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第7話 ギャルな店員
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「朝――というか、昨日の夜からゴタゴタしててね。ろくに寝てないんだ。昼まで寝てるつもりだったのになぁ」
「それは災難でしたね。朝食がまだなのでしたら、何かお作りしましょうか?」
素直にお願いして、カウンターテーブルの左隅に座る。入口から一番近いところが新の指定席だ。
よくサービスしてもらったりするので、他のお客さんで賑わってきた時にすぐ出られるようにするためでもある。
マスターは気を遣いすぎだと苦笑していたが、新に変えるつもりはなかった。
カウンター内の調理スペースで、マスターが手際よく朝食を作ってくれる。
すぐにハムとレタスにトマト、それに卵のサンドイッチとコンソメスープが出てきた。サンドイッチは食パン二枚に具材を挟み、真ん中から切った形のものが合計四つ。食パン換算で四枚分だ。
朝からはそこそこの量だが、さっぱりとした味なのでするっと胃袋に収まっていく。この分なら昼と兼用にしてもよさそうだ。
言葉もなく口内へサンドイッチを詰め込んでいると、カウンターの奥から一人の女性が顔を出した。
ドアを隔てた奥は勝手口があり、ワインなどを保管する地下倉庫へ通じる入口もあるらしかった。
ガーディアンの雇われ従業員である彼女は、そちらから店内へやってきた。
「なんか、いるしィ。しかも超フツーに朝飯食っちゃってるしィ。マジ意味わかんないんだけどぉ」
甘ったるさを含んだおよそ店員とは思えない口調だが、こういう女性だとわかっているので、新は別に怒ったりはしない。
「相変わらずだな。それで客からクレームが入らねえってんだから、ある意味感心するぜ」
「当たり前じゃん。むしろ里穂と会話できて、中年親父どもは超ラッキーって感じィ? マスター目当ての牝どもに睨まれるのはウゼーけどぉ」
自ら呼んだ通り、彼女の名前は里穂という。名字は泉で、ミドルボブの金髪が特徴だ。
褐色肌にばっちりと決まったメイクはまさにギャルで、目元には星のシールみたいなのが銀色に輝いている。
ピッチリしたTシャツは肩が広く開いていて、赤のブラ紐が見える。Tシャツは黒なので透けて見えたりはしないが、少しでも屈めば豊かな胸元と一緒に下着が丸見えになる。
新は紳士なので覗いたりはしないが、偶然の機会が訪れれば遠慮なく堪能させてもらうつもりだった。
「キャハハ! 新、里穂が来た時から、目が超エロくなってんだけどぉ。朝飯食べながらのおっ立て系? マジウケるぅ」
「俺はお前の存在にマジウケ中だけどな」
サンドイッチを頬張る手を止めずに、ラインにフィットする小さめのジーンズ生地のホットパンツに黒のニーソ、靴はヒールという恰好の里穂の相手をする。
存在自体が冗談みたいなギャル女なので、真面目に対応するとこちらの精神が破壊される。彼女が雇われた初日に身をもって理解して以来、会話は適当に流すように心がけていた。
耳にリングピアスをつけ、ネックレスに指輪など身につけているアクセサリーも豊富で、見るたびに違うもので身を飾っている。バイトして稼いだ給料を、すべてファッション関連に費やしているのかもしれない。
そんな里穂の存在がバーで許されているというより、歓迎に近い反応を客から受けているのは誰とでも気軽に会話してくれるのに加えて、肉感のエロさであるのは容易に想像できる。
見えている太腿は脂肪と筋肉のバランス配分が完璧で、胸同様にお尻も大きく、歩くだけでセックスアピールしているようなものだった。本人も自覚しているのか、男の視線を感じても露骨には嫌がらない。
中年親父ども、里穂のケツ見過ぎだしィ。キャハハ。
みたいな対応で終わるので、客の親父どもも下ネタへのコンボに繋げ易い。セクハラだ何だとうるさい昨今、彼女みたいな存在は貴重かつ重要なのかもしれない。
そうした中年を中心とした男連中が里穂目当てに来店する一方で、マスターに会いに来るのは大半が女性客だ。口説こうとしてみたり、人生相談をしてみたり。そのうちに男性客と一緒になって会話をしたりもする。
店の雰囲気が良いせいか、危険な感じにはならない。その前にマスターや里穂が上手く修正する。暴れそうな危険な客の対応にも慣れており、毅然とした態度で接して出禁を食らわせたこともあった。
安心して飲めるというのも、あまり混雑しそうにない場所でバーを続けていられる要因の一つになっているのだろう。
「もう食ったわけぇ。デザート欲しいなら、買ってきたげるよ。新の奢りで」
「お前が食いたいだけじゃねえか。残念ながら、そんなに裕福じゃないんでね」
「何でぇ? この間、ユッキーがようやく依頼入ったって、大はしゃぎしてたんだけどぉ。大きい仕事して、ウハウハっしょ?」
ユッキーとは錦鯉探偵事務所の居候兼自称助手の水島祐希子のことである。
ギャルな外見通りというか、里穂は相手を勝手につけたあだ名で呼ぶ機会が多い。新は呼び捨てなのだが、文句を言ってアッターなどの迷惑極まりない呼称をつけられると厄介なので黙っている。
「大きい仕事なんかねえよ。あったらくれよ。受けたのは迷い猫探しだ。しかも見つけたけど逃がしてな。クライアントの怒りを買って依頼は打ち切り。予定していた報酬も入らずに残念無念って感じだ。なわけだから、会計は里穂の奢りで頼む」
「マジ勘弁。貧乏と童貞はお断りでぇす♪ それに新はほとんどツケじゃん。結構溜まってンだけどぉ」
「前々から俺は思っていた。二十五にもなる女が、そういう言葉遣いでいいのかとな」
「うわ。話題逸らしが露骨すぎなんだけど。探偵ならもっと上手くやりなよ。だから猫にも愛想憑かされンだっつーの」
「話題逸らしの上手さと、猫は関係なくないか?」
「意外にあるかもよぉ? ま、マスターが文句言ってないから、里穂は構わないけどぉ」
新と里穂のやりとりを、食べ終わったサンドイッチの皿を丁寧に洗いながら、マスターはにこにこ聞いている。里穂みたいなギャルを当たり前のように雇えるのも、マスターの懐の広さゆえだろう。
前に一度あれでいいのか尋ねたところ、やはり笑顔であれくらい元気な方がいいんですと返ってきた。服装や言葉遣いに関してもとやかく言わず、見守るというスタイルを貫いている。
「そういや、ユッキーが新ンとこに住み着いてから、どんくらいだっけ?」
思い出したように里穂が聞いてきた。
「一年は経ってないはずだ。半年くらいか? 詳しくは覚えてないな。不良に絡まれてた家出娘を助けたまではよかったんだが、まさか事務所に押しかけられた挙句に居候までされるとは思わなかったぜ」
「それは災難でしたね。朝食がまだなのでしたら、何かお作りしましょうか?」
素直にお願いして、カウンターテーブルの左隅に座る。入口から一番近いところが新の指定席だ。
よくサービスしてもらったりするので、他のお客さんで賑わってきた時にすぐ出られるようにするためでもある。
マスターは気を遣いすぎだと苦笑していたが、新に変えるつもりはなかった。
カウンター内の調理スペースで、マスターが手際よく朝食を作ってくれる。
すぐにハムとレタスにトマト、それに卵のサンドイッチとコンソメスープが出てきた。サンドイッチは食パン二枚に具材を挟み、真ん中から切った形のものが合計四つ。食パン換算で四枚分だ。
朝からはそこそこの量だが、さっぱりとした味なのでするっと胃袋に収まっていく。この分なら昼と兼用にしてもよさそうだ。
言葉もなく口内へサンドイッチを詰め込んでいると、カウンターの奥から一人の女性が顔を出した。
ドアを隔てた奥は勝手口があり、ワインなどを保管する地下倉庫へ通じる入口もあるらしかった。
ガーディアンの雇われ従業員である彼女は、そちらから店内へやってきた。
「なんか、いるしィ。しかも超フツーに朝飯食っちゃってるしィ。マジ意味わかんないんだけどぉ」
甘ったるさを含んだおよそ店員とは思えない口調だが、こういう女性だとわかっているので、新は別に怒ったりはしない。
「相変わらずだな。それで客からクレームが入らねえってんだから、ある意味感心するぜ」
「当たり前じゃん。むしろ里穂と会話できて、中年親父どもは超ラッキーって感じィ? マスター目当ての牝どもに睨まれるのはウゼーけどぉ」
自ら呼んだ通り、彼女の名前は里穂という。名字は泉で、ミドルボブの金髪が特徴だ。
褐色肌にばっちりと決まったメイクはまさにギャルで、目元には星のシールみたいなのが銀色に輝いている。
ピッチリしたTシャツは肩が広く開いていて、赤のブラ紐が見える。Tシャツは黒なので透けて見えたりはしないが、少しでも屈めば豊かな胸元と一緒に下着が丸見えになる。
新は紳士なので覗いたりはしないが、偶然の機会が訪れれば遠慮なく堪能させてもらうつもりだった。
「キャハハ! 新、里穂が来た時から、目が超エロくなってんだけどぉ。朝飯食べながらのおっ立て系? マジウケるぅ」
「俺はお前の存在にマジウケ中だけどな」
サンドイッチを頬張る手を止めずに、ラインにフィットする小さめのジーンズ生地のホットパンツに黒のニーソ、靴はヒールという恰好の里穂の相手をする。
存在自体が冗談みたいなギャル女なので、真面目に対応するとこちらの精神が破壊される。彼女が雇われた初日に身をもって理解して以来、会話は適当に流すように心がけていた。
耳にリングピアスをつけ、ネックレスに指輪など身につけているアクセサリーも豊富で、見るたびに違うもので身を飾っている。バイトして稼いだ給料を、すべてファッション関連に費やしているのかもしれない。
そんな里穂の存在がバーで許されているというより、歓迎に近い反応を客から受けているのは誰とでも気軽に会話してくれるのに加えて、肉感のエロさであるのは容易に想像できる。
見えている太腿は脂肪と筋肉のバランス配分が完璧で、胸同様にお尻も大きく、歩くだけでセックスアピールしているようなものだった。本人も自覚しているのか、男の視線を感じても露骨には嫌がらない。
中年親父ども、里穂のケツ見過ぎだしィ。キャハハ。
みたいな対応で終わるので、客の親父どもも下ネタへのコンボに繋げ易い。セクハラだ何だとうるさい昨今、彼女みたいな存在は貴重かつ重要なのかもしれない。
そうした中年を中心とした男連中が里穂目当てに来店する一方で、マスターに会いに来るのは大半が女性客だ。口説こうとしてみたり、人生相談をしてみたり。そのうちに男性客と一緒になって会話をしたりもする。
店の雰囲気が良いせいか、危険な感じにはならない。その前にマスターや里穂が上手く修正する。暴れそうな危険な客の対応にも慣れており、毅然とした態度で接して出禁を食らわせたこともあった。
安心して飲めるというのも、あまり混雑しそうにない場所でバーを続けていられる要因の一つになっているのだろう。
「もう食ったわけぇ。デザート欲しいなら、買ってきたげるよ。新の奢りで」
「お前が食いたいだけじゃねえか。残念ながら、そんなに裕福じゃないんでね」
「何でぇ? この間、ユッキーがようやく依頼入ったって、大はしゃぎしてたんだけどぉ。大きい仕事して、ウハウハっしょ?」
ユッキーとは錦鯉探偵事務所の居候兼自称助手の水島祐希子のことである。
ギャルな外見通りというか、里穂は相手を勝手につけたあだ名で呼ぶ機会が多い。新は呼び捨てなのだが、文句を言ってアッターなどの迷惑極まりない呼称をつけられると厄介なので黙っている。
「大きい仕事なんかねえよ。あったらくれよ。受けたのは迷い猫探しだ。しかも見つけたけど逃がしてな。クライアントの怒りを買って依頼は打ち切り。予定していた報酬も入らずに残念無念って感じだ。なわけだから、会計は里穂の奢りで頼む」
「マジ勘弁。貧乏と童貞はお断りでぇす♪ それに新はほとんどツケじゃん。結構溜まってンだけどぉ」
「前々から俺は思っていた。二十五にもなる女が、そういう言葉遣いでいいのかとな」
「うわ。話題逸らしが露骨すぎなんだけど。探偵ならもっと上手くやりなよ。だから猫にも愛想憑かされンだっつーの」
「話題逸らしの上手さと、猫は関係なくないか?」
「意外にあるかもよぉ? ま、マスターが文句言ってないから、里穂は構わないけどぉ」
新と里穂のやりとりを、食べ終わったサンドイッチの皿を丁寧に洗いながら、マスターはにこにこ聞いている。里穂みたいなギャルを当たり前のように雇えるのも、マスターの懐の広さゆえだろう。
前に一度あれでいいのか尋ねたところ、やはり笑顔であれくらい元気な方がいいんですと返ってきた。服装や言葉遣いに関してもとやかく言わず、見守るというスタイルを貫いている。
「そういや、ユッキーが新ンとこに住み着いてから、どんくらいだっけ?」
思い出したように里穂が聞いてきた。
「一年は経ってないはずだ。半年くらいか? 詳しくは覚えてないな。不良に絡まれてた家出娘を助けたまではよかったんだが、まさか事務所に押しかけられた挙句に居候までされるとは思わなかったぜ」
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