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第17話 条件と襲撃
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「博識なご老体なら、俺が説明するまでもないかと。で、淑女の涙は本当に堕石なのか?」
「そこまで知っているか。特殊な銃で妖魔を撃つ以外はまだまだと聞いておったが、なかなかどうして。優秀な情報源を用意できるかどうかも含めて、その者の才覚じゃ。誇ってよいぞ」
「それはどうも。才覚がありすぎて、どこぞの家出娘を抱え込むはめになってしまったけどな」
「そのおかげで、お主はワシとの繋がりができた。もっと喜ぶべきじゃな。それに――」源三郎の目が危険な輝きを放つ。「責任を取る気はあるのじゃろうな」
「責任ってそんな……」
先ほどまでの怒りはどこへやら。照れたように目を細めた祐希子が、チラチラと新を見てくる。こっち見んなと言いたい衝動を抑え、肩を竦めて回答代わりにする、
「姉貴から逐一情報を貰っていたんだ。どんな状況だったかは知っているはず。それに俺が少しでも手を出すそぶりを見せていれば、強引にでも祐希子を連れ戻していただろ。事務所には隠しカメラも設置しているんだしな」
「えっ!? 隠しカメラ……」
「さすがにシャワーやトイレにまでは設置してないだろ。恐らくは事務所全体を見渡せる位置にあるはずだ。姉貴が共犯者なら、いくらでも仕込める」
悪びれもせずに源三郎は笑う。言葉はなくとも、肯定しているも同然だった。
油断も隙もないと愚痴る祐希子の放置を続け、新は逸れてしまった話を元の位置まで修正する。
「それで淑女の涙は――」
「――お茶でございます。フフフ」
話を途中で遮るように、メイドの中年女性がアンティークのカップに紅茶を注いで持ってきた。テーブルに一つずつ置いていく間も意味ありげな笑みを絶やさない。
インターホン越しに会話をしている時から思っていたが、このメイドは常に怪しげだった。もしかして、源三郎と結託して何かを企んでいるのだろうか、
警戒を続ける新の隣で、思案顔から心情を理解した祐希子が囁く。「あの人は昔からああだよ」
そうかと新は頷く。何事も疑い深いのはよくないが、慎重になるのは悪いことではない。視線をメイドから逸らすと、不意に源三郎と目が合った。
「素敵じゃろう。婆さんの若い頃を思い出す。毎日キャッキャッウフフしたいくらいじゃ」
臆面もなく言いだした源三郎に、孫娘でなくとも頭を抱えたくなる。
「孫娘の家出の原因がわかったぜ。連れと死別したからって、屋敷の中でメイドと人目を気にせずにイチャつくのはどうかと思うぞ」
「お主は何を言っておるんじゃ。婆さんは生きておるぞ」
突如として切なげな視線を感じて、慌てて新は振り向いた。
ドア横の部屋の隅。やや大きめの壺が置かれた台座に隠れるようにして、高価そうな着物姿の老婆が立っていた。
「うお!? 壺の陰で婆さんが泣いてやがる!」
「なーんちゃって。冗談でしたー」
響いた場違いな明るい声を合図に、笑顔になった婆さんが部屋から出て行った。どうやらこのためだけに仕込んだようである。頭を抱えたい気分が悪化して、暴力的な衝動に駆られる。
「とりあえずこのジジイ、殴っていいか」
冷めた目の孫娘が間髪入れずに承諾する。「どうぞ」
「待て。お遊びはここまでにしていただこう」
誰が始めたんだと小一時間くらい問い詰めたい気分だったが、本題を思い出してくれるなら文句を言う必要はない。
真面目な顔つきに戻った源三郎が、改めて淑女の涙は水島家にあると告げた。
「お主にくれてやっても構わぬが、条件がある。孫娘――祐希子がこの家に戻ることだ。そうすれば礼として進呈しよう」
悪くない話である。不良から救ってやったのがきっかけで、居候されてしまっただけの関係。あくまでも他人の新と暮らすよりは、気に入らない点があっても血の繋がっている家族と同居した方がいい。
「孫娘の両親は、トラックのよそ見運転による衝突事故で他界してしまっておる。奇跡的に助かった祐希子を見守っていくことこそ、ワシの使命だと思っておる」
そうした事情があればなおさらなのだが、祐希子は浮かない顔をしていた。
そして、新が決断を下すのを恐れるように立ち上がって駆けだした。目指しているのは応接室のドアだ。
止めようとするメイドを振り切るようにして退室する。その際に彼女の足元へ透明な雫が落ちるのを新は見た。不良に絡まれている最中でも、敵意を失わなかった少女が泣いていたのである。
「やれやれ。この話は、とりあえず後回しだな」
特に反論も出なかったので、新は祐希子を追いかける。
さすがは元短距離選手なだけに足の速さは相当だ。家の内部を知っているのもあって、すでに姿が見えなくなっている。
山の中にある水島家の周辺は街灯が少ない。車の通行量も少ないように見受けられた。市内へ戻るにしても、まだバスがあるかはわからない。仮にあったとしても、待っている間は暗い夜道に一人きりだ。
外見は可愛らしい美少女なので危険に晒されてもおかしくない。現に家出をしたあとは執拗に絡まれていた。偶然通りかかった新が助けていなければ、大変な事態に陥っていたかもしれないのだ。
独り言を呟く暇すら惜しい。屋敷から外に出た新は懸命に両足を動かす。学生時代は体育祭でリレーの選手に推薦されたこともあるので、もっと走れたはずなのに運動不足がたたってわりとすぐに息が上がる。
門を出て、市内方面の道を歩き出した頃には、早くも膝が頼りなさを発揮して震えてくれていた。
「くそ。アイツはどこに――」
タイミングが良いのか悪いのか。呼吸を整えるために立ち止まった直後、闇夜を切り裂く少女の悲鳴が木霊した。
嫌な予感が新の中で膨れ上がる。先ほどの悲鳴は、祐希子のとしか思えなかった。
「あっちか。手間をかけさせてくれる!」
ジャケットの裏ポケットに銃があるのを確認してから、声のした前方へ移動する。走り続けているせいで体温が急速に上昇し、額どころか全身に汗をかく。
舗装された道路の周囲は大半が木々に覆われた林である。中に入り込まれたら、さすがに追いようがない。歩道にいるのを祈りつつ、可能な限り急ぐ。
「嫌だっ! 離せっ!」
抵抗する声がして、両腕の手首を掴まれながらも懸命に暴れる祐希子が新の視界に飛び込んできた。
夜特有の冷たさを含んだ風が目に入り、微かな痛みを生じさせるもそんなことは言っていられない。
「妖魔だと……何でこんなとこにいる!」
祐希子を襲っているのは身長一メートル程度の異形――それこそゲーム内に出てくるゴブリンのごとき小鬼だった。
伸びるタイプのハーフパンツ一丁で上半身は裸。靴すら履いていない。額から小さな角が生えており、開かれている口からは二本の牙が覗く。人間でいうところの犬歯が極端に発達してるような感じだ。
肌の色は不気味さしかない暗い緑。髪の毛はなく、常に充血しているような赤い目の中でビー玉にも似た黒い瞳がギョロリと動く。身体的特徴の多くが普通の人間とは違っていた。
右手で懐のジュエルガンを取り出す。ジャケットのサイドポケットから、指輪でも入れるような大きさの正方形の缶箱を左手に持ち、片手で蓋を開ける。
落とさないように気を遣いながら、親指と人差し指で挟むのは弾丸代わりとなる宝石だ。悠長に選んでる余裕はない。まずは威嚇ついでに一発撃ち込む。上手くすれば公園で妖魔化した猫を倒した時みたいに、想定以上の威力を発揮して初手で倒せるかもしれない。
逆だと注意すら引けずに終わる可能性もあるが、祐希子のいる場所までは百メートル以上残っている。手遅れになるよりは、行動を起こすべきだと判断した。
改造されたカートリッジ部分に詰め込んでチャージしたのは、いつどこで購入したのかも覚えていない小さなトパーズだった。
発射可能までの時間がやけに長く感じられる。初めて見るタイプの妖魔を、似ているという理由で勝手にゴブリンと命名し、焦りを押し殺して狙いを定める。
引き金は引けない。チャージが終わってない状態では発射されず、試したことはないが、下手したら暴発してもおかしくない。
「汚い顔をアタシに近づけるなよォ! 新っ! 助けて、新――っ!」
「仕方ねえから、依頼料は格安にしといてやるぜ! 祐希子、頭を下げろ!」
怒鳴るように叫んだ新の指示が聞こえたらしく、泣きそうな顔のままながらも祐希子は言われた通りにした。
上出来だ。頭の中で褒めながら、ようやく準備を終えてくれたジュエルガンを撃つ。左の手のひらで支え、右手で握った銃が火を噴くように熱くなる。
放射されたトパーズの弾丸が、黄色いラインを描いて流星のごとく闇夜の下を疾走する。
弾丸が宝石になろうとも、その速度は並の人間が感知できる速度ではない。五感が人間より発達していると思われる妖魔でさえも、簡単には避けられないほどである。
祐希子へ声を飛ばした際に存在を知られてしまったが、不意打ちに近い形で射撃はできた。距離があるのですぐに着弾とはいかないが、彼女を拘束したままで避けるのは難しい。
新の予想通り、瞬間的に祐希子から手を離したゴブリンは焦り顔でバックステップする。だが完全には回避しきれず、左手の前腕部に宝石弾がめり込む。直後に爆発したように腕の一部が弾け、まるでメロンを絞ったかのような液体がそこかしこに飛び散った。
悲鳴を上げたゴブリンが右手で左手を抑え、強い怨嗟を宿した目で新を睨んだ。
牽制するための一撃だったが、それなりのダメージを与えられたらしい。妖魔との戦闘も初めてではないので、脅すような態度を取られたところでいちいち臆したりはしない。
新とゴブリンが視線を正面からぶつけ合わせる間に、自慢の脚力で祐希子がこちらへ逃げてくる。すでに次の宝石を仕込んでいた新は、援護のためにトリガーを絞る。周囲に人工的な光がほぼ存在しないだけに、アクアマリンの青い輝きが暗い世界の中でより強調される。
「そこまで知っているか。特殊な銃で妖魔を撃つ以外はまだまだと聞いておったが、なかなかどうして。優秀な情報源を用意できるかどうかも含めて、その者の才覚じゃ。誇ってよいぞ」
「それはどうも。才覚がありすぎて、どこぞの家出娘を抱え込むはめになってしまったけどな」
「そのおかげで、お主はワシとの繋がりができた。もっと喜ぶべきじゃな。それに――」源三郎の目が危険な輝きを放つ。「責任を取る気はあるのじゃろうな」
「責任ってそんな……」
先ほどまでの怒りはどこへやら。照れたように目を細めた祐希子が、チラチラと新を見てくる。こっち見んなと言いたい衝動を抑え、肩を竦めて回答代わりにする、
「姉貴から逐一情報を貰っていたんだ。どんな状況だったかは知っているはず。それに俺が少しでも手を出すそぶりを見せていれば、強引にでも祐希子を連れ戻していただろ。事務所には隠しカメラも設置しているんだしな」
「えっ!? 隠しカメラ……」
「さすがにシャワーやトイレにまでは設置してないだろ。恐らくは事務所全体を見渡せる位置にあるはずだ。姉貴が共犯者なら、いくらでも仕込める」
悪びれもせずに源三郎は笑う。言葉はなくとも、肯定しているも同然だった。
油断も隙もないと愚痴る祐希子の放置を続け、新は逸れてしまった話を元の位置まで修正する。
「それで淑女の涙は――」
「――お茶でございます。フフフ」
話を途中で遮るように、メイドの中年女性がアンティークのカップに紅茶を注いで持ってきた。テーブルに一つずつ置いていく間も意味ありげな笑みを絶やさない。
インターホン越しに会話をしている時から思っていたが、このメイドは常に怪しげだった。もしかして、源三郎と結託して何かを企んでいるのだろうか、
警戒を続ける新の隣で、思案顔から心情を理解した祐希子が囁く。「あの人は昔からああだよ」
そうかと新は頷く。何事も疑い深いのはよくないが、慎重になるのは悪いことではない。視線をメイドから逸らすと、不意に源三郎と目が合った。
「素敵じゃろう。婆さんの若い頃を思い出す。毎日キャッキャッウフフしたいくらいじゃ」
臆面もなく言いだした源三郎に、孫娘でなくとも頭を抱えたくなる。
「孫娘の家出の原因がわかったぜ。連れと死別したからって、屋敷の中でメイドと人目を気にせずにイチャつくのはどうかと思うぞ」
「お主は何を言っておるんじゃ。婆さんは生きておるぞ」
突如として切なげな視線を感じて、慌てて新は振り向いた。
ドア横の部屋の隅。やや大きめの壺が置かれた台座に隠れるようにして、高価そうな着物姿の老婆が立っていた。
「うお!? 壺の陰で婆さんが泣いてやがる!」
「なーんちゃって。冗談でしたー」
響いた場違いな明るい声を合図に、笑顔になった婆さんが部屋から出て行った。どうやらこのためだけに仕込んだようである。頭を抱えたい気分が悪化して、暴力的な衝動に駆られる。
「とりあえずこのジジイ、殴っていいか」
冷めた目の孫娘が間髪入れずに承諾する。「どうぞ」
「待て。お遊びはここまでにしていただこう」
誰が始めたんだと小一時間くらい問い詰めたい気分だったが、本題を思い出してくれるなら文句を言う必要はない。
真面目な顔つきに戻った源三郎が、改めて淑女の涙は水島家にあると告げた。
「お主にくれてやっても構わぬが、条件がある。孫娘――祐希子がこの家に戻ることだ。そうすれば礼として進呈しよう」
悪くない話である。不良から救ってやったのがきっかけで、居候されてしまっただけの関係。あくまでも他人の新と暮らすよりは、気に入らない点があっても血の繋がっている家族と同居した方がいい。
「孫娘の両親は、トラックのよそ見運転による衝突事故で他界してしまっておる。奇跡的に助かった祐希子を見守っていくことこそ、ワシの使命だと思っておる」
そうした事情があればなおさらなのだが、祐希子は浮かない顔をしていた。
そして、新が決断を下すのを恐れるように立ち上がって駆けだした。目指しているのは応接室のドアだ。
止めようとするメイドを振り切るようにして退室する。その際に彼女の足元へ透明な雫が落ちるのを新は見た。不良に絡まれている最中でも、敵意を失わなかった少女が泣いていたのである。
「やれやれ。この話は、とりあえず後回しだな」
特に反論も出なかったので、新は祐希子を追いかける。
さすがは元短距離選手なだけに足の速さは相当だ。家の内部を知っているのもあって、すでに姿が見えなくなっている。
山の中にある水島家の周辺は街灯が少ない。車の通行量も少ないように見受けられた。市内へ戻るにしても、まだバスがあるかはわからない。仮にあったとしても、待っている間は暗い夜道に一人きりだ。
外見は可愛らしい美少女なので危険に晒されてもおかしくない。現に家出をしたあとは執拗に絡まれていた。偶然通りかかった新が助けていなければ、大変な事態に陥っていたかもしれないのだ。
独り言を呟く暇すら惜しい。屋敷から外に出た新は懸命に両足を動かす。学生時代は体育祭でリレーの選手に推薦されたこともあるので、もっと走れたはずなのに運動不足がたたってわりとすぐに息が上がる。
門を出て、市内方面の道を歩き出した頃には、早くも膝が頼りなさを発揮して震えてくれていた。
「くそ。アイツはどこに――」
タイミングが良いのか悪いのか。呼吸を整えるために立ち止まった直後、闇夜を切り裂く少女の悲鳴が木霊した。
嫌な予感が新の中で膨れ上がる。先ほどの悲鳴は、祐希子のとしか思えなかった。
「あっちか。手間をかけさせてくれる!」
ジャケットの裏ポケットに銃があるのを確認してから、声のした前方へ移動する。走り続けているせいで体温が急速に上昇し、額どころか全身に汗をかく。
舗装された道路の周囲は大半が木々に覆われた林である。中に入り込まれたら、さすがに追いようがない。歩道にいるのを祈りつつ、可能な限り急ぐ。
「嫌だっ! 離せっ!」
抵抗する声がして、両腕の手首を掴まれながらも懸命に暴れる祐希子が新の視界に飛び込んできた。
夜特有の冷たさを含んだ風が目に入り、微かな痛みを生じさせるもそんなことは言っていられない。
「妖魔だと……何でこんなとこにいる!」
祐希子を襲っているのは身長一メートル程度の異形――それこそゲーム内に出てくるゴブリンのごとき小鬼だった。
伸びるタイプのハーフパンツ一丁で上半身は裸。靴すら履いていない。額から小さな角が生えており、開かれている口からは二本の牙が覗く。人間でいうところの犬歯が極端に発達してるような感じだ。
肌の色は不気味さしかない暗い緑。髪の毛はなく、常に充血しているような赤い目の中でビー玉にも似た黒い瞳がギョロリと動く。身体的特徴の多くが普通の人間とは違っていた。
右手で懐のジュエルガンを取り出す。ジャケットのサイドポケットから、指輪でも入れるような大きさの正方形の缶箱を左手に持ち、片手で蓋を開ける。
落とさないように気を遣いながら、親指と人差し指で挟むのは弾丸代わりとなる宝石だ。悠長に選んでる余裕はない。まずは威嚇ついでに一発撃ち込む。上手くすれば公園で妖魔化した猫を倒した時みたいに、想定以上の威力を発揮して初手で倒せるかもしれない。
逆だと注意すら引けずに終わる可能性もあるが、祐希子のいる場所までは百メートル以上残っている。手遅れになるよりは、行動を起こすべきだと判断した。
改造されたカートリッジ部分に詰め込んでチャージしたのは、いつどこで購入したのかも覚えていない小さなトパーズだった。
発射可能までの時間がやけに長く感じられる。初めて見るタイプの妖魔を、似ているという理由で勝手にゴブリンと命名し、焦りを押し殺して狙いを定める。
引き金は引けない。チャージが終わってない状態では発射されず、試したことはないが、下手したら暴発してもおかしくない。
「汚い顔をアタシに近づけるなよォ! 新っ! 助けて、新――っ!」
「仕方ねえから、依頼料は格安にしといてやるぜ! 祐希子、頭を下げろ!」
怒鳴るように叫んだ新の指示が聞こえたらしく、泣きそうな顔のままながらも祐希子は言われた通りにした。
上出来だ。頭の中で褒めながら、ようやく準備を終えてくれたジュエルガンを撃つ。左の手のひらで支え、右手で握った銃が火を噴くように熱くなる。
放射されたトパーズの弾丸が、黄色いラインを描いて流星のごとく闇夜の下を疾走する。
弾丸が宝石になろうとも、その速度は並の人間が感知できる速度ではない。五感が人間より発達していると思われる妖魔でさえも、簡単には避けられないほどである。
祐希子へ声を飛ばした際に存在を知られてしまったが、不意打ちに近い形で射撃はできた。距離があるのですぐに着弾とはいかないが、彼女を拘束したままで避けるのは難しい。
新の予想通り、瞬間的に祐希子から手を離したゴブリンは焦り顔でバックステップする。だが完全には回避しきれず、左手の前腕部に宝石弾がめり込む。直後に爆発したように腕の一部が弾け、まるでメロンを絞ったかのような液体がそこかしこに飛び散った。
悲鳴を上げたゴブリンが右手で左手を抑え、強い怨嗟を宿した目で新を睨んだ。
牽制するための一撃だったが、それなりのダメージを与えられたらしい。妖魔との戦闘も初めてではないので、脅すような態度を取られたところでいちいち臆したりはしない。
新とゴブリンが視線を正面からぶつけ合わせる間に、自慢の脚力で祐希子がこちらへ逃げてくる。すでに次の宝石を仕込んでいた新は、援護のためにトリガーを絞る。周囲に人工的な光がほぼ存在しないだけに、アクアマリンの青い輝きが暗い世界の中でより強調される。
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