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08 たまに春映画で見るやつ
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パソコンの支払いも済ませあとは本体が納品されるだけ。
八坂女史もひと月ほどの用事があり、市役所からも同じくらい庭ダンジョンの件で動き始めるのにかかるのだとか。
直近に〆切もなければ庭関連で動くこともできない。
しばし黙考。
うん。
やるか、冒険者稼業。
◆
その後なにも特筆すべきところがなくダンジョンアタックひとつクリア。
こういうのは大体チームを組んでやるものらしいが誰も受けないものをやったので当然のごとくひとりで突破した。
今回のダンジョンアタックで稼いだ額は八万七千円。
二時間でこれならかなりの高時給じゃない?
命がけとはいえ冒険者稼業で一発逆転を狙う人が出てくるのも分かるな。
稼いだ金の大部分を預金に回し、残りは今週の食材や生活用品に消えていく。
うん、まあまあ自立できてるな。
料理はまだ教本通りのものしか作れないけれどようやくスーパーの惣菜だけの生活とオサラバだ。
食事の準備を終わらせて探索用のスポーツスウェットに着替える。
オーガの大太刀を佩く。
俺の〈剣術〉のレベルは2だ。
八坂女史と組んだ時ほど戦えたのは巧者の木刀という〈剣術〉技能にプラス補正がかかるものを使っていたからだ。
庭のダンジョンをじっと見て、深く息を吐く。
深層がどうなっているのか。
相変わらずクソザコスライムしかいない場所なのか、あるいは……。
ここまで考えてブルーになってしまい無理矢理思考を打ち切った。
危なかったら戻ろう。
難しく考えなくて良い。
ダンジョンに入りいつものスライムを倒す。
宝箱の中身はバーストタブレットとスキルシードと呼ばれるものである。
『バーストタブレット:この錠剤を飲み込むことで一分だけ任意のスキルの究極に至る。なお指定されたスキルは七日間封印状態に陥る。譲渡不可』
『スキルシード:経験値を吸わせた分だけ任意の技能を上昇させる。譲渡不可』
ふぅん?
また新しいのが出てきたな。
地下への道が現れたのと関係しているのだろうか。
バーストタブレットは見た目だけなら丸いガムにも見えるが、効果だけを見るとデメリットが凄いが……究極? 究極か。
どこまでになるのかが想像もつかないな。
スキルシードは冒険者としての格の礎となっている経験値を捧げることで好きなスキルを伸ばせる。
……こんなもんが庭から出ていいのか?
と、ぺしぺしとこちらに体当たりをしている軟体生物に気がつく。
「次もお前くらいだと助かるよ」
鞘でスライムの核を潰しいつもの水薬を頂戴していく。
おととい新たに空いた穴は階段になっており下へと繋がっているはず。
目を引くのは二重ダンジョンで見た血管のような赤いラインが地下へと脈動しているところ。
さて、この先はどうなることやら。
ゆっくりと慎重に歩いて行く。
やや歩くとラインが途切れている場所を見かけた。
『ダンジョンの中には隠し部屋が存在していることもあるらしいですよ』
というのは八坂女史や協会の職員の方に教えて貰ったことである。
そんな時は壁に注意をしてなにか仕掛けがないかを調べるといいらしい。
ぺたぺたと怪しい場所を触ってみるもなにも分からない。
〈鑑定〉! 〈鑑定〉! 〈鑑定〉!
ますます分からない。
思い切って壁をぶん殴ると案外脆く崩れ去っていく。
冒険者っていうか……暴検者?
