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番外編
黒木貴仁の独白2
しおりを挟む「は……、佳純……力抜け」
彼女の中が、絡みつくように蠢いている。温かい蜜の中に沈んでいる感覚に加えて、全体を締め付けられていて理性が飛びそうになる。
だから言ったのに、佳純は浅く息を吐きながら、どこか拙い動きで俺の身体に手を回し、しがみついてくる。
「……くそ。かわいい」
うわごとのように零れた呟きを、佳純に聞かれただろうか。気を散らさなければと思うのに、無意識に煽ってくるのだから、堪らない。
「黒木、さ……くろき、さん、すき」
「ああ、聞いてる。わかったから……」
細い腕が絡みつく。息を大きくひとつついてから目を開けると、小さな頭がすりすりと胸に擦り寄ってくるのが見えた。
顔を擦って、少し首を傾けて、それで見えた彼女の顔は、とろりと溶けて目の焦点が合ってない。
そこで、ぷつ、と我慢の糸が切れた。
大切に、気持ちの良いことだけをしてやろうと思っていたのに、こっちの我慢を全部無駄にしたのは、彼女の方だ。
「……くそ。責任取れよ、お預けにされた分も全部払ってもらうからな」
そうだ。これまでの責任も、全部ここで払ってもらおう。
彼女の中をかき混ぜ揺らす。その度に、声を漏らす濡れた唇を見ていると、触れたくなって親指を下唇に当てた。赤い舌が覗くのが見え、しゃぶりつく。それだけで身震いした彼女が……もう、どうしようもなく。
「……佳純」
「ああっ、ああ……」
頬を上気させ、汗と涙でぐちゃぐちゃになった佳純を撫でる手は、どうしても優しくなる。裏腹に、繋がる場所は容赦なく責め立ててしまう。
汗ばんだ首筋に顔を伏せ、口づけながら穿ち、彼女の中が収縮する。
一度目は、呆気なかった。寧ろ、一度達してしまわなければ、自分の欲ばかりを優先してしまいそうなほど、自分が昂っているとわかっていた。
「あああああっ」
俺の背中にある華奢な手が爪を立てるが、汗で滑って擽ったい程度のことで、そんなことすら可愛らしい。
蠕動する彼女の中の誘惑に逆らわず、二度、三度と強く腰を押し付けると、身震いするような快感に息を止め、吐き出した。
「……は、あぁ」
しばらく、彼女の上に覆い被さったまま身動きせずにいると、彼女の身体が小さく痙攣を繰り返し、やがてぐったりと力を抜くのが伝わってくる。
首筋、耳、目元とキスをしてから一度、彼女の中から抜いて身体を離す。熱冷めやらぬ己の分身に苦笑しながら、それでも少し頭は冷えた。
彼女を見れば、どこかぼんやりとした目でこちらを見ていて、彼女の足の間から動かない俺を不思議に思っているのかもしれない。思わず口元が笑みを作る。
一度で終わるわけないだろう。
ふたたび蜜口にあてがって、彼女の腰を片手で撫でる。
「ふあ」
佳純の目が、一瞬心地良さげに細くなる。しかし次には、驚いたように見開かれた。
「……あの、黒木さん?」
「ん?」
案の定戸惑う彼女を他所に、腰を撫でていた手を下腹に当て、そこで止める。彼女が苦しくない程度に軽く圧迫すると、自身の先を潜り込ませた。上側の壁を擦るようにして、今度はゆっくりと奥へ進む。
「あ、あああ……」
深くなるにつれしなる身体を見下ろし、その反応と表情をつぶさに見つめる。ある一点で、彼女の顔がくしゃりと歪んだ。
「ひぁんっ……あっ」
ひくん、と釣ったように上がった片足を、抱き寄せる。下腹は変わらず抑えて中からの刺激が彼女に伝わりやすいようにしながら、腰を軽く前後させると喘ぐ声が一層高くなった。
「今度はゆっくり、良いところを探そうか」
寝かさないと言ったしな。そう確認したが、彼女には届いていなかったかもしれない。
彼女の中の『良いところ』を見つけて刺激して、そこが『良い』のだと彼女自身にも刻み付ける。
少し浅いところを腹側に向けて擦り付けると、身を捩りながら良く鳴いた。
「佳純」
快感が過ぎて苦しげに顔を歪ませる彼女の名前を呼びながら、少し緩めてやればほろほろと涙を溢す。
「ここがいいか? もう少し?」
尋ねるとこくこくと素直に頷き、甘い責め苦を受け止める。その姿にまた、いとおしくなる。息を乱し汗を滲ませる身体を何度も撫でてやりながら、口づけて宥めながら、幾度か達した後。
両足を掴み胸に押し付け、彼女の一番奥深くまで己を沈ませる。
「……そこ、だめ、っ……」
「ここは慣れないか?」
これまでで一番、苦しげな表情をした。慣れないせいで痛みがあるのかもしれないと一度腰を引く。
しかし、そこがどの場所よりも敏感であるということでもあり。
子宮口を思い切り突きたい衝動を堪えて、小さく叩く程度に、数度押し上げる。
それだけで彼女の中が強く収縮し、搾り取るような動きをみせる。背筋を反らせて戦慄く身体を押さえるように、握り合わせた手に力を込めてシーツに押し付けた。
彼女の一際細く続いた矯声の後。部屋に響くふたり分の乱れた息づかいは、徐々に穏やかになる。
達した直後を責め立てられて、彼女の身体は腕の中で脱力しきっていた。閉じ込めるように抱きしめながら、首筋にキスをして汗に濡れた肌を撫でる。疲れきった身体はそれでも、その度にひくひくと小さく反応していた。それがたまらなく、どうしようもなく、こちらの恋情を煽る。耳許に唇を寄せ、たまらず名前を呼んでいた。
「佳純………」
この温もりは、もう離せない。
「好きだ。必ずそばに置く」
気づけばそう囁いていた。彼女に届いていたかは知らないが。
この先のことを知れば戸惑うに違いない佳純を、どうして口説こうか。
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