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10話 僕に考えがあるんだ
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魔騎士と聖騎士二人、それにドナミスの攻撃によって敵の戦士の一枚が倒れる。これにより大貴は戦士が残り二枚、弓兵が残り二枚となる。
「お、お兄ちゃん」
ここで初めて、ゲームを見守っていた真雪が不安そうにした。もしかしたら兄の大貴が負けるのではと思ったのだ。
だが大貴は余裕そのもので「情けない声を出すな」と真雪を一喝する。
「これはゲームなんだ。スリルがあった方が面白えだろ。なあ、女に手伝ってもらってようやく互角の弱介君よ」
「負けそうになったら口で脅すの? 大貴の最低さはわかっていたけどね」
「チッ。文句まで女に言わせっぱなしかよ。また審判様に注意されたら敵わねえから、この程度にしとくけよど。ハン。そういや審判様も女だったな。相変わらずたらしこむのだけは一人前か」
ゲラゲラ笑う大貴を、審判の梨田さんが睨みつける。七海も不快そうだ。
いつものことなので裕介は慣れているが、いまだに不思議なのは、よく一緒に遊んだ大貴がどうして急に仲間外れにするような真似をしたのかだ。
過去の話でしかないが、当時の理由は気に入らないからというものだった。しかし、何が気に入らないのかという問いには、最後まで答えてもらえなかった。
大貴のターンになる。能力をアップさせている魔騎士を集中的に狙うかと思いきや、標的にしたのは聖騎士のエレノアだった。
これまでの戦闘や今までの経験も踏まえ、能力値に目星をつけて計算すると、戦士と弓兵の総がかりでも、魔騎士だとギリギリ生き残る。
そうなれば、次のターンでまた裕介に一枚戦士を潰される。そうなるよりは、戦士二枚で仕留められる聖騎士を狙ったのである。
「聖騎士は強力なカードだが、レベル一じゃそこまでの脅威にならねえよ。俺の弓兵のレベルがもう少し高ければ、戦士一枚とのセットで潰せてるしな」
実際に大貴の言うとおりだった。時間稼ぎを目的としているので十分な戦果になっているが、全滅させるしかない勝負であったなら、裕介と七海には万に一つも勝ち目がなくなる。
拠点を防衛する兵が蹴散らされる前に、なんとかデュラゾンとアニラで大砦を攻略しなければならない。幸いにして、ようやく隣接できる位置へ到達した。
早速二人がかりで挑ませるが、生命力と防御力に優れた大砦はなかなか撃沈してくれそうもない。
「どうするの、裕介。ガルディとレベッカだけだと、敵の戦士を倒せないわ」
大貴に聞こえないよう、顔を寄せた七海が相談してくる。近い距離に普段なら照れるかもしれないが、久しぶりにゲームに集中している裕介は、そんなところにまで気を回してる余裕はなかった。
「それでも集中して狙うしかないだろうね。そうすれば次のターンでもう一枚戦士を減らせる。その後、弓兵を狙おう。戦士を壊滅させるのは無理そうだしね」
「うん、わかった」
「こそこそと内緒話かよ。相変わらず仲が良いこったな」
野次を飛ばす大貴の背後で、真雪が何故か面白くなさそうに唇を尖らせる。
裕介も七海もからかいには反応せず、それぞれにカードを動かす。
ソフィーリアだけでなく、近くにノーマンとリエリも合流させて拠点を守らせ、残りのメンバーで戦士の一枚に総攻撃を食らわせる。
防御力が低い職種とはいえ、生命力は高い。加えて最高レベルでもある。聖騎士をひとり失った裕介たちでは、一気に倒せない。それでも少なくないダメージは与えられた。次のターンになれば、魔騎士の攻撃で仕留められる。
「裕介を甚振って遊ぶための編成が仇になりやがったか。だが、まだ終わってねえぞ。回復役がいねえからって、舐めんなよ」
目をギラつかせた大貴が戦士二枚と弓兵二枚で魔騎士を攻撃した。
「まさか!?」
「何で驚いてんだ? 前のターンで魔騎士にはダメージを与えてたんだ。厄介なのを先に倒すのは当たり前だろ。てめえは視野が狭いから、間抜けな判断ミスをするんだよ」
レベル十の戦士は命中率も高く、聖騎士よりは攻撃に重きを置いている魔騎士は回避もできなかった。通常は命中力から回避力を引いた命中率が百以下になれば、審判が六面ダイスを二つ振って判定を行う。
一の目を八という数値に置き換えて計算する。ダイス二つの合計値が十二になれば九十六。つまり命中率が九十六以上なら、十二の目以外は命中になる。
八十五なら十一の目である八十八以下になるので、十一の目と十二の目が出れば回避成功となる。命中率が十六以下になるようには作られていないので、ダイスをひとつだけ使うようなケースはないらしい。
さらに英雄は命中力がかなり高いゲームかつ、身軽な盗賊などの職種もないので、よほどのレベル差がない限り回避はほとんど成功しない。
数値の計算はし易いが、能力値はカードの裏面に書かれているので、予想と記憶も大事になってくる。もっとも裕介の場合は負け続けたおかげで、大貴と真雪のカードの能力はほぼ把握できていた。七海のは見せてもらえるので問題はない。
逆に大貴側にとってもレベル一のパラメーターは基本的に似たり寄ったりなので、予測にはさほど苦労しないだろう。あとは相手の表情や態度から、読み取ったりも可能となる。そうした部分は、子供よりも大人向けになるのかもしれない。
魔騎士を失った裕介は、デュラゾンとアニラによる砦攻略を引き続き実行しつつ、残りの体力が僅かになっていた戦士を聖騎士で倒し、ドナミスとミリアルルは攻撃させずに拠点まで下がらせる。
聖騎士のレベッカが戦士と弓兵二枚の攻撃を耐えれるかどうかは微妙なので、見捨てて次のターン以降の拠点防衛要員とした。
――そう判断させるのが狙いだった。
大貴には知る由もないが、あくまで同じレベル一の聖騎士と比べてだが、レベッカは生命力が高い。すでに散ったエレノアよりも上だ。そのため敵の生き残りである戦士と弓兵による総攻撃に耐えられる。
恐らく次のターンに弓兵の一撃で終わりだろうが、焦った大貴が戦士で攻撃してくれれば御の字だ。その時初めて裕介の前に勝利の扉が現れる。
「そうきたか。じゃあこっちは聖騎士をぶちのめしてから、ゆっくりと他の雑魚どもを甚振ってやるかな」
予想通りの展開に、裕介は表情に出さないよう気を付けながら、内心でガッツポーズをする。
「――とでも言うと思ったか?」
右側の口角を耳元まで上げ、対面上から身長の高い大貴が文字通り裕介を見下ろす。
「何を企んでるかは知らねえが、簡単に乗ってやるほどお人好しじゃねえよ。オラ、さっさとしねえと村を占拠しちまうぞ」
立ち塞がっていた聖騎士には目もくれず、移動させた弓兵でドミナスとミリアルルを射抜く。レベル一で魔法職の二人がレベル五の弓兵の攻撃に耐えるのは難しいと思われたが、なんとかギリギリで踏みとどまってくれた。
魔騎士や聖騎士へのダメージで計算できていた攻撃力そのままだったので、特段の驚きはなかった。恐らくは大貴もわかっていたはずだ。
なのにどうしてひとりを仕留めにこなかったのか。考えてもわからないので途中で思考を放棄しそうになった瞬間、不意に裕介の脳裏にまたしても力尽きたデュラゾンの姿が蘇った。
カードではなく彼らの命が懸かっていると思えば、中途半端に悩むのをやめられなくなる。逃げたい心を気合で抑え込み、唇を噛んでより良い選択肢を探す。その先に勝利が待っていると信じて。
「ねえ、裕介」
脂汗を流し、無言で悩み続ける裕介を七海が心配する。少しでも力になりたいと、考えつく限りの提案も行う。
「大貴のカードも残り少なくなってるし、裕介のデュラゾンさんとアニラさんを合流させて戦えばいいんじゃない?」
魔術師と神官が瀕死になったとはいえ、七海の聖騎士は無傷で残っている。
そこに戦士レベル三のアニラが加わり、レベル一の戦士近くの能力はあるレベル十の村人デュラゾンと、同じくレベル十まで成長させている七海の村人ソフィーリアも加われば確かに勝てるかもしれない。
妙案には間違いないのだが、何故か素直に頷けなかった。
盗み見るようにこっそりと大貴の様子を窺う。不安そうな真雪の前に立つ、裕介のトラウマの元凶は、腕を組んで仁王立ちしている。どこからでもかかってこいと言わんばかりの、実に堂々とした態度だった。
「大貴にはまだ余裕がありそうだし、大砦はきっと落ちないわ。分散させている戦力を合流させて戦いましょう」
七海の声が聞こえたのか、大貴がこちらへ気づかれない程度に舌打ちをした。
だが、裕介はしっかり見ていた。平常心を装っていても、内心は焦っているのかもしれない。だとしたら、七海の作戦に乗るべきだ。
そこまで考え、デュラゾンに手を伸ばしたが途中で止める。本当にそうかという疑問が、裕介の中に残っているせいだ。
今までは戦力差がありすぎて、一方的に蹂躙されるばかりだった。しかし七海のおかげで状況は変わり、劣勢から互角に近いところまで戻った。
そして裕介は先ほど、心理戦を仕掛けるに至った。あえて陣内のカードを退かせて、聖騎士に攻撃を集中させようとしたのである。
だがそうはならなかった。力押しが得意技とばかり思っていた大貴が、完璧ではないにしろ、裕介の意図を見抜いた。頭もそれなりに働かせられるのに、そんな簡単に苛立ちや不安を露わにするだろうか。
「――いや、このまま砦を攻めよう。七海の聖騎士も上げて、イチかバチかの攻勢に出るよ」
「え!? そんな真似をしたら拠点が守れなくなるわよ」
「大丈夫。僕に考えがあるんだ」
小声で言い、裕介は大貴にもわかるように、観客の方へチラリと視線を向けた。
最終的に七海は裕介の意見を尊重してくれた。弓兵の間を通り抜け、無人の大砦へ向かって前進させる。
これで拠点防衛に残っているのは五名。数はいるが、頼りにはならない。何せ一番高い戦闘力を持つのが、七海の村人ソフィーリアなのだ。まともにぶつかったら、二ターンで全滅し、拠点を奪われる。
「アホじゃないの、弱介。聖騎士を村の守りから外したら、負け確定じゃん。そんなにお兄ちゃんに嬲られたいわけ」
「ああ、そうさ」
「はあ!? アンタ、ゲームに負けすぎてとうとう狂っちゃった?」
今度は何も言わない。時間だけが過ぎていく。
あまりに長考だと、指定ターン数がこなくてもゲーム時間が長くなるので、審判の梨田さんが大貴へ早く進めるように促す。
「お、お兄ちゃん」
ここで初めて、ゲームを見守っていた真雪が不安そうにした。もしかしたら兄の大貴が負けるのではと思ったのだ。
だが大貴は余裕そのもので「情けない声を出すな」と真雪を一喝する。
「これはゲームなんだ。スリルがあった方が面白えだろ。なあ、女に手伝ってもらってようやく互角の弱介君よ」
「負けそうになったら口で脅すの? 大貴の最低さはわかっていたけどね」
「チッ。文句まで女に言わせっぱなしかよ。また審判様に注意されたら敵わねえから、この程度にしとくけよど。ハン。そういや審判様も女だったな。相変わらずたらしこむのだけは一人前か」
ゲラゲラ笑う大貴を、審判の梨田さんが睨みつける。七海も不快そうだ。
いつものことなので裕介は慣れているが、いまだに不思議なのは、よく一緒に遊んだ大貴がどうして急に仲間外れにするような真似をしたのかだ。
過去の話でしかないが、当時の理由は気に入らないからというものだった。しかし、何が気に入らないのかという問いには、最後まで答えてもらえなかった。
大貴のターンになる。能力をアップさせている魔騎士を集中的に狙うかと思いきや、標的にしたのは聖騎士のエレノアだった。
これまでの戦闘や今までの経験も踏まえ、能力値に目星をつけて計算すると、戦士と弓兵の総がかりでも、魔騎士だとギリギリ生き残る。
そうなれば、次のターンでまた裕介に一枚戦士を潰される。そうなるよりは、戦士二枚で仕留められる聖騎士を狙ったのである。
「聖騎士は強力なカードだが、レベル一じゃそこまでの脅威にならねえよ。俺の弓兵のレベルがもう少し高ければ、戦士一枚とのセットで潰せてるしな」
実際に大貴の言うとおりだった。時間稼ぎを目的としているので十分な戦果になっているが、全滅させるしかない勝負であったなら、裕介と七海には万に一つも勝ち目がなくなる。
拠点を防衛する兵が蹴散らされる前に、なんとかデュラゾンとアニラで大砦を攻略しなければならない。幸いにして、ようやく隣接できる位置へ到達した。
早速二人がかりで挑ませるが、生命力と防御力に優れた大砦はなかなか撃沈してくれそうもない。
「どうするの、裕介。ガルディとレベッカだけだと、敵の戦士を倒せないわ」
大貴に聞こえないよう、顔を寄せた七海が相談してくる。近い距離に普段なら照れるかもしれないが、久しぶりにゲームに集中している裕介は、そんなところにまで気を回してる余裕はなかった。
「それでも集中して狙うしかないだろうね。そうすれば次のターンでもう一枚戦士を減らせる。その後、弓兵を狙おう。戦士を壊滅させるのは無理そうだしね」
「うん、わかった」
「こそこそと内緒話かよ。相変わらず仲が良いこったな」
野次を飛ばす大貴の背後で、真雪が何故か面白くなさそうに唇を尖らせる。
裕介も七海もからかいには反応せず、それぞれにカードを動かす。
ソフィーリアだけでなく、近くにノーマンとリエリも合流させて拠点を守らせ、残りのメンバーで戦士の一枚に総攻撃を食らわせる。
防御力が低い職種とはいえ、生命力は高い。加えて最高レベルでもある。聖騎士をひとり失った裕介たちでは、一気に倒せない。それでも少なくないダメージは与えられた。次のターンになれば、魔騎士の攻撃で仕留められる。
「裕介を甚振って遊ぶための編成が仇になりやがったか。だが、まだ終わってねえぞ。回復役がいねえからって、舐めんなよ」
目をギラつかせた大貴が戦士二枚と弓兵二枚で魔騎士を攻撃した。
「まさか!?」
「何で驚いてんだ? 前のターンで魔騎士にはダメージを与えてたんだ。厄介なのを先に倒すのは当たり前だろ。てめえは視野が狭いから、間抜けな判断ミスをするんだよ」
レベル十の戦士は命中率も高く、聖騎士よりは攻撃に重きを置いている魔騎士は回避もできなかった。通常は命中力から回避力を引いた命中率が百以下になれば、審判が六面ダイスを二つ振って判定を行う。
一の目を八という数値に置き換えて計算する。ダイス二つの合計値が十二になれば九十六。つまり命中率が九十六以上なら、十二の目以外は命中になる。
八十五なら十一の目である八十八以下になるので、十一の目と十二の目が出れば回避成功となる。命中率が十六以下になるようには作られていないので、ダイスをひとつだけ使うようなケースはないらしい。
さらに英雄は命中力がかなり高いゲームかつ、身軽な盗賊などの職種もないので、よほどのレベル差がない限り回避はほとんど成功しない。
数値の計算はし易いが、能力値はカードの裏面に書かれているので、予想と記憶も大事になってくる。もっとも裕介の場合は負け続けたおかげで、大貴と真雪のカードの能力はほぼ把握できていた。七海のは見せてもらえるので問題はない。
逆に大貴側にとってもレベル一のパラメーターは基本的に似たり寄ったりなので、予測にはさほど苦労しないだろう。あとは相手の表情や態度から、読み取ったりも可能となる。そうした部分は、子供よりも大人向けになるのかもしれない。
魔騎士を失った裕介は、デュラゾンとアニラによる砦攻略を引き続き実行しつつ、残りの体力が僅かになっていた戦士を聖騎士で倒し、ドナミスとミリアルルは攻撃させずに拠点まで下がらせる。
聖騎士のレベッカが戦士と弓兵二枚の攻撃を耐えれるかどうかは微妙なので、見捨てて次のターン以降の拠点防衛要員とした。
――そう判断させるのが狙いだった。
大貴には知る由もないが、あくまで同じレベル一の聖騎士と比べてだが、レベッカは生命力が高い。すでに散ったエレノアよりも上だ。そのため敵の生き残りである戦士と弓兵による総攻撃に耐えられる。
恐らく次のターンに弓兵の一撃で終わりだろうが、焦った大貴が戦士で攻撃してくれれば御の字だ。その時初めて裕介の前に勝利の扉が現れる。
「そうきたか。じゃあこっちは聖騎士をぶちのめしてから、ゆっくりと他の雑魚どもを甚振ってやるかな」
予想通りの展開に、裕介は表情に出さないよう気を付けながら、内心でガッツポーズをする。
「――とでも言うと思ったか?」
右側の口角を耳元まで上げ、対面上から身長の高い大貴が文字通り裕介を見下ろす。
「何を企んでるかは知らねえが、簡単に乗ってやるほどお人好しじゃねえよ。オラ、さっさとしねえと村を占拠しちまうぞ」
立ち塞がっていた聖騎士には目もくれず、移動させた弓兵でドミナスとミリアルルを射抜く。レベル一で魔法職の二人がレベル五の弓兵の攻撃に耐えるのは難しいと思われたが、なんとかギリギリで踏みとどまってくれた。
魔騎士や聖騎士へのダメージで計算できていた攻撃力そのままだったので、特段の驚きはなかった。恐らくは大貴もわかっていたはずだ。
なのにどうしてひとりを仕留めにこなかったのか。考えてもわからないので途中で思考を放棄しそうになった瞬間、不意に裕介の脳裏にまたしても力尽きたデュラゾンの姿が蘇った。
カードではなく彼らの命が懸かっていると思えば、中途半端に悩むのをやめられなくなる。逃げたい心を気合で抑え込み、唇を噛んでより良い選択肢を探す。その先に勝利が待っていると信じて。
「ねえ、裕介」
脂汗を流し、無言で悩み続ける裕介を七海が心配する。少しでも力になりたいと、考えつく限りの提案も行う。
「大貴のカードも残り少なくなってるし、裕介のデュラゾンさんとアニラさんを合流させて戦えばいいんじゃない?」
魔術師と神官が瀕死になったとはいえ、七海の聖騎士は無傷で残っている。
そこに戦士レベル三のアニラが加わり、レベル一の戦士近くの能力はあるレベル十の村人デュラゾンと、同じくレベル十まで成長させている七海の村人ソフィーリアも加われば確かに勝てるかもしれない。
妙案には間違いないのだが、何故か素直に頷けなかった。
盗み見るようにこっそりと大貴の様子を窺う。不安そうな真雪の前に立つ、裕介のトラウマの元凶は、腕を組んで仁王立ちしている。どこからでもかかってこいと言わんばかりの、実に堂々とした態度だった。
「大貴にはまだ余裕がありそうだし、大砦はきっと落ちないわ。分散させている戦力を合流させて戦いましょう」
七海の声が聞こえたのか、大貴がこちらへ気づかれない程度に舌打ちをした。
だが、裕介はしっかり見ていた。平常心を装っていても、内心は焦っているのかもしれない。だとしたら、七海の作戦に乗るべきだ。
そこまで考え、デュラゾンに手を伸ばしたが途中で止める。本当にそうかという疑問が、裕介の中に残っているせいだ。
今までは戦力差がありすぎて、一方的に蹂躙されるばかりだった。しかし七海のおかげで状況は変わり、劣勢から互角に近いところまで戻った。
そして裕介は先ほど、心理戦を仕掛けるに至った。あえて陣内のカードを退かせて、聖騎士に攻撃を集中させようとしたのである。
だがそうはならなかった。力押しが得意技とばかり思っていた大貴が、完璧ではないにしろ、裕介の意図を見抜いた。頭もそれなりに働かせられるのに、そんな簡単に苛立ちや不安を露わにするだろうか。
「――いや、このまま砦を攻めよう。七海の聖騎士も上げて、イチかバチかの攻勢に出るよ」
「え!? そんな真似をしたら拠点が守れなくなるわよ」
「大丈夫。僕に考えがあるんだ」
小声で言い、裕介は大貴にもわかるように、観客の方へチラリと視線を向けた。
最終的に七海は裕介の意見を尊重してくれた。弓兵の間を通り抜け、無人の大砦へ向かって前進させる。
これで拠点防衛に残っているのは五名。数はいるが、頼りにはならない。何せ一番高い戦闘力を持つのが、七海の村人ソフィーリアなのだ。まともにぶつかったら、二ターンで全滅し、拠点を奪われる。
「アホじゃないの、弱介。聖騎士を村の守りから外したら、負け確定じゃん。そんなにお兄ちゃんに嬲られたいわけ」
「ああ、そうさ」
「はあ!? アンタ、ゲームに負けすぎてとうとう狂っちゃった?」
今度は何も言わない。時間だけが過ぎていく。
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