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初デートで発覚するアレコレ
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病院の駐車場から、高輪さんの車の助手席にお邪魔する。食事の予約を入れてくれているそうで、行先に迷うことなく車を走らせる彼に聞いてみた。
「祖父とは、ずいぶん打ち解けてるんですね」
「そうかな? だとうれしいけど。七緒さんのお祖父さんは、人当たりがよくて話しやすいね」
それは確かに、父と比べればその通りだ。
「あれってなんのアプリですか?」
祖父は意外にスマホをよく活用している。メッセージアプリや、映画館のネット予約、他には保存した画像をパソコンに移したいとか、その度に一緒にスマホを操作して私が教えていた。
私が知らないアプリだったとしても一度くらいは聞いてきそうなものなのに、それもなくどうして高輪さんに聞いたんだろう?
「んー……実は、内緒にしてくれって言われてるからなあ」
運転中の高輪さんは、真っ直ぐ前を見たまま小さく唸る。
「えっ、なんで」
「別に変なアプリじゃないよ。それは言っとくけど」
驚いた声を上げた私に、彼は苦笑交じりに答える。しかし、変なアプリじゃないなら教えてくれても良さそうなものだ。
「単純に、恥ずかしいとか、照れくさいとか、そんな理由だから。心配しなくて大丈夫」
「はあ……」
恥ずかしいとか、照れくさい……けど変なアプリじゃない?
ますますよくわからない。
「じゃあ、なんで高輪さんだけ?」
うっかりぼそっと呟いたのが、拗ねているように聞こえたのだろうか。赤信号で停車すると、彼は私の方を見てくすくすと笑った。
「七緒さんの大事なお祖父さんを、別に取ったりしないから」
「そんな心配をしてるわけじゃないです……」
茶化すように言われて、急激に顔が熱くなる。取られるなんて思ったわけじゃないけれど、私ではなく高輪さんを頼ったことにモヤッとしたのは確かで……これでは親離れならぬ祖父離れ出来ない子供だと言っているようなものだ。
「七緒さんは、お祖父さんと仲が良いね」
「……そうかもしれません。祖父に育ててもらったから」
頬に手を当てて赤い顔を隠しつつ素直に答える。近頃、祖父は何かと私に頼らないようにしていて、そんなところを見るといつも寂しくなってくる。だから些細なことを気にしてしまうのだろうか。
「大切に育てられたんだなあと、見ていると伝わってくるよ」
「そうですか?」
「お祖父さんと話す姿が微笑ましくて、優しい子だなと思った」
ぽっと心が温かくなった。彼を見ると目が合って、すぐにまた頬に熱が集まってくる。
「そんな、ことは、ないですけど」
夕方、暗くなりかける時刻とはいえ、まだ色味もわからないほどではない。ますます赤くなる顔を手で隠すのも限界で、ぐるんと助手席の窓側に向き彼の視線から避けた。
「……ふ」
運転席から、忍び笑いが聞こえてくる。
「な、なんですか」
「七緒さんは、反応が素直でいいなあと思って」
うぐ、と出かけた声を呑み込んだ。
そんなことを言われたら、ちっとも火照りが収まらないじゃないですか!
心で叫んでいると、ゆっくりと窓の景色が動き始めた。信号が青に変わって、彼が運転を再開したのだ。私から視線が外れたことにほっとして、早く戻れと念じながら頬を両手で包んで揉んだ。
あの顔が、いけない。
綺麗すぎる顔で微笑まれて見つめられて、あんな風に言われたら……赤くならないわけがない。
どうしよう。この人、ちょっと理想的すぎない?
父親が会社絡みで決めてきた結婚相手にしては、恵まれすぎている。経済力はもちろんのこと、外見は私が隣に立っていいのかと首を傾げてしまうくらいだし。人当たりもいい。祖父と軽口が叩けるくらい、上の世代の人と話して気後れしないところもいい。
だからこそ疑ってしまう。環境と容姿に恵まれて育った人だ。まだ見せていない性格にはどこか難があるかもしれない。今は隠せていても、実は傲慢なところがあったり……何より。
ちらりと彼の横顔を盗み見る。
横顔のラインが、とても綺麗だ。鼻筋が通って彫りが深い。肌は、男性にしては少し白いだろうか。髪の色は黒に近い茶色だけれど、瞳は髪よりずっと明るい、澄んだ色だ。
見る程に思う。こんな男性が女性にモテないはずがない。そんな人と結婚して、私は大丈夫なのか。
……できればもう、裏切られる経験はしたくない。
嫌なことを思い出すと、火照っていた頬がすうっと冷えていった。
「祖父とは、ずいぶん打ち解けてるんですね」
「そうかな? だとうれしいけど。七緒さんのお祖父さんは、人当たりがよくて話しやすいね」
それは確かに、父と比べればその通りだ。
「あれってなんのアプリですか?」
祖父は意外にスマホをよく活用している。メッセージアプリや、映画館のネット予約、他には保存した画像をパソコンに移したいとか、その度に一緒にスマホを操作して私が教えていた。
私が知らないアプリだったとしても一度くらいは聞いてきそうなものなのに、それもなくどうして高輪さんに聞いたんだろう?