土煙が収まったあとに壁の先を見ればそこにはガラスケースの中になにかが安置されていた。
目をこらして見てみると今にも動き出しそうな人形であった。
『ホムンクルス:所有者の死を一回だけなかったことにする。使用の際あらゆる状態異常が無効化される。譲渡不可』
ほ~ん。
えげつないアイテムだな。
人に売れるなら金ならむしり取れるくらいには色々と現実の技術や常識を置いていったものである。
まあここの迷宮から取れるものって大小とわずになんらかの形で異常だしな。
俺はガラスケースの蓋をゆっくりと外し、ホムンクルス人形を背中のリュックに入れる。
……なんか変な気もするが、まあ大丈夫だろう。
などと地下二階をゆっくりと探索していく。
困ったことと言うべきかありがたいと言うべきか敵には会っていない。
あらかた探索し終わったころ。
残りはどうしようかと考えていると、近くの扉の向こうから叫び声が聞こえてくるのだ。
うめき声というか、怒っているようにも思える。
地下一階と同じであれば敵がいる場所には宝箱はあるだろう。
進むか退くかどうするかを悩む。
今の俺の戦力は心許ない。
……もしもの時は薬を使う。
意を決して扉を開く。
数日前を思い出す間取り。
大賀山の二重ダンジョンの最奥だ。
大部屋に玉座、そして宝箱。
部屋の中心には鎖に繋がれたオーガ。
鬼はこちらと目が合うと我を忘れたかのように猛り、暴れる。
鎖がしゃらんと音を立てる度にオーガは身悶えする。
やつの目には憎しみしかない。
大賀山の二重ダンジョンで見たあのオーガだ。
なぜ――
『――ッ!!!』
やつを縛っている鎖が解けた。
背後の扉が閉まる。
肉薄するオーガ。
抜刀。
棍棒と大太刀が鍔迫り合いを繰り広げる。
この間は膂力で押し切られたが今回は互角だ。
思うところはあるが現状イーブン。
あ、やべ。
八坂女史いないじゃん。
なんとか……なるかな。
バインドを解く。
何度も刀身同士がぶつかり合う。
お前の大太刀壊す気かよ!
一進一退、硬直状態の斬り合い。
これは剣術と言うよりチャンバラ、喧嘩、殺し合いと言った方が似合う。
刀を薙ぐ。
受ける。
棍棒の振り下ろし。
両手で受ける。どこかの釘が歪んだ。
お互い距離を取る。
鬼が大上段に構え、
俺も同じ構えをし、
間合いに入った。取れる――!
――鬼が数歩後じさる。
大太刀が空を切り、刀身が地面に刺さる。
横からのフルスイング。
あ、フェイント……。
ぐわん、と天地が廻る。
視点が定まらない中、鬼は嗜虐的な笑みを浮かべてゆっくりにじり寄る。
お前に受けた痛みを返すぞ、屈辱を返すぞとばかりに。
「再生怪人ごときが舐めんなよ……!」
アイテム野郎と再生怪人なんてどちらも格の低さなんてものは説明されなくても分かる。
だけど、勝負ってのは大体において勝てばいい。
勝たないと始まらない。
リュックサックの中を急いで探り、水薬を飲んで折れた片腕を直すついでにドーピング。力が1上がったぞ。
そしてスキルシードを一気に飲み込む。苦っっが……。
視覚に樹形図がいくつか表れ、一瞬で〈格闘術〉を1Lv分だけ上げる。
すかさずバーストタブレットをかみ砕く。
自分の中にある樹形図。
その〈格闘術〉の部分に意識を送り込む、花弁を開かせるような感覚。
目の前には棍棒を振りかぶったオーガ。
やつは躊躇なく振り下ろす。
だがトドメは空を切る。
健康体とは言いがたい俺の立ち方を見てオーガはあからさまにうろたえた。
「……案外人間っぽいじゃないか」
まずオーガの右肘が砕かれた。
敵に悶える間も与えない。
他の四肢の関節を矢継ぎ早に砕き、最後トン、と胸を押す。
叫び声のあと鬼は粒子となって消えていった。
消える最後まで恨みがましい目でこちらにらみつけていた。
ふう、と一息つく。
宝箱を開けようとして全身の痛みと疲労感に動くのも億劫になってくる。
ここで夜を明かすわけにはいかないと水薬を飲もうとして……新しい階層で手に入ったいつもより効きそうな水薬を飲み干す。
もう身体が進化の悲鳴を上げ始めたがなんとか気力だけで宝箱の中身を持ち帰ったのだった。
ダンジョン探索自体はなんとかなったし前進とも言える。
しかしここに来て大きな謎がひとつ……。
なぜ、倒したはずの敵が庭のダンジョンにいるのか。
八坂女史もひと月ほどの用事があり、市役所からも同じくらい庭ダンジョンの件で動き始めるのにかかるのだとか。
直近に〆切もなければ庭関連で動くこともできない。
しばし黙考。
うん。
やるか、冒険者稼業。
◆
その後なにも特筆すべきところがなくダンジョンアタックひとつクリア。
こういうのは大体チームを組んでやるものらしいが誰も受けないものをやったので当然のごとくひとりで突破した。
今回のダンジョンアタックで稼いだ額は八万七千円。
二時間でこれならかなりの高時給じゃない?
