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第23話 目的
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「アタシも行く! だってもう新の助手なんだから!」
「駄目だ! 妖魔がいると危険だ。ここでマスターたちと一緒にいろ!」
「じゃあ勝手についてく!」
「くそっ! 死んでも知らねえからな!」
「アタシ一人だけ残されるよりマシだよ。死ぬなら新と一緒がいい!」
そう言われると、何も言い返せなくなってしまう。仕方なしに新と千尋、それに祐希子の三人で店の裏にあったマスターのと思われる軽自動車に乗り込む。
「飛ばすぞ! しっかり捕まっていろ!」
シートベルトをつけたばかりの体が助手席で後ろに引っ張られる。後部座席に乗った祐希子も同様でひゃあと悲鳴を上げる。
夜も深くなると交通量は目に見えて減る。ワンとの一件があったのもあり、短い時間で墓地に到着する。
「うわ、不気味」
祐希子がそう呟くのも無理はなかった。ただでさえ墓地はシンとして独特の雰囲気がある。そこへ深夜という状況が加わったのだ。得体の知れない不安や怖さを感じても不思議はない。
車を降りた新たちの視界に、真っ白な光が飛び込んでくる。墓地の奥で発生したと思われる白光を目指し、一斉に走り出す。
奥の墓。その近くの駐車場と思われるスペースに、黒衣の女が立っていた。
新たちを確認するとフードを脱ぐ。間違いなく玖珠貫玲子だった。
「ヒントは出していたのですが、ずいぶんと遅かったですわね」
事務所に来た時とは別人のような冷めた瞳と感情がこもっていないような声。出で立ちと相まって、魔女にしか見えない彼女の肩に鴉が止まる。
「不思議な力を使えるんだな。タクシーの爆発から俺や運転手を守ったのもアンタか」
「そうですわ。貴方の動向は常に使い魔へ監視させておりました。首尾よく宝石を手に入れたまではよかったのですが、詰めが甘いですわ。使い魔を通しての援護ではあれが限界。悪く思わないでくださいましね。誰かに奪われては厄介ですので、そのまま宝石は使い魔に運ばせました。例の妖魔がそちらの彼女を攫う前ですから、涙の存在にすら気づいていなかったはずですわ」
彼女の微笑みが演出するのは穏やかさではなく、不気味さのみだ。妖魔の存在を知っており、不思議な力を使う。普通の人間でないのは、今さら議論する必要もない。
玖珠貫玲子の足元では、土の上に描かれた魔法陣が白い輝きを放っている。それこそが、先ほど新たちの見た光の正体だった。
「アンタは何者だ」
「人間ですわ。少しばかり黒魔術を扱える家で育っただけです。おかげで不便な思いをしたこともありますが、今では良い思い出ですわ」
「そうか。じゃあ、次の質問だ。堕石を使って何を企んでる」
「別に何も。そもそも堕石を望んだのは私ではありません。こちらの方ですわ」
ただの闇が広がっていたはずの玲子の背後から、一人の男が姿を現す。宝石商のゼイナードだった。
「お久しぶり……というほどではないか。堕石を手に入れてくれて礼を言うよ。私が直接手を下せればよかったんだが、そうもできない事情があってね。おかげで私の力を増大させられる」
口が裂けたような笑みを浮かべた人間の皮を被った悪魔が、本性を見せようとしている。そんな印象を受けた。現に態度や口調は出会った当初と変わっている。
「自分で動けないから、人間を使って堕石を手に入れようとしたのか」
「いかにも。幸い、そこの女が私を現世へ召還してくれてね。他の妖魔に怪しまれずにこちらへ来られた。取引を願ってきたので、代償として堕石を求めたのだよ」
「願いは死んだ夫の復活か」
新の視線の先で、当たり前ですわと言いたげに玲子は口元を歪めた。
