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第20話 魔王降臨

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 戻ってきたというより、強制的に戻されたファンタジー寄りな並行世界。

 槍で胸を貫かれていたはずが、その槍はいつの間にか両手に持っていたグレネードランチャーで防がれていた。ちなみにショットガンは足下に転がっている。

 これならハッピートリガーも酷くならないかもしれない。

 一縷の望みをかけて、騎士に向かって焼夷弾を放つ。

 ギャアアと響く悲鳴。オーラみたいに騎士の体を包んで消えない火炎。

 しかも周囲の者も巻き込み中で、相手の突撃がピタリと止まる。

 揺らめく炎の中で、薄っすら見えるフルプレートアーマーが踊るみたいにもがいている。

 それはとても残酷で、なんとも心躍る光景だった。

「ヒャッハー! 汚物は消毒だあああ!」

 銃口を適当に向けて撃つ。撃つ。撃つ。

 まさしく乱射。完成するのは地獄絵図。

 チート武器による火炎なので勝手に消えるが、その時に命が続いている者は皆無だった。

 なんたる威力。なんたる爽快感。

 いかん、しっかりするんだ下野太郎。女神様にこれ以上迷惑をかけるんじゃない!

 自らを叱咤しても、引き金を引けば幸せ一直線。思考はバラ色に染まり、ウフフオホホと元王妃らしい笑声をこだまさせる。

 巻き添えを恐れた味方が逃げ惑う中、取り囲んでいた騎士たちにも被害が広がっていく。

「なにをしている! さっさとその女を殺せ!」

 不愉快な声が聞こえ、そちらを見れば塁壁に立つ指揮官の姿。

 条件反射で狙いを定めると、そこまで届くよと言わんばかりに表示されるポインタ。この武器が登場するゲームよりも新設設計なのは、外道元王妃のおかげか。

 なにはともあれ、スイッチオンならぬトリガードン。

 塁壁に立っていた弓兵にも炎が移り、悲鳴に悲鳴が重なってどんどん本物の地獄めいていく。

「アアッハハハハアアアッ! 楽しい! 楽しいですね! 皆様もそうは思いませんか!?」

「ひいい! 助けてくれ! 悪魔だ! 悪魔が出たッ!」

「アイツが魔王だ! 人間が手を出しちゃいけなかったんだ!」

 泣き叫ぶ騎士。

 笑う俺。

 ドン引きする味方。

 指揮官もさっさと倒れたことで、相手方の士気は激減。

 しかしながらこちら……というか、俺のみだが、戦意は倍々計算で増加中。

「燃えるのが嫌なのですか? でしたらショットガンに切り替えてさしあげましょう!」

 囲みがかなり薄くなったところで、ショットガンを鎧が壊れるまで連続でぶち当てる。

 被害者となった騎士は全身の骨が砕けたみたいで、呻き声を上げるのがやっと。新たな屍誕生も時間の問題といった有様だ。

「ショットガンなら隙ができると思いましたかあ? ざあんねん! 装備はすぐ切り替えられるのですよ、このようにね。アーッハッハ!」

 阿鼻叫喚。それ以外に当てはまる言葉が見つからない。

 それでもトリガーを引く指が止まらない。

 俺を殺そうとした騎士連中が逃げ惑う姿を見るたび、心の底に溜まっていた澱みたいなものが消えていく。

「もっと惨めに泣き叫べ! もっと無様に喚き立てろ! まだだ! まだ足りない! 皆様の絶望をもっともっとくださいよおおお!」

 周りを囲まれればグレネードランチャーを構えて一回転。複数人をまとめて焼けるため、連射の遅さもハンデにならない。

 加えて立ち向かおうとする騎士も減っているので、まさしく俺無双。

「よくも人を反逆者扱いしてくれましたね! 私は知性ある魔物と帝国を穏やかに結び付けようとしただけだというのに!」

 逃げる敵を追って発射。

 隠れている敵を見つけて発射。

 命乞いする敵は蹴って退かせる。

 そうすることによって、武器を放り投げる騎士が続出。

「国を守るべき騎士がそんな弱腰でどうするのです。命をかけて私に向かってきてくださいよおおお!」

「もう勘弁してくださいッ」

 とうとうガチ泣きする者まで現れた。下手したら失禁もしているのではなかろうか。

 的にするべき敵が見えなくなったのを受け、ふうと息を吐いてグレネードランチャーを下げる。

 門近くへ戻り、改めて周囲を見渡すと凄惨のひと言に尽きた。

 門はグレネードランチャーの連発を受けて破壊済み。

 建物も俺が暴れまくったせいでボロボロ。

 ただでさえ魔物の住処になって荒れていた砦だが、完全にとどめを刺してしまったと思われる。

 うむ。冷静になるほど、とんでもないことをやらかしたのがわかってお腹が痛くなってきたぞ。ついでに動悸もしまくってる。

「……どうしましょう?」

 くるりと振り返った俺の視界に映るのは、恐る恐るこちらに近付いてこようとしている味方一同。

「姉御、アタイはもうどうにもならないと思う」

 的にしてなかったはずなのに、アニータちゃんは腰が引けまくってる。

「アタシも同意見かな……逃げた連中は上に報告するだろうし……」

 投降した騎士全員を入れておけるほど地下牢も広くないので、武器防具を外させ、パンツ一丁にした上で解放していく。

 恐怖から下手に味方になられるよりも、次も叩くべき敵でいてもらった方が……げふんげふん、違う。俺は無益な殺生は好まないのだ。無益なのは。

