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穂月の小学校編
子供たちだけの夜店巡り、降臨した凄腕のスナイパー
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何かをしていても、していなくても季節は巡る。春が過ぎれば夏が来るのは当たり前で、肌にまとわりつくじめじめが消えると穂月にはお待ちかねの長期休みがやってくる。
「お祭りだーっ」
高々と両手を突き上げて、穂月は有り余る喜びを表現する。
「ほっちゃん、はしゃぎすぎて迷子になったりしては駄目ですよ」
根っからの委員長気質の沙耶に返事こそするものの、すぐに煌びやかな光景に目を奪われる。
「ゆーちゃんたちだけでお祭りって初めてなのー」
興奮と不安を半分ずつ抱えた悠里が、穂月の隣にやってきて手を握る。
置いてけぼりになるのを避けるためか、もしくは勝手に動きかねない穂月を牽制するためかは不明だ。
もう1人の問題児こと希には、しっかり沙耶が張り付いている。彼女は穂月と希の母親から、くれぐれも娘をよろしくと頼まれていた。
「ママたちは出店だけでなく晋悟たちの面倒もあるからね。私たちもとなると大変だし、あとは自由に回らせてもいいと判断してくれたんでしょうね」
「変に気負うなよ、さっちゃん。俺たちもいるんだからな」
誕生日を迎えて11歳になった朱華は周りからすれば子供でも、穂月たちの目にはずいぶん大人っぽく映る。ポニーテールを揺らす陽向も頼りになるお姉さんという感じだ。
「もし迷子になったら、この目立つリボンを探せばいいしな」
「羨ましいならまーたんもつける?」
「お断りだ!」
からかったつもりが逆にからかわれ、陽向が顔を真っ赤にする。
朱華は腰までの長い黒髪に大きめの赤いリボンをつけている。学校ではあまり目立つのは怒られるため控えめなのをつけているが、私服になるとここぞとばかりに存在を強調しまくるのが登場する。
容姿がとても整っている朱華は学校でもお姫様みたいだと言われるのが多く、憧れを抱いたらしい悠里も最近ではセミロングの黒髪を小さなリボンで彩るようになった。
「おー、あっちにたこ焼きがあるー」
「待って、ほっちゃん、1人で先に行くのは危険なのっ」
突進しかけた穂月の体が、友人に腕を引かれて止まる。どうやらしっかり手を繋いでいたのは心細かったからではなく、穂月の制止目的だったようだ。
「どっちかと言えば、ほっちゃんの方が春也より手がかかるんじゃねえか?」
穂月を食い止めた悠里をよしよしする陽向は呆れ顔だ。
今年の誕生日で弟たちは6歳になった。来年には穂月の後輩として同じ小学校に入学する。
「おー」
「いや、ちょっとは気にしろよ」
「ほっちゃんはほっちゃんで、春也君の誕生日にケーキを作ってあげたりで、お姉ちゃんらしい一面もあるんだけどね」
フォローしてくれた朱華が先頭に立ち、まずは穂月が目をつけた出店に向かう。
*
沙耶と悠里、さらには希も含めて4人でお金を出し合って買ったタコ焼きを仲良く分け合う。8個入りなので1人2個だ。朱華と陽向は2人で買っていた。
ハフハフと出店の後ろで頬張っていると、クラスメートが親と一緒に通りかかり、少しだけ立ち話をする。
委員長として学校では真面目な沙耶が、友人だけで出店に来ているのに驚いたみたいで、何度も意外という言葉を口にしていた。
その友人が手を振って立ち去るのを見届けたあと、沙耶がポツリと呟く。
「もう少し不真面目になった方がいいのかもしれないですね」
「どうしてー?」
聞かれていると思ってなかったのか、バツが悪そうにしたあとで友人は理由を告げる。
「幼稚園の頃から真面目そうと言われて、先生に怒られそうな遊びに誘ってもらえたことはなかったんです。小学生になって、ほっちゃんと出会ってなかったら、今も友達なんていなかったかもしれないです」
「そんなことないよー」
穂月はにぱっと笑い、
「だってさっちゃんはいい子だもん」
「……プッ。なんだか、とってもほっちゃんらしいです」
思わずといった感じで噴き出した沙耶が、顔を綻ばせる。少しだけ目には涙が浮かんでいた。
「ほっちゃんのママも昔から皆の中心だったらしいし、きっとほっちゃんもそうなんでしょ。まーたんも良かったわね」
「何で俺に話を振るんだよ」
「だって友達――」
「――いるし! めっちゃいるし!」
お約束になりつつある朱華と陽向のやり取りで、少し沈みがちだった空気が夜店の灯りよりも明るくなる。
「ゆーちゃんもね、泣き虫でよくいじめられてたけど、今はほっちゃんがいるから平気なの」
繋いでいる悠里の手にキュッと力が籠る。感情の強さをそのまま伝えられているみたいで、なんだか妙に嬉しくなる。
「穂月も皆と友達になれて幸せだよ。劇もできるし」
「うふふ、今年もゆーちゃん、がんばるのっ」
「私もお付き合いするしかないようです」
夜店で友情を確かめ合う3人。微笑ましそうに見守る2人。
ここでようやく1人足りないことに気付く。
「おい、嬢ちゃん、大丈夫か。
誰かっ、ここに倒れてる女の子が!」
「はわわ、きっとのぞちゃんなのっ」
「おー」
「とか言ってる場合じゃないです。すぐ迎えに行かないといけないです!」
「ほっちゃんがいなかったら一番大変だったのって、のぞちゃんじゃねえか?」
「年下組が離れたら大変だから、私たちも行くわよ。
……手、握って欲しい?」
「んなわけあるか!」
*
第1発見者の店主に頭を下げ、無事に希を回収した穂月たちはそのまま夜店巡りを続けていた。
穂月の手は悠里にしっかり握られており。希の場合は左右に沙耶と陽向が立っている。
沙耶と手を繋いでいるだけだと、容赦なく眠る希に対処しきれず、人込みの中で立ち往生する危険性が高いためだ。
「おっ、射的があるじゃねえか。俺の腕を披露する時がきたな」
「そんなこと言って、去年も散々な結果じゃなかった?」
「俺が取ったキーホルダーを奪っていきやがっただろうが」
「そんな昔のことは忘れたわ」
「ぐおお、なんて性格の悪い女だ」
「やるなら早くしたら? あ、私はあの左上のやつね」
陽向を煽りながら、さらっとリクエストまでする朱華。
「あーちゃん、まーたんにはなんだか厳しいの」
「きっとテスト勉強のたびに、頭を抱えるはめになってるせいです」
不思議そうな悠里に、どこか遠い目をした沙耶が解説する。
穂月以下の学力でありながら授業はあまり真面目に受けず――それでも当初よりはまともになった――テスト前は一夜漬けが恒例行事。それでいい点を取ったりすれば実力だと胸を張るので、指導役の朱華はいつも大変そうだ。
「ああやってストレスを発散してるんです」
「ソフトボールはあんなに頑張ってるのに」
4年生になって半強制的にソフトボール部に入部させられた陽向だったが、元々の身体能力の高さもあって、夏の大会にもレギュラーで出場した。
結果は全国大会へ行けずに終わったが、ソフトボール部の顧問でもある柚は朱華が最上級生になる来年には期待できると、いつだったかムーンリーフで葉月たちに豪語していた。
「ほっちゃんも来年入るのー?」
「んー……わかんない」
体を動かすのは好きだし、両親や叔母も勧めてくるが、そこまでソフトボールをやりたいかと問われれば穂月は首を捻る。
ただ、皆で遊ぶのは楽しそうなので入部する可能性はある。
要するに悠里に答えた通り、現時点ではなんとも言いようがないのである。
「来年になったら決めるー」
「ゆーちゃんもそれでいいと思うの」
「あ、2人とも、まーたんが景品を取ったみたいです」
弾が5発で200円の射的1回では朱華の欲しいものを取れず、続けて挑戦した最後の弾でようやく倒せたみたいだった。
「どうだ、見たか!」
他にもシガレットという煙草に似たお菓子も取り、恰好つけて口に咥えてはキーホルダーを贈った朱華に笑われる。
「端っこの方にぬいぐるみもあるのー」
「あのアニメのキャラだー」
好きなアニメのキャラものとくれば、そういうのが通販以外ではなかなか買えない田舎民の穂月は張り切りざるを得ない。
だが的確に打ち込んでもぬいぐるみはビクともしなかった。
「ああいうのは取れないようになってるんですよ。お客さんの目を引くためです」
「むー」
確かにコルク弾では大きめの熊のぬいぐるみを倒すのは不可能に思える。
唇を尖らせて拗ねていると、ふと背後に誰かの気配を感じた。
「のぞちゃん?」
「……1回」
200円を置き、コルクでできた弾を受け取った希は銃口をキャラもののぬいぐるみに向ける。
「いくらのぞちゃんでもあれは――え?」
1発目がぬいぐるみの肩に当たり、その部分だけ少しだけ後ろに下がる。続けて寸分違わずにコルク弾がまた肩を直撃し、沙耶が目を丸くした。
「はわわ、少しずつぬいぐるみが下がってるの」
3発目と4発目も肩付近に当て、半回転したぬいぐるみの片足が台座から浮き、バランスが崩れる。
驚きを隠せないで口に手を当てた悠里の隣で、穂月は気分を高揚させる。
「のぞちゃん、いけーっ」
「……もちろん」
「ちょ!? お嬢ちゃん、待っ――」
最後の1発が一番重量があると思われる頭部に当たる。ただでさえバランスを崩し気味だったぬいぐるみは、店主が手を伸ばすよりも早くコトンと倒れて落ちた。
「……嘘だろ。屋台の親父、ショックすぎて動けなくなってんぞ」
「やる気にさえなれば本当に規格外よね、のぞちゃんって」
いとも簡単に困難を達成した希から、穂月にぬいぐるみが手渡される。
「……ん」
「のぞちゃん、ありがとーっ」
勢いあまって抱き着くと、希が頭をなでなでしてくれた。
「えへへ、のぞちゃん、まるで王子様みたいだねー」
「普段は眠りこけてばっかだけどな」
「どうどう、のぞちゃんにいいとこ取られたからっていじけないの」
「誰がっ!」
「……眠い」
「はわわ、ここで寝ちゃだめなのっ」
「ほっちゃん! いつまでもにこにこしてないで、のぞちゃんを止めてほしいです!」
いつも通りに騒がしく終わった夏祭りは、穂月にとって忘れられない夏休み最初の思い出になった。
「お祭りだーっ」
高々と両手を突き上げて、穂月は有り余る喜びを表現する。
「ほっちゃん、はしゃぎすぎて迷子になったりしては駄目ですよ」
根っからの委員長気質の沙耶に返事こそするものの、すぐに煌びやかな光景に目を奪われる。
「ゆーちゃんたちだけでお祭りって初めてなのー」
興奮と不安を半分ずつ抱えた悠里が、穂月の隣にやってきて手を握る。
置いてけぼりになるのを避けるためか、もしくは勝手に動きかねない穂月を牽制するためかは不明だ。
もう1人の問題児こと希には、しっかり沙耶が張り付いている。彼女は穂月と希の母親から、くれぐれも娘をよろしくと頼まれていた。
「ママたちは出店だけでなく晋悟たちの面倒もあるからね。私たちもとなると大変だし、あとは自由に回らせてもいいと判断してくれたんでしょうね」
「変に気負うなよ、さっちゃん。俺たちもいるんだからな」
誕生日を迎えて11歳になった朱華は周りからすれば子供でも、穂月たちの目にはずいぶん大人っぽく映る。ポニーテールを揺らす陽向も頼りになるお姉さんという感じだ。
「もし迷子になったら、この目立つリボンを探せばいいしな」
「羨ましいならまーたんもつける?」
「お断りだ!」
からかったつもりが逆にからかわれ、陽向が顔を真っ赤にする。
朱華は腰までの長い黒髪に大きめの赤いリボンをつけている。学校ではあまり目立つのは怒られるため控えめなのをつけているが、私服になるとここぞとばかりに存在を強調しまくるのが登場する。
容姿がとても整っている朱華は学校でもお姫様みたいだと言われるのが多く、憧れを抱いたらしい悠里も最近ではセミロングの黒髪を小さなリボンで彩るようになった。
「おー、あっちにたこ焼きがあるー」
「待って、ほっちゃん、1人で先に行くのは危険なのっ」
突進しかけた穂月の体が、友人に腕を引かれて止まる。どうやらしっかり手を繋いでいたのは心細かったからではなく、穂月の制止目的だったようだ。
「どっちかと言えば、ほっちゃんの方が春也より手がかかるんじゃねえか?」
穂月を食い止めた悠里をよしよしする陽向は呆れ顔だ。
今年の誕生日で弟たちは6歳になった。来年には穂月の後輩として同じ小学校に入学する。
「おー」
「いや、ちょっとは気にしろよ」
「ほっちゃんはほっちゃんで、春也君の誕生日にケーキを作ってあげたりで、お姉ちゃんらしい一面もあるんだけどね」
フォローしてくれた朱華が先頭に立ち、まずは穂月が目をつけた出店に向かう。
*
沙耶と悠里、さらには希も含めて4人でお金を出し合って買ったタコ焼きを仲良く分け合う。8個入りなので1人2個だ。朱華と陽向は2人で買っていた。
ハフハフと出店の後ろで頬張っていると、クラスメートが親と一緒に通りかかり、少しだけ立ち話をする。
委員長として学校では真面目な沙耶が、友人だけで出店に来ているのに驚いたみたいで、何度も意外という言葉を口にしていた。
その友人が手を振って立ち去るのを見届けたあと、沙耶がポツリと呟く。
「もう少し不真面目になった方がいいのかもしれないですね」
「どうしてー?」
聞かれていると思ってなかったのか、バツが悪そうにしたあとで友人は理由を告げる。
「幼稚園の頃から真面目そうと言われて、先生に怒られそうな遊びに誘ってもらえたことはなかったんです。小学生になって、ほっちゃんと出会ってなかったら、今も友達なんていなかったかもしれないです」
「そんなことないよー」
穂月はにぱっと笑い、
「だってさっちゃんはいい子だもん」
「……プッ。なんだか、とってもほっちゃんらしいです」
思わずといった感じで噴き出した沙耶が、顔を綻ばせる。少しだけ目には涙が浮かんでいた。
「ほっちゃんのママも昔から皆の中心だったらしいし、きっとほっちゃんもそうなんでしょ。まーたんも良かったわね」
「何で俺に話を振るんだよ」
「だって友達――」
「――いるし! めっちゃいるし!」
お約束になりつつある朱華と陽向のやり取りで、少し沈みがちだった空気が夜店の灯りよりも明るくなる。
「ゆーちゃんもね、泣き虫でよくいじめられてたけど、今はほっちゃんがいるから平気なの」
繋いでいる悠里の手にキュッと力が籠る。感情の強さをそのまま伝えられているみたいで、なんだか妙に嬉しくなる。
「穂月も皆と友達になれて幸せだよ。劇もできるし」
「うふふ、今年もゆーちゃん、がんばるのっ」
「私もお付き合いするしかないようです」
夜店で友情を確かめ合う3人。微笑ましそうに見守る2人。
ここでようやく1人足りないことに気付く。
「おい、嬢ちゃん、大丈夫か。
誰かっ、ここに倒れてる女の子が!」
「はわわ、きっとのぞちゃんなのっ」
「おー」
「とか言ってる場合じゃないです。すぐ迎えに行かないといけないです!」
「ほっちゃんがいなかったら一番大変だったのって、のぞちゃんじゃねえか?」
「年下組が離れたら大変だから、私たちも行くわよ。
……手、握って欲しい?」
「んなわけあるか!」
*
第1発見者の店主に頭を下げ、無事に希を回収した穂月たちはそのまま夜店巡りを続けていた。
穂月の手は悠里にしっかり握られており。希の場合は左右に沙耶と陽向が立っている。
沙耶と手を繋いでいるだけだと、容赦なく眠る希に対処しきれず、人込みの中で立ち往生する危険性が高いためだ。
「おっ、射的があるじゃねえか。俺の腕を披露する時がきたな」
「そんなこと言って、去年も散々な結果じゃなかった?」
「俺が取ったキーホルダーを奪っていきやがっただろうが」
「そんな昔のことは忘れたわ」
「ぐおお、なんて性格の悪い女だ」
「やるなら早くしたら? あ、私はあの左上のやつね」
陽向を煽りながら、さらっとリクエストまでする朱華。
「あーちゃん、まーたんにはなんだか厳しいの」
「きっとテスト勉強のたびに、頭を抱えるはめになってるせいです」
不思議そうな悠里に、どこか遠い目をした沙耶が解説する。
穂月以下の学力でありながら授業はあまり真面目に受けず――それでも当初よりはまともになった――テスト前は一夜漬けが恒例行事。それでいい点を取ったりすれば実力だと胸を張るので、指導役の朱華はいつも大変そうだ。
「ああやってストレスを発散してるんです」
「ソフトボールはあんなに頑張ってるのに」
4年生になって半強制的にソフトボール部に入部させられた陽向だったが、元々の身体能力の高さもあって、夏の大会にもレギュラーで出場した。
結果は全国大会へ行けずに終わったが、ソフトボール部の顧問でもある柚は朱華が最上級生になる来年には期待できると、いつだったかムーンリーフで葉月たちに豪語していた。
「ほっちゃんも来年入るのー?」
「んー……わかんない」
体を動かすのは好きだし、両親や叔母も勧めてくるが、そこまでソフトボールをやりたいかと問われれば穂月は首を捻る。
ただ、皆で遊ぶのは楽しそうなので入部する可能性はある。
要するに悠里に答えた通り、現時点ではなんとも言いようがないのである。
「来年になったら決めるー」
「ゆーちゃんもそれでいいと思うの」
「あ、2人とも、まーたんが景品を取ったみたいです」
弾が5発で200円の射的1回では朱華の欲しいものを取れず、続けて挑戦した最後の弾でようやく倒せたみたいだった。
「どうだ、見たか!」
他にもシガレットという煙草に似たお菓子も取り、恰好つけて口に咥えてはキーホルダーを贈った朱華に笑われる。
「端っこの方にぬいぐるみもあるのー」
「あのアニメのキャラだー」
好きなアニメのキャラものとくれば、そういうのが通販以外ではなかなか買えない田舎民の穂月は張り切りざるを得ない。
だが的確に打ち込んでもぬいぐるみはビクともしなかった。
「ああいうのは取れないようになってるんですよ。お客さんの目を引くためです」
「むー」
確かにコルク弾では大きめの熊のぬいぐるみを倒すのは不可能に思える。
唇を尖らせて拗ねていると、ふと背後に誰かの気配を感じた。
「のぞちゃん?」
「……1回」
200円を置き、コルクでできた弾を受け取った希は銃口をキャラもののぬいぐるみに向ける。
「いくらのぞちゃんでもあれは――え?」
1発目がぬいぐるみの肩に当たり、その部分だけ少しだけ後ろに下がる。続けて寸分違わずにコルク弾がまた肩を直撃し、沙耶が目を丸くした。
「はわわ、少しずつぬいぐるみが下がってるの」
3発目と4発目も肩付近に当て、半回転したぬいぐるみの片足が台座から浮き、バランスが崩れる。
驚きを隠せないで口に手を当てた悠里の隣で、穂月は気分を高揚させる。
「のぞちゃん、いけーっ」
「……もちろん」
「ちょ!? お嬢ちゃん、待っ――」
最後の1発が一番重量があると思われる頭部に当たる。ただでさえバランスを崩し気味だったぬいぐるみは、店主が手を伸ばすよりも早くコトンと倒れて落ちた。
「……嘘だろ。屋台の親父、ショックすぎて動けなくなってんぞ」
「やる気にさえなれば本当に規格外よね、のぞちゃんって」
いとも簡単に困難を達成した希から、穂月にぬいぐるみが手渡される。
「……ん」
「のぞちゃん、ありがとーっ」
勢いあまって抱き着くと、希が頭をなでなでしてくれた。
「えへへ、のぞちゃん、まるで王子様みたいだねー」
「普段は眠りこけてばっかだけどな」
「どうどう、のぞちゃんにいいとこ取られたからっていじけないの」
「誰がっ!」
「……眠い」
「はわわ、ここで寝ちゃだめなのっ」
「ほっちゃん! いつまでもにこにこしてないで、のぞちゃんを止めてほしいです!」
いつも通りに騒がしく終わった夏祭りは、穂月にとって忘れられない夏休み最初の思い出になった。
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