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第25話 いいよな、はないでしょ。いいよな、は!
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呆然とするカイルの耳元で、余裕を失ったサレッタが声を張り上げる。
「どうするの!?」
「とりあえず、ネリュージュに行ってみよう。慎重にな」
ドラゴンが本気で人間の町を滅ぼそうとしているのなら、カイルが行ったところで何の役にも立たない。伝承で活躍し、時の王からドラゴンスレイヤーという称号を与えられる英雄なら話は別だが。
本音をいえば、外見からして凶悪そうな漆黒のドラゴンになど近づきたくもない。あえて接近を試みる理由はひとつ。ナナの居場所や存在に関する手がかりが得られないかと思ったのだ。
正直にネリュージュへ向かう説明をすると、不安そうにしながらもサレッタは同意してくれた。
「ナナちゃんは私たちの娘だもの。いなくなったのなら、探さないとね。あと、勝手にいなくなっちゃ駄目って叱らなきゃ」
「そうだな。子供に注意をするのは親の仕事だ」
「これも初めての共同作業っていうのかしら。うふふ」
体をくねくねさせだすサレッタを、カイルは不思議な生物を見るような感覚で眺める。
カイルの視線に気づいたサレッタが、恥ずかしそうに顔を赤くしつつも不満げに唇を尖らせる。
「やっぱりカイルって鈍感よね。私の気持ちに、ちっとも気づいてくれないし」
「鈍感かどうかはわからないが、サレッタの気持ちには気づいてるさ」
「え……本当!? う、嘘……」
「嘘じゃない。ナナが心配だって気持ちは、俺も同じだからな」
「……うん。そうよね。それでこそカイルだわ」
ドギマギした様子が一転、呆れて疲れ果てたような笑みをサレッタが浮かべた。
今回もやはり不思議そうに見ていると、サレッタが「いいから、行きましょ」とネリュージュの方向を指差した。
「まずは町の様子を確認しないと――きゃあっ!」
サレッタが悲鳴を上げる。ほぼ同じタイミングで、カイルたちを強烈な突風が襲った。しっかり両足で踏ん張っていないと、吹き飛ばされそうだった。
いつの間にやらさらに大地へ接近していたブラックドラゴンの羽ばたきひとつで、この有様になっていたのである。
宙に浮きながら強い羽ばたきをされるだけで、カイル程度の冒険者は近づくことすら困難になる。知ってはいたが、ここまで実力差があると絶望どころか、どうしようもなさすぎて笑えてくる。
遠目に見えるドラゴンが、ネリュージュのある辺りに降り立った。今頃町は大騒ぎになっているはずだ。
「くそ……何だって、ドラゴンが出てきやがるんだよ」
「ナナちゃんを追って……ってわけじゃないわよね?」
サレッタの質問への答えを持たないカイルは、力なく肩を竦めるしかなかった。
「さあな。とりあえず、それを確かめに行こう。下手したら、死ぬかもしれないけどな」
「いいわよ、カイルが一緒にいてくれるなら。カイルがいなければ、私は故郷の村を出ようとしなかった。きっと売られて悲惨な目にあってるか、村で飢えてたわ。どちらになってたかはわからないけど、どちらにしても今の年齢まで生きてなかったかもしれないわ」
「そんなことは……」
「あるのよ。カイルだって村の実情は知ってるでしょ。だから、今の私があるのはカイルのおかげ。とっくになくなってたかもしれない命だもの。一緒に死んでくれと言われれば、喜んで従うわ。でも、ひとりぼっちは嫌よ。それだけが怖いの。だからかな……ナナちゃんを放っておけなかったのは」
「そうか……わかった。ひとりぼっちにはさせない。俺だってサレッタがいてくれたおかげで、厳しい幼少時を生き抜けたんだ。生きるも死ぬも一緒だ」
カイルの台詞に、サレッタは嬉しそうに微笑む。まるでプロポーズみたいね、と。
その瞬間に、カイルは唐突に理解した。奇妙に思えたサレッタの数々の行動が持つ意味を。
