24 / 32
25 ターニングポイント
しおりを挟む
春にさしかかった日の昼。
庭のダンジョンに潜っているととある小瓶などを見つけ俺はため息をついた。
毎度のごとくダンジョンが拡張されており、当然のように探索を終え。
その帰りがけ、ダンジョンのエントランスに赤い光球が浮かんでいたのでそれに触れると――。
「……案外あっけなかったな」
光に包まれた直後、窓も扉もない部屋に飛ばされたのだ。
部屋の中央にはダンジョンコア。
ここを駆除するために潜っていたのももう懐かしくさえあった。
『快癒の水薬:服用により肉体本来の機能を取り戻すことができる。譲渡不可』
ポーションの効果は欠損も復元する……というものだ。
こいつの情報が公に出るとすれば俺はそのうち謀殺されるのではないだろうか。
現状、これを必要としているのは俺よりもむしろ……。
一月の顕現で目を潰した八坂女史、腕をなくした綱手さんを思い浮かべる。
綱手さんは高性能の義手を使っているし、なんなら腕を失ったものの民衆の利益を守り切った英傑という評判を勝ち取っている。
転んでもただでは起きない、本当ににしたたかな人である。
だが八坂女史は違う。
魔眼の酷使により失明し、食事もまともに喉を通らないほどに意気消沈している。
何度か見舞いに行ったものの、日に日にやつれていく彼女を見ると胸が締め付けられるようだ。
再びため息をつく。
コアに触れると仮想ディスプレイが浮かび上がる。
「……DP?」
何桁にも及ぶ数字が書かれており、リアルタイムで上昇していくそれの上に『管理者権限が開放されました』というメッセージがポップアップしてきた。
どれどれ……?
どうやら管理者権限が開放されたことにより、ダンジョンポイントを使ってアイテムの効果やらドロップ数、確率などを変えられるらしい。
ためしに譲渡可能と変更してみるが当然のごとく拒否される。
ダンジョンコア君はどんだけ人にものをあげたくないのさ。
もしかして誕生日プレゼントとか渡さない派? 奇遇じゃん、俺も俺も。
うーん、これもうちょっと弄ってみよう……。
うわ、なんか光った……。
◆
R大学病院。
そこの病室一室を八坂女史はひとりで使っている。
目が見えないということももあって彼女の病室付近は警護の人間がちらほらいた。
八坂女史の病室の階にあるエントランスを訪れると、お付きの人と一緒にお茶を飲んでいる狩野さんの姿が映る。
こちらが頭を下げる前に彼はこちらに気づき会釈をする。
俺も慌てて会釈を返し、彼の元に挨拶に行く。
「里見さん、今日もお見舞いですか」
「支部長……狩野さんも?」
私もそんなところですと狩野さんは朗らかな表情を浮かべる。
たしかにダンジョンの顕現騒動によって治安も悪化したけれど、ここまでボディガードを付き従えるほどなのだろうか。
狩野さんは少し困ったように告げる。
「ここに居る人たちは全員が協会員ではないんですよ。綱手さんが『婚約者の面倒を見るのは当然のことだろう?』と張り切っていてね」
「……へえー」
ちらりとガードに目を配る狩野さん。
「彼の悪癖だよ。自分の才覚で手に入らないものはないんだと疑わないんだ」
これはオフレコでね、と彼はぼやいた。
どうやらボディガードの人が魔術かなにかで音を遮っているようだ。
狩野さんは眉尻をさげ、ため息をつく。
「暮らし向きはどうかな、里見さん」
「ん、特に望まなければ老後も心配ないくらいは貰ったのでなんの問題もないですよ」
「無欲だねぇ」
「慣れてますので」
あの家に絵の資料が入らなくなれば土地の購入のために手をつけてもいい……くらいのものだ。
資産運用が上手ければこの間の依頼の分を元手にしていたのだろうけれど。
そういうのは知識がある人がやるものである。
と、まあそこそこに雑談を終えると女史の病室から綱手さんが退室してくるのが見える。
彼はこちらに気づくとわずかに目を細めた。
