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第21話 ナナの器の大きさに感謝するのです
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とりあえず、どらごんないとというのは、ナナを肩車して戦う状態というのは理解できた。だとしたら、カイルにもやりようはある。
肩車をしているので両手は自由。加えて、どらごんというわりにはナナの体重はさほど重くない。恐らく同年代の人間の子供と変わらないだろう。
ひとりでいる時ほど素早い動きはできなくとも、走ったりはできる。カイルはロングソードを構えて、剣先を衛兵に向ける。
「何のつもりだ。我々に剣を向けるとは」
「こうする以外にないでしょう。貴方たちに捕まれば、例えエルローに非があっても、こちらが悪者にされるんですから。本当、たいした正義ですよね」
カイルが皮肉交じりに言うと、大多数の衛兵がムッとした。しかし、少数は申し訳なさそうにする。この町でエルローに逆らえないのを、忌々しく思っている衛兵も中にはいるのだ。もっとも、今回は助けになってくれそうもないが。
捕まったら全面的にこちらが悪いことにされた挙句、大きな罪を背負わせられる。逃げればお尋ね者にされるだろうが、汚名を返上する機会を得られる可能性は多少であっても残る。現在の状況下で、どちらがいいのかは比べるまでもなかった。
「行くぞ。ナナ、俺の合図で火を吐いてくれ」
「嫌なのです。誇り高きどらごんは、人間の命令など聞かないのです」
さらりと頼みを拒絶された。カイル単独での突破は難しい。包囲網を抜けるには、ナナの力が必要不可欠だ。
どうすれば快く協力してもらえるか。考えるカイルは、ふとズボンのポケットに公園で拾ってきた水あめの空瓶が入ってるのに気づく。
これだと、頭上でカイルの髪の毛を掴んで体勢を維持しているナナに優しく話しかける。
「俺のお願いを聞いてくれたら、水あめをご馳走するんだけどな。そうか、嫌か。残念だ」
ナナの全身がピクッとする。肩車をしているだけに、小さな反応であっても伝わってくる。
「ふにゅ……そ、そこまで言うのなら、し、仕方ないので、聞いてあげるのです。誇り高いどらごんである、ナナの器の大きさに感謝するのです」
「ああ、もちろんだ。それじゃ、振り落とされないように、しっかり掴まっててくれよ」
「カイルごときが偉そうなのです。どらごんであるナナが、無様に落っこちるなどありえないのです」
頭上から降り注ぐ、ふふんという笑い声を合図代わりに、勢いよくカイルは両足を動かす。
真っ直ぐに突っ込み、盾を構える衛兵へロングソードを放つ。
「フン。破れかぶれの突撃か。所詮は冒険者といえど、底辺の存在だな」
嘲り笑うエルローの声を逆に一笑し、カイルは体勢を変える。振り下ろされたロングソードを、盾で受け止めたのが仇になる。
「今だ、ナナ。衛兵を狙って火を吐け!」
「ぐごー、なのです!」
くわっと目を見開いたナナが口も開け、要望どおりに火を吐いてくれる。
目の前にいる衛兵がしまったという顔をする。ナナの炎を遮る頼みの綱だった盾は、ロングソードを防ぐのに使ってしまっている。
攻撃されれば咄嗟に防ぎたくなるのは戦士の常。訓練された衛兵ならなおさらだ。慌てて盾の位置を変えようとしても遅い。カイルに肩車されたナナが高所――構える盾の隙間からここぞとばかりに火を浴びせる。
殺さないようにと喋ったのを覚えていたらしく、ある程度は手加減された火が盾の加護を失った衛兵に襲い掛かる。
火にまみれ、悲鳴を上げる衛兵が盾を手放す。床を転げ回るうちに火は消えるも、すぐには隊列に戻れない。
せっかくの防御網も穴ができれば無意味。加えてカイルのロングソードと、ナナの火炎を同時に警戒しなければならないのだ。衛兵が自らの身を守る難度は、先ほどに比べてかなり上昇していた。
隙をついてカイルを攻撃しようにも、後衛にいるサレッタが投げナイフで妨害する。援護を受けたカイルは、さらにナナと連携して衛兵の守りを崩していく。
敵を全滅させる必要はなく、この場を抜けられればいいカイルたちと違い、攻撃の許可が出ているとはいえ、向こうはこちらを仕留めなければならない。徐々に、衛兵にあった余裕が失われていく。
多勢に無勢の状況下でも、有利になりつつあるのはナナのおかげだった。口から火を吐くのは魔力を必要としないらしく、燃料切れみたいな状態にもならない。
一方で衛兵側は、味方を巻き込むのを恐れて広範囲に攻撃可能な魔法を使えない。ならばと氷の矢を放ったところで、カイルの頭上にいるナナが火を吐いて撃ち落とす。逆に氷の矢を溶かした火が、術者を燃やすべく飛んでいく。
ナナがいてくれるおかげで、多数の衛兵とも互角にやり合える。エルローの配下はといえば、戦闘の巻き添えを恐れて遠目で様子を窺っているだけだ。
強そうな側近は、エルローの周囲から動かない。警護を疎かにした結果、人質にされたりしないよう警戒しているのだ。ゆえにエルローは、実力ある部下を衛兵の援軍にしなかった。
町を守る役目があるので当然とはいえ、自分たちばかり戦わせられていれば、好意的な感情など生まれない。ただでさえ衛兵がエルローに従っているのは、寄付金を多額に支払う有力者だからだ。決して人柄に惚れているとか、忠誠を誓っているなどの理由ではない。
「何をしている! 早くそいつらを仕留めろ。お前らは役立たずか!」
権力を有している者の特性なのか、火に油を注ぐような叱責をエルローが繰り返す。
なら自分でやれよと任務を放棄する衛兵はひとりもいないが、すでに半数以上がやる気を失っているみたいだった。
そもそも衛兵たちが盗賊を捕らえた時のように、犠牲を顧みずにカイルたちを捕らえようとしていたら、とっくに勝敗がついていた。
町の有力者として逆らえない存在であっても、良くない噂を衛兵たちは知っているのだろう。だからこそ些細な不満を抱くだけで覇気がなくなる。
ナナの火を浴びて辛い思いをするくらいなら、手を抜いてさっさとカイルたちを通してしまおうと考える衛兵が現れても不思議ではなかった。
「何のために王国にも寄付をしていると思っているのだ! さっさとそのクズどもを撃退せんと、お前らのせいで寄付ができなくなったと国へ言うぞ!」
エルローの脅しに衛兵たちがビクッとする。そうなったら大変だと思っているのだろうが、そう簡単にはいかない。
「いいのか? 寄付をやめたら、この町で好き勝手できなくなるぞ。ここにいる衛兵が、明日にはお前を捕らえる側になってたりしてな」
「ぐ……! クソガキが! あまり調