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02 多分、磁気とかの力

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 ダンジョンの中には地面や天井に青く光るラインが走っていた。

 ヘッドライトを点灯させ、金属バットを両手に持ちながら歩を進める。
 青い線が脈動するかのように光を伝わせていく。

 生き物の身体の中へと入ったようでいい気がしない。

 かつんかつんと靴を鳴らし、ゆっくりと歩いて行く。
 反響する靴音に反応するのは自分だけ。

 こ、こわ~。

 これガイドつけたらお化け屋敷にできそう。
 いやでも人が入れないなら無理だし、俺の家に不特定多数が立ち入りするようになるのはもっと無理だな。

 はい解散解散。

 少しの時間をかけると青く光るラインが縦横無尽に走っている広間にたどり着く。
 光る線は部屋の奥にある扉に収束してあった。
 ヘッドライトで別所を照らしても他に扉は見られない。

 ……もしかしてこの扉の先からが本番?

 恐る恐る扉に聞き耳を立ててみるが向こう側から音がすることはない。

 コンコン。二回ノック。返事はなし。
 コンコンコン。三回ノック。やはり返事はない。
 コンコンコンコン。俺がマナー講師だったら怒ってる。

 なにはともあれ問題はなさそうなので扉を開ける。

 次の部屋には丁寧に朱塗りでもされたかのような宝箱がふたつぽつりと置かれていた。

「おっ、それっぽいな」

 ウキウキと宝箱に近づいていくと――上から緑色をした粘体がどろりと落ちてくる。
 腰を抜かさなかったのは単なる幸運だ。二・三歩ほど後ずさりをし、降ってきた物体を確認する。

 やや時間をかけて緑色の粘体は人の頭ほどの大きさに成形した。
 ゲームの雑魚敵や小学生の遊びで作ることでおなじみのスライムだ。

 スライムは固まったままじっと動かない。こいつ視覚とかあるのかな。

 俺はバットを振り上げてスライムに威嚇をする。

「や、やんのか?」

 すると見るからにスライムは震えて後退していく。
 もしかしてネズミ退治くらいの感覚でいけるのか?

 弱いものいじめか~!
 弱いものいじめになっちゃうな~!
 なんだか無害そうだしつれて帰るのもありかもな~!

 完全に気を抜いて持ち帰りの算段を立てていると――スライムは緩んだ隙を突いてくる。
 具体的には身体を伸ばして思い切り振り回してこちらを転ばせたのだ。

 少し優しくしてやったらつけあがりやがってよ~!
 洗濯のりを追加しまくって凝固させるぞ……スライムがよ……。

 などと体勢を立て直している毒づいている間にもスライムは俺の顔をひたすら乱打してくる。

 十何発ほどを顔面に良いものを貰いながらも空いた左手でスライムを掴んで壁に投げる。
 敵がひるんでいるうちに完全にポジションを整え、バットを構える。

 乾坤一擲を狙ったスライムの体当たり、それを大上段からの振り下ろしで迎える俺。
 かつてないほどの低レベルな争い。その終幕。

 それはバットの根元近くに食い込んだスライムが地面に叩きつけられ、その後思い切り自分のスネを強打して迎えることとなった。

「顔のふくらみを感じる」

 滅多打ちにされた箇所をぺたぺたと手で触れると熱さと歯医者で麻酔をかけられたときのような虚無が返ってくる。

 いでぇ……いでぇよぉ……。

 スライムのほうを見ると粒子になって消えていてその跡には中身の入ったガラス瓶が置かれていた。
 これがドロップアイテムってことか。

 よく分からないけれど売れるだろ、とゆっくり手に取ろうとすると視界にウインドウがポップアップされる。

『体力の水薬:飲むと体力が上がる霊薬。作用のひとつとして回復効果がある。譲渡不可』

 と書かれたものだ。
 うーん、近未来かつファンタジー。
 ウインドウはタップをすると音もなく消え去った。

 ……どうするか。
 治療費が必要になると非常に困る。
 どのくらい困るかと言うと仕事道具のパソコンの復旧のために期間工の仕事を入れないといけないくらいには。
 怪我を治すために肉体労働をするというのはなかなかに馬鹿らしい。

 というわけで水薬を一気飲み。

 あ、あったけえ……。

 みるみるうちに痛みと腫れが引いていくのが分かる。
 なんかメキョって身体が鳴った気がするけれど大丈夫だよね。

 さて、怪我も処置したところで気になるのはふたつ。

 ダンジョンコアとこの場にある宝箱だ。

 ダンジョンコアはダンジョンが存在するための必須要件らしく、これを破壊してしまえばここは崩れていく。
 そうなれば区役所に届け出を出すこともなく全てが終わるってことだ。

 もちろん発見は早ければ早いほどいい。
 八坂女史と同じように庭ダンジョンの存在を嗅ぎつけてくる人は必ず出る。

 その期待とは裏腹にダンジョンコアらしきものは見つからない。
 というか他の部屋への扉さえ存在しない。

 何度部屋を探して回ってみてもなーんもない。

 もしかしてダンジョンコアがない?
 そもそもダンジョンではない?

 その辺は……専門家に聞くか。
 頭が良いやつなら対策もバッチリ浮かぶし、なんなら八坂女史を抱き込むこともできるんだろうがそういうのは俺には向いていない。
 法の抜け道を探すよりもきちんと納めるもの納めて守るもの守っていたほうが楽だ。

 現実問題としてそうするだけの資金がないのだが……。

 気を取り直して宝箱だ。
 こういうのに罠があるのは鉄板だが……。

『宝箱(赤):罠なし』

 ん、またウインドウか。
 罠なしは信じていいのか?

 何度か宝箱を見比べてみるとそのうちにどうすればこのポップアップが閉じられるかなどのやり方が分かってくる。
 ちなみに両方とも罠はないそうだ。

 ウインドウを信じて宝箱を開ける。

 得られたものは、

『小戦神のネックレス:筋力、体力、敏捷に大きなプラス補正がかかる。譲渡不可』
『巧者の木刀:装備中〈剣術〉スキルLv80を付与する。譲渡不可』

 このふたつだ。

 木刀を試しに振ってみるとどれだけ振っても疲れない。
 達人はおじいちゃんみたいな動きになると聞いた覚えもあるくらいだから余計な力が抜けているのだろう。

 これがどのくらい凄いのかは分からない。
 多分凄いのだろうけれど検証するだけの情報が揃っていない。

 次にネックレスだ。
 これをかけた途端に身体が軽くなった。

 試しに金属バットを本気で握ったら曲がったし、跳躍すると高くはない天井に思い切り頭をぶつけてしまうほど。
 なんなら怪我ひとつない。

 これは……多分、磁気とかの力だな!

 譲渡不可という条件はあるがちょっとした健康グッズも見つかったし本業で腰に気遣う必要もなくなってくるなー。

 ほくほく顔で地上へと戻っていくのだった。
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