それも一瞬ですぐにお辞儀をすると狩野さんに近づいてくる。
狩野さんは「巻き込まれないうちに見舞いに行ってきたほうがいいよ」とこちらに告げた。
綱手さんと交差するもこちらのことなど眼中にないのか、意識を割かれた様子もなかった。
◆
しんと静まりかえった病室。
やや背もたれが上げられたベッドに横たわったまま、八坂女史はなにも言わずにぼうっとしている。
こちらが訪れたことに気づくわけでもなく、両目のまわりに巻かれた包帯をぺたりと触っては気落ちのため息を吐くだけだ。
彼女はいくらか痩せたようで、頬のあたりもやや落ちくぼんでいた。
長い黒髪だけは艶やかで誰かが手入れを怠っていないことがありありと察せられる。
俺は彼女にどう声をかけようか迷い……いつも通りを取り繕う。
「よっす。……遊びに来たよ」
「……あ、里見くん? ごめんね、気づかなくて」
「気にしなくていいって。今日はダンジョンから薬を――」
鞄から〈快癒の水薬〉を取り出そうとすると、しかし八坂女史は小さく声を紡ぐ。
「ごめん、今日は帰って……」
ほんの少しだけすすり泣きの兆しが見えて、俺はそっと水薬をベッドの隣に備え付けられたサイドテーブルに置く。
「……また来るよ」
人が泣きたいとき、どう接して良いか分からない。
胸を貸す仲でもなければ愚痴を聞いて欲しい様子でもない。
だから俺にできることは、今はきっとないのだ。
病室から辞すると、扉の向こうからわずかに鼻をすする音がした。
ぎゅっと拳を握りしめても、この無力感は行き場がなかった。
◆
街は随分と変わった。
地方都市なので車で移動する人が大多数なのは変わらないが、自転車や徒歩の交通量がかなり減った。
モンスターが街に現れて人を害するという事例が多々起こったからなのは言うまでもない。
治安が悪化した街を一般人が歩きたいだなんて思うことはないだろう。
一部の富裕層は冒険者を雇い、自分たちがトドメを刺すことでレベルを上げている。
強くなってしまえばある程度の危機は乗り越えられるからだ。
冒険者需要も増えているので彼らのボディガードとして雇われようという動きだって馬鹿にならないほど。
なので歩道を歩いているのは大体冒険者……というかモンスターを倒したことがある人間だ。
緊急時ゆえに常時帯剣させろという声もあり、政治家たちはその対応に追われている……とニュースでやっていた。
家路についていると進行方向に見知った人がひとり、立ち塞がる。
冒険者の防人さんだ。この間、板葉大友のダンジョンで一緒に潜った。
表情は剣呑としており茶飲み話に誘いに来たわけではなさそうだ。
手に武器を持っているあたりむしろ――
なにが来てもいいように臨戦の覚悟だけはしておく。
「なにか用ですか?」
防人さんはこちらを見つけると同時に暗い笑顔を浮かべ――長剣で斬りかかってきた。
距離を取ろうにも相手のほうが幾分か早い。
筋肉に力を入れ、右腕に剣を食らいながらも抜き差しならぬように食い止める。
反撃として俺が左拳で放ったジャブは防人のアーツによって受け流され、カウンターに膝蹴りをみぞおちに貰う。
「どうしたよ、この前の獅子奮迅の活躍とは打って変わって……なあ!」
「なにがどうしてそういう判断になったんですかっ!」
「簡単な話さ! お前を殺してダンジョンの支配権を奪い取る! それで俺はもっと――」
剣が抜かれる。
間髪を入れずに防人の足払い。
「『来い』!」
それを軸足で受け、俺は叫ぶ。
身に纏うのは赤い光。
冒険者のそれとは反対色の、ダンジョンマスターとしての〈アーツ〉だ。
効果は簡単。俺のダンジョンが生み出した物品を召喚するだけ。
鉄杖を手に取り剣戟を繰り広げるが負傷ともうひとつのハンデによってかなりの劣勢だ。
俺が武器を呼び寄せたことに驚いた防人は、しかし攻め手を緩めない。
「――くっそどいつもこいつも話が通じねえ!」
わけわかんねえ、なんでいつの間にかダンジョンの支配権の話になってんだ?
