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EP1 木霊の踊り場
01 エルフ、最難関ダンジョンに潜る
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「どうも、ダンジョンクラフト部のまひろです。今日から東京にある最難関ダンジョン、通称冥境を攻略するまで地上には戻れません! をやっていこうと思います」
俺、真史まひろは自動併走機能付きのスマホを見つめて手を振った。
東京の人工森林なんて目ではない大樹海のなか、ジャージを着て片手剣だけを持ったエルフが魔法で浮遊するスマホに向かって慣れない笑顔を向けている。そんな自分の様子を客観視すると羞恥で死ねそうだ。
『おはつ』
『エルフに変生した子ってかなりレアじゃない?』
『しかも美少女』
魔法的にリンクした俺の視界に配信サイトのコメントが流れてくる。
「誰が美少女だ、俺は男だ男。昨日ダンジョンに潜ってたら女神にバッタリ遭ってさ、女にされたんだよ。で、自分が棲む場所まで来ることができたらそのときは男に戻してもいいってことでこの冥境に挑むんだ。でも男に戻るだけじゃ許すつもりはないね。あの身勝手な女神に本気のグーパンを一発お見舞いしてやらないと気が済まないってワケ!」
俺は元男だ。この身体は色々と便利ではあるが、アイデンティティをいきなり奪われてはいそうですかとすんなり受け入れられるわけがない。
科学と政治が人民と星を救えずにいた二十数年前、突如として地球上に神話が再び訪れた。あやかしや怪物、神話上のモンスターたちが棲まうダンジョンの勃興。そして古来、伝説として扱われていた神々や悪魔が地球上に現れるようになった。
あらゆる闘争に疲れ果てていた人類は、多少のゴタゴタの後に神話の再来を歓迎した。
具体的には神の祝福や気まぐれ、ダンジョンから無限に取れる資源、悪魔たちの知恵や技術。
それらが徐々に受け入れられていき……やがて人類も霊的な変化を遂げるようになった。
それが変生。
物語上の獣人やエルフ、ドワーフ、龍人……。それらに人類は成るようになったのだ。
もちろん人間のままのひとだって居る。
神々の声、そして明日の凋落を覚悟しなくてもいい生活に人々は歓喜し、それに伴う変化を受け入れるようになったのだ。
変化していった世界の中で生まれた職業なんかもある。
危険を冒してダンジョンの資源を持ち帰る探索者。
あとは魔物との戦いを配信することで金銭を得る迷宮配信者。
このふたつの職業はやろうと思えば誰でもなれることから人気の職業でもある。
俺も探索者をやっていたのだが、ダンジョンに居ながら金銭を得る状況が好ましくなったため、こうして慣れない配信業に手を出したというわけである。
ちなみにこの長耳の俺は、自分で言うのもなんだが結構な美少女である。
たまご型の顔には大きな金色の両眼、すっと通った鼻梁に薄い赤色をした唇。肩まで伸びた銀色の髪は銀糸のようで。ただそこら辺の女の人より背丈は小さいし、胸元はさらしでぎゅうぎゅうに縛ってあるので結構苦しい。
『なんで地上に戻らないの?』
『とりあえずスパチャ』
『この金圧……至高の領域にいるな?』
『金圧ってなんだよ。たしかにいきなり金で圧力かけてきたけどさ』
「地上に戻らないのはねー、戻っちゃうと性別が固定化されるんだよね。だから元に戻るまで帰りません!」
幸い悪魔の技術によりダンジョン内でも通販で買った生活物資を届けてくれるサービスがある。ダンジョンの難度や現在地の深さによって金額が跳ね上がるのだが背に腹は代えられないというものだ。
「じゃあ早速、この階層でのキャンプ地を探していこうと思います」
『俺さ、一度だけ冥境に挑んだことあるんだけど、入り口付近の雑魚でも難度Aダンジョンのかなり強い敵くらいあるんだよね』
