TSエルフのやりすぎ物作りダンジョン配信~家と動物とご飯と時々拠点に襲撃~

芦屋貴緒

文字の大きさ
上 下
5 / 29
EP1 木霊の踊り場

05 男もすなるDIYというものを、エルフもしてみんとてするなり

しおりを挟む
 木を切り出して大きな焚き火を作っていく。木の種を着火剤にすると火は大きく燃え上がっていく。
 その中に魔物の骨をくべていき、じっくりと時間をかけて灰にしていくのだ。

 今までは〈クラフト〉によって手間を省いていたが、護法灰の作製くらいはスキルに頼らずになるべく自分でやっておきたい。
 それに自分としても火が燃え上がってくべたものが爆ぜていく音、そして暖かで乾いた空気の中にいるのは気分がいい。

 俺たち探索者が、ダンジョン内で安全を確保する方法のひとつが護法灰の使用だ。
 なのでこれを作製することは探索者にとっては日常であり、必須の知識、技術である。

 なぜこの灰が魔除けになるかと言うと、一言でいえば魔なるモノであるからだ。毒を以て毒を制すというように、これは魔物の魔力を辺りに示すことで素材より弱いモンスターを忌避させている。
 一部、聖なる力によって保護された場所がダンジョン内にもあるが、そういった場所はなかなか見つからない。だから探索者にとっては魔をもって魔を制すこのやり方が一般的なのだ。

「おはダンジョン! 今夜は護法灰を作っていくけれど、そのついでに汲んできた湧き水を煮沸させていこうと思います」

『夜なのにおはよう』
『業界人だな』

「ダンジョンクラフト部の挨拶はこれにします。良い感じの言葉なので」

『おはダンジョン!』
『おはダンジョン!』

「おっ、ノリがいいやつは好きだよー」

『で、護法灰ってどのくらいの効果があるの?』

 視聴者からの質問に俺はぴっと人差し指を立てて花丸を描く。

「良い質問だね。どのくらい効果があるかというと、素材となった魔物より弱いやつはまず近寄らなくなる。でも時間経過によって効果は減じていくから、フルスペックを保てるのは一日あるかないかだね」

『暴れ猩々しょうじょうの灰なら余程強いモンスターじゃない限り近寄らないんじゃないかな』
『はえー』
『とりあえずワイバーンに襲撃されるのはなくなるんだ』

「へえー。俺も冥境の魔物には詳しくないから助かります」

『護法灰に必要なのは魔力だから、まひろちゃんが魔力を付与した木炭の灰でもいいんじゃない?』

 ちなみにこれは出来ない。
 魔力の付与は大体の探索者ができるのでやりがちだが、魔物の灰以外に魔力を込めて散布しても効果は得られない。

「これはね、護法灰に必要なもうひとつのものが『魔物の臭い』だから、単に俺が魔力を付与した灰を撒いただけじゃダメなんだ」

 理由は諸説あるが、一番それっぽいのは魔物は単に相手の魔力を感知しているだけではなく、強い魔物を倒したやつがそこにいるということを臭いと魔力から察知しているからというのもの。それなら俺の不出来な頭でもなんとなーく感覚で理解できる話だ。

 けどまあ神や悪魔、魔物やあやかしに関してはまだまだ研究は始まったばかりの分野なので、すぐに正解にたどり着けるとは限らない。長い目で見ていくしかないところだ。

「……っていまちゃん付けしたな!」

『ごめんごめん』
『メンゴメンゴ』

 俺は男だ! と言っても説得力がないのは分かるが、こういう時はちゃんと言っておかないと配信内に両親とか兄を名乗る不審者が現れるって聞いたからな。自衛はしておかないと。
 
 底の深いダマクラカス鋼のフライパンを使って水を蒸留している。こうすれば時間はかかるが蒸留した安全な水が得られる。

「身体を拭いたり着火につかう種火は生活魔法でなんとかなるんだけど、飲み水はどうしてもね」

『魔法で生成した水を飲んだらダメなの?』

「非常にマズいね。生活魔法で生成した水はあくまで魔力でできたものだから、取り込みすぎると魔力中毒を起こしてしまうんだ」

『魔力中毒を起こすとどうなる?』

「良くて気絶や吐き気、倦怠感などの症状。悪くて死んじゃいます」

 魔力中毒での死亡は遭難時の死亡率の上位である。喉の渇きに耐えられずに生活魔法で精製した水を飲んで中毒死……という事例が非常に多い。なので政府や協会のホームページ、SNSなどでは魔法水の飲用の危険を徹底的に周知しているのだ。そのおかげもあって、地上での中毒死率はほぼゼロに抑えられている。

