探偵と真夜中の太陽

桐条京介

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第4話 事情聴取

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 流麗な眉が折れ曲がり、こめかみに青筋が浮かぶ。

 だがそれも一瞬で顔からすぐに感情を消し、スッと上げた足を新の座っているソファへぶつける。

 つまり蹴ってきたのである。

 上半身を起こしたばかりの新の尻の下でソファが暴れ、朝からロデオマシーンにでも乗せられている気分になる。

「何すんだよ」

 ようやく蹴りの雨がやんだところで、抗議の声を上げる。

「それはこちらの台詞だ。昨夜、市民から市内の公園で爆発音がしたという通報があった。近場の警官が駆けつけてみれば、ベンチ近くに何かが破裂したような跡があったらしい」

「物騒な事件だな。警察の腕の見せどころじゃないか。早く解決して、善良な市民を安心させてやらないとな」

「目撃した人物の話によると、警察が来る前に若い男女の人影を見たらしい。背格好がどうもお前たちに似ているみたいでな」

「世の中にはそっくりな人間が三人いるというからな。似ているだけで犯人と決めつけるのは早計だぞ。だから冤罪がなくならないんだ。まったく嘆かわしい」

 腕を組んでうんうん頷いていると、またしてもソファを蹴られた。

 今回の揺れ具合は過去最高で危うく落ちそうになったが、抜群のバランス感覚を発揮してなんとか堪える。

 再度、抗議をするも美貌の女課長は小さく鼻を鳴らすだけ。恐怖のオーラを発する彼女に声をかける猛者はなかなかいないらしいが、それでも見た目の優秀さもあって署内にはファンクラブじみたものがあるらしい。

 嘆かわし時代になったものだと世を憂いていると、今度は体の近くをスラリとした足が通り抜け、背もたれを通して衝撃が軽く腰に伝わった。

「何かよからぬことを考えていただろう」

 エスパーかよ。

 内心の呟きが口から漏れないように注意しつつ、あくまでも新は該当事件について我関せずを貫く。

「とにかく俺は知らん」

「……では、昨夜は何をしていた。アリバイはあるのか?」

「もちろんだ。事務所で美人妻、アハン、ぐちょ濡れで困っちゃうゥンを見ていた。なかなかの逸品だった」

「そうか。ならば確認の意味を込めて見せてもらうとしよう」

「いいぞ。ここにあるしな」

 ソファのすぐ横にある二十六インチという微妙な大きさのテレビが乗っている台のプッシュ式ガラス扉を開け、デッキの上に置かれていたケースを手に取る。

 中に入っているDVDのラベルには、先ほど新が言った通りのタイトルが刻まれていた。こんな時もあろうかと、前々から用意していたものだ。いかがわしいゲームセンターで獲得しただけに、一度は見たが内容はまるでなかった。

 セットしようとした新の手から、DVDが取り上げられた。何をするつもりかと見ていたら、何一つ表情を変えずにDVDを真っ二つに折られた。

 暴力的な迫力に、ソファから乗り出すようにしていた新は反射的に後退りしそうになる。

「不審な爆発音がする数時間前、迷い猫を探して近所に聞き込みを繰り返す二人組がいたそうだ。写真を見せて確認した結果、迷い猫の捜索を依頼された辺鄙な探偵事務所の関係者だと判明した。恐らく、その迷い猫とやらが妖魔となり、退治をする際に強力な宝石を弾にして銃を撃ったのだろう。そうは思わないか?」

「見事な推理だ。まるでプロファイラーだな。どうだ、君も探偵をやってみないか? 少しはその鉄面皮も治るかもしれないぞ」

 ソファの背もたれへ突き刺さるように固定されていた彼女の右足が、勢いよく新の方へ動く。側頭部に脛が命中し、横倒れになって悶える腹部に追撃の靴底が垂直落下する。

「質問に質問で返すのは感心しないな。本気で蹴るぞ」

「蹴ったあとに言うな! それに蹴るならせめて靴は脱げ。一張羅が汚れちまったじゃねえか、クソ姉貴」

「心外だな。クソにクソ呼ばわりされるとは。で、だ。愚かな弟よ。妖魔はきっちり倒したのだろうな。くだらない後始末をさせられたのだ。取り逃がしたなどと言ったら鮫の餌にするぞ。幸い、すぐそこは海だしな」

「海でも鮫なんかいやしねえよ、ったく……妖魔なら倒したっての。ウェアキャットとでも言えばいいのか、牡の人型タイプに化けやがった。おかげで依頼は達成不可能、報酬もパーだ。やってらんねえ」

 お手上げとばかりに手を広げると、ようやく姉は足を定位置に戻した。

 それを受けて新も上半身を起こす。腹部がまだ多少ズキズキ痛むくらいには、強烈な蹴りだった。

 手加減しろと文句を言ったところで、したと返ってくるのはわかりきっている。過去何年間も似たようなやりとりを繰り返しているからだ。

 また蹴りを食らう可能性のある態度をとるより、新の仕業だとバレているなら確認すべき点がある。

「そっちのターゲットだったのか?」

「いや。把握すらしていなかった。突如として現れた感じだな。まあ、出来たばかりの課だ。それも我が県警が全国に先駆けてのモデルケースとなる。色々と不備や手が届かない点が出てきても仕方ない」

 姉が軽く目を閉じて、ふうとため息をついた。

「それでなくとも、窓際課と呼ばれて敬遠されていたりもするからな。配属を嫌がる者が大半で、人手も足りていないのだ」

 彼女は彼女で色々と苦労しているらしいのが、話を聞いてよく理解できた。

「それにしても、対妖魔の専門課なんてよく作れたな」

「知っているのは上層部でも一握りだけだ。特務課という名称がゆえに事情を知らない連中から雑務を押しつけられたりもするが、なかなか画期的だとは私も思う」

 姉が一度言葉を止め、天井を見あげながら口を開き直す。

「警察庁の中にも妖魔の存在を知る者がいるのが大きいだろうな。県警がモデルケースとなったのは、特務課に取り立てられた私が強く進言したからだ。あそこには有能な銃を持った無能な探偵がいる。利用すればいいとな」

「そいつはどうも。だからってよく許可が下りたもんだ。特務課とはいえ警察組織の一員なんだし、少し調べれば血が繋がってなくても俺と姉貴が姉弟なのはわかるだろうに。不正の可能性があるとかは考えなかったのかね」

 その点について姉が見解を述べようと口を開いたが、話す前に他の声で妨害される。

 驚きに満ちた叫びに近い声を発したのは、事務所の隅の仕切りスペース内にいる女だ。

「盗み聞きとは感心しないな。まあ、わかってはいたが」

 仕切り前に移動した姉がベージュの厚手のカーテンを開ければ、耳をつけるような体勢で、気まずそうにする祐希子の顔があった。パジャマではなく、昨日と同じ服装に着替えている。
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