命がけとはいえ冒険者稼業で一発逆転を狙う人が出てくるのも分かるな。
稼いだ金の大部分を預金に回し、残りは今週の食材や生活用品に消えていく。
うん、まあまあ自立できてるな。
料理はまだ教本通りのものしか作れないけれどようやくスーパーの惣菜だけの生活とオサラバだ。
食事の準備を終わらせて探索用のスポーツスウェットに着替える。
オーガの大太刀を佩く。
俺の〈剣術〉のレベルは2だ。
八坂女史と組んだ時ほど戦えたのは巧者の木刀という〈剣術〉技能にプラス補正がかかるものを使っていたからだ。
庭のダンジョンをじっと見て、深く息を吐く。
深層がどうなっているのか。
相変わらずクソザコスライムしかいない場所なのか、あるいは……。
ここまで考えてブルーになってしまい無理矢理思考を打ち切った。
危なかったら戻ろう。
難しく考えなくて良い。
ダンジョンに入りいつものスライムを倒す。
宝箱の中身はバーストタブレットとスキルシードと呼ばれるものである。
『バーストタブレット:この錠剤を飲み込むことで一分だけ任意のスキルの究極に至る。なお指定されたスキルは七日間封印状態に陥る。譲渡不可』
『スキルシード:経験値を吸わせた分だけ任意の技能を上昇させる。譲渡不可』
ふぅん?
また新しいのが出てきたな。
地下への道が現れたのと関係しているのだろうか。
バーストタブレットは見た目だけなら丸いガムにも見えるが、効果だけを見るとデメリットが凄いが……究極? 究極か。
どこまでになるのかが想像もつかないな。
スキルシードは冒険者としての格の礎となっている経験値を捧げることで好きなスキルを伸ばせる。
……こんなもんが庭から出ていいのか?
と、ぺしぺしとこちらに体当たりをしている軟体生物に気がつく。
「次もお前くらいだと助かるよ」
鞘でスライムの核を潰しいつもの水薬を頂戴していく。
おととい新たに空いた穴は階段になっており下へと繋がっているはず。
目を引くのは二重ダンジョンで見た血管のような赤いラインが地下へと脈動しているところ。
さて、この先はどうなることやら。
ゆっくりと慎重に歩いて行く。
やや歩くとラインが途切れている場所を見かけた。
『ダンジョンの中には隠し部屋が存在していることもあるらしいですよ』
というのは八坂女史や協会の職員の方に教えて貰ったことである。
そんな時は壁に注意をしてなにか仕掛けがないかを調べるといいらしい。
ぺたぺたと怪しい場所を触ってみるもなにも分からない。
〈鑑定〉! 〈鑑定〉! 〈鑑定〉!
ますます分からない。
思い切って壁をぶん殴ると案外脆く崩れ去っていく。
冒険者っていうか……暴検者?