サレッタは、カイルと夫婦になりたかったのだ。いつも隣にいてくれるから、それが当たり前だと思っていたが、彼女はより強い絆を欲していた。
「ずっと一緒にいるのが当然だと考えてたから、特別に恋人とか夫婦とかいう関係になった場合のことを想像もしてなかった。そうだな。サレッタが他の男の隣にいるところなんて、芝居でも見たくはないな。唐突だが、さっきのをプロポーズにしとくか。いいよな?」
喜んでくれると思いきや、こめかみをヒクつかせる不可思議な笑みを浮かべたサレッタに、カイルは脛をいきなり蹴られた。
何をすると言う前に、詰め寄ってきたサレッタに左耳を右手でおもいきり引っ張られる。
「ムードがない。贈り物がないと嫌だとかは言わないけど、もうちょっと心のこもった言葉はなかったの? いいよな、はないでしょ。いいよな、は!」
もう一発、脛に蹴りを入れられる。幼い頃から色恋沙汰に縁がなかっただけに、ムードと言われてもカイルにはよくわからない。
「し、仕方ないだろ。それだけ、俺にとってサレッタが側にいるのは当たり前だったんだ。生きるために呼吸をするのと同じくらいな」
「……まあ、いいわ。カイルに物語の主人公みたいな台詞を言えと要求するのも無理な話よね。そのとおりにされても、なんだか気持ち悪いし」
ずいぶんな言われような気もするが、無理なことを求められないのは正直ありがたかった。
「カイルにプロポーズされた事実に変わりはないしね」
見慣れているはずなのに、サレッタが浮かべた満開の笑みをとてもまぶしく感じた。それだけで、なんだか幸せな気分になる。
これが愛なのだろうか。少しだけ考えたところで、それどころではないなと思い直した。サレッタも同じ意見だったみたいで、真顔に戻っていた。
「とても嬉しいけど、まだ心から喜べないわ。この場にナナちゃんがいないもの」
カイルも同調する。「そうだな」
「早く連れ帰って、今回のことを教えなくちゃ。それで、二人でカイルのムードのないプロポーズに文句を言うの」
「勘弁してくれ。またナナに、だからカイルは駄目なのですとか言われちまう」
「実際にそうなんだから、仕方ないでしょ。ほら、早く行くわよ。まずはブラックドラゴンの目的を確かめないとね」
頷いたカイルは、サレッタと走り出す。
追手に見つかるかどうかを心配しているどころではないので、道に出て真っ直ぐにネリュージュを目指す。しばらく戻らないと決めていたが、一日も経過しないうちに舞い戻ることになった。
ネリュージュの町が近づくたび、悲鳴が風に乗って届いてくる。ひとつやふたつではない。数多くの人間が泣き叫んでいる。
「どうやら友好目的の来訪ではないみたいだな」
ネリュージュの町へ入る前から予想はできていたが、実際に自分の目で見ると酷い有様になっていた。
昨夜にナナがしでかした火事とは比較にならない規模で、町の家々が燃えている。その中には、エルロー・リシリッチの屋敷があった金持ち区画も含まれていた。
衛兵と冒険者が協力しているみたいだが、ドラゴンが相手では無謀以外の何でもない。町の広場では数多くの人間が傷つき、倒れていた。いまだ立っているのは片手で数えられるくらいだった。
どうしてドラゴンがいるんだ。
お母さん、助けて。
数多くの悲鳴や怒声が、絶望となって渦を巻く。町の外で十分な脅威となる魔物よりもずっと強いドラゴンが相手では、歴戦の勇士でも分が悪すぎる。
町の外へ住民を逃がしたところで、空を飛べるドラゴンに追いかけられれば終わりだ。誰もが最善の手を見い出せないまま、ドラゴンに蹂躙されていく。
改めて広場でドラゴンを見たカイルは絶句した。見るからに硬そうな鱗が、残虐さを際立たせるように黒光りしていて、まるで猫の目を連想させるような瞳は黄金に輝いている。
人間とは比較にならないほど巨大で、広げた羽はゆうに二メートルを超える。立派な尾は巨木よりも太く長い。大地に突き刺した爪は鋭く、切り裂けぬものなどないと主張する。開かれた口から覗く牙は鈍く輝き、見る者の背筋を寒くさせる。