「黒魔術師としての運命を押しつけられた私に、あの人だけが普通の女としての生活を許してくれました。私の素性を知ってなお、すべて受け入れてくれた。彼の前でだけ私は黒魔術師ではなく女でいられたのですわ。だから家を捨ててまで一緒になった。それなのに彼は病気で先に逝ってしまった。あまりに寂しく、心が張り裂けそうでしたわ。ですが私は黒魔術師。後を追うより良い方法を思いついたのです」
「妖魔を召還し、人間ではありえない力で死者の蘇生を願ったのか。恋は盲目とかいうが、愛になると頭が狂うのかね」
乾いた笑いを墓場に響かせ、新は煙草を一本吸う。肺に染み渡る煙を吐き出すが、アホかという言葉は出さない。
「まあ、完全に理性が崩壊してたわけじゃなさそうだけどな。妖魔との取引の危険性に気づいてたからこそ、わざわざあれこれと手を回したんだろ?」
「どういうことだ?」千尋が声を潜める。
「最初から彼女の計画通りだったってことさ。涙を普通に受け取ったら話はそこで終わりだ。けど奪われた形にすれば俺は追う。タクシーの爆発もアンタの仕業だな? ワンはストーカーよろしく祐希子を尾行してただけだろう。他人のせいにするのはよくないぞ」
「ウフフ。せっかく演技をしてさしあげましたのに、バラすなんて酷いですわ。ですけど正解です。私との取引に応じない場合の保険として、錦鯉さんをこの場に同席させるため、あえて涙を奪わせていただきました」
「道理で怪我の具合なんかも普通と違ってたわけだ。ワンの行動も予想通りか?」
「いいえ。あれは正直誤算でしたわ。錦鯉さんが殺されたらどうしようかと、はらはらしていましたもの」
使い魔を通して現場を見ていた彼女のことだ。もし新が本当に窮地を迎えていれば、何らかの手助けをしていたに違いない。策士としかいいようのない女性だが、それでも完璧とは言えなかった。
半分ほど吸った煙草を携帯灰皿へ捨て、新は皮肉たっぷりに笑いかける。
「さっきアンタは俺を詰めが甘いと評したが、人の事は言えないと思うぜ。そこの妖魔だった宝石商の狙いも、俺をこの場に呼ぶことだ。そうだろ?」
玲子は驚愕し、ゼイナードは「ほう」と愉快そうにする。
「どうしてそう思った?」
「俺という存在を知ってなお、お前が余裕だからだよ」
「当然だな。元々、堕石を探すための手段としてお前を紹介したのは私だ。結果としてお前の推理は正しくなかったなが半分は正解だ。紹介すれば女はお前を調べ、退魔の能力を知ることとなり、最終的な取引の場に対抗手段として連れてくる。面倒は嫌いなのでね。用事をいっぺんに済ませたかったのさ」
本当にそれ以外の理由はなさそうだった。玲子みたいに策を弄するわけでもなく、気分のままに行動しているようにも思える。
「で、お前の目的は何だ」
「単純だよ。君に配下となってもらいたいんだ。その銃の力は私の役に立つからね」
「何のために?」
「妖魔の暮らす魔界で私が覇権を取るためだ。他に理由はない。君の力はすでに確かめた。探している猫に似せた妖魔を使ってね」
なるほどと思ったところで、ヒステリックな声が会話に乱入してきた。
「妖魔の狙いなんでどうでもいいですわ! 私の願いはただ一つ。目的の物は渡したのですから、あの人を一刻も早く蘇らせていただきます!」
想いをぶつけるように腹から声を出した玲子へ、ゼイナードが返したのは冷ややかな笑みだった。
「お前は阿呆か」
「な……約束を違えるつもりですか!」
「違えるも何も、最初から叶えるつもりなどないわ。そもそも死者を復活させるなど不可能。叶いもしない絵空事を願い、必死に頑張る姿は実に滑稽だったぞ。この私に演技とはいえ、様付けで呼んでもらえたのだ。思い残すことはあるまい」
愕然とした玲子が、見開いていた目を真剣のごとく尖らせる。
膨大な殺気が場に満ちていくも、妖魔であるゼイナードには何の脅しにもならない。
「人間ごときが私に歯向かうか。よかろう。首尾よく宝石と退魔士をここへ運んできた褒美に、苦しまずに殺してやる。この妖魔貴族のゼード男爵がな!」
緊迫する空気の中で怯えているかと思いきや、新の側にいた祐希子が「うわ」と声を出した。
「あの人、自分で男爵とか言っちゃったよ。恥ずかしくないのかな。それに名前を言い間違えたよね。むしろあの人が阿呆だよ」
あえてなのかは不明だが、小声ではなかったので、罵倒ともとれる祐希子の台詞はしっかりと妖魔だった宝石商に届いたみたいだった。
「愉快な発言をしてくれる。人間と同様に妖魔にも社会がある。その中で上位妖魔を貴族と呼ぶのだ。そして私は男爵に位置する。貴族と呼ばれる妖魔は極少数。人間の退魔士が滅ぼして調子に乗っているのはすべて下位妖魔にすぎんのだよ。それと私の真なる名前がゼードなのだ。人間の前に出るにあたって名前を変えていたにすぎん」
「なんでだよ」
「説明する必要はあるまい。阿呆なお前には理解できないからな」
むっとした祐希子が、答えを教えろとばかりに新を見た。
「ひと言で説明すると、奴がビビリだったってことさ。言ってたろ? 事情があって直接動けなかったって。それはつまり独自に行動して、自分より上の妖魔に目をつけられるのを恐れたからだ。堕石を欲したのも、俺を部下にしようとしてるのも、下剋上を企む野心はあっても実力が足りないからだ」
「要するに口だけ大将ってことじゃないか。ださっ!」
こめかみをヒクつかせるゼードは、完全に怒りの矛先を祐希子へ向けたみたいだった。
「お前、ガーディアンで会った時は素敵とか言って頬を赤らめてなかったか?」
「だって恰好いいんだもん。外見だけだったけど。やっぱり、男って見た目だけじゃ駄目だよね」
新と祐希子の会話に、敵のゼードではなく千尋がやや大げさなため息をつく。
「お前たちはいつもこうなのか。少しは緊張感を持ったらどうだ」
「まったくだ。私を不愉快にさせて隙を作る計略なのだろうが、もう少し上手くやるべきだな。その程度では――」
台詞の途中で鴉の大群が、背後からゼードに襲い掛かった。鴉が飛んできた方には瞳を涙に濡らして、両手を前に突き出している玲子がいた。
「駄目だ! 妖魔がいると危険だ。ここでマスターたちと一緒にいろ!」
「じゃあ勝手についてく!」
「くそっ! 死んでも知らねえからな!」
「アタシ一人だけ残されるよりマシだよ。死ぬなら新と一緒がいい!」
そう言われると、何も言い返せなくなってしまう。仕方なしに新と千尋、それに祐希子の三人で店の裏にあったマスターのと思われる軽自動車に乗り込む。
「飛ばすぞ! しっかり捕まっていろ!」
シートベルトをつけたばかりの体が助手席で後ろに引っ張られる。後部座席に乗った祐希子も同様でひゃあと悲鳴を上げる。
夜も深くなると交通量は目に見えて減る。ワンとの一件があったのもあり、短い時間で墓地に到着する。
「うわ、不気味」
祐希子がそう呟くのも無理はなかった。ただでさえ墓地はシンとして独特の雰囲気がある。そこへ深夜という状況が加わったのだ。得体の知れない不安や怖さを感じても不思議はない。
車を降りた新たちの視界に、真っ白な光が飛び込んでくる。墓地の奥で発生したと思われる白光を目指し、一斉に走り出す。
奥の墓。その近くの駐車場と思われるスペースに、黒衣の女が立っていた。
新たちを確認するとフードを脱ぐ。間違いなく玖珠貫玲子だった。
「ヒントは出していたのですが、ずいぶんと遅かったですわね」
事務所に来た時とは別人のような冷めた瞳と感情がこもっていないような声。出で立ちと相まって、魔女にしか見えない彼女の肩に鴉が止まる。
「不思議な力を使えるんだな。タクシーの爆発から俺や運転手を守ったのもアンタか」
「そうですわ。貴方の動向は常に使い魔へ監視させておりました。首尾よく宝石を手に入れたまではよかったのですが、詰めが甘いですわ。使い魔を通しての援護ではあれが限界。悪く思わないでくださいましね。誰かに奪われては厄介ですので、そのまま宝石は使い魔に運ばせました。例の妖魔がそちらの彼女を攫う前ですから、涙の存在にすら気づいていなかったはずですわ」
彼女の微笑みが演出するのは穏やかさではなく、不気味さのみだ。妖魔の存在を知っており、不思議な力を使う。普通の人間でないのは、今さら議論する必要もない。
玖珠貫玲子の足元では、土の上に描かれた魔法陣が白い輝きを放っている。それこそが、先ほど新たちの見た光の正体だった。
「アンタは何者だ」
「人間ですわ。少しばかり黒魔術を扱える家で育っただけです。おかげで不便な思いをしたこともありますが、今では良い思い出ですわ」
「そうか。じゃあ、次の質問だ。堕石を使って何を企んでる」
「別に何も。そもそも堕石を望んだのは私ではありません。こちらの方ですわ」
ただの闇が広がっていたはずの玲子の背後から、一人の男が姿を現す。宝石商のゼイナードだった。
「お久しぶり……というほどではないか。堕石を手に入れてくれて礼を言うよ。私が直接手を下せればよかったんだが、そうもできない事情があってね。おかげで私の力を増大させられる」
口が裂けたような笑みを浮かべた人間の皮を被った悪魔が、本性を見せようとしている。そんな印象を受けた。現に態度や口調は出会った当初と変わっている。
「自分で動けないから、人間を使って堕石を手に入れようとしたのか」
「いかにも。幸い、そこの女が私を現世へ召還してくれてね。他の妖魔に怪しまれずにこちらへ来られた。取引を願ってきたので、代償として堕石を求めたのだよ」
「願いは死んだ夫の復活か」
新の視線の先で、当たり前ですわと言いたげに玲子は口元を歪めた。
「黒魔術師としての運命を押しつけられた私に、あの人だけが普通の女としての生活を許してくれました。私の素性を知ってなお、すべて受け入れてくれた。彼の前でだけ私は黒魔術師ではなく女でいられたのですわ。だから家を捨ててまで一緒になった。それなのに彼は病気で先に逝ってしまった。あまりに寂しく、心が張り裂けそうでしたわ。ですが私は黒魔術師。後を追うより良い方法を思いついたのです」
「妖魔を召還し、人間ではありえない力で死者の蘇生を願ったのか。恋は盲目とかいうが、愛になると頭が狂うのかね」
乾いた笑いを墓場に響かせ、新は煙草を一本吸う。肺に染み渡る煙を吐き出すが、アホかという言葉は出さない。
「まあ、完全に理性が崩壊してたわけじゃなさそうだけどな。妖魔との取引の危険性に気づいてたからこそ、わざわざあれこれと手を回したんだろ?」
「どういうことだ?」千尋が声を潜める。
「最初から彼女の計画通りだったってことさ。涙を普通に受け取ったら話はそこで終わりだ。けど奪われた形にすれば俺は追う。タクシーの爆発もアンタの仕業だな? ワンはストーカーよろしく祐希子を尾行してただけだろう。他人のせいにするのはよくないぞ」
「ウフフ。せっかく演技をしてさしあげましたのに、バラすなんて酷いですわ。ですけど正解です。私との取引に応じない場合の保険として、錦鯉さんをこの場に同席させるため、あえて涙を奪わせていただきました」
「道理で怪我の具合なんかも普通と違ってたわけだ。ワンの行動も予想通りか?」
「いいえ。あれは正直誤算でしたわ。錦鯉さんが殺されたらどうしようかと、はらはらしていましたもの」
使い魔を通して現場を見ていた彼女のことだ。もし新が本当に窮地を迎えていれば、何らかの手助けをしていたに違いない。策士としかいいようのない女性だが、それでも完璧とは言えなかった。
半分ほど吸った煙草を携帯灰皿へ捨て、新は皮肉たっぷりに笑いかける。
「さっきアンタは俺を詰めが甘いと評したが、人の事は言えないと思うぜ。そこの妖魔だった宝石商の狙いも、俺をこの場に呼ぶことだ。そうだろ?」
玲子は驚愕し、ゼイナードは「ほう」と愉快そうにする。
「どうしてそう思った?」
「俺という存在を知ってなお、お前が余裕だからだよ」
