけれど。今まで私のことはまるでスルーだったのに、鋭い目を向けられた。大人しい設定は一体どこへ行ったのか。
しかし、高輪さんはそんなことはお構いなしだった。
「ええ、ご縁がありまして。彼女でよかったと本当に思っています。華やかなだけでなく、所作や姿勢が美しくて、今日は惚れ直してしまいました」
にっこりと笑いながら堂々と惚気てみせたので、私だけでなく対面する親子も笑顔で固まっていた。
「まあ、ふふ……征一郎さんこそ、とても素敵で、隣に並ぶのが私で良いのかと恥ずかしいです」
私の返しも、これではただ照れているだけのバカップル丸出しだ。
だって他に、答えようがないんだもの!
こんなところで惚気るな!と激しくツッコミたいけど『理想の妻』を演じながらとなると控えめに言うしかなかった!
「どうして? 着物が良く似合ってる。着こなしが美しいのはさすがだね。いつも素直で可愛らしくて慎ましいところも好きだけど、謙虚すぎるのはよくないかな。堂々としていてほしい」
ひ……ひぃ……。
歯の浮くようなセリフがこんなにスラスラ出てくるなんて、愛読書が女性向け恋愛小説だったりしないだろうか。いらない疑惑が生まれてしまう。
「もう、やめてくださいってば」
ふふふ、と照れたふりで止めてはみたけど、効果はないだろうなと諦めていた。なにせ高輪さんの顔を見れば、この状況にノリノリだということがはっきり伝わってくる。
「本当のことだし婚約したばかりだからちょっとくらい惚気ても許してもらえるよ」
会話がすっかりふたりの世界になっていた。
というか、『高輪さんの理想の妻』って何!?
私がイメトレした『理想の妻』とは全然違う気がしてきましたが!?
覚悟はしていたけれど、開宴までの短い時間もパーティの最中も、高輪さんと個人的な繋がりを持とうとする人たちが、隙を見ては話しかけてくる。いや、隙が無ければ作ればいいじゃないの、というノリの方々もいた。
その中で、若い女性を連れてくる人たちは、隣に婚約者(私)が立っていても目的が透けて見えて彼が辟易とするのがよくわかった。
そりゃ金太郎飴にもなる。お手本のような作り笑いを浮かべた状態で、受け流しておく方が楽なのだ。
ただ、彼は無意味に受け流しているだけではなかった。
まず、最初に声をかけてきた親子。高輪グループの下請け会社社長で、やはり娘を高輪さんに近付けようと連れて来たらしかった。その父親の方と話していると、その斜め後ろに立つ娘さんが声をかけて欲しそうにちらちらと高輪さんを見る。けれど、彼は一瞥もしない。父親から紹介されてようやく目は向けたものの、話す相手は常に父親だ。
「娘は大人しいというか、今時慎ましすぎるのも時代にそぐわないとは思うのですが」
ほら、と父親に促されて一歩前に出てきた彼女は、期待にほんのり頬を染めている。が、婚約者連れの男にそんな表情を見せる女性の何が大人しいのだろうか。
「これでも自慢の娘なのです。親の欲目ですが」
「それはそうでしょう、綺麗なお嬢さんですね」
「まあ、ありがとうございます」
褒められて嬉しそうに微笑む表情には、自信が溢れているように感じられた。また一歩高輪さんに近付こうとしたのだが、それはすぐに止まった。
「女性は良いですね、場を華やかにしてくれる」
すぐに父親の方に視線を戻し、話を彼女自身から女性全般に逸らしてしまったからだ。
「もちろん、私の婚約者も」
「えっ」
この流れでいきなり水を向けられて、ぎょっとした。
思わず声が出てしまったけれど、表情を崩さなかっただけでも褒めてもらいたい。高輪さんが私の背に手を当てて、それこそうっとりとした表情を向けてくる。迫真の演技だった。
「ああ、ご婚約されたというお噂は本当でしたか」
相手も笑顔を崩さなかったのは、さすがだと思う。娘さんの方は、思い切り顔に出ているけれど。今まで私のことはまるでスルーだったのに、鋭い目を向けられた。大人しい設定は一体どこへ行ったのか。
しかし、高輪さんはそんなことはお構いなしだった。
「ええ、ご縁がありまして。彼女でよかったと本当に思っています。華やかなだけでなく、所作や姿勢が美しくて、今日は惚れ直してしまいました」
にっこりと笑いながら堂々と惚気てみせたので、私だけでなく対面する親子も笑顔で固まっていた。
「まあ、ふふ……征一郎さんこそ、とても素敵で、隣に並ぶのが私で良いのかと恥ずかしいです」
私の返しも、これではただ照れているだけのバカップル丸出しだ。
だって他に、答えようがないんだもの!
こんなところで惚気るな!と激しくツッコミたいけど『理想の妻』を演じながらとなると控えめに言うしかなかった!
「どうして? 着物が良く似合ってる。着こなしが美しいのはさすがだね。いつも素直で可愛らしくて慎ましいところも好きだけど、謙虚すぎるのはよくないかな。堂々としていてほしい」
ひ……ひぃ……。
歯の浮くようなセリフがこんなにスラスラ出てくるなんて、愛読書が女性向け恋愛小説だったりしないだろうか。いらない疑惑が生まれてしまう。
「もう、やめてくださいってば」
ふふふ、と照れたふりで止めてはみたけど、効果はないだろうなと諦めていた。なにせ高輪さんの顔を見れば、この状況にノリノリだということがはっきり伝わってくる。
「本当のことだし婚約したばかりだからちょっとくらい惚気ても許してもらえるよ」
会話がすっかりふたりの世界になっていた。
というか、『高輪さんの理想の妻』って何!?
私がイメトレした『理想の妻』とは全然違う気がしてきましたが!?
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