まるで死を連想させる塊だ。ブラックドラゴンを見たカイルは、率直にそう思った。目の前では繰り出された爪に鎧ごと引き裂かれ、またひとり衛兵が地面に倒れた。
赤い血が体からこぼれ落ち、他の者の血と合わさる。どんどんと大きくなる血だまりに、足が震える。それでもこの場に留まっていられるのは、ナナとの関係性を知りたいからだった。
「フン……人間とは脆弱な生き物だな」
口を開いたドラゴンの言葉を聞いた全員が、驚きで目を見開く。
「こ、言葉を喋れるのか!?」
「当たり前だろう。貴様ら下等な人間ごときと、我を一緒にしてくれるな。自殺願望でもあるのなら、話は別だがな」
そう言ってドラゴンが笑う。大きく開かれた口から放たれる声だけで大気が震える。まさに化物中の化物だ。英雄でも現れなければ、とてもじゃないが敵わない。カイルだけでなく、この場にいれば誰もが同じ感想を抱くはずだ。
「ど、どうして、ドラゴンが人間の町を焼く。何が狙いだ」
覚えながらも、ひとりの男性が勇敢にも声を張り上げた。声のした方にいたのは、昨夜にカイルと相対した隊長らしき衛兵だった。槍と盾を構え、無意識に後退しないよう全身に力を入れているのがわかる。
彼の背後には、まだ無事な衛兵が数人ほど控えている。誰もが泣き出しそうで、隊長格の衛兵がいなければとっくに逃げ出していてもおかしくない。
住民を放置して逃げた衛兵がいても、カイルは責める気にはなれなかった。普通の魔物ならいざ知らず、ドラゴンみたいな怪物が相手では、衛兵のひとりやふたりいたところで何の助けにもならない。それだけ敵は圧倒的な存在だった。
「なあに、我が眠っている間に、人間どもが栄えていたみたいなのでな。様子を見に来てやっただけだ。ついでに、面白そうだから火を吐いてみたがな」
クックックと笑うブラックドラゴンが見せるのは、愉悦のみ。言葉にしたとおり、遊び半分でネリュージュの町を数分で半壊させたのである。
「貴様らも面白かったであろう? 隣人が泣き叫んで逃げ惑い、火にくるまれて悶え死んでいく姿は」
まさに悪夢だった。見た目通りに残虐なドラゴンを前に、どうすればいいのか誰もわからない。
「どうするの!?」
「とりあえず、ネリュージュに行ってみよう。慎重にな」
ドラゴンが本気で人間の町を滅ぼそうとしているのなら、カイルが行ったところで何の役にも立たない。伝承で活躍し、時の王からドラゴンスレイヤーという称号を与えられる英雄なら話は別だが。
本音をいえば、外見からして凶悪そうな漆黒のドラゴンになど近づきたくもない。あえて接近を試みる理由はひとつ。ナナの居場所や存在に関する手がかりが得られないかと思ったのだ。
正直にネリュージュへ向かう説明をすると、不安そうにしながらもサレッタは同意してくれた。
「ナナちゃんは私たちの娘だもの。いなくなったのなら、探さないとね。あと、勝手にいなくなっちゃ駄目って叱らなきゃ」
「そうだな。子供に注意をするのは親の仕事だ」
「これも初めての共同作業っていうのかしら。うふふ」
体をくねくねさせだすサレッタを、カイルは不思議な生物を見るような感覚で眺める。
カイルの視線に気づいたサレッタが、恥ずかしそうに顔を赤くしつつも不満げに唇を尖らせる。
「やっぱりカイルって鈍感よね。私の気持ちに、ちっとも気づいてくれないし」
「鈍感かどうかはわからないが、サレッタの気持ちには気づいてるさ」
「え……本当!? う、嘘……」
「嘘じゃない。ナナが心配だって気持ちは、俺も同じだからな」
「……うん。そうよね。それでこそカイルだわ」
ドギマギした様子が一転、呆れて疲れ果てたような笑みをサレッタが浮かべた。
今回もやはり不思議そうに見ていると、サレッタが「いいから、行きましょ」とネリュージュの方向を指差した。
「まずは町の様子を確認しないと――きゃあっ!」
サレッタが悲鳴を上げる。ほぼ同じタイミングで、カイルたちを強烈な突風が襲った。しっかり両足で踏ん張っていないと、吹き飛ばされそうだった。