誰かからなにか吹き込まれたのか?
鍔迫り合いに持ち込まれる。
本来なら技を力で押し切る場面だが能力が足りていない。
前へと突っかからせたような形に持ち込まれ、次の攻撃で勝負が決まる。
だが、それは俺がダンジョンマスターでなければの話だ。
「召喚!」
口の中に召喚するのは〈バーストタブレット〉。
任意のスキルを一時的に大幅に強化する代わりに効果が切れた後はスキルも消滅するという代物である。
そいつをかみ砕きドーピング対象とするのは――〈自動回復〉だ。
魔法による盾などは間に合わない。
回避はスキルを持っていない。
すると手持ちの中で手数を使わずに切り抜けられるものと言えばこれくらいしかないのだ。
歯を食いしばり来るはずの痛みに備える。
防人の身体は青く淡く光っており、彼の振るう剣は綺麗に俺の首を断つ。
痛――――てえ!
一瞬意識飛んでたわ!
殺してもなお死なない俺に防人は一瞬だけたじろぐがもう遅い。
俺の反撃が飛び出す前に――八坂女史の魔術が防人の手を弾き飛ばしていたからだ。
防人の両手はしばらく使い物にならないくらいはへしゃげていて、そこで俺が鉄杖で軽く頭を打ち付けて気絶させた。
無力化が終わると病衣で裸足のままの八坂女史がこちらにひたひたと歩み寄ってくる。
「……里見君、なにか言うことは?」
「第一声がそれ?」
「わたしだってまさか自分に劇的に弱くなる制約をかけてまであんな神話級のアイテムを渡すお人好しなんて想定してない!」
「……女史、なにか言うことは?」
ほら、人になにかしてもらったら言う言葉があるじゃん。
なんて言うと彼女は顔を真っ赤にし、目をそらして、しかしハキハキと紡ぎ出す。
「……ありがとう、ございます」
「そっか。こっちもありがとう、助かったよ」
そういう顔が見たくて渡したんだからさ。
庭のダンジョンに潜っているととある小瓶などを見つけ俺はため息をついた。
毎度のごとくダンジョンが拡張されており、当然のように探索を終え。
その帰りがけ、ダンジョンのエントランスに赤い光球が浮かんでいたのでそれに触れると――。
「……案外あっけなかったな」
光に包まれた直後、窓も扉もない部屋に飛ばされたのだ。
部屋の中央にはダンジョンコア。
ここを駆除するために潜っていたのももう懐かしくさえあった。
『快癒の水薬:服用により肉体本来の機能を取り戻すことができる。譲渡不可』
ポーションの効果は欠損も復元する……というものだ。
こいつの情報が公に出るとすれば俺はそのうち謀殺されるのではないだろうか。
現状、これを必要としているのは俺よりもむしろ……。
一月の顕現で目を潰した八坂女史、腕をなくした綱手さんを思い浮かべる。
綱手さんは高性能の義手を使っているし、なんなら腕を失ったものの民衆の利益を守り切った英傑という評判を勝ち取っている。
転んでもただでは起きない、本当ににしたたかな人である。
だが八坂女史は違う。
魔眼の酷使により失明し、食事もまともに喉を通らないほどに意気消沈している。
何度か見舞いに行ったものの、日に日にやつれていく彼女を見ると胸が締め付けられるようだ。
再びため息をつく。
コアに触れると仮想ディスプレイが浮かび上がる。
「……DP?」
何桁にも及ぶ数字が書かれており、リアルタイムで上昇していくそれの上に『管理者権限が開放されました』というメッセージがポップアップしてきた。
どれどれ……?
