34 / 37
第34話 貴女が作者だったんですね
しおりを挟む
ロスレミリアに亡命中なので、クエスファーラ国民ではない。
惨めな敗北者となった元クエスファーラ国王が、周囲を呆れさせた敗戦の弁だった。
挙句には自分は投票していないので、クーデターにより施行された要綱には縛られないとも言い切った。
すぐさまイザベラを連れてロスレミリアへ引き返すも、大統領選の立候補届は間に合わず、さらには国民でないのならとクエスファーラ共和国の初代大統領となったリアが、あっさりとゴフルの財産を没収した。
王家の財宝も売り払い、それを財源に誰もが無償で学校へ通えるようにした。
一方で全国民が揃って貴族になったからといって、いきなり代々の貴族連中から権力を取り上げたりはせず、就任後に作った議会を貴族中心の上院と、国民中心の下院に分けた。その上で当面は領主制を継続することも決めた。
「カケル、準備できた?」
「ああ。まあ、そこまでの遠出でもないしな」
布製のバッグを背負い、部屋に顔を覗かせたアーシャの元まで歩く。
「クーデターを助力する条件に、ロスレミリア王城の財産処分まで加えてたなんてね」
「そうでもしないと、いずれあの元王様は立ち上がりそうだからな」
宿を出る。早朝の空は青く、太陽の輝きも少しばかり控えめだ。
「縋りついてきたその元王様に、リアは一国民として暮らせと言ったみたいね。セベカの話だと、尋常じゃない絶望ぶりだったらしいわよ」
「聞いた聞いた。シャーレ様に復縁まで持ちかけたってな。すげなく断られたらしいが」
並んで歩くと、カケルは次々と住人に声をかけられた。苦笑交じりに応えていると、からかい半分にアーシャが脇腹を小突いてくる。
「クエスファーラを救った英雄様は違うわね」
「やめてくれよ。武闘派の騎士たちがせっかくの領土拡大の機会を奪われたって、俺を逆恨みしないようにリアが作ってくれた物語にすぎないんだし」
ゴフルはイザベラと通じており、ガルブレドも巻き込んで三国を統一し、二人だけの国を作るつもりだったとリアは発表した。
勝者こそが真実というわけではないが、ガルブレドのシュバイン皇帝も認めたため、ゴフルの反論は誰も信じなかった。
「ゴフルが失脚し、サグヴェンス家も民主化に賛同。この状況で俺を殺したって、もうどうにもならないだろ」
「アンタを重用してたリアに大打撃を与えられる。そう考える連中もいるのよ。中にはアンタが王女殿下をたぶらかしたなんて話もあるし」
「濡れ衣だ」
げんなりするカケルに、しかしアーシャはフンと鼻を鳴らす。
「誤解ばかりでもないでしょ。実際にリアから告白じみたこともされてるんだし」
「だからって年齢差を考えろ」
「五年後もそう言える?」
「……」
思わず考え込んでしまったカケルの鳩尾に、強烈な肘鉄が見舞われる。
「即否定しなさいよ。恋人が隣にいるのに信じられない!」
「アーシャこそ、すぐ人を試そうとするのはやめろよ!」
「だって不安なんだもん! 相変わらず夜になればセベカは夜這いしようとするし!」
王城は議事堂となり、一般国民も自由に見学できるようになった。大統領には専用の居住が用意され、元々の侍女なども含めてリアたちはそちらへ移った。
宿無しで、暗殺の危険性もまだあると判断されたカケルも住まわせてもらっている。
「だからって、毎晩部屋で喧嘩しないでくれよ」
「はっきり断らないカケルが悪いんでしょ!」
「日本じゃそんな経験がなかったから嬉しくて、つい……」
「何か言った?」
「すみません。次は毅然とした態度で追い返します」
腰に手を当てて仁王立ちしたアーシャへ謝る。こうなったら口でも腕力でも彼女には敵わない。
そのアーシャも、いつの間にかカケルと同じ部屋に寝泊まりするようになっており、商人も廃業してしまった。
以前にそれでいいのか尋ねたが、本人は物を売るより絵本を作る方が楽しくなったので未練はないと言っていた。
「さて、ここね。本当にいるのかしら」
王都から少し離れた小さな村の片隅。今にも崩れそうな木造のボロ屋に、カケルが会いたいと願った人物はいた。
