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EP1 木霊の踊り場
09 エルフ、新しい服を作る
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「ババンバンババン ババンバンババン」
『それ風呂の歌やない、親指を立てて溶鉱炉に沈むやつや』
『湯煙すら見えねえ』
「そりゃR18チャンネルに行きたくないからね。スマホはテントの前で待機してもらうよ」
様々な木を継ぎ合わせて作った浴槽に、生活魔法で生成したお湯を張っている。外に置いた浴槽の中にはダンジョンでドロップしたらしい入浴剤を入れているのだが、それのおかげか身体がぽかぽかと暖まっていた。
「はー……、楽だねえ」
胸をぎゅうぎゅうに締め付けているサラシもないし、冷えやすい手足とお腹も暖かい。なにより良い香りがして気分がいい。
あー……溶ける。身体が溶けるな、これは。
しかし……
「男の時はうらやましくても実際に胸があると重くて肩が凝るだけだな」
動くと振動が来るし、締め付けすぎると息が苦しくなるし。
Gagisonのセールで補整下着でも買ってしまいたいけど、買ったら負けな気がするんだよなー……。なにに負けたかって聞かれると答えに困るんだけどさ。そこは言わなくても察して欲しい。おらっ、察してムーブだこら!
この間のワイバーン肉で儲けた分でお徳用の石鹸を買っておいた。段ボール小箱ひとつにびっしりと詰められているそれは、香りもよく機能性も高いが非常に安い。安いが冥境まで届けるとなると莫大な費用がかかるので肉の売上げのほとんどを食われてしまった。
「はー……。井戸が掘れれば生活魔法で暖めるだけで済むんだけどなあ」
あれを掘って井戸の形にするには最低でも一週間はかかる。それも全ての時間を井戸掘りにあてた場合に限る。
『テントの中がガタンゴトンと音が鳴ってるのは?』
「あー、それは精紡機。機材を揃えた場合、〈クラフト〉を使うと魔力の消費が抑えられるみたいでさ」
大蜘蛛……シルクスパイダーの腹から採れた糸を精紡機と機織り機できちんとした布に仕立て上げている最中だ。成果物を使ったジャージ二号は今後の探索に使用する衣服になり、従来のものを部屋着にする予定だ。
ただ蜘蛛の糸ってつるつるしてるのかな……。あまりスベスベつるつるとしていると逆に着心地が悪い気がする……。
「長い髪も結い方がわかれば楽しいんだろうけれど、やったことないからなあ」
『TSエルフ生活楽しんでるね』
「そらそうよ。本当の自分じゃないとはいえ今は一応この姿で生きるしかないでしょ? その間も楽しんでないと損だよ、損」
俺も十代中盤までは家庭仲やら学校やらでうじうじと悩んでいたのだが、そこら辺もまとめて師匠に諭されたのだ。
どんなに世の中がよくなっても人が人である限り悩みなんて尽きない。だけどどうせ生きるなら楽しいほうが絶対いいに決まってる。楽しいことは誰かが作ってくれるわけではなく、自分から作っていくものなのだ。
『割り切りすごいなー。俺はとてもそうはなれんなー』
「俺も最初は全然だったけどね。でも師匠に矯正さささささささ――」
『バグった!?』
『攻撃を受けた!?』
「――ジョークジョーク」
『こやつ、やりおるわ』
『ロボットみたいな声音になるのちょっとゾクっときた』
怖いよ。なんで俺の声で特殊性癖を発現させるんだよ。
しかしあの頃の師匠の教育は思い出すのも恐ろしい。スパルタを超えてディストピアものよろしく人格矯正施設に入れられたかと錯覚しかねない。
お湯と入浴剤のおかげでぽかぽかに暖まったので浴槽から出て行く。土魔法で均した浴場。簡易的な屋根をつけているそこで、入念にタオルで身体を拭く。白雪のようなという表現がしっくりくる白皙の肌はうっすらと気色ばんでいて、そこから熱が放たれるのが気持ちいい。
風魔法で髪を乾かし、火照った肌を落ち着かせる。サラシを巻いて、コンビニで買った下着をつけ、ジャージを着ていく。
さて、紡績機と機織り機のほうは……っと。よしよし、きっちり布まで仕上がってるな。
今のところ用がない機械類を〈ストレージ〉に納めておく。
カメラを念動で動かしてこちらを映させる。
暗いテントの中でフラッシュライトを焚き、蜘蛛糸でできた布をスマホに見せる。
「冥境産のシルクスパイダーの糸で作った布、これ売ったら莫大な金が手に入るんだろうな」
『少なくとも人生五回分は豪遊できるね』
『探索者としての上がりとしてはこの上ないでしょ』
『可愛い服に仕立ててね』
「誰が可愛い服を作るかっ。作るのはもちろんジャージです、楽だから」
満場一致でブーイングのコメントが流れていくなか、俺は〈クラフト〉を発動させる。
イメージはジャージ。動きやすくて丈夫なもの。
布が光に包まれ数秒――〈クラフト〉によって作られたのはジャージ……ではなく。
黒いチャイナドレスにも似たローブ……チャイナローブとでも言うべきか。
身体のラインがモロに出て、なんならスリットも入っている。サイズはぴったりで触ってみると着心地はこれほどなく良さそうで。
『せっかくだから可愛い服を着てね。貴方の女神より。下着はおまけです』
視界に移るコメントは律儀にスーパーチャットをこれでもかというほどに送っている。
この〈クラフト〉の結果はあの女神がわざわざ干渉したもので、そしてあいつはここをずっと見ていたのだと直観する。
『……着るの?』
「着ません。この服はお蔵入りということで。……絶対にぶん殴りに行くからな、このクソ女神!」
結果。スリットが入ったローブと下着がいくつか手に入ったんだけれど……。
……これは、楽しめるのか?