いつの間にやらさらに大地へ接近していたブラックドラゴンの羽ばたきひとつで、この有様になっていたのである。
宙に浮きながら強い羽ばたきをされるだけで、カイル程度の冒険者は近づくことすら困難になる。知ってはいたが、ここまで実力差があると絶望どころか、どうしようもなさすぎて笑えてくる。
遠目に見えるドラゴンが、ネリュージュのある辺りに降り立った。今頃町は大騒ぎになっているはずだ。
「くそ……何だって、ドラゴンが出てきやがるんだよ」
「ナナちゃんを追って……ってわけじゃないわよね?」
サレッタの質問への答えを持たないカイルは、力なく肩を竦めるしかなかった。
「さあな。とりあえず、それを確かめに行こう。下手したら、死ぬかもしれないけどな」
「いいわよ、カイルが一緒にいてくれるなら。カイルがいなければ、私は故郷の村を出ようとしなかった。きっと売られて悲惨な目にあってるか、村で飢えてたわ。どちらになってたかはわからないけど、どちらにしても今の年齢まで生きてなかったかもしれないわ」
「そんなことは……」
「あるのよ。カイルだって村の実情は知ってるでしょ。だから、今の私があるのはカイルのおかげ。とっくになくなってたかもしれない命だもの。一緒に死んでくれと言われれば、喜んで従うわ。でも、ひとりぼっちは嫌よ。それだけが怖いの。だからかな……ナナちゃんを放っておけなかったのは」
「そうか……わかった。ひとりぼっちにはさせない。俺だってサレッタがいてくれたおかげで、厳しい幼少時を生き抜けたんだ。生きるも死ぬも一緒だ」
カイルの台詞に、サレッタは嬉しそうに微笑む。まるでプロポーズみたいね、と。
その瞬間に、カイルは唐突に理解した。奇妙に思えたサレッタの数々の行動が持つ意味を。
サレッタは、カイルと夫婦になりたかったのだ。いつも隣にいてくれるから、それが当たり前だと思っていたが、彼女はより強い絆を欲していた。
「ずっと一緒にいるのが当然だと考えてたから、特別に恋人とか夫婦とかいう関係になった場合のことを想像もしてなかった。そうだな。サレッタが他の男の隣にいるところなんて、芝居でも見たくはないな。唐突だが、さっきのをプロポーズにしとくか。いいよな?」
喜んでくれると思いきや、こめかみをヒクつかせる不可思議な笑みを浮かべたサレッタに、カイルは脛をいきなり蹴られた。
何をすると言う前に、詰め寄ってきたサレッタに左耳を右手でおもいきり引っ張られる。
「ムードがない。贈り物がないと嫌だとかは言わないけど、もうちょっと心のこもった言葉はなかったの? いいよな、はないでしょ。いいよな、は!」
もう一発、脛に蹴りを入れられる。幼い頃から色恋沙汰に縁がなかっただけに、ムードと言われてもカイルにはよくわからない。
「し、仕方ないだろ。それだけ、俺にとってサレッタが側にいるのは当たり前だったんだ。生きるために呼吸をするのと同じくらいな」
「……まあ、いいわ。カイルに物語の主人公みたいな台詞を言えと要求するのも無理な話よね。そのとおりにされても、なんだか気持ち悪いし」
ずいぶんな言われような気もするが、無理なことを求められないのは正直ありがたかった。
「カイルにプロポーズされた事実に変わりはないしね」
見慣れているはずなのに、サレッタが浮かべた満開の笑みをとてもまぶしく感じた。それだけで、なんだか幸せな気分になる。
これが愛なのだろうか。少しだけ考えたところで、それどころではないなと思い直した。サレッタも同じ意見だったみたいで、真顔に戻っていた。
「とても嬉しいけど、まだ心から喜べないわ。この場にナナちゃんがいないもの」
カイルも同調する。「そうだな」
「早く連れ帰って、今回のことを教えなくちゃ。それで、二人でカイルのムードのないプロポーズに文句を言うの」
「勘弁してくれ。またナナに、だからカイルは駄目なのですとか言われちまう」
「実際にそうなんだから、仕方ないでしょ。ほら、早く行くわよ。まずはブラックドラゴンの目的を確かめないとね」
頷いたカイルは、サレッタと走り出す。