土煙が収まったあとに壁の先を見ればそこにはガラスケースの中になにかが安置されていた。
目をこらして見てみると今にも動き出しそうな人形であった。
『ホムンクルス:所有者の死を一回だけなかったことにする。使用の際あらゆる状態異常が無効化される。譲渡不可』
ほ~ん。
えげつないアイテムだな。
人に売れるなら金ならむしり取れるくらいには色々と現実の技術や常識を置いていったものである。
まあここの迷宮から取れるものって大小とわずになんらかの形で異常だしな。
俺はガラスケースの蓋をゆっくりと外し、ホムンクルス人形を背中のリュックに入れる。
……なんか変な気もするが、まあ大丈夫だろう。
などと地下二階をゆっくりと探索していく。
困ったことと言うべきかありがたいと言うべきか敵には会っていない。
あらかた探索し終わったころ。
残りはどうしようかと考えていると、近くの扉の向こうから叫び声が聞こえてくるのだ。
うめき声というか、怒っているようにも思える。
地下一階と同じであれば敵がいる場所には宝箱はあるだろう。
進むか退くかどうするかを悩む。
今の俺の戦力は心許ない。
……もしもの時は薬を使う。
意を決して扉を開く。
数日前を思い出す間取り。
大賀山の二重ダンジョンの最奥だ。
大部屋に玉座、そして宝箱。
部屋の中心には鎖に繋がれたオーガ。
鬼はこちらと目が合うと我を忘れたかのように猛り、暴れる。
鎖がしゃらんと音を立てる度にオーガは身悶えする。
やつの目には憎しみしかない。
大賀山の二重ダンジョンで見たあのオーガだ。
なぜ――
『――ッ!!!』
やつを縛っている鎖が解けた。
背後の扉が閉まる。
肉薄するオーガ。
抜刀。
棍棒と大太刀が鍔迫り合いを繰り広げる。
この間は膂力で押し切られたが今回は互角だ。
思うところはあるが現状イーブン。
あ、やべ。
八坂女史いないじゃん。
なんとか……なるかな。
バインドを解く。
何度も刀身同士がぶつかり合う。
お前の大太刀壊す気かよ!
一進一退、硬直状態の斬り合い。
これは剣術と言うよりチャンバラ、喧嘩、殺し合いと言った方が似合う。
刀を薙ぐ。
受ける。
棍棒の振り下ろし。
両手で受ける。どこかの釘が歪んだ。
お互い距離を取る。
鬼が大上段に構え、
俺も同じ構えをし、
間合いに入った。取れる――!
――鬼が数歩後じさる。
大太刀が空を切り、刀身が地面に刺さる。
横からのフルスイング。
あ、フェイント……。
ぐわん、と天地が廻る。
視点が定まらない中、鬼は嗜虐的な笑みを浮かべてゆっくりにじり寄る。
お前に受けた痛みを返すぞ、屈辱を返すぞとばかりに。
「再生怪人ごときが舐めんなよ……!」
アイテム野郎と再生怪人なんてどちらも格の低さなんてものは説明されなくても分かる。
だけど、勝負ってのは大体において勝てばいい。
勝たないと始まらない。
リュックサックの中を急いで探り、水薬を飲んで折れた片腕を直すついでにドーピング。力が1上がったぞ。
そしてスキルシードを一気に飲み込む。苦っっが……。
視覚に樹形図がいくつか表れ、一瞬で〈格闘術〉を1Lv分だけ上げる。
すかさずバーストタブレットをかみ砕く。
自分の中にある樹形図。
その〈格闘術〉の部分に意識を送り込む、花弁を開かせるような感覚。
目の前には棍棒を振りかぶったオーガ。
やつは躊躇なく振り下ろす。
だがトドメは空を切る。
健康体とは言いがたい俺の立ち方を見てオーガはあからさまにうろたえた。
「……案外人間っぽいじゃないか」
まずオーガの右肘が砕かれた。
敵に悶える間も与えない。
他の四肢の関節を矢継ぎ早に砕き、最後トン、と胸を押す。
叫び声のあと鬼は粒子となって消えていった。
消える最後まで恨みがましい目でこちらにらみつけていた。
ふう、と一息つく。
宝箱を開けようとして全身の痛みと疲労感に動くのも億劫になってくる。
ここで夜を明かすわけにはいかないと水薬を飲もうとして……新しい階層で手に入ったいつもより効きそうな水薬を飲み干す。
もう身体が進化の悲鳴を上げ始めたがなんとか気力だけで宝箱の中身を持ち帰ったのだった。
ダンジョン探索自体はなんとかなったし前進とも言える。
しかしここに来て大きな謎がひとつ……。
なぜ、倒したはずの敵が庭のダンジョンにいるのか。
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