 ただ生活魔法が使えるのは事実だ。こうやって真水を蒸留するためにフライパンの蓋を水で冷やすのは全くもって問題がないし、なんなら身体を拭いたりお風呂にだって使える。そういった意味では下手な戦闘用の魔法より役立っている。
 まあ俺が戦闘用の魔法を使えないから持ち上げている面はあるんだけれどもね……。

 フライパンを置いている石のかまどから離れて、燃え上がる焚き火に近づいていく。魔物の骨は徐々にではあるが砕けていっているので、そこに追加の燃料と骨をくべていく。

「……思ったより暇だから今後の準備をしていくね」

 多分、焚き火の映像だけで視聴者はふわっとついてきてくれるんだろうけれど、なにかを話さないといけないと思うとこちらの間が持たない。

 なので探索に使う道具を作っていくことにする。
 女になったこと、レガリアという上位のスキルを得たこと。それらの違いはあるとしても、探索者としての俺の戦い方、探索の方法は変わらない。
 ダンジョンで採取したり店で買った素材でアイテムをつくり、それと鍛えた基礎能力を駆使して戦う。つぶさな観察によって敵の力量を看破し、安全に倒せる数を相手にする。

 冥境の第一階層で拾った薬草をゴリゴリとすり鉢で煎じながら、俺は問いかける。

「じゃあ俺からみんなに質問です。ソロでダンジョンに潜るのに俺が重要視しているものは、強さ以外でなんだと思う?」

 これの答えは俺が考えたものではない。上京するにあたって師事した探索者の先輩が言っていたことだ。
 俺の出題にコメント欄は大いに盛り上がりをみせる。その中からピックアップすると……

『武器?』
『まだ行けるはもう帰れ』
『いざというときの娯楽』

「うん、どれも重要だけど不正解。正解は――毒や恐怖などの異常への対策」

 ソロというのは文字通りひとりで行うことだ。
 たとえ麻痺毒を貰ったとしても、パーティであれば回復役が健在であったり薬の備えがあれば難なく乗り越えられる。

 翻って、ソロであれば?
 答えは簡単。敵前で動けなくなった段階で詰みだ。
 精神状態を極端に悪くされても、麻痺になっても、石化しても、眠ってしまってもソロであればそれだけで終わりだ。
 ひとりというのはそういう脆弱性を常に抱えているとても弱い状態なのだ。

 だから師匠から言われたことはひとつ。
『どんな状況であっても意識喪失や身動きが取れなくなる事態に陥らないように備えろ』と。

 麻痺毒や興奮状態、石化や睡眠の毒を日常的に盛ってくる師匠の元で「それだけは喰らわない」ように鍛えられてきた。

 当時は鬼畜、悪鬼、悪魔、マンチキンと散々罵倒したものだが、いざ迷宮に潜ってみるとあの所業に助けられたと何度も実感したものだ。

『たしかに行動不能になったら死ぬな……』
『敵が待つわけないしね』
『俺たちパーティで潜ってる探索者は薬を使って貰えばいいし、最悪、帰還用のアイテムで帰れば問題ないからなー』

「なので俺は親知らずを摘出した場所に万能解毒薬のアンチドートを仕込んでいるし、状態異常への耐性を上げる薬を常時服用してるんだ」

『でも薬って結構高いんだよね……』

 それはそう。特に耐性上昇の効果をもつものは一時的にしか効果がないもののかなり高い。だから普通のパーティは回復役を組み込んでいる。

 煎じた薬草を別の容器に入れて、また別の薬草をすりつぶしていく。
 そういったことを何度も続けて、次は薬草を組み合わせて丸薬を作っていく。

〈錬金術〉でも〈クラフト〉でもそうだが、実はレシピを知っていて〈鑑定〉の能力が高ければ手持ちの物品から逆引きで作りたい薬を思い浮かべることができる。
 成分が似通っていれば細部は違ってもおおむね同じ薬が作れるというわけである。

「というわけで解毒薬の完成! 次回の探索もよろしくね!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

処理中です...