『まひろちゃん、そんなに強いようには見えないけどな』
『見てろ』
『成金パイセン!』
そこらへんで拾った木の棒を杖に、剣鉈で藪を切り払って進んでいく。
この絵面って地味だなー。これじゃ人は来ないよ。
「ギ――」
視界の端に二メートルほどの巨大なカエル――ジャイアントトードが写る。
伸びる舌でこちらを捕らえる気なのだろう。口のあたりをもごもごと動かしている。
なので一気に距離を詰めて首を刎ねる。
『速すぎ』
『戦闘系のギフト持ってても無理でしょ』
『この前あのカエル一匹に有名パーティが敗走してたの見たんだが?』
『多分この子は難度Aダンジョンならひとりでも余裕なくらいだよ』
「そうそう。普段は難度Aダンジョンにソロで潜って生活してたんだけどね。正直、冥境には挑むつもりはなかったけど抜き差しならない状況だし」
女神に呪いをかけられ、それを解くためにダンジョンに潜り続ける。
ただのダンジョンならば問題はなかったのだろう。しかしここは人跡未踏の迷宮。掃いて捨てるほどの人間がいる狭い東京のただ中にあっていまだ最奥の存在すら確認できていない場所なのだ。
うーん、このカエルを今日のご飯にするか。
解体は面倒だからスキルで済ませてしまおう。
分かたれた首やらに俺は手をかざし、魔力を流す。そうすると一瞬のうちにジャイアントトードの身体はパーツごとに分解された。数日の食料となるカエル肉を集めてどこへ繋がっているか分からない異空間に送り込む。能力で繋がっているのは分かるが、これはどこに繋がっているんだろうね……。
『アイテムボックス持ちは便利だよね』
『ソロでやっていくにはこのくらいないと厳しいしな』
『スキルとしてのアイテムボックスってそんなに入らないよね?』
『そうなの成金先輩?』
『これ多分スキルの範疇じゃないな。なのでなにも言わない』
「ありがとね、成金先輩。そのうちちゃんと話すのでノータッチは素直にありがたいです」
新発見のスキルのネタなんかは発現した人が話すというのがマナーに近いところがある。美味しいところを視聴者が取っていったら配信が成り立たなくなるしね。
『成金先輩と認知されてて草』
『俺はSランク探索者だぞ!』
『昼間からなに配信見てるんですかSランク先輩』
『ビール飲みながら軽率に投げるスパチャ最高』
『やっぱ成金先輩じゃないですかー』
『まひろちゃんのランクは?』
「ちゃん付けするなし。俺はA++かな」
Sランクを超えると大悪魔との大規模戦闘にかり出されることもあるのでこのランクに収めているんだ。
あいつら実入りが悪いくせに強いから嫌いなんだよ……。
『協会に過少申告してない? 普通にペナルティつくからやめておいた方が良いよ』
『成金先輩がまともだ……』
『スパチャが寄付にならないかな……』
「残念だけど減税効果はないと思うな……。でもありがとね、大事に使わせていただきます。あと地上に帰ったら申告するからだいじょーぶだいじょーぶ」
さすがにこれ以上は隠し通せない。隠せてたのも配信をしなかったからだし。
この生配信、リアリティショー要素もあるから二十四時間つけっぱなしにもできる。俺はそうしている。
ただ配慮の求められる表現……たとえば風呂などは勝手にスマホの方がミュートにしたりしてくれるのだ。
ざくざくと登山用のブーツでうっそうとした獣道を歩いて行くと。
突如、拓けた場所に出てくる。
四面は木々に囲まれているものの、それぞれの方角に均された地面が道のように続いていた。獣道以外にもダンジョンにはこういう道がよくある。もちろん人によって作られたものではない。
神や悪魔曰く、これはダンジョンがダンジョンであるために敷かれた導線であると。
これがなければこの空間はダンジョンにはなり得ず、ただの樹海として定義されるのだとか。
この辺りは少しばかり魔物が苦手な空気を出しているようで、休むにはちょうど良い。