「んー……実は、内緒にしてくれって言われてるからなあ」
運転中の高輪さんは、真っ直ぐ前を見たまま小さく唸る。
「えっ、なんで」
「別に変なアプリじゃないよ。それは言っとくけど」
驚いた声を上げた私に、彼は苦笑交じりに答える。しかし、変なアプリじゃないなら教えてくれても良さそうなものだ。
「単純に、恥ずかしいとか、照れくさいとか、そんな理由だから。心配しなくて大丈夫」
「はあ……」
恥ずかしいとか、照れくさい……けど変なアプリじゃない?
ますますよくわからない。
「じゃあ、なんで高輪さんだけ?」
うっかりぼそっと呟いたのが、拗ねているように聞こえたのだろうか。赤信号で停車すると、彼は私の方を見てくすくすと笑った。
「七緒さんの大事なお祖父さんを、別に取ったりしないから」
「そんな心配をしてるわけじゃないです……」
茶化すように言われて、急激に顔が熱くなる。取られるなんて思ったわけじゃないけれど、私ではなく高輪さんを頼ったことにモヤッとしたのは確かで……これでは親離れならぬ祖父離れ出来ない子供だと言っているようなものだ。
「七緒さんは、お祖父さんと仲が良いね」
「……そうかもしれません。祖父に育ててもらったから」
頬に手を当てて赤い顔を隠しつつ素直に答える。近頃、祖父は何かと私に頼らないようにしていて、そんなところを見るといつも寂しくなってくる。だから些細なことを気にしてしまうのだろうか。
「大切に育てられたんだなあと、見ていると伝わってくるよ」
「そうですか?」
「お祖父さんと話す姿が微笑ましくて、優しい子だなと思った」
ぽっと心が温かくなった。彼を見ると目が合って、すぐにまた頬に熱が集まってくる。
「そんな、ことは、ないですけど」
夕方、暗くなりかける時刻とはいえ、まだ色味もわからないほどではない。ますます赤くなる顔を手で隠すのも限界で、ぐるんと助手席の窓側に向き彼の視線から避けた。
「……ふ」
運転席から、忍び笑いが聞こえてくる。
「な、なんですか」
「七緒さんは、反応が素直でいいなあと思って」
うぐ、と出かけた声を呑み込んだ。
そんなことを言われたら、ちっとも火照りが収まらないじゃないですか!
心で叫んでいると、ゆっくりと窓の景色が動き始めた。信号が青に変わって、彼が運転を再開したのだ。私から視線が外れたことにほっとして、早く戻れと念じながら頬を両手で包んで揉んだ。
あの顔が、いけない。
綺麗すぎる顔で微笑まれて見つめられて、あんな風に言われたら……赤くならないわけがない。
どうしよう。この人、ちょっと理想的すぎない?
父親が会社絡みで決めてきた結婚相手にしては、恵まれすぎている。経済力はもちろんのこと、外見は私が隣に立っていいのかと首を傾げてしまうくらいだし。人当たりもいい。祖父と軽口が叩けるくらい、上の世代の人と話して気後れしないところもいい。
だからこそ疑ってしまう。環境と容姿に恵まれて育った人だ。まだ見せていない性格にはどこか難があるかもしれない。今は隠せていても、実は傲慢なところがあったり……何より。
ちらりと彼の横顔を盗み見る。
横顔のラインが、とても綺麗だ。鼻筋が通って彫りが深い。肌は、男性にしては少し白いだろうか。髪の色は黒に近い茶色だけれど、瞳は髪よりずっと明るい、澄んだ色だ。
見る程に思う。こんな男性が女性にモテないはずがない。そんな人と結婚して、私は大丈夫なのか。
……できればもう、裏切られる経験はしたくない。
嫌なことを思い出すと、火照っていた頬がすうっと冷えていった。
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