「当然だな。元々、堕石を探すための手段としてお前を紹介したのは私だ。結果としてお前の推理は正しくなかったなが半分は正解だ。紹介すれば女はお前を調べ、退魔の能力を知ることとなり、最終的な取引の場に対抗手段として連れてくる。面倒は嫌いなのでね。用事をいっぺんに済ませたかったのさ」
本当にそれ以外の理由はなさそうだった。玲子みたいに策を弄するわけでもなく、気分のままに行動しているようにも思える。
「で、お前の目的は何だ」
「単純だよ。君に配下となってもらいたいんだ。その銃の力は私の役に立つからね」
「何のために?」
「妖魔の暮らす魔界で私が覇権を取るためだ。他に理由はない。君の力はすでに確かめた。探している猫に似せた妖魔を使ってね」
なるほどと思ったところで、ヒステリックな声が会話に乱入してきた。
「妖魔の狙いなんでどうでもいいですわ! 私の願いはただ一つ。目的の物は渡したのですから、あの人を一刻も早く蘇らせていただきます!」
想いをぶつけるように腹から声を出した玲子へ、ゼイナードが返したのは冷ややかな笑みだった。
「お前は阿呆か」
「な……約束を違えるつもりですか!」
「違えるも何も、最初から叶えるつもりなどないわ。そもそも死者を復活させるなど不可能。叶いもしない絵空事を願い、必死に頑張る姿は実に滑稽だったぞ。この私に演技とはいえ、様付けで呼んでもらえたのだ。思い残すことはあるまい」
愕然とした玲子が、見開いていた目を真剣のごとく尖らせる。
膨大な殺気が場に満ちていくも、妖魔であるゼイナードには何の脅しにもならない。
「人間ごときが私に歯向かうか。よかろう。首尾よく宝石と退魔士をここへ運んできた褒美に、苦しまずに殺してやる。この妖魔貴族のゼード男爵がな!」
緊迫する空気の中で怯えているかと思いきや、新の側にいた祐希子が「うわ」と声を出した。
「あの人、自分で男爵とか言っちゃったよ。恥ずかしくないのかな。それに名前を言い間違えたよね。むしろあの人が阿呆だよ」
あえてなのかは不明だが、小声ではなかったので、罵倒ともとれる祐希子の台詞はしっかりと妖魔だった宝石商に届いたみたいだった。
「愉快な発言をしてくれる。人間と同様に妖魔にも社会がある。その中で上位妖魔を貴族と呼ぶのだ。そして私は男爵に位置する。貴族と呼ばれる妖魔は極少数。人間の退魔士が滅ぼして調子に乗っているのはすべて下位妖魔にすぎんのだよ。それと私の真なる名前がゼードなのだ。人間の前に出るにあたって名前を変えていたにすぎん」
「なんでだよ」
「説明する必要はあるまい。阿呆なお前には理解できないからな」
むっとした祐希子が、答えを教えろとばかりに新を見た。
「ひと言で説明すると、奴がビビリだったってことさ。言ってたろ? 事情があって直接動けなかったって。それはつまり独自に行動して、自分より上の妖魔に目をつけられるのを恐れたからだ。堕石を欲したのも、俺を部下にしようとしてるのも、下剋上を企む野心はあっても実力が足りないからだ」
「要するに口だけ大将ってことじゃないか。ださっ!」
こめかみをヒクつかせるゼードは、完全に怒りの矛先を祐希子へ向けたみたいだった。
「お前、ガーディアンで会った時は素敵とか言って頬を赤らめてなかったか?」
「だって恰好いいんだもん。外見だけだったけど。やっぱり、男って見た目だけじゃ駄目だよね」
新と祐希子の会話に、敵のゼードではなく千尋がやや大げさなため息をつく。
「お前たちはいつもこうなのか。少しは緊張感を持ったらどうだ」
「まったくだ。私を不愉快にさせて隙を作る計略なのだろうが、もう少し上手くやるべきだな。その程度では――」
台詞の途中で鴉の大群が、背後からゼードに襲い掛かった。鴉が飛んできた方には瞳を涙に濡らして、両手を前に突き出している玲子がいた。
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