どうやら管理者権限が開放されたことにより、ダンジョンポイントを使ってアイテムの効果やらドロップ数、確率などを変えられるらしい。
ためしに譲渡可能と変更してみるが当然のごとく拒否される。
ダンジョンコア君はどんだけ人にものをあげたくないのさ。
もしかして誕生日プレゼントとか渡さない派? 奇遇じゃん、俺も俺も。
うーん、これもうちょっと弄ってみよう……。
うわ、なんか光った……。
◆
R大学病院。
そこの病室一室を八坂女史はひとりで使っている。
目が見えないということももあって彼女の病室付近は警護の人間がちらほらいた。
八坂女史の病室の階にあるエントランスを訪れると、お付きの人と一緒にお茶を飲んでいる狩野さんの姿が映る。
こちらが頭を下げる前に彼はこちらに気づき会釈をする。
俺も慌てて会釈を返し、彼の元に挨拶に行く。
「里見さん、今日もお見舞いですか」
「支部長……狩野さんも?」
私もそんなところですと狩野さんは朗らかな表情を浮かべる。
たしかにダンジョンの顕現騒動によって治安も悪化したけれど、ここまでボディガードを付き従えるほどなのだろうか。
狩野さんは少し困ったように告げる。
「ここに居る人たちは全員が協会員ではないんですよ。綱手さんが『婚約者の面倒を見るのは当然のことだろう?』と張り切っていてね」
「……へえー」
ちらりとガードに目を配る狩野さん。
「彼の悪癖だよ。自分の才覚で手に入らないものはないんだと疑わないんだ」
これはオフレコでね、と彼はぼやいた。
どうやらボディガードの人が魔術かなにかで音を遮っているようだ。
狩野さんは眉尻をさげ、ため息をつく。
「暮らし向きはどうかな、里見さん」
「ん、特に望まなければ老後も心配ないくらいは貰ったのでなんの問題もないですよ」
「無欲だねぇ」
「慣れてますので」
あの家に絵の資料が入らなくなれば土地の購入のために手をつけてもいい……くらいのものだ。
資産運用が上手ければこの間の依頼の分を元手にしていたのだろうけれど。
そういうのは知識がある人がやるものである。
と、まあそこそこに雑談を終えると女史の病室から綱手さんが退室してくるのが見える。
彼はこちらに気づくとわずかに目を細めた。
それも一瞬ですぐにお辞儀をすると狩野さんに近づいてくる。
狩野さんは「巻き込まれないうちに見舞いに行ってきたほうがいいよ」とこちらに告げた。
綱手さんと交差するもこちらのことなど眼中にないのか、意識を割かれた様子もなかった。
◆
しんと静まりかえった病室。
やや背もたれが上げられたベッドに横たわったまま、八坂女史はなにも言わずにぼうっとしている。
こちらが訪れたことに気づくわけでもなく、両目のまわりに巻かれた包帯をぺたりと触っては気落ちのため息を吐くだけだ。
彼女はいくらか痩せたようで、頬のあたりもやや落ちくぼんでいた。
長い黒髪だけは艶やかで誰かが手入れを怠っていないことがありありと察せられる。
俺は彼女にどう声をかけようか迷い……いつも通りを取り繕う。
「よっす。……遊びに来たよ」
「……あ、里見くん? ごめんね、気づかなくて」
「気にしなくていいって。今日はダンジョンから薬を――」
鞄から〈快癒の水薬〉を取り出そうとすると、しかし八坂女史は小さく声を紡ぐ。
「ごめん、今日は帰って……」
ほんの少しだけすすり泣きの兆しが見えて、俺はそっと水薬をベッドの隣に備え付けられたサイドテーブルに置く。
「……また来るよ」
人が泣きたいとき、どう接して良いか分からない。
胸を貸す仲でもなければ愚痴を聞いて欲しい様子でもない。
だから俺にできることは、今はきっとないのだ。
病室から辞すると、扉の向こうからわずかに鼻をすする音がした。
ぎゅっと拳を握りしめても、この無力感は行き場がなかった。
◆
街は随分と変わった。
地方都市なので車で移動する人が大多数なのは変わらないが、自転車や徒歩の交通量がかなり減った。
モンスターが街に現れて人を害するという事例が多々起こったからなのは言うまでもない。
治安が悪化した街を一般人が歩きたいだなんて思うことはないだろう。
一部の富裕層は冒険者を雇い、自分たちがトドメを刺すことでレベルを上げている。
強くなってしまえばある程度の危機は乗り越えられるからだ。
冒険者需要も増えているので彼らのボディガードとして雇われようという動きだって馬鹿にならないほど。
なので歩道を歩いているのは大体冒険者……というかモンスターを倒したことがある人間だ。
緊急時ゆえに常時帯剣させろという声もあり、政治家たちはその対応に追われている……とニュースでやっていた。
家路についていると進行方向に見知った人がひとり、立ち塞がる。
冒険者の防人さんだ。この間、板葉大友のダンジョンで一緒に潜った。
表情は剣呑としており茶飲み話に誘いに来たわけではなさそうだ。
手に武器を持っているあたりむしろ――
なにが来てもいいように臨戦の覚悟だけはしておく。
「なにか用ですか?」
防人さんはこちらを見つけると同時に暗い笑顔を浮かべ――長剣で斬りかかってきた。
距離を取ろうにも相手のほうが幾分か早い。
筋肉に力を入れ、右腕に剣を食らいながらも抜き差しならぬように食い止める。
反撃として俺が左拳で放ったジャブは防人のアーツによって受け流され、カウンターに膝蹴りをみぞおちに貰う。
「どうしたよ、この前の獅子奮迅の活躍とは打って変わって……なあ!」
「なにがどうしてそういう判断になったんですかっ!」
「簡単な話さ! お前を殺してダンジョンの支配権を奪い取る! それで俺はもっと――」
剣が抜かれる。
間髪を入れずに防人の足払い。
「『来い』!」
それを軸足で受け、俺は叫ぶ。
身に纏うのは赤い光。
冒険者のそれとは反対色の、ダンジョンマスターとしての〈アーツ〉だ。
効果は簡単。俺のダンジョンが生み出した物品を召喚するだけ。
鉄杖を手に取り剣戟を繰り広げるが負傷ともうひとつのハンデによってかなりの劣勢だ。
俺が武器を呼び寄せたことに驚いた防人は、しかし攻め手を緩めない。
「――くっそどいつもこいつも話が通じねえ!」
わけわかんねえ、なんでいつの間にかダンジョンの支配権の話になってんだ?
誰かからなにか吹き込まれたのか?
鍔迫り合いに持ち込まれる。
本来なら技を力で押し切る場面だが能力が足りていない。
前へと突っかからせたような形に持ち込まれ、次の攻撃で勝負が決まる。
だが、それは俺がダンジョンマスターでなければの話だ。
「召喚!」
口の中に召喚するのは〈バーストタブレット〉。
任意のスキルを一時的に大幅に強化する代わりに効果が切れた後はスキルも消滅するという代物である。
そいつをかみ砕きドーピング対象とするのは――〈自動回復〉だ。
魔法による盾などは間に合わない。
回避はスキルを持っていない。
すると手持ちの中で手数を使わずに切り抜けられるものと言えばこれくらいしかないのだ。
歯を食いしばり来るはずの痛みに備える。
防人の身体は青く淡く光っており、彼の振るう剣は綺麗に俺の首を断つ。
痛――――てえ!
一瞬意識飛んでたわ!
