空を舞う白球

桐条京介

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第31話 ……なんか、意外そうな顔してない?

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 渡りに船というのは、このことだ。淳吾は小笠原茜の提案を、一も二もなく受け入れた。元々、硬式球での練習をどうしようと悩んでいた。

 硬式球の感触がどういうものかなど不安は尽きないが、実際に経験できる機会を与えられるとなれば大きい。問題は草野球の時間がいつになるかだけだった。

 その点を小笠原茜に質問すると「早朝だよ」という答えが返ってきた。土日に休みがとれない職種の人たちが大半なので、自然と出勤前に行われるらしかった。

 冬場は無理でも、夏場は早くから外が明るくなるので勤務前の練習や試合が可能になる。それから皆、仕事へ向かうらしいので業務に支障が出ないのか、他人事ながらに心配になる。

「勤務時間にクタクタだったとしても、野球をやりたい連中の集まりなんだよ。私のお父さんを筆頭にね」

 だからこそ、淳吾がチームに参加したいと言えば歓迎してくれるとの話だった。集まれる人間だけでやるため、数が不足するケースも多くなるらしい。

「じゃあ、私がお父さんに話しておくから、明日にでも参加すればいいよ」

「あ、明日? いきなりだね」

「ようやく夏も近くなってきて、好きな野球ができるからね。皆、張り切ってるのよ。秋頃になると、精根尽き果ててる奴がほとんどだけどね」

 夏の間に好きな野球を朝からやりまくり、その後は来年に向けて気力と体力を充電するような形なのだろうか。とにもかくにも、硬式球で練習できるのはやはりありがたい。

 バッティングセンターの店主からメモ紙を貰い、ボールペンを借りる。それで、小笠原茜のお父さんが普段から練習しているグラウンドまでの地図を作ってもらう。

 小笠原茜の手書きではあるものの、なかなかわかりやすい。性格はがさつなイメージを持っていたが、意外と繊細な女性なのかもしれない。

「……なんか、意外そうな顔してない?」

「え? い、いや……そ、そんなことは……ないかと」

「わかってるわよ。どうせ私の字は汚いとでも思ってたんでしょ。どうして皆、外見で人を判断するかな」

 素直にごめんなさいと謝る。すると小笠原茜はすぐに笑顔を浮かべて淳吾を許してくれる。基本的に優しい女性なのは、間違いなさそうだった。

 こんな女性を半狂乱で叫ばせるくらいのストレスを与える上司に興味を覚えたりもしたが、下手に首を突っ込むと面倒ごとに巻き込まれる危険性も出てくる。

 君子危うきに近寄らずではないが、小笠原茜の勤務している会社についての話は聞くべきじゃないと判断する。

「私のお父さんも大助かりだろうし、淳吾君も野球レベルが少しは上達しそうだよね」

「正直、ありがたいです。ただ、足手まといにならないか心配で……」

「そっか。淳吾君って新入生なうえに、まともな打撃練習もさせてもらえないほどの補欠なんだもんね」

 どうしてそんな設定になってるのかは極めて疑問だが、誤解を解くのは面倒そうなのでそのままにしておく。それにあながち間違いでもない。

「守備とかはどうなの?」

「初心者だと思ってもらえれば」

「初心者かあ……」

 草野球チームとはいえ、硬式球で活動してるくらいだ。もしかしたら、初心者お断りかもしれない。

 段々と不安になってきたが、小笠原茜はそんな淳吾の気持ちを察したように、満面の笑みを浮かべて「大丈夫だよ」と言ってくれた。

「そこらへんも含めて、お父さんに言っておいてあげるから。意地悪な先輩たちの鼻を明かせるといいわね」

 練習目的まで勝手に決められてるような感じだが、お父さんの草野球チームを紹介してもらうだけに何も言えない。それに、勝手に勘違いしてもらえてた方が余計な説明をしなくてすむ。

「じゃあ、私はストレスを発散して帰るから。淳吾君もほどほどにね」

 小笠原茜は笑顔で手を振ると、90キロのケージへ向かって歩いていく。その背中を見送りながら、改めて淳吾は「ありがとう」とお礼を言った。

   *

 集合時間は翌日の朝5時だったので、普段よりずっと早起きして目的地のグラウンドへ向かった。自転車なんて便利なものは持ってないので、徒歩での移動になった。

 昨夜はバッティングセンターでの練習を早めに切り上げて今日に備えていたので、なんとか朝の4時に目覚められた。遅刻なんてしたら、せっかくの小笠原茜の好意を無にしてしまう。

 ひとりでとぼとぼ歩いてグラウンドへ到着すると、すでにオリジナルのユニフォームを着用したむさい中年男性の群れが和気藹々と会話を楽しんでいた。

 その中のひとりが淳吾に気づいたようで、手を上げてこっちへ来いといった仕草をしてくれる。従うしかないので近づいていくと、口髭を生やしているのと同時に、男性の側に眠そうな小笠原茜がいるのがわかった。

 昨日と変わらないジャージ姿でベンチに座っており、顔を俯かせているので最初は誰かわからなかった。淳吾のためを思って来てくれたのならありがたい限りだが、当の小笠原茜はいまだ何の反応も示してくれていない。

「おい、茜。彼がお前の言ってた淳吾君じゃないのか」

 口髭を生やした男性が、ベンチでどこかぐったりしてる感じの小笠原茜に声をかける。周囲に人がいる中でも堂々と呼び捨てにしてるあたり、この人が彼女の父親なのだろう。

 年齢は40代後半なのだが、肉体は若々しいくらいに筋肉が隆々としている。角刈りみたいなスポーツ刈りも、威圧感を高める一因になっていた。

 本人は普通に話してるつもりなのだろうが、淳吾の耳が痛くなるくらいの大声だった。ベンチに座っていた小笠原茜も、うるさいなといった感じで顔を上げる。

「あ、淳吾君。おはよー」

 普段よりもさらに砕けた感じの口調になってるのは、親密さのせいではなく、単純にきちんとした会話をするのがかったるいからだろう。それもそのはずで、すっぴんの小笠原茜は起きたばかりという感じの表情をしている。

「おはようございます」

 お父さんの前なので、一応は敬語を使ってみたが、小笠原茜にとってそんな気遣いはどうでもいいみたいだった。

「これが淳吾君。これがうちのお父さん。それじゃ」

 短く互いの紹介をした小笠原茜は、それだけで帰ろうとする。ぽかんとしてる淳吾の前で、慌ててお父さんが娘を引き止める。

「お、おいおい。いい加減すぎるだろう。こういうのは最初が大事だったりするんだから、紹介者のお前がきちんとしないと駄目だ!」

 強い口調でぴしゃりと言い放たれた正論にしゅんとするかと思いきや、当の小笠原茜はたいして気にしていない。それどころか、逆切れ状態に突入する。

「眠いのを無理やり起こすのは、もっと駄目だと思うんだけど! 私に同行してほしかったら、昨日の内に言っておくべきでしょ!?」

 どうやら小笠原茜の父親は、事前に娘へ話をしたりせず、今朝になって急に一緒に来いと起こしたみたいだった。そうなれば化粧をしてる暇なんてあるはずもなく、すっぴんなのも納得できる。

 淳吾の想像は正解していたようで、小笠原茜は父親に化粧ができなかった点なども含めて猛抗議している。相手に発言させる隙を与えず、一方的なまでの口喧嘩だ。

 父親らしい姿を見せるのかと思いきや、小笠原茜の父親は草野球のチームメートの前でしゅんとしてしまう。

「お、俺が悪かったって。だから、機嫌を直してくれよ、茜ちゃん」

「いい歳した娘をちゃん付けしないっ! 何回言ったら理解すんの!?」

「す、すまんっ! 勘弁してくれっ!」

 泣きそうになりながら娘に謝罪する男性を見て、淳吾は父親の大変さについてしみじみと考えていた。

   *

「そんなわけで、俺が茜の父親で、小笠原大吾だ。淳吾君のことは、娘からよく聞いてるよ」

 何がそんなわけなのかはよくわからないが、とにかく小笠原茜の父親の名前だけは判明した。

 その娘はどうしたのかといえば、出勤前にシャワーを浴びて、化粧もしたいからとすでに帰宅済みだ。もちろん、その前に淳吾が見ているのも構わず、父親に思いつくかぎりの文句を浴びせていた。

 ほとんど涙目になっていたはずの小笠原大吾だったが、娘がいなくなると途端に元気を取り戻した。

「なんせ、普段はあまり口をきいてくれないけど、淳吾君の話題になると話してくれるからな」

 どこか遠い目をして、小笠原大吾がしみじみと話してくれる。どうやら娘が苦手なのではなく、構ってほしいがゆえに面倒がられてる感じだ。

「相変わらず、茜ちゃんには弱いみたいだね」

 小笠原大吾の背後で、クスクス笑う男性がいる。顔立ちはかなり良く、身長は高くて体重も標準的な感じだ。まさにナイスミドルという表現が相応しい。

「独身の源さんには、わからんさ」

 少しむくれたような仕草をしたあと、小笠原大吾は思い出したように慌てて源さんと呼んだ男性を淳吾に紹介してくれた。

「こいつは港源太って言って、俺の同級生だった奴だ。高校時代は同じ野球部に所属してたんだぜ」

「よろしくね、淳吾君。俺も君の話は聞いてるよ。高校1年生だけど、レギュラーをとるために特訓したいんだってね」

 どうやら小笠原茜はきちんと関係者に話を通していてくれたらしく、淳吾は想像していたよりも簡単に「お願いします」と頭を下げる場面まで進むことができた。

「こいつ、格好いいだろ。だがな、淳吾君。騙されてはいかんぞ」

 ニヤリと笑った小笠原大吾は何をとち狂ったのか、いきなり港源太と呼んだ男性にヘッドロックをお見舞いした。

 戸惑う淳吾に港源太の頭を見せ、何故か得意げに「実は禿げてるんだよ。ハッハッハ」と豪快に笑い出した。

 唖然とするしかない淳吾の前で、小笠原大吾のヘッドロックから逃れた港源太が苦笑いを浮かべながら「やめてくれよ」と穏やかに抗議する。一連のやりとりで、小笠原大吾は豪快。港源太は温厚という大体の性格がわかった。

「仕方のない奴だな。まあ、今回はお前に構ってる場合じゃないから、この程度で勘弁しておいてやろう」

 ひとり楽しそうに笑う小笠原大吾を見てるうちに、どうして娘の小笠原茜があまり口をきいてくれなくなったのか、理由がわかったような気がした。

「それじゃあ、本題といくか。淳吾君のポジションはどこなんだ?」

 早速という感じで小笠原大吾に質問をされたが、明確な答えを持ち合わせていない淳吾は首を捻るしかなかった。決まったポジションなんてないからだ。

 いつまでも黙ってても仕方ないので、おもいきって淳吾は初心者なのを白状する。この野球チームに私立群雲学園の関係者がいれば終わりだが、この際、多少のリスクは仕方がなかった。

 とはいえ私立群雲学園の近所からはそれなりに離れてるので、関係者にバレる確率はかなり低いはずだ。仮に練習風景を目撃されただけなら、言い訳はいくらでもできる。要は草野球チームに、高校の野球部の知り合いがいなければいいだけの話だった。

「実は高校に入ってから本格的に野球をするので、ポジションは決まってないんです」

 これにはさすがの小笠原大吾も驚いたようで、狼狽気味に「本当か……」と呟いた。

「じゃ、じゃあ……硬式野球の経験は……」

「すみません。ないです」

「そ、そうか……まあ、まだ高校1年生だしな。中学時代からクラブチームに参加してる奴らなら、うちの草野球チームに参加したいなんて言うわけないわな」

 どこかガッカリしている感じはあったものの、とりあえず淳吾の参加は認めてもらえた。
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