追手に見つかるかどうかを心配しているどころではないので、道に出て真っ直ぐにネリュージュを目指す。しばらく戻らないと決めていたが、一日も経過しないうちに舞い戻ることになった。
ネリュージュの町が近づくたび、悲鳴が風に乗って届いてくる。ひとつやふたつではない。数多くの人間が泣き叫んでいる。
「どうやら友好目的の来訪ではないみたいだな」
ネリュージュの町へ入る前から予想はできていたが、実際に自分の目で見ると酷い有様になっていた。
昨夜にナナがしでかした火事とは比較にならない規模で、町の家々が燃えている。その中には、エルロー・リシリッチの屋敷があった金持ち区画も含まれていた。
衛兵と冒険者が協力しているみたいだが、ドラゴンが相手では無謀以外の何でもない。町の広場では数多くの人間が傷つき、倒れていた。いまだ立っているのは片手で数えられるくらいだった。
どうしてドラゴンがいるんだ。
お母さん、助けて。
数多くの悲鳴や怒声が、絶望となって渦を巻く。町の外で十分な脅威となる魔物よりもずっと強いドラゴンが相手では、歴戦の勇士でも分が悪すぎる。
町の外へ住民を逃がしたところで、空を飛べるドラゴンに追いかけられれば終わりだ。誰もが最善の手を見い出せないまま、ドラゴンに蹂躙されていく。
改めて広場でドラゴンを見たカイルは絶句した。見るからに硬そうな鱗が、残虐さを際立たせるように黒光りしていて、まるで猫の目を連想させるような瞳は黄金に輝いている。
人間とは比較にならないほど巨大で、広げた羽はゆうに二メートルを超える。立派な尾は巨木よりも太く長い。大地に突き刺した爪は鋭く、切り裂けぬものなどないと主張する。開かれた口から覗く牙は鈍く輝き、見る者の背筋を寒くさせる。
まるで死を連想させる塊だ。ブラックドラゴンを見たカイルは、率直にそう思った。目の前では繰り出された爪に鎧ごと引き裂かれ、またひとり衛兵が地面に倒れた。
赤い血が体からこぼれ落ち、他の者の血と合わさる。どんどんと大きくなる血だまりに、足が震える。それでもこの場に留まっていられるのは、ナナとの関係性を知りたいからだった。
「フン……人間とは脆弱な生き物だな」
口を開いたドラゴンの言葉を聞いた全員が、驚きで目を見開く。
「こ、言葉を喋れるのか!?」
「当たり前だろう。貴様ら下等な人間ごときと、我を一緒にしてくれるな。自殺願望でもあるのなら、話は別だがな」
そう言ってドラゴンが笑う。大きく開かれた口から放たれる声だけで大気が震える。まさに化物中の化物だ。英雄でも現れなければ、とてもじゃないが敵わない。カイルだけでなく、この場にいれば誰もが同じ感想を抱くはずだ。
「ど、どうして、ドラゴンが人間の町を焼く。何が狙いだ」
覚えながらも、ひとりの男性が勇敢にも声を張り上げた。声のした方にいたのは、昨夜にカイルと相対した隊長らしき衛兵だった。槍と盾を構え、無意識に後退しないよう全身に力を入れているのがわかる。
彼の背後には、まだ無事な衛兵が数人ほど控えている。誰もが泣き出しそうで、隊長格の衛兵がいなければとっくに逃げ出していてもおかしくない。
住民を放置して逃げた衛兵がいても、カイルは責める気にはなれなかった。普通の魔物ならいざ知らず、ドラゴンみたいな怪物が相手では、衛兵のひとりやふたりいたところで何の助けにもならない。それだけ敵は圧倒的な存在だった。
「なあに、我が眠っている間に、人間どもが栄えていたみたいなのでな。様子を見に来てやっただけだ。ついでに、面白そうだから火を吐いてみたがな」
クックックと笑うブラックドラゴンが見せるのは、愉悦のみ。言葉にしたとおり、遊び半分でネリュージュの町を数分で半壊させたのである。
「貴様らも面白かったであろう? 隣人が泣き叫んで逃げ惑い、火にくるまれて悶え死んでいく姿は」
まさに悪夢だった。見た目通りに残虐なドラゴンを前に、どうすればいいのか誰もわからない。
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