俺は剣鉈を抜いてそこら中にある木の枝やらをいくらか伐採する。
蔦になっているものも集めておいて、自然の中にあるこの人工的な広間に置いて――。
「ここをキャンプ地とする!」
魔力を流し込み――素材が光に包まれ――。
木の枝と落ち葉で作られた簡易的なシェルターが完成していた。
『レアスキル?』
『見たことないよね』
「これが女神に呪われた結果、発現した能力のうちのひとつ、〈クラフト〉。俺はこのスキルを使ってダンジョン内でのQOLを高めて――女神を殴りに行きます! 応援よろしくね!」
◆
「さて、じゃあ俺の能力のひとつを説明しながら井戸掘りもしておきます」
迷宮に昇る太陽は中天を過ぎようとしていた。清涼な空気が鼻腔をくすぐり少しだけ良い気分になる。
俺は冥境に来る前のダンジョンで回収しておいたあまり上等ではない鉄製の装備をなにもない空間からいくつか取り出していく。
ジョイント……取っ手がついた地面掘削用のドリルをイメージする。本当は写真などの設計、構図が分かるものがあればいいのだがまあいい。
「……行くよ、それっ!」
地面に置かれた道具に俺は手をかざす。鉄製の武器防具に電光が迸りみるみるうちに形を変えていく。
ボロボロになってもはや武具として使えるようにはならなかったはずのそれらは、俺のイメージ通りのドリルへと姿形を変えていった。
『〈錬金術〉かな?』
『教えて成金先輩!』
『これは〈錬金術〉ではないよ。あれはあらゆる物質を変化させられるけれど、それには道具が必要だからね』
「解説ありがとうございます。これは〈クラフト〉、女神が俺の身体を弄った代わりに置いていった〈レガリア〉の一部です」
『神に愛されてないともらえないやつじゃん』
『トップクラスのパーティでも持っている人はそうそういないって聞いたけどマジか』
〈クラフト〉の優れている点は、材料と魔力さえあれば実際に道具を作る過程を省くことができるというところだ。
単なる上位スキル、〈製作〉であれば単純に作るだけだが、レガリアとしてのそれは素材の性能を最大以上に引き出したものが出来るほど。
女神は殴りたいが能力には罪はない。とりあえずアレを一発……いや、気が済むまで殴るまではこの能力と付き合うつもりだ。
「材料さえあれば魔力で工数を肩代わり、品質も最高のものにしてくれる、このDIY生活にあると非常に便利な相棒です!」
『むかし石器時代の生活をするチャンネルとかあったよね』
『あとなんでも自分で作って節約する番組とか』
『DIY系はいつでも一定の需要があるよな』
『さすがにダンジョンの中でひとりでアルファからオメガまでやってたら女神を殴れないもんな』
『最初から最後までをそんなユニークに言うことあるんだ』
「本格的にDIYやるなら本当に時間が足りないからね。アルファさんの言うとおりで、ウチでは美味しいところだけを取っていくつもりです」
んー、この辺なら浅い所から出るかな。
探索者技能である〈探知〉能力を、水場に対して最大限に働かせる。
ダンジョンの中では水場を発見する能力は大体の場合において必要だ。持ち歩ける分で攻略が終わるわけでもないので、発見能力が高いことは必然的に長丁場を耐えしのぐための能力になる。
初歩的な土魔法で地面を掘り起こし、ざくっとハンドル付きのドリルを地面に突き刺す。
それをぐるぐると回して回して……ドリルが詰まったら引き抜いて土をどける。
三時間ほど穴掘りを続けていると汗もだくだくで髪は頬に張り付いているし、ジャージは蒸れている。インナーのシャツはぴっちぴち。
なお視聴者を飽きさせない工夫として、簡易シェルターの近くで焚き火をするだけの風景と穴掘りを二画面でお送りしている。
松ぼっくりに似た木の実や、木の枝が爆ぜる音。そして俺がひたすらにうんしょうんしょと穴を掘っているだけの画面。そのふたつの画面で……場を保たせる!
汗まみれになっているし、体力も結構消耗している。
今日のところはここまでだな。
「……ふう。井戸は長期的に掘っていくつもりです。それまでは果実で喉を潤わせたり危険でも水場に汲みに行くよ」
『案外慎重派なんだね』
「そりゃもう命が懸かってるからね。どういう配信がオイシイかは分からないけれど、少なくともこのダンジョンではできる限りリスクを排していきたい」
『舐めプで攻略できるならとっくに誰かが攻略してるもんな』
「そういうこと。蘇生技術はあるけれどロストまでに間に合わない可能性のほうが高いし、そもそも蘇生するなら地上に戻らないといけないので絶対イヤ」
◆
パキン、パキンと火にくべた枝が爆ぜる。
そこら辺で拾った石で簡易的なかまど兼プレートを作っておいた。生活魔法の水で洗ったプレートの上にはこんがりと焼けてきたカエルの肉。じゅうじゅうと心地よい音が耳朶を打ち、通販で買った粗挽きの塩こしょうの香りも相まって食欲をそそる。
「いただきます。ん……意外とイケる。脂の少なさとかかみ応えも鶏肉に似てるし」
『優勝したくなってきたな』
『そういえばまひろちゃんはお酒飲める歳なの?』
「優勝できます、させてください。いくらでも飲みますので」
汗をかいた後に食べる焼肉とビールは最高! ……なんだけれど迷宮配達対応のGagisonだとこの手の嗜好品がべらぼうに高い。暴利かってくらい高い。
こういうのも〈クラフト〉で作ることができれば気分がいいんだけれど、発酵の分だけコストがかかるからできそうにないんだよね。
「……ねだっていて悲しくなってきた。……じゃあ今日はもう寝ます。睡眠中も撮ってるから、これは配信というより定点カメラとかのほうが近い気がするなあ」
この配信サイトはスパチャ以外にも再生数、再生時間などのインセンティブが発生する。世界が平和になって暇人たちが増えたとはいえ二十四時間体制でウォッチすることはできない。けどまあ一分一秒でも長く見てくれる人がいるなら俺はやり続けるぞ!
一日休み時間もなく姿をさらしているって気が狂わないか? と突っ込まれそうだが俺はあの女神を殴るためならなんだってしてみせる。
やんぞやんぞやってやんぞー!
俺、真史まひろは自動併走機能付きのスマホを見つめて手を振った。
東京の人工森林なんて目ではない大樹海のなか、ジャージを着て片手剣だけを持ったエルフが魔法で浮遊するスマホに向かって慣れない笑顔を向けている。そんな自分の様子を客観視すると羞恥で死ねそうだ。
『おはつ』
『エルフに変生した子ってかなりレアじゃない?』
『しかも美少女』
魔法的にリンクした俺の視界に配信サイトのコメントが流れてくる。
「誰が美少女だ、俺は男だ男。昨日ダンジョンに潜ってたら女神にバッタリ遭ってさ、女にされたんだよ。で、自分が棲む場所まで来ることができたらそのときは男に戻してもいいってことでこの冥境に挑むんだ。でも男に戻るだけじゃ許すつもりはないね。あの身勝手な女神に本気のグーパンを一発お見舞いしてやらないと気が済まないってワケ!」
俺は元男だ。この身体は色々と便利ではあるが、アイデンティティをいきなり奪われてはいそうですかとすんなり受け入れられるわけがない。
科学と政治が人民と星を救えずにいた二十数年前、突如として地球上に神話が再び訪れた。あやかしや怪物、神話上のモンスターたちが棲まうダンジョンの勃興。そして古来、伝説として扱われていた神々や悪魔が地球上に現れるようになった。
あらゆる闘争に疲れ果てていた人類は、多少のゴタゴタの後に神話の再来を歓迎した。
具体的には神の祝福や気まぐれ、ダンジョンから無限に取れる資源、悪魔たちの知恵や技術。
それらが徐々に受け入れられていき……やがて人類も霊的な変化を遂げるようになった。
それが変生。
物語上の獣人やエルフ、ドワーフ、龍人……。それらに人類は成るようになったのだ。
もちろん人間のままのひとだって居る。
神々の声、そして明日の凋落を覚悟しなくてもいい生活に人々は歓喜し、それに伴う変化を受け入れるようになったのだ。
変化していった世界の中で生まれた職業なんかもある。
危険を冒してダンジョンの資源を持ち帰る探索者。
あとは魔物との戦いを配信することで金銭を得る迷宮配信者。
このふたつの職業はやろうと思えば誰でもなれることから人気の職業でもある。
俺も探索者をやっていたのだが、ダンジョンに居ながら金銭を得る状況が好ましくなったため、こうして慣れない配信業に手を出したというわけである。
ちなみにこの長耳の俺は、自分で言うのもなんだが結構な美少女である。
たまご型の顔には大きな金色の両眼、すっと通った鼻梁に薄い赤色をした唇。肩まで伸びた銀色の髪は銀糸のようで。ただそこら辺の女の人より背丈は小さいし、胸元はさらしでぎゅうぎゅうに縛ってあるので結構苦しい。
『なんで地上に戻らないの?』
『とりあえずスパチャ』
『この金圧……至高の領域にいるな?』
『金圧ってなんだよ。たしかにいきなり金で圧力かけてきたけどさ』
「地上に戻らないのはねー、戻っちゃうと性別が固定化されるんだよね。だから元に戻るまで帰りません!」
幸い悪魔の技術によりダンジョン内でも通販で買った生活物資を届けてくれるサービスがある。ダンジョンの難度や現在地の深さによって金額が跳ね上がるのだが背に腹は代えられないというものだ。
「じゃあ早速、この階層でのキャンプ地を探していこうと思います」
『俺さ、一度だけ冥境に挑んだことあるんだけど、入り口付近の雑魚でも難度Aダンジョンのかなり強い敵くらいあるんだよね』
『まひろちゃん、そんなに強いようには見えないけどな』
『見てろ』
『成金パイセン!』
そこらへんで拾った木の棒を杖に、剣鉈で藪を切り払って進んでいく。
この絵面って地味だなー。これじゃ人は来ないよ。
「ギ――」
視界の端に二メートルほどの巨大なカエル――ジャイアントトードが写る。
伸びる舌でこちらを捕らえる気なのだろう。口のあたりをもごもごと動かしている。
なので一気に距離を詰めて首を刎ねる。
『速すぎ』
『戦闘系のギフト持ってても無理でしょ』
『この前あのカエル一匹に有名パーティが敗走してたの見たんだが?』
『多分この子は難度Aダンジョンならひとりでも余裕なくらいだよ』
「そうそう。普段は難度Aダンジョンにソロで潜って生活してたんだけどね。正直、冥境には挑むつもりはなかったけど抜き差しならない状況だし」
女神に呪いをかけられ、それを解くためにダンジョンに潜り続ける。
ただのダンジョンならば問題はなかったのだろう。しかしここは人跡未踏の迷宮。掃いて捨てるほどの人間がいる狭い東京のただ中にあっていまだ最奥の存在すら確認できていない場所なのだ。
うーん、このカエルを今日のご飯にするか。
解体は面倒だからスキルで済ませてしまおう。
分かたれた首やらに俺は手をかざし、魔力を流す。そうすると一瞬のうちにジャイアントトードの身体はパーツごとに分解された。数日の食料となるカエル肉を集めてどこへ繋がっているか分からない異空間に送り込む。能力で繋がっているのは分かるが、これはどこに繋がっているんだろうね……。
『アイテムボックス持ちは便利だよね』
『ソロでやっていくにはこのくらいないと厳しいしな』
『スキルとしてのアイテムボックスってそんなに入らないよね?』
『そうなの成金先輩?』
『これ多分スキルの範疇じゃないな。なのでなにも言わない』
「ありがとね、成金先輩。そのうちちゃんと話すのでノータッチは素直にありがたいです」
新発見のスキルのネタなんかは発現した人が話すというのがマナーに近いところがある。美味しいところを視聴者が取っていったら配信が成り立たなくなるしね。
『成金先輩と認知されてて草』
『俺はSランク探索者だぞ!』
『昼間からなに配信見てるんですかSランク先輩』
『ビール飲みながら軽率に投げるスパチャ最高』
『やっぱ成金先輩じゃないですかー』
『まひろちゃんのランクは?』
「ちゃん付けするなし。俺はA++かな」
Sランクを超えると大悪魔との大規模戦闘にかり出されることもあるのでこのランクに収めているんだ。
あいつら実入りが悪いくせに強いから嫌いなんだよ……。
『協会に過少申告してない? 普通にペナルティつくからやめておいた方が良いよ』
『成金先輩がまともだ……』
『スパチャが寄付にならないかな……』
「残念だけど減税効果はないと思うな……。でもありがとね、大事に使わせていただきます。あと地上に帰ったら申告するからだいじょーぶだいじょーぶ」
さすがにこれ以上は隠し通せない。隠せてたのも配信をしなかったからだし。
この生配信、リアリティショー要素もあるから二十四時間つけっぱなしにもできる。俺はそうしている。
ただ配慮の求められる表現……たとえば風呂などは勝手にスマホの方がミュートにしたりしてくれるのだ。
ざくざくと登山用のブーツでうっそうとした獣道を歩いて行くと。
突如、拓けた場所に出てくる。
四面は木々に囲まれているものの、それぞれの方角に均された地面が道のように続いていた。獣道以外にもダンジョンにはこういう道がよくある。もちろん人によって作られたものではない。
神や悪魔曰く、これはダンジョンがダンジョンであるために敷かれた導線であると。
これがなければこの空間はダンジョンにはなり得ず、ただの樹海として定義されるのだとか。
この辺りは少しばかり魔物が苦手な空気を出しているようで、休むにはちょうど良い。
俺は剣鉈を抜いてそこら中にある木の枝やらをいくらか伐採する。
蔦になっているものも集めておいて、自然の中にあるこの人工的な広間に置いて――。
「ここをキャンプ地とする!」
魔力を流し込み――素材が光に包まれ――。
木の枝と落ち葉で作られた簡易的なシェルターが完成していた。
『レアスキル?』
『見たことないよね』
「これが女神に呪われた結果、発現した能力のうちのひとつ、〈クラフト〉。俺はこのスキルを使ってダンジョン内でのQOLを高めて――女神を殴りに行きます! 応援よろしくね!」
◆
「さて、じゃあ俺の能力のひとつを説明しながら井戸掘りもしておきます」
迷宮に昇る太陽は中天を過ぎようとしていた。清涼な空気が鼻腔をくすぐり少しだけ良い気分になる。
俺は冥境に来る前のダンジョンで回収しておいたあまり上等ではない鉄製の装備をなにもない空間からいくつか取り出していく。
ジョイント……取っ手がついた地面掘削用のドリルをイメージする。本当は写真などの設計、構図が分かるものがあればいいのだがまあいい。
「……行くよ、それっ!」
地面に置かれた道具に俺は手をかざす。鉄製の武器防具に電光が迸りみるみるうちに形を変えていく。
ボロボロになってもはや武具として使えるようにはならなかったはずのそれらは、俺のイメージ通りのドリルへと姿形を変えていった。
『〈錬金術〉かな?』
『教えて成金先輩!』
『これは〈錬金術〉ではないよ。あれはあらゆる物質を変化させられるけれど、それには道具が必要だからね』
「解説ありがとうございます。これは〈クラフト〉、女神が俺の身体を弄った代わりに置いていった〈レガリア〉の一部です」
『神に愛されてないともらえないやつじゃん』
『トップクラスのパーティでも持っている人はそうそういないって聞いたけどマジか』
〈クラフト〉の優れている点は、材料と魔力さえあれば実際に道具を作る過程を省くことができるというところだ。
単なる上位スキル、〈製作〉であれば単純に作るだけだが、レガリアとしてのそれは素材の性能を最大以上に引き出したものが出来るほど。
女神は殴りたいが能力には罪はない。とりあえずアレを一発……いや、気が済むまで殴るまではこの能力と付き合うつもりだ。
「材料さえあれば魔力で工数を肩代わり、品質も最高のものにしてくれる、このDIY生活にあると非常に便利な相棒です!」
『むかし石器時代の生活をするチャンネルとかあったよね』
『あとなんでも自分で作って節約する番組とか』
『DIY系はいつでも一定の需要があるよな』
『さすがにダンジョンの中でひとりでアルファからオメガまでやってたら女神を殴れないもんな』
『最初から最後までをそんなユニークに言うことあるんだ』
「本格的にDIYやるなら本当に時間が足りないからね。アルファさんの言うとおりで、ウチでは美味しいところだけを取っていくつもりです」
んー、この辺なら浅い所から出るかな。
探索者技能である〈探知〉能力を、水場に対して最大限に働かせる。
ダンジョンの中では水場を発見する能力は大体の場合において必要だ。持ち歩ける分で攻略が終わるわけでもないので、発見能力が高いことは必然的に長丁場を耐えしのぐための能力になる。
初歩的な土魔法で地面を掘り起こし、ざくっとハンドル付きのドリルを地面に突き刺す。
それをぐるぐると回して回して……ドリルが詰まったら引き抜いて土をどける。
三時間ほど穴掘りを続けていると汗もだくだくで髪は頬に張り付いているし、ジャージは蒸れている。インナーのシャツはぴっちぴち。
なお視聴者を飽きさせない工夫として、簡易シェルターの近くで焚き火をするだけの風景と穴掘りを二画面でお送りしている。
松ぼっくりに似た木の実や、木の枝が爆ぜる音。そして俺がひたすらにうんしょうんしょと穴を掘っているだけの画面。そのふたつの画面で……場を保たせる!
汗まみれになっているし、体力も結構消耗している。
今日のところはここまでだな。
「……ふう。井戸は長期的に掘っていくつもりです。それまでは果実で喉を潤わせたり危険でも水場に汲みに行くよ」
『案外慎重派なんだね』
「そりゃもう命が懸かってるからね。どういう配信がオイシイかは分からないけれど、少なくともこのダンジョンではできる限りリスクを排していきたい」
『舐めプで攻略できるならとっくに誰かが攻略してるもんな』
「そういうこと。蘇生技術はあるけれどロストまでに間に合わない可能性のほうが高いし、そもそも蘇生するなら地上に戻らないといけないので絶対イヤ」
◆
パキン、パキンと火にくべた枝が爆ぜる。
そこら辺で拾った石で簡易的なかまど兼プレートを作っておいた。生活魔法の水で洗ったプレートの上にはこんがりと焼けてきたカエルの肉。じゅうじゅうと心地よい音が耳朶を打ち、通販で買った粗挽きの塩こしょうの香りも相まって食欲をそそる。
「いただきます。ん……意外とイケる。脂の少なさとかかみ応えも鶏肉に似てるし」
『優勝したくなってきたな』
『そういえばまひろちゃんはお酒飲める歳なの?』
「優勝できます、させてください。いくらでも飲みますので」
汗をかいた後に食べる焼肉とビールは最高! ……なんだけれど迷宮配達対応のGagisonだとこの手の嗜好品がべらぼうに高い。暴利かってくらい高い。
こういうのも〈クラフト〉で作ることができれば気分がいいんだけれど、発酵の分だけコストがかかるからできそうにないんだよね。
「……ねだっていて悲しくなってきた。……じゃあ今日はもう寝ます。睡眠中も撮ってるから、これは配信というより定点カメラとかのほうが近い気がするなあ」
この配信サイトはスパチャ以外にも再生数、再生時間などのインセンティブが発生する。世界が平和になって暇人たちが増えたとはいえ二十四時間体制でウォッチすることはできない。けどまあ一分一秒でも長く見てくれる人がいるなら俺はやり続けるぞ!
一日休み時間もなく姿をさらしているって気が狂わないか? と突っ込まれそうだが俺はあの女神を殴るためならなんだってしてみせる。
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最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
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性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
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男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
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