「村暮らしには慣れましたか?」
カケルが問いかけた相手は、他の村人同様に麻布の服に身を包んだイザベラだった。
ロングスカートの裾をひらりとさせ、振り返った元女王は穏やかに微笑む。
「ええ。彼と二人で幸せな時間を過ごしています」
チラリと視線を向けた先にいるのは、庭で家の木壁に寄りかかり、日向ぼっこをしているゴフルだった。
「何もかも失って、抜け殻みたいになったって話は本当だったのね」
アーシャの瞳に僅かな憐憫が宿る。
「敗北すれば失うのは当然です。勝敗が逆になっていれば、貴方たちが悲惨な末路を辿っていたのですから。もっとも先ほども言った通り、わたくしは幸せなのですが」
強がりではなく、本心なのはイザベラを見ていればよくわかる。だからこそ、カケルはずっと考え続けて辿り着いた結論をぶつける。
「貴女が作者だったんですね」
「は!?」
誰より先に愕然としたのはアーシャだった。弾かれたように顔を動かし、視界に捉えたイザベラが悠然と笑うのを見て、瞬きすら忘れる。
「ど、どういうことよ、カケル」
「首を絞めるな! まったく……俺たちはまんまと利用されたんだ」
「ご、ごめん。でも、驚くでしょ、普通。元国王を落ちぶらせるのが目的だったってわけ? 何で? 復讐とか?」
「単純にゴフルが権力を持ってるのが邪魔だったんだろ」
またしても「はあ!?」とアーシャが裏返りそうな声を出した。
「意味わかんないんだけど」
「要するに、彼女の愛が本物だったってことだ」
文字通り、にっこりとしたイザベラから否定の言葉は放たれない。
大半の村人が畑へ出ている静かな村に、カケルの話し声だけが木霊する。
「ゴフルは野心家だ。権力を持つ限り、次から次に栄光を求める。そのためなら自らの妻でさえ宰相にけしかける。いや、そもそもの結婚さえ政略目的だったんだろ。それはそれで結構だが、その時に愛し合ってた女がいればたまったもんじゃないよな」
「まさか……」
「前に話を聞いたろ。イザベラさんとゴフルは恋仲だったんだよ。両親による虐待から守った縁で急速に惹かれ合ったともな」
おしゃべりな人間がいると憤ったりもせず、事実だからとイザベラは淡々と認める。
「イザベラさんはずっと複雑な感情を引き摺ってたんだ。そういう意味じゃ、アーシャの言ってた復讐って理由もあるのかもな」
「……今回の件はわたくしが主導したとおっしゃりたいのですか?」
カケルは「いいや」と首を左右に振る。
「首謀者はあくまでゴフルだ。貴女は彼の計画を利用したにすぎない」
「どうしてそう思うのですか?」
「一連の流れが俺たちに都合良すぎたからだ」
目力を込めて、カケルは元女王を見据える。
「小説で言うなら展開がご都合主義すぎたんだよ。考えてみればあっさり木版技術が確立されたのもそうだ。リアあたりが裏で力を貸してくれてるのかとも思ったけど……」
「そちらにいる彼女の頑張りのおかげでしょう。感謝なさい」
「もちろんしてるさ。ただ、世の中には頑張りじゃどうにもならないこともある。もっとも俺だって最初から疑ってたわけじゃない。もしかしたらとなったのは、思い出すのも忌々しい投獄生活の時だよ」
カケルは顔をしかめる。無意識に作っていた握り拳に、励ますようにアーシャの手が添えられた。
ふうと大きく息を吐いて、カケルは改めて告げる。
「クオリアたちが言ってた。最低限の見張り以外に兵がいなかったってな。ゴフルが俺の知識を心底から望んでるなら、簡単に手放すわけがない。何らかの目的で泳がせてるってのも考えられたけど、追手はなかった。勝敗を決めたロスレミリアでのクーデターもそうだ。どうして中心となれるような有力貴族が王都に集まってたんだ」
「偶然でしょう。不思議なことなど、幾らでも転がっております」
「ガルブレドでの一件もある。俺たちが追われるタイミングでのクエスファーラとの同盟締結。大方、ゴフルに新兵器の知識を得るために助けるべきだと進言したんだろ」
ここでアーシャが疑問を挟む。
「証拠とかあるわけ?」