 アグーも、その取り巻きも顔面が真っ青だ。どうやらよほどに恐ろしいものを見てしまったらしい。俺は忘れるのが一番だと思うよ、うん。

「まんまと敵の罠にかかって、本物の反逆者になってしまいましたね」

「いえ、むしろ団長は罠を踏み抜きに行っていたかと」

 メルティちゃんが少々辛辣です。

「でも、あそこで姉御が戦わなければ、アタイらは全滅してた。やっぱりどうにもならないよ」

 アニータが肩を落とし、膝に両手をついて何度も深呼吸をする。

「まあ、逃げた連中はもう戦力にはならないだろうけど、確実に討伐部隊は派遣されるだろうから、今後の方針はしっかり決めないとね」

「アニータさん、どうして逃げた兵士は戦力にならないのですか?」

 単純に疑問に思って聞いたのだが、一斉になに言ってんだコイツ的な目で見られた。

「燃え盛る火炎をバックに、炎を発生させるとんでもない武器を持って、笑いながら追いかけてくる姉御を見たら、誰だって心に傷を負うと思う」

 間髪入れずに賛同する周囲。

 どうやら俺は騎士たちのトラウマ製造機となってしまったようだ。

「窮地を脱するためにこれを使ったのはいいのですが、どうやら今まで以上に危険な性格になるみたいですね。些細な問題にすぎませんが」

 凄いよな、無限グレネードランチャー。焼夷弾じゃなくて硫酸弾が標準装備されてたらどうなっただろうか。

 爽快感よりもグロさによる気持ち悪いさを覚えそうだな。

 素直に認めるのは癪だが、本物のゲアトリーチェにグッドチョイスという言葉を贈らざるをえない。

 あれだけ燃え盛っていた火も、すでにすべて消えているのであと始末の必要もない。これは素敵だ。ああ、実に素敵だ。

「ひいい、姉御があの武器をうっとりした目で見てる……」

「討伐部隊がきたら、大喜びで出撃しそうだね……」

 アニータが怯え、アグーが処置なしと首を横に振る。

 平穏な生活を送りたいとついてきた元人間の魔物連中は、揃ってお通夜状態だ。落胆ぶりが悲惨すぎて、声をかけるのも躊躇われる。

「吾輩らの……願いが……」

「申し訳ありません。私のせいで、完全に断たれてしまいましたね」

 ミゲールたちが俺を見たが、非難したりはしなかった。

「いや、すまない。ベアトリーチェ殿が戦っていなければ、アニータ殿が言っていた通り、吾輩たちは全滅していた。元より僅かな可能性しかなかったのだ。変に縋らずに済むようになって、逆によかったのかもしれん」

 自分たちを勇気付けるように、無理やり作った笑顔で頷きあう元人間たち。

 だめだ。痛々しすぎて見ていられない。

 彼ら、彼女らを励ますためにも、帝都か森に侵攻するべきではなかろうか。

 なるべく明るい声で提案したのだが、全員が真顔で無言になった。

 アニータ、メルテイ、アグーらが頷き合い、こちらへ歩み寄る。

「アタイたちも覚悟を決めたよ」

「ええ、元々、団長に救われた命でもありますし」

「いっちょ、派手に暴れてやろうかね」

 理解してくれたのかと嬉しく思い、感動に浸っていると、いつの間に回り込んだのか、アグーの取り巻きたちが一斉に背後から襲い掛かってきた。

「くッ、なんのつもりですか!?」

 普通なら女の細腕で複数人を相手取るなど不可能だが、三つのチート武器を装備中の俺は体も頭も絶好調。

 背中に乗ってきたひとりを背負い投げで地面に叩きつけ、足を押さえる連中は蹴り上げる要領で吹き飛ばす。

 だがその隙にアグーの接近を許し、両腕で抱き締めるように拘束される。

「愛情表現にしては熱烈にすぎますね……!」

「うおッ!? なんて力だ。こんな細い体のどこにこんな……」

 アグーの太く筋肉質な腕を、こめかみに血管を浮かべて引き剥がすが、その際にグレネードランチャーを持つ手が緩んだ。

「姉御、ごめん!」

 元盗賊らしい俊敏さで、アニータが強奪。

 俺にしか使えないのを知っているはずだがと思っていると、グレネードランチャーを手放した影響か、急速に本来の小市民的な思考が戻ってくる。

 あんの外道元王妃。どう考えても、ショットガンの時よりヤベー奴になってたじゃねえか。威力も副作用も絶大すぎる。

 しかし、グレネードランチャーでなければ、近いうちに確実に訪れるだろう帝国軍との戦いに勝つのは難しい。

「お手数をおかけしました。どうやらグレネードランチャーは使う時以外、アニータさんに持っていてもらった方がよさそうですね」

「え? アタイが預かってていいのかい?」

 いきなり手元に出現した武器を気味悪がるのではなく、大切なものを預けてもらえたと感動するアニータ嬢。

 ちょっと気になったので、そこらへんを聞いてみる。

「え? なに言ってんだい、姉御。これまで使わなかっただけで、ずっと背中に装備してたじゃないか」

 アニータの回答にきょとんとしていると、メルティが続きを引き取った。

「そうです。槍で胸を貫かれそうになった時、咄嗟に掴んで盾にしてたじゃないですか。私はもしかして防具だったのかと一瞬思いましたよ」

 アグーたちの意見も同じだった。

 どうやら今回、俺の知らないところで歴史改変が行われたらしい。

 以前にベアトリーチェが、俺のその場での復活機能には神々が関わっている可能性が高いと言っていたが、一気に信憑性を帯びてきたぞ。
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