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初デートで発覚するアレコレ
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しおりを挟む「お話中、失礼しますが」
部屋の奥側を向いていた女性が振り返り、私を見て固まった。私はにっこり笑って、首を傾げてみせる。
「あまり、そういうお話を大きな声でされるのはやめた方がいいですよ。どこで誰が聞いているかもわかりませんし」
「えっ、あ、ご、ごめんなさい!」
素直に謝るあたり、単に高輪さんに好意を持っているだけで、さっきの発言も悪意があるわけではなさそうだ。だけど、それでどうして許されると思うのか。泣く相手がいるかもしれないことに、少しの罪悪感もないのだろうか。
慌てて手にしていたスマホをバッグに戻しているが、焦った様子はあってもどこか彼女はまだ呑気そうだった。なので、更ににっこり笑う。
「高輪さんには私からお伝えしておきますね」
「え」
「事業のご相談と合わせて、よくしてくださるといいですね」
そう言うと、彼女の顔からさっと血の気が引いた。さっきの様子からして、高輪さんが積極的に彼女の事業を後押しすることはなさそうだ。つまり、高輪家にとってそれほど重要でない相手。その上今の発言は愛人志願だ。
婚約者に愛人志願者と知られている女性が持ち込む話を、彼は相手にするだろうか。過去の話が本当だとして、愛人になれればいいが下手すれば事業の方を潰される可能性もある。
なかなかスリリングな賭けだと思う。
「あ、あのっ! そんなつもりじゃ、ちょっとした冗談で」
「もちろん、わかってます。私も冗談です」
ふふふ、と口元を手で隠し、上品ぶって笑ってみせる。まだ若干青い顔で呆然としている彼女に軽く会釈して、その場を離れた。
早足で高輪さんが待っているロビーへ歩きながら、深呼吸をして気持ちを落ち着けようとしていた。結局彼女は高輪さんのどういう知り合いなんだろう。
別に関係ないけど! いやあるけども!
カッとなったら黙ってられないところ、一年前から変わってない。自覚しつつ後悔もしていない。今のは怒っているというより、ただ馬鹿にされるのが嫌だっただけだけど。
広々としたロビーの中で、高輪さんの姿を見つける。離れたところからでもすぐにわかるくらいの長身で、何よりなぜか目を引くような存在感があった。無表情の横顔が私に向いて、目が合ったとたんに微笑みが浮かぶ。
さっきのパウダールームでの一件が、私の中で尾を引いているのだろうか。急に彼のことが、とても不透明で奥底の見えない人に感じられた。
――あ、ちょっと、ダメかもしれない。
「すみません、お待たせしました」
ズキズキと痛む内心を今は押し隠して、私も微笑む。お手本はお見合いの時の高輪さんだ。その時点でなんとなく、信頼しあえる夫婦にはなれそうにないと思ってしまった。
「七緒さん?」
「はい?」
「何かあった?」
何かも何も初デートからてんこ盛りですってば。
「何もありませんよ」
笑顔で即座に答えてしまったのは、逆に不自然だったかもしれない。
「そうは思えないけど」
「普通です」
ほんとに普通なら、ここで意固地に普通だと言い張らない気がするな、と言ってから思ったけれど、他にどうしようもないから仕方ない。
一端これは持ち帰り、頭が冷えてから考えるべき案件だ、と判断した。
だからさっきの彼女のことも言わないまま、高輪さんの視線から逃れるようにしてバッグの中からスマホを取り出す。時間を確認するふりをしてから、続けて言った。
「そろそろ帰ります。明日は仕事ですし」
「ホテル内、見て回らない? 来た時はあんなに興味津々だったのに」
「また今度にします」
多分、今の私は高輪さん以上の金太郎飴になれていることだろう。申し訳ないけど、女性関係の問題はまだまだ私には地雷のようだ。とても今は素直になれない。
だけど、彼はそれで許してはくれなかった。
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