『それ風呂の歌やない、親指を立てて溶鉱炉に沈むやつや』
『湯煙すら見えねえ』
「そりゃR18チャンネルに行きたくないからね。スマホはテントの前で待機してもらうよ」
様々な木を継ぎ合わせて作った浴槽に、生活魔法で生成したお湯を張っている。外に置いた浴槽の中にはダンジョンでドロップしたらしい入浴剤を入れているのだが、それのおかげか身体がぽかぽかと暖まっていた。
「はー……、楽だねえ」
胸をぎゅうぎゅうに締め付けているサラシもないし、冷えやすい手足とお腹も暖かい。なにより良い香りがして気分がいい。
あー……溶ける。身体が溶けるな、これは。
しかし……
「男の時はうらやましくても実際に胸があると重くて肩が凝るだけだな」
動くと振動が来るし、締め付けすぎると息が苦しくなるし。
Gagisonのセールで補整下着でも買ってしまいたいけど、買ったら負けな気がするんだよなー……。なにに負けたかって聞かれると答えに困るんだけどさ。そこは言わなくても察して欲しい。おらっ、察してムーブだこら!
この間のワイバーン肉で儲けた分でお徳用の石鹸を買っておいた。段ボール小箱ひとつにびっしりと詰められているそれは、香りもよく機能性も高いが非常に安い。安いが冥境まで届けるとなると莫大な費用がかかるので肉の売上げのほとんどを食われてしまった。
「はー……。井戸が掘れれば生活魔法で暖めるだけで済むんだけどなあ」
あれを掘って井戸の形にするには最低でも一週間はかかる。それも全ての時間を井戸掘りにあてた場合に限る。
『テントの中がガタンゴトンと音が鳴ってるのは?』
「あー、それは精紡機。機材を揃えた場合、〈クラフト〉を使うと魔力の消費が抑えられるみたいでさ」
大蜘蛛……シルクスパイダーの腹から採れた糸を精紡機と機織り機できちんとした布に仕立て上げている最中だ。成果物を使ったジャージ二号は今後の探索に使用する衣服になり、従来のものを部屋着にする予定だ。
ただ蜘蛛の糸ってつるつるしてるのかな……。あまりスベスベつるつるとしていると逆に着心地が悪い気がする……。
「長い髪も結い方がわかれば楽しいんだろうけれど、やったことないからなあ」
『TSエルフ生活楽しんでるね』
「そらそうよ。本当の自分じゃないとはいえ今は一応この姿で生きるしかないでしょ? その間も楽しんでないと損だよ、損」
俺も十代中盤までは家庭仲やら学校やらでうじうじと悩んでいたのだが、そこら辺もまとめて師匠に諭されたのだ。
どんなに世の中がよくなっても人が人である限り悩みなんて尽きない。だけどどうせ生きるなら楽しいほうが絶対いいに決まってる。楽しいことは誰かが作ってくれるわけではなく、自分から作っていくものなのだ。
『割り切りすごいなー。俺はとてもそうはなれんなー』
「俺も最初は全然だったけどね。でも師匠に矯正さささささささ――」
『バグった!?』
『攻撃を受けた!?』
「――ジョークジョーク」
『こやつ、やりおるわ』
『ロボットみたいな声音になるのちょっとゾクっときた』
怖いよ。なんで俺の声で特殊性癖を発現させるんだよ。
しかしあの頃の師匠の教育は思い出すのも恐ろしい。スパルタを超えてディストピアものよろしく人格矯正施設に入れられたかと錯覚しかねない。
お湯と入浴剤のおかげでぽかぽかに暖まったので浴槽から出て行く。土魔法で均した浴場。簡易的な屋根をつけているそこで、入念にタオルで身体を拭く。白雪のようなという表現がしっくりくる白皙の肌はうっすらと気色ばんでいて、そこから熱が放たれるのが気持ちいい。
風魔法で髪を乾かし、火照った肌を落ち着かせる。サラシを巻いて、コンビニで買った下着をつけ、ジャージを着ていく。
さて、紡績機と機織り機のほうは……っと。よしよし、きっちり布まで仕上がってるな。
今のところ用がない機械類を〈ストレージ〉に納めておく。
カメラを念動で動かしてこちらを映させる。
暗いテントの中でフラッシュライトを焚き、蜘蛛糸でできた布をスマホに見せる。
「冥境産のシルクスパイダーの糸で作った布、これ売ったら莫大な金が手に入るんだろうな」
『少なくとも人生五回分は豪遊できるね』
『探索者としての上がりとしてはこの上ないでしょ』
『可愛い服に仕立ててね』
「誰が可愛い服を作るかっ。作るのはもちろんジャージです、楽だから」
満場一致でブーイングのコメントが流れていくなか、俺は〈クラフト〉を発動させる。
イメージはジャージ。動きやすくて丈夫なもの。
布が光に包まれ数秒――〈クラフト〉によって作られたのはジャージ……ではなく。
黒いチャイナドレスにも似たローブ……チャイナローブとでも言うべきか。
身体のラインがモロに出て、なんならスリットも入っている。サイズはぴったりで触ってみると着心地はこれほどなく良さそうで。
『せっかくだから可愛い服を着てね。貴方の女神より。下着はおまけです』
視界に移るコメントは律儀にスーパーチャットをこれでもかというほどに送っている。
この〈クラフト〉の結果はあの女神がわざわざ干渉したもので、そしてあいつはここをずっと見ていたのだと直観する。
『……着るの?』
「着ません。この服はお蔵入りということで。……絶対にぶん殴りに行くからな、このクソ女神!」
結果。スリットが入ったローブと下着がいくつか手に入ったんだけれど……。
……これは、楽しめるのか?
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