殺してもなお死なない俺に防人は一瞬だけたじろぐがもう遅い。
俺の反撃が飛び出す前に――八坂女史の魔術が防人の手を弾き飛ばしていたからだ。
防人の両手はしばらく使い物にならないくらいはへしゃげていて、そこで俺が鉄杖で軽く頭を打ち付けて気絶させた。
無力化が終わると病衣で裸足のままの八坂女史がこちらにひたひたと歩み寄ってくる。
「……里見君、なにか言うことは?」
「第一声がそれ?」
「わたしだってまさか自分に劇的に弱くなる制約をかけてまであんな神話級のアイテムを渡すお人好しなんて想定してない!」
「……女史、なにか言うことは?」
ほら、人になにかしてもらったら言う言葉があるじゃん。
なんて言うと彼女は顔を真っ赤にし、目をそらして、しかしハキハキと紡ぎ出す。
「……ありがとう、ございます」
「そっか。こっちもありがとう、助かったよ」
そういう顔が見たくて渡したんだからさ。
182
お気に入りに追加
511
あなたにおすすめの小説
地球にダンジョンができたと思ったら俺だけ異世界へ行けるようになった
平尾正和/ほーち
ファンタジー
地球にダンジョンができて10年。
そのせいで世界から孤立した日本だったが、ダンジョンから採れる資源や魔素の登場、魔法と科学を組み合わせた錬金術の発達により、かつての文明を取り戻した。
ダンジョンにはモンスターが存在し、通常兵器では倒せず、ダンジョン産の武器が必要となった。
そこでそういった武器や、新たに発見されたスキルオーブによって得られる〈スキル〉を駆使してモンスターと戦う冒険者が生まれた。
ダンジョン発生の混乱で家族のほとんどを失った主人公のアラタは、当時全財産をはたいて〈鑑定〉〈収納〉〈翻訳〉〈帰還〉〈健康〉というスキルを得て冒険者となった。
だが冒険者支援用の魔道具『ギア』の登場により、スキルは大きく価値を落としてしまう。
底辺冒険者として活動を続けるアラタは、雇い主であるAランク冒険者のジンに裏切られ、トワイライトホールと呼ばれる時空の切れ目に飛び込む羽目になった。
1度入れば2度と戻れないその穴の先には、異世界があった。
アラタは異世界の人たちから協力を得て、地球との行き来ができるようになる。
そしてアラタは、地球と異世界におけるさまざまなものの価値の違いを利用し、力と金を手に入れ、新たな人生を歩み始めるのだった。
そんなにホイホイ転生させんじゃねえ!転生者達のチートスキルを奪う旅〜好き勝手する転生者に四苦八苦する私〜
Open
ファンタジー
就活浪人生に片足を突っ込みかけている大学生、本田望結のもとに怪しげなスカウトメールが届く。やけになっていた望結は指定された教会に行ってみると・・・
神様の世界でも異世界転生が流行っていて沢山問題が発生しているから解決するために異世界に行って転生者の体の一部を回収してこい?しかも給料も発生する?
月給30万円、昇給あり。衣食住、必要経費は全負担、残業代は別途支給。etc...etc...
新卒の私にとって魅力的な待遇に即決したけど・・・
とにかくやりたい放題の転生者。
何度も聞いた「俺なんかやっちゃいました?」
「俺は静かに暮らしたいのに・・・」
「まさか・・・手加減でもしているのか・・・?」
「これぐらい出来て普通じゃないのか・・・」
そんな転生者を担ぎ上げる異世界の住民達。
そして転生者に秒で惚れていく異世界の女性達によって形成されるハーレムの数々。
もういい加減にしてくれ!!!
小説家になろうでも掲載しております
Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜
華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日
この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。
札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。
渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。
この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。
一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。
そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。
この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。
この作品はフィクションです。
実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。
異世界に転移す万国旗
あずき
ファンタジー
202X年、震度3ほどの地震と共に海底ケーブルが寸断された。
日本政府はアメリカ政府と協力し、情報収集を開始した。
ワシントンD.Cから出港した米艦隊が日本海に現れたことで、
アメリカ大陸が日本の西に移動していることが判明。
さらに横須賀から出発した護衛艦隊がグレートブリテン島を発見。
このことから、世界中の国々が位置や向きを変え、
違う惑星、もしくは世界に転移していることが判明した。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ
Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」
結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。
「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」
とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。
リリーナは結界魔術師2級を所持している。
ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。
……本当なら……ね。
※完結まで執筆済み
俺を追い出した元パーティメンバーが速攻で全滅したんですけど、これは魔王の仕業ですか?
ほーとどっぐ
ファンタジー
王国最強のS級冒険者パーティに所属していたユウマ・カザキリ。しかし、弓使いの彼は他のパーティメンバーのような強力な攻撃スキルは持っていなかった。罠の解除といったアイテムで代用可能な地味スキルばかりの彼は、ついに戦力外通告を受けて追い出されてしまう。
が、彼を追い出したせいでパーティはたった1日で全滅してしまったのだった。
元とはいえパーティメンバーの強さをよく知っているユウマは、迷宮内で魔王が復活したのではと勘違いしてしまう。幸か不幸か。なんと封印された魔王も時を同じくして復活してしまい、話はどんどんと拗れていく。
「やはり、魔王の仕業だったのか!」
「いや、身に覚えがないんだが?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる