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第24話 新たな依頼と激突
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足元にあった魔方陣からはすでに輝きが消えている。恐らくゼードを召還するための儀式だったのだろう。
「死にたくなければ、あの人を蘇らせなさい!」
「……フン。力の弱った魔女の末裔ごときが、この程度の黒魔術で私を殺すだと? 思い上がりも甚だしい。身の程を知れ」
ゼードが右腕を横に一閃するだけで、大量の鴉が力尽きて地に落ちた。
せっかくの攻撃も無に終わったかと思ったが、あくまでも目くらましを狙っただけのようだった。
使い魔の鴉がゼードの気を引いている間に、地面にしゃがみ込んでいた玲子は指で新たな魔法陣を描いていた。
「私のすべてはあの人のもの! あの人だけのために私は生きるのですわ! 力ずくでも蘇生させます!」
完成した魔法陣の中央に、玲子が右の手のひらを乗せる。
炭を溶かしたような黒い液体が生まれ、大波のように高く上がる。およそ二メートルほどにもなった闇よりも濃い黒波がゼードを襲う。もしかしなくとも、玲子の放てる最強の大技だろう。もの凄い迫力があった。
さしもの祐希子も何も言えずに凝視するしかない中、憐れみを宿した目のゼードが先ほど同様に右手を横に動かした。まるで指揮者のような優雅な動作だった。
それだけで最初から何もなかったかのように黒い大波は消え、墓地には元通りの静寂と風景が戻った。
「理解できたかな。お前ごときが私をどうにかするなど不可能。己の無知を恥じて滅するがいい」
「ふざっ……けないで! 私はあの人を生き返らせるためだけに!」
「何度も言わせるな。最初からそんな方法はない。仮にあったとしても、妖魔貴族たる私がどうして下等な人間ごときと対等な取引をしなければならないのだ? お前たち人間は黙って我々の贄、そして玩具になっていればいいのだ」
ゼードがデコピンでもするように指を軽く弾く。弾丸代わりとなった空気が、玲子を吹き飛ばす。次々と放たれた重い空気の飛礫に、彼女の服のみならず肌までもが次々と裂けていく。
「盛大に悲鳴を上げるといい。お前を愛しているのなら、死んだ夫が黄泉の国からでも舞い戻ってくるかもしれないぞ」
そんなわけはない。ゼードのはあくまで挑発目的だ。それをわかっているからこそ、地面へうつ伏せに倒れた玲子も悔しげに唇を噛んでいるのだ。
「すべては徒労に終わる。だが私のおかげで、希望に満ちたひと時は味わえたはずだ。もっと感謝するがいい」
闇の空間すべてを抱くように両手を広げたゼードが、星空を見上げる。自分に酔っているナルシストそのままのリアクションである。
「ぐ、うう……あの人の元に逝けるのなら、死だって怖くはありませんわ。でも……貴方だけは許せません。人の心をもてあそんだ貴方だけは……!」
「ふう。人間というのは無駄な努力が好きな生き物だな。いいだろう。ならば思いつく限りのすべての攻撃をしてみたまえ」
「言われなくとも、そうしますわ」
倒れながらも魔法陣を描いていたのだろう。横に転がると同時に、先ほどまで玲子の体があった下から闇の棘が数本誕生する。滑走路から飛行機が飛び立つようなラインで、ゼードの頭部を一直線に狙う。
「並の妖魔ならともかく、貴族たる私にそんな攻撃は通用せん」
追い払うように右手を振り、棘を消滅させる。
「私を呼び出せたように、魔女の末裔の扱う力は妖魔のものに似ている。理解していれば、無謀な戦いなど挑まないはずなのだがな」
「そ、んな……私は……あな、た……」
泣き崩れるように玲子がその場に突っ伏す。圧倒的な力の差を見せつけられ、戦闘意欲を失ったみたいだった。
両手を広げたまま肩をすくめたゼードが、新に向き直る。
「この女に振り回されて腹が立っているだろう。お前にとどめを刺させてやってもいいぞ。何なら、そいつの夫の墓の前で嬲ってやってもいいしな」
場にいる全員の視線が集まる中、新は墓地で二本目となる煙草を咥える。
「その前に一つ聞きたい」
火を灯したマッチが、深夜に迫る夜の暗さを嫌うようにぼんやりと光る。
「玖珠貫玲子。アンタ、俺の職業を覚えてるか?」
倒れたままの玲子は顔だけを上げた状態で頷く。
「ええ……錦鯉さんは探偵ですわ」
「そうだ。実は今財務状況が危ないらしくてな。事務所を存続させるためにどんな依頼も受けてるんだ。だが生憎と客が来ねえ。アンタ、今すぐにでも依頼をしたがってる奴を知らないか?」
「え? あ……ああ……で、でも、私は……」
「俺は探偵だ。依頼があれば受ける。個人的にはナルシストな男より、美女が依頼人だと嬉しいがね。特に妖艶で人を振り回すような、危険なにおいのする未亡人ならなおさらだ」
玲子の頬にひと筋の涙が流れる。
「う、うう……に、錦鯉探偵事務所に依頼をお願いします! 私の想いを踏みにじった妖魔を退治してください!」
「だ、そうだ。会計を預かる助手はどう思う?」
新に横目で意見を求められた祐希子は、にぱっと満面の笑みを浮かべる。
「うちの財政で依頼を選んでる余裕なんてないよ、所長」
「決まりだな。報酬は妖魔と取引なんぞをしようとしたアンタへ説教する権利だ。覚悟しておけよ」
「フフ、そいつはいいな。私は市民を守る警察だからな。無条件で助ける。その代わり、説教も無条件で行うがな」
いつになく愉快そうな千尋が新の横に並ぶ。戦闘力が皆無な祐希子は後方に下がる。戦闘の開始と同時に自慢の脚力を活かして、玲子の救出を行うはずだ。
「私の配下になるのではなく、敵対するとは理解に苦しむな。自殺願望でもあったのかな?」
「話を聞いてなかったのか? 俺は探偵だ。受けた依頼に基づいて、お前を退治するだけだ。他に理由がいるかい?」
「やれやれ。とんだ見込み違いだったようだ。いいだろう。お前にも実力の差を教えてやろう」
「そいつはありがたいね。ところでお前は妖魔だろ。本来の姿にならなくていいのか」
新の忠告に、ゼードは腹を抱えて笑う。
「退魔の銃を持つとはいえ、人間ごときに本気を出すなんて恥ずかしい真似ができるものか。丁度いいハンデだよ」
人間と妖魔の身体能力の差は比べものにならない。絶対的な強者だと思っているからこその発言で、それはそのまま油断と過信へ繋がる。
「そうかい。だったら途中で発言を撤回するなんて、しまらない真似だけはやめてくれよ」
「約束しよう」
余裕を笑みで表現しながら、いちいちポーズをとるように動く。外見は美青年だが、これでは本当にナルシストだ。
「どうだ姉貴、ああいうタイプは。意外と上手くいくんじゃないか?」
「ごめんだな。私はあの手の男が大嫌いだ!」
からかいを本気で嫌がり、腰に隠していた拳銃――ニューナンブを発砲する。対妖魔を主とする特務課に配属されているだけに所持を許されているのだ。
ある意味で闇夜に相応しい発砲音が木霊し、鉛の弾丸がゼード目掛けて飛ぶ。
見た目は人間でも中身は妖魔。人間であれば反応不可能な拳銃の一撃も難なくかわす。
舌打ちしながら、千尋は腰を落とした構えで何度も引き金を引く。威嚇ではなく、危害を加えるための射撃だ。
「人間の武器では仮にまともに命中しても、私に致命傷は与えられない。それでも対妖魔を専門とする特務課の課長かね」
自身の所属を言い当てられても、千尋は驚かない。その気になれば自分で調べられるだろうし、何より裏でゼードと玲子は繋がっていたのだ。彼女に自己紹介をしているだけに、そこから辿られても不思議はなかった。
「妖魔ともあろうお方が熱心に人間の身辺調査か。ずいぶんと臆病なんだな」
「興味があると言ってほしいね。人間の肉体はなかなか快適だったりするよ。それに生殖活動は私のお気に入りの一つだ。無論、妖魔の肉体で人間の女を相手に楽しむこともできるがね」
「フン。大層な趣味だな。恐れ入る」
何度弾丸を飛ばしても回避されるか、右手を振られて消されるかのどちらかだった。埒が明かないと判断した千尋は、銃を腰に戻して接近戦を挑む。
突進から繰り出した右の握り拳を、無謀だと軽く鼻で笑っていたゼードが左手で受け止める。直後、まるで強制的に後ろへ引きずられたようにゼードの足が動かされる。原因はもちろん千尋のパンチだ。
やや離れた位置で祐希子が、衝撃的な光景に目をまん丸くしている。驚くのも無理はない。いくら強いとはいえ、これほどとは思ってなかっただろう。さすがに妖魔ほどとは言わないが、対人間であれば屈強な男相手でも互角以上にやりあえる力はある。
高校時代には、関東一円で名を売っていたレディースの女総長と三日三晩に渡って死闘を繰り広げたなんて逸話が残っているくらいだ。本当かどうかは不明だが、実際に三日ほど帰宅しなかったことが一度だけあった。
「凄い力だな。だがあくまで人間という種族の中での話。純然たる妖魔の私には通じない」
足に力を入れて踏ん張りを利かせ、逆に千尋を押し始める。さらには左手で軽々と彼女の体を持ち上げた。逆立ちさせられるような形になったと思ったら、唐突にゼードが掴んでいた千尋の右拳を離した。
垂直に落下する千尋の顔面に、ゼードの右拳が迫る。空中では避けようがないと思われたが、彼女は咄嗟に体を捻って蹴りを放ち、足裏で敵のパンチを受け止めた。
それでも相手はさすがの妖魔。しかも貴族と自分で言っていただけあって、腕力も従来の妖魔より上回っていた。
悲鳴を上げた千尋の体が、再度宙に放り出される。蹴りの威力がパンチに負けたのである。
膝が砕け散りそうな激痛に顔を歪めた彼女に、ゼードが追撃する。
千尋より高い位置へ飛び上がり、オーバーヘッドキックするように彼女の体を地面へ叩きつけようとする。背すじが冷たくなるほどの窮地だが、見方を変えればチャンスでもあった。
「死にたくなければ、あの人を蘇らせなさい!」
「……フン。力の弱った魔女の末裔ごときが、この程度の黒魔術で私を殺すだと? 思い上がりも甚だしい。身の程を知れ」
ゼードが右腕を横に一閃するだけで、大量の鴉が力尽きて地に落ちた。
せっかくの攻撃も無に終わったかと思ったが、あくまでも目くらましを狙っただけのようだった。
使い魔の鴉がゼードの気を引いている間に、地面にしゃがみ込んでいた玲子は指で新たな魔法陣を描いていた。
「私のすべてはあの人のもの! あの人だけのために私は生きるのですわ! 力ずくでも蘇生させます!」
完成した魔法陣の中央に、玲子が右の手のひらを乗せる。
炭を溶かしたような黒い液体が生まれ、大波のように高く上がる。およそ二メートルほどにもなった闇よりも濃い黒波がゼードを襲う。もしかしなくとも、玲子の放てる最強の大技だろう。もの凄い迫力があった。
さしもの祐希子も何も言えずに凝視するしかない中、憐れみを宿した目のゼードが先ほど同様に右手を横に動かした。まるで指揮者のような優雅な動作だった。
それだけで最初から何もなかったかのように黒い大波は消え、墓地には元通りの静寂と風景が戻った。
「理解できたかな。お前ごときが私をどうにかするなど不可能。己の無知を恥じて滅するがいい」
「ふざっ……けないで! 私はあの人を生き返らせるためだけに!」
「何度も言わせるな。最初からそんな方法はない。仮にあったとしても、妖魔貴族たる私がどうして下等な人間ごときと対等な取引をしなければならないのだ? お前たち人間は黙って我々の贄、そして玩具になっていればいいのだ」
ゼードがデコピンでもするように指を軽く弾く。弾丸代わりとなった空気が、玲子を吹き飛ばす。次々と放たれた重い空気の飛礫に、彼女の服のみならず肌までもが次々と裂けていく。
「盛大に悲鳴を上げるといい。お前を愛しているのなら、死んだ夫が黄泉の国からでも舞い戻ってくるかもしれないぞ」
そんなわけはない。ゼードのはあくまで挑発目的だ。それをわかっているからこそ、地面へうつ伏せに倒れた玲子も悔しげに唇を噛んでいるのだ。
「すべては徒労に終わる。だが私のおかげで、希望に満ちたひと時は味わえたはずだ。もっと感謝するがいい」
闇の空間すべてを抱くように両手を広げたゼードが、星空を見上げる。自分に酔っているナルシストそのままのリアクションである。
「ぐ、うう……あの人の元に逝けるのなら、死だって怖くはありませんわ。でも……貴方だけは許せません。人の心をもてあそんだ貴方だけは……!」
「ふう。人間というのは無駄な努力が好きな生き物だな。いいだろう。ならば思いつく限りのすべての攻撃をしてみたまえ」
「言われなくとも、そうしますわ」
倒れながらも魔法陣を描いていたのだろう。横に転がると同時に、先ほどまで玲子の体があった下から闇の棘が数本誕生する。滑走路から飛行機が飛び立つようなラインで、ゼードの頭部を一直線に狙う。
「並の妖魔ならともかく、貴族たる私にそんな攻撃は通用せん」
追い払うように右手を振り、棘を消滅させる。
「私を呼び出せたように、魔女の末裔の扱う力は妖魔のものに似ている。理解していれば、無謀な戦いなど挑まないはずなのだがな」
「そ、んな……私は……あな、た……」
泣き崩れるように玲子がその場に突っ伏す。圧倒的な力の差を見せつけられ、戦闘意欲を失ったみたいだった。
両手を広げたまま肩をすくめたゼードが、新に向き直る。
「この女に振り回されて腹が立っているだろう。お前にとどめを刺させてやってもいいぞ。何なら、そいつの夫の墓の前で嬲ってやってもいいしな」
場にいる全員の視線が集まる中、新は墓地で二本目となる煙草を咥える。
「その前に一つ聞きたい」
火を灯したマッチが、深夜に迫る夜の暗さを嫌うようにぼんやりと光る。
「玖珠貫玲子。アンタ、俺の職業を覚えてるか?」
倒れたままの玲子は顔だけを上げた状態で頷く。
「ええ……錦鯉さんは探偵ですわ」
「そうだ。実は今財務状況が危ないらしくてな。事務所を存続させるためにどんな依頼も受けてるんだ。だが生憎と客が来ねえ。アンタ、今すぐにでも依頼をしたがってる奴を知らないか?」
「え? あ……ああ……で、でも、私は……」
「俺は探偵だ。依頼があれば受ける。個人的にはナルシストな男より、美女が依頼人だと嬉しいがね。特に妖艶で人を振り回すような、危険なにおいのする未亡人ならなおさらだ」
玲子の頬にひと筋の涙が流れる。
「う、うう……に、錦鯉探偵事務所に依頼をお願いします! 私の想いを踏みにじった妖魔を退治してください!」
「だ、そうだ。会計を預かる助手はどう思う?」
新に横目で意見を求められた祐希子は、にぱっと満面の笑みを浮かべる。
「うちの財政で依頼を選んでる余裕なんてないよ、所長」
「決まりだな。報酬は妖魔と取引なんぞをしようとしたアンタへ説教する権利だ。覚悟しておけよ」
「フフ、そいつはいいな。私は市民を守る警察だからな。無条件で助ける。その代わり、説教も無条件で行うがな」
いつになく愉快そうな千尋が新の横に並ぶ。戦闘力が皆無な祐希子は後方に下がる。戦闘の開始と同時に自慢の脚力を活かして、玲子の救出を行うはずだ。
「私の配下になるのではなく、敵対するとは理解に苦しむな。自殺願望でもあったのかな?」
「話を聞いてなかったのか? 俺は探偵だ。受けた依頼に基づいて、お前を退治するだけだ。他に理由がいるかい?」
「やれやれ。とんだ見込み違いだったようだ。いいだろう。お前にも実力の差を教えてやろう」
「そいつはありがたいね。ところでお前は妖魔だろ。本来の姿にならなくていいのか」
新の忠告に、ゼードは腹を抱えて笑う。
「退魔の銃を持つとはいえ、人間ごときに本気を出すなんて恥ずかしい真似ができるものか。丁度いいハンデだよ」
人間と妖魔の身体能力の差は比べものにならない。絶対的な強者だと思っているからこその発言で、それはそのまま油断と過信へ繋がる。
「そうかい。だったら途中で発言を撤回するなんて、しまらない真似だけはやめてくれよ」
「約束しよう」
余裕を笑みで表現しながら、いちいちポーズをとるように動く。外見は美青年だが、これでは本当にナルシストだ。
「どうだ姉貴、ああいうタイプは。意外と上手くいくんじゃないか?」
「ごめんだな。私はあの手の男が大嫌いだ!」
からかいを本気で嫌がり、腰に隠していた拳銃――ニューナンブを発砲する。対妖魔を主とする特務課に配属されているだけに所持を許されているのだ。
ある意味で闇夜に相応しい発砲音が木霊し、鉛の弾丸がゼード目掛けて飛ぶ。
見た目は人間でも中身は妖魔。人間であれば反応不可能な拳銃の一撃も難なくかわす。
舌打ちしながら、千尋は腰を落とした構えで何度も引き金を引く。威嚇ではなく、危害を加えるための射撃だ。
「人間の武器では仮にまともに命中しても、私に致命傷は与えられない。それでも対妖魔を専門とする特務課の課長かね」
自身の所属を言い当てられても、千尋は驚かない。その気になれば自分で調べられるだろうし、何より裏でゼードと玲子は繋がっていたのだ。彼女に自己紹介をしているだけに、そこから辿られても不思議はなかった。
「妖魔ともあろうお方が熱心に人間の身辺調査か。ずいぶんと臆病なんだな」
「興味があると言ってほしいね。人間の肉体はなかなか快適だったりするよ。それに生殖活動は私のお気に入りの一つだ。無論、妖魔の肉体で人間の女を相手に楽しむこともできるがね」
「フン。大層な趣味だな。恐れ入る」
何度弾丸を飛ばしても回避されるか、右手を振られて消されるかのどちらかだった。埒が明かないと判断した千尋は、銃を腰に戻して接近戦を挑む。
突進から繰り出した右の握り拳を、無謀だと軽く鼻で笑っていたゼードが左手で受け止める。直後、まるで強制的に後ろへ引きずられたようにゼードの足が動かされる。原因はもちろん千尋のパンチだ。
やや離れた位置で祐希子が、衝撃的な光景に目をまん丸くしている。驚くのも無理はない。いくら強いとはいえ、これほどとは思ってなかっただろう。さすがに妖魔ほどとは言わないが、対人間であれば屈強な男相手でも互角以上にやりあえる力はある。
高校時代には、関東一円で名を売っていたレディースの女総長と三日三晩に渡って死闘を繰り広げたなんて逸話が残っているくらいだ。本当かどうかは不明だが、実際に三日ほど帰宅しなかったことが一度だけあった。
「凄い力だな。だがあくまで人間という種族の中での話。純然たる妖魔の私には通じない」
足に力を入れて踏ん張りを利かせ、逆に千尋を押し始める。さらには左手で軽々と彼女の体を持ち上げた。逆立ちさせられるような形になったと思ったら、唐突にゼードが掴んでいた千尋の右拳を離した。
垂直に落下する千尋の顔面に、ゼードの右拳が迫る。空中では避けようがないと思われたが、彼女は咄嗟に体を捻って蹴りを放ち、足裏で敵のパンチを受け止めた。
それでも相手はさすがの妖魔。しかも貴族と自分で言っていただけあって、腕力も従来の妖魔より上回っていた。
悲鳴を上げた千尋の体が、再度宙に放り出される。蹴りの威力がパンチに負けたのである。
膝が砕け散りそうな激痛に顔を歪めた彼女に、ゼードが追撃する。
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