「ないな。けど多分、ゴフルは俺たちの命をさほど重んじてはいなかった。だからこそガルブレドへの貢ぎ物にもした」
「貢ぎ物?」
「事前に打ち合わせがあったとはいえ、領土を一時的に失うのに変わりはない。問題が大きくなった際に責任を取らせるには王族はうってつけだ。ついでに放っておけば、新兵器の着想を他国にも無自覚に供給しかねない俺も始末できる。アーシャやセベカ、それにクオリアは俺の巻き添えだな」
唖然とするアーシャをせせら笑うように鳴る拍手。それでも浮かべる笑顔が一切変わらないのが、イザベラの内面的な恐ろしさを示しているかのようだった。
「推測でそこまで辿り着けるのですか。彼が恐れていた理由がわかりました」
横目でイザベラが見たのは、明後日の方向を見続けているゴフルだ。
「大体はカケルの言った通りです。わたくしはゴフルに権力を棄てさせたかったのです」
「……わりと簡単に白状しますね」
「事ここに至っては誤魔化す必要もないでしょう。それに彼に知られたとしても、もはや状況を覆すのは不可能です」
淡々と言うイザベラに、アーシャが尋ねる。
「どうしてそんなことを?」
「理由もカケルの推測通りです。将来を誓い合い、純潔まで捧げたのに、ゴフルは最終的に国を取りました。シャーレを娶り、予定通りに国王として即位しました。その上でわたくしにいずれ各国を統一すると言ったのです」
「野望に協力しろってことね」
「違うな」
カケルは訂正する。
「三国が一つになれば、互いに違う国の王族だからという結婚できない理由はなくなる。奴はイザベラさんを確保しておきたかったんだよ」
「身勝手すぎるでしょ!」
非難するアーシャに同感だったが、イザベラは違った。
「彼は本当は優しい人なのです。そして勇気もあります。毎日がカケルの投獄生活みたいだったわたくしの日々に、光を与えてくれたのですから」
そう言ってイザベラは過去を思い返すように目を閉じた。
惨めな敗北者となった元クエスファーラ国王が、周囲を呆れさせた敗戦の弁だった。
挙句には自分は投票していないので、クーデターにより施行された要綱には縛られないとも言い切った。
すぐさまイザベラを連れてロスレミリアへ引き返すも、大統領選の立候補届は間に合わず、さらには国民でないのならとクエスファーラ共和国の初代大統領となったリアが、あっさりとゴフルの財産を没収した。
王家の財宝も売り払い、それを財源に誰もが無償で学校へ通えるようにした。
一方で全国民が揃って貴族になったからといって、いきなり代々の貴族連中から権力を取り上げたりはせず、就任後に作った議会を貴族中心の上院と、国民中心の下院に分けた。その上で当面は領主制を継続することも決めた。
「カケル、準備できた?」
「ああ。まあ、そこまでの遠出でもないしな」
布製のバッグを背負い、部屋に顔を覗かせたアーシャの元まで歩く。
「クーデターを助力する条件に、ロスレミリア王城の財産処分まで加えてたなんてね」
「そうでもしないと、いずれあの元王様は立ち上がりそうだからな」
宿を出る。早朝の空は青く、太陽の輝きも少しばかり控えめだ。
「縋りついてきたその元王様に、リアは一国民として暮らせと言ったみたいね。セベカの話だと、尋常じゃない絶望ぶりだったらしいわよ」
「聞いた聞いた。シャーレ様に復縁まで持ちかけたってな。すげなく断られたらしいが」
並んで歩くと、カケルは次々と住人に声をかけられた。苦笑交じりに応えていると、からかい半分にアーシャが脇腹を小突いてくる。
「クエスファーラを救った英雄様は違うわね」
「やめてくれよ。武闘派の騎士たちがせっかくの領土拡大の機会を奪われたって、俺を逆恨みしないようにリアが作ってくれた物語にすぎないんだし」
ゴフルはイザベラと通じており、ガルブレドも巻き込んで三国を統一し、二人だけの国を作るつもりだったとリアは発表した。
勝者こそが真実というわけではないが、ガルブレドのシュバイン皇帝も認めたため、ゴフルの反論は誰も信じなかった。
「ゴフルが失脚し、サグヴェンス家も民主化に賛同。この状況で俺を殺したって、もうどうにもならないだろ」
「アンタを重用してたリアに大打撃を与えられる。そう考える連中もいるのよ。中にはアンタが王女殿下をたぶらかしたなんて話もあるし」
「濡れ衣だ」
げんなりするカケルに、しかしアーシャはフンと鼻を鳴らす。
「誤解ばかりでもないでしょ。実際にリアから告白じみたこともされてるんだし」
「だからって年齢差を考えろ」
「五年後もそう言える?」
「……」
思わず考え込んでしまったカケルの鳩尾に、強烈な肘鉄が見舞われる。
「即否定しなさいよ。恋人が隣にいるのに信じられない!」
「アーシャこそ、すぐ人を試そうとするのはやめろよ!」
「だって不安なんだもん! 相変わらず夜になればセベカは夜這いしようとするし!」
王城は議事堂となり、一般国民も自由に見学できるようになった。大統領には専用の居住が用意され、元々の侍女なども含めてリアたちはそちらへ移った。
宿無しで、暗殺の危険性もまだあると判断されたカケルも住まわせてもらっている。
「だからって、毎晩部屋で喧嘩しないでくれよ」
「はっきり断らないカケルが悪いんでしょ!」
「日本じゃそんな経験がなかったから嬉しくて、つい……」
「何か言った?」
「すみません。次は毅然とした態度で追い返します」
腰に手を当てて仁王立ちしたアーシャへ謝る。こうなったら口でも腕力でも彼女には敵わない。
そのアーシャも、いつの間にかカケルと同じ部屋に寝泊まりするようになっており、商人も廃業してしまった。
以前にそれでいいのか尋ねたが、本人は物を売るより絵本を作る方が楽しくなったので未練はないと言っていた。
「さて、ここね。本当にいるのかしら」
王都から少し離れた小さな村の片隅。今にも崩れそうな木造のボロ屋に、カケルが会いたいと願った人物はいた。
「村暮らしには慣れましたか?」
カケルが問いかけた相手は、他の村人同様に麻布の服に身を包んだイザベラだった。
ロングスカートの裾をひらりとさせ、振り返った元女王は穏やかに微笑む。
「ええ。彼と二人で幸せな時間を過ごしています」
チラリと視線を向けた先にいるのは、庭で家の木壁に寄りかかり、日向ぼっこをしているゴフルだった。
「何もかも失って、抜け殻みたいになったって話は本当だったのね」
アーシャの瞳に僅かな憐憫が宿る。
「敗北すれば失うのは当然です。勝敗が逆になっていれば、貴方たちが悲惨な末路を辿っていたのですから。もっとも先ほども言った通り、わたくしは幸せなのですが」
強がりではなく、本心なのはイザベラを見ていればよくわかる。だからこそ、カケルはずっと考え続けて辿り着いた結論をぶつける。
「貴女が作者だったんですね」
「は!?」
誰より先に愕然としたのはアーシャだった。弾かれたように顔を動かし、視界に捉えたイザベラが悠然と笑うのを見て、瞬きすら忘れる。
「ど、どういうことよ、カケル」
「首を絞めるな! まったく……俺たちはまんまと利用されたんだ」
「ご、ごめん。でも、驚くでしょ、普通。元国王を落ちぶらせるのが目的だったってわけ? 何で? 復讐とか?」
「単純にゴフルが権力を持ってるのが邪魔だったんだろ」
またしても「はあ!?」とアーシャが裏返りそうな声を出した。
「意味わかんないんだけど」
「要するに、彼女の愛が本物だったってことだ」
文字通り、にっこりとしたイザベラから否定の言葉は放たれない。
大半の村人が畑へ出ている静かな村に、カケルの話し声だけが木霊する。
「ゴフルは野心家だ。権力を持つ限り、次から次に栄光を求める。そのためなら自らの妻でさえ宰相にけしかける。いや、そもそもの結婚さえ政略目的だったんだろ。それはそれで結構だが、その時に愛し合ってた女がいればたまったもんじゃないよな」
「まさか……」
「前に話を聞いたろ。イザベラさんとゴフルは恋仲だったんだよ。両親による虐待から守った縁で急速に惹かれ合ったともな」
おしゃべりな人間がいると憤ったりもせず、事実だからとイザベラは淡々と認める。
「イザベラさんはずっと複雑な感情を引き摺ってたんだ。そういう意味じゃ、アーシャの言ってた復讐って理由もあるのかもな」
「……今回の件はわたくしが主導したとおっしゃりたいのですか?」
カケルは「いいや」と首を左右に振る。
「首謀者はあくまでゴフルだ。貴女は彼の計画を利用したにすぎない」
「どうしてそう思うのですか?」
「一連の流れが俺たちに都合良すぎたからだ」
目力を込めて、カケルは元女王を見据える。
「小説で言うなら展開がご都合主義すぎたんだよ。考えてみればあっさり木版技術が確立されたのもそうだ。リアあたりが裏で力を貸してくれてるのかとも思ったけど……」
「そちらにいる彼女の頑張りのおかげでしょう。感謝なさい」
「もちろんしてるさ。ただ、世の中には頑張りじゃどうにもならないこともある。もっとも俺だって最初から疑ってたわけじゃない。もしかしたらとなったのは、思い出すのも忌々しい投獄生活の時だよ」
カケルは顔をしかめる。無意識に作っていた握り拳に、励ますようにアーシャの手が添えられた。
ふうと大きく息を吐いて、カケルは改めて告げる。
「クオリアたちが言ってた。最低限の見張り以外に兵がいなかったってな。ゴフルが俺の知識を心底から望んでるなら、簡単に手放すわけがない。何らかの目的で泳がせてるってのも考えられたけど、追手はなかった。勝敗を決めたロスレミリアでのクーデターもそうだ。どうして中心となれるような有力貴族が王都に集まってたんだ」
「偶然でしょう。不思議なことなど、幾らでも転がっております」
「ガルブレドでの一件もある。俺たちが追われるタイミングでのクエスファーラとの同盟締結。大方、ゴフルに新兵器の知識を得るために助けるべきだと進言したんだろ」
ここでアーシャが疑問を挟む。
「証拠とかあるわけ?」
「ないな。けど多分、ゴフルは俺たちの命をさほど重んじてはいなかった。だからこそガルブレドへの貢ぎ物にもした」
「貢ぎ物?」
「事前に打ち合わせがあったとはいえ、領土を一時的に失うのに変わりはない。問題が大きくなった際に責任を取らせるには王族はうってつけだ。ついでに放っておけば、新兵器の着想を他国にも無自覚に供給しかねない俺も始末できる。アーシャやセベカ、それにクオリアは俺の巻き添えだな」
唖然とするアーシャをせせら笑うように鳴る拍手。それでも浮かべる笑顔が一切変わらないのが、イザベラの内面的な恐ろしさを示しているかのようだった。
「推測でそこまで辿り着けるのですか。彼が恐れていた理由がわかりました」
横目でイザベラが見たのは、明後日の方向を見続けているゴフルだ。
「大体はカケルの言った通りです。わたくしはゴフルに権力を棄てさせたかったのです」
「……わりと簡単に白状しますね」
「事ここに至っては誤魔化す必要もないでしょう。それに彼に知られたとしても、もはや状況を覆すのは不可能です」
淡々と言うイザベラに、アーシャが尋ねる。
「どうしてそんなことを?」
「理由もカケルの推測通りです。将来を誓い合い、純潔まで捧げたのに、ゴフルは最終的に国を取りました。シャーレを娶り、予定通りに国王として即位しました。その上でわたくしにいずれ各国を統一すると言ったのです」
「野望に協力しろってことね」
「違うな」
カケルは訂正する。
「三国が一つになれば、互いに違う国の王族だからという結婚できない理由はなくなる。奴はイザベラさんを確保しておきたかったんだよ」
「身勝手すぎるでしょ!」
非難するアーシャに同感だったが、イザベラは違った。
「彼は本当は優しい人なのです。そして勇気もあります。毎日がカケルの投獄生活みたいだったわたくしの日々に、光を与えてくれたのですから」
そう言ってイザベラは過去を思い返すように目を閉じた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。
阿吽
ファンタジー
クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった!
※カクヨムにて先行投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる