おっさんアラフォー王妃になる

桐条京介

文字の大きさ
上 下
30 / 32

第30話 竜

しおりを挟む
 人数が増えて魔物の目につきやすくなったのもあり、戦闘が得意でないメンバや負傷者を馬車に乗せ、俺は一団の先頭を歩いていた。

 隣国の皇太后様に無理させるのはという意見もガーディッシュ側であったが、魔物の脅威はもはやこの大陸全体の問題。ならばリュードンの王族として民のために身を捧げるのは必然と言っておいた。

 感動した兵士が多い中、俺を知っている者は苦笑を浮かべていたよ。

 歩いて。魔物を見つけて。ショットガンファイア。

 これはこれでスッキリするのだが、もう一段上の快感を知ってしまっているだけに両腕が疼く。ついでに元中二病患者の脳も疼く。

「ベアトリーチェお姉様、あそこにも魔物がおりますわ」

 侍女服なのに主をお姉様呼び。しかも隙あらば腕を組みたがる。

 そんなむちむちリリアーナは、子供を産んでいるのでお尻がプリップリッ。

 はしゃぐたびに男の視線を集めては、何気なく気付いたふりで目を合わせて微笑みアタック。

 数時間の行程の間に、早くも色香に惑わされる被害者を量産しつつある。

「なんというか……サブリナと気が合いそうな女だね」

「まあ、先王の寵愛も受けていましたし。ちなみに貴族家の子女ですよ」

 俺がさらりと行った暴露に、アグーが「怖い怖い」と自分の腕をさする。

「ところで、そのサブリナさんはどうしているのですか?」

「途中ではぐれちまったよ。連中は崩壊させた砦で傷病兵の面倒を見てたんだが、見捨てられないって、ここへ来る前に見かけた古い砦に残ったんだ」

 かなり前に破棄済みだったらしく、魔物に見つかる可能性の低いルートをあえて選んでいなければ見つけられなかったという。

「人里離れているのなら、魔物の巣になっていてもよさそうですが」

「逆だよ、姉御。誰もこないと餌がねえ。魔物どもは肉が食いたくて仕方ねえのさ。まあ、強い個体は肉食動物が元になってるしな」

「兎などもずいぶん強化されてましたが」

「それでも狼やイノシシどもに比べたら可愛いもんさ。だから村や町に近いところへ現れては人間を襲ってたんだろう」

「なるほど。武器さえなければ人間は弱いですものね」

 俺も例の外道さんに与えられたチート武器があるからなんとかなっているが、丸腰で放り出されていたら今頃は盗賊の慰み者にされたあと娼館へいたはずだ。

「そういうこった。唯一の救いは頭が悪いことだな」

「血と肉を求めて、より攻撃的になるという話でしたね」

「つまり、あの炎を巻き散らす武器を持った姉御と同じってことだね」

 笑顔で毒を挟み込むのはやめてもらえまいか、アニータ嬢。

「あれは敵を威嚇するための演技です。本心ではありません」

 言い訳しつつも、最近あの状態になっての気分爽快さが癖になってきているから困る。そのうち四六時中あの状態になるのでは?

 ……やっぱり呪いの武器じゃねえか。

 かといって使わないといった選択肢はない。

 だって撃ちたいんだもの。

 一発どころか、二発三発と撃ち込みたいんだもの。

 遠目に姿を捉えたイノシシモンスター。頭に狙いを定めてズドン。

 一撃では倒れず、もがくように大地を踏み鳴らし、こちらを見つけて突撃開始。

 周囲がビビリちらかす中、俺はフンフンと鼻歌を歌いながら、近づくにつれて大きくなる的――もとい、頭部へ追撃を放つ。

 すわ地震かという振動を大地に与え、巨大イノシシが倒れ伏す。

「どうですか、このショットガンもなかなかの――」

 ドヤ顔を披露し終える前に、四方八方からガウガウワウワウ。

 百一匹はいなさそうだが、野犬の群れが我先にといただきますをして、あっという間にイノシシが皮と骨だけになった。残りの骨を舐めてる奴もいるし。

 その野犬の目が、一斉に餌がたくさんあるぞとこちらを見た。

「ひッ……」

 青褪めるリリアーナを背中に隠し、俺はグレネードランチャーを呼び寄せる。

「下手に倒しても餌になるのなら、食べられないくらいに焼き焦がしてしまいましょう! さあ、狩りの時間ですよおおお!」

 中央にチュドンと一発。数匹が犠牲になったが、まだまだ数えきれないだけの野犬がいる。連中は左右に分かれ、俺の狙いを分散させる。

「姉御を守れ! 姉御がやられたら全滅だよ!」

 アグーが叫び、彼女の取り巻きが中心となって俺の周囲に壁を作る。

「巻き込まれたくなければ前に立たないでくださいね、アアッハハハアアア!」

 焼夷弾は無限に装填され、チートらしく最大限に改造済みなので連射も可能。ありがとう本物のベアトリーチェ。あなたこそが本当の女神様だ。

 なんてことを勢いに任せて思ったのがよくなかったのか、ドシンドシンとこれまでとは比較にならない大地を揺らす音が響きだした。

「新しい的ですかあああ!? 早く姿を見せてくださいよおおお!」

 バーサクモード中の俺が張り上げた声を聞き、傍から離れないアニータが帝都方面を指差した。

「姉御、あれを見て!」

「山……ですか?」

「違う! 山だったらこっちに近付いてこないよ!」

 大木だと思っていたのは首で、視線をより上げていくと爬虫類じみた顔が見えた。目が合うなり全身に怖気が走り、危うく武器を落としかけた。

 まさか、バフ効果あり状態なのにビビッたのか!?

 膝がガクガクして動けない。口も閉じられない顔に汗が一滴また一滴と流れる。
「これは……こいつは……森の主だ!」

「ミゲールさん、主というのは?」

「前に話しただろう! 魔物同士の争いを制し、トップに君臨する者だ。前に見た時よりも、さらにずっと大きくなっている!」

 全長にすればどのくらいか。三十? 百? 目算ではとても計りきれないが、とてつもなく大きいというのだけはわかる。

 そしてなによりその恐ろしい姿が、俺に目を逸らさせない。

「本当に竜ではないですか……」

 まさにファンタジーそのものだが、魔法がないぞ魔法が!

「現実逃避していても始まりませんね。あんなのが出てきたらどうしようもありません。帝都はもう諦めるより他はないでしょう」

 竜が体勢を僅かに変えたと思ったら、わらわらいた野犬が根こそぎ尻尾で払われた。

 俺にやられた個体を食べ、パワーアップしていたのも混ざっていたにもかかわらずだ。あまりにも戦闘能力の差が大きすぎる。

「巨大すぎて人間の武器ではどうしようもない気もしますが……接近してグレネードランチャーで頭部へ攻撃できれば勝ち目も見えてくるでしょうか」

 小声で呟き、怯える一方の味方を眺める。

 いよいよもって俺がどうにかできなければ全滅だ。

「アニータさん、リリアーナさん、この情報を持ってすぐにリュードンへ帰国してください。竜への対抗策を考えねばなりません」

 あれだけの巨体なのに攻撃は俊敏。存在そのものがチートである。

「姉御はどうするんだい!?」

「決まっています。目の前に敵がいるなら撃ち抜く、それこそが王妃の……皇太后になってしまいましたが、そう、私の仕事なのです!」

「……それはないと思う」

 映画などではクライマックス直前の感動的なシーンを演出したつもりが、さっくりとアニータ嬢にだめだしを食らってしまったぞ。

「先ほどの発言はさておいても、誰かが足止めはしなければなりません。そしてそれをこなせるのは私だけです」

 グレネードランチャーを構え直し、大きく息を吸う。

「アアッハハハアアア!」

 あとは誰の意見も聞かずに、バフ効果のかかった身体能力を最大限に駆使して、ドラゴンめがけて突っ走る。

 ティラノザウルスを連想させるような体躯で、翼は生えていないので元はトカゲかなにかなのかもしれない。

「だとしたら育ちすぎでしょう。もっとも食いではありそうですが!」

 接近するにつれて肌がピリピリしてくる。見下ろされているのがわかり、自然と涙が零れそうになる。

 それでも脚に力を入れ、振り下ろす前脚……といかもう腕だな、アレは。

 ほとんど二足歩行のドラゴンの一撃を回避し、鱗に靴をひっかけて体を登ろうとするが、滑って地面に頭を打った。

 なんとも間抜けな光景だが、本能で動く敵が見逃してくれるはずもなし。

「汚い足を向けないでくれますかねえええ!」

 迫る足の裏にグレネッドランチャーを当て、その隙に逃げようとしたが、竜の攻撃は一瞬たりとも止まらない。

「あ、マズッ……」

 避ける余裕もなく、次の瞬間にはあっさりと踏み潰された。

     ※

 気が付くと、俺は勤めていた会社にいた。

 まさかまさかの夢オチか?

 などと思って見回すと、社長室に座っている元社畜。

『おお、きたか、そなたよ。今回は結構粘っていたみたいだな。もう会えないかと思っておったぞ』

 予想以上に歓迎されている模様。にこやかな自分を見るというのはいまだに慣れないが、もっと慣れないのは元社畜の椅子になっている社長の姿である。

「ベアトリーチェ様、これは一体……」

『ん? ああ、こやつか。妻と娘を返せと警察を連れて店に乗り込んできおってな。あともう少しでお縄になるところであったわ。まあ、警察にも協力者ができたと考えれば、そう悪い出来事でもなかったか』

 チート能力を使って強引に解決したんですね。わかります。

『で、騒ぎの責任を取らせて社長を辞めさせ、代わりにわらわが社長へ就任したのだ。よかったな、下克上達成だぞ』

「だからここまでは望んでなかったし、俺の向こうでの人生には関係ありませんよね!?」

『うむ、そのとおり!』

 そのとおりじゃねえよ。なんでそんなに嬉しそうなんだよ。

『理想の会社を作れたからに決まっておろう。まだそなたは気付かぬのか?』

 言われてもう一度社内を確認する。

「嘘だろ……こんなことになってんのかよ……」

 俺の職場からは男性の社員がほぼ一掃され、代わりに社長の奥さんも含めた女性陣が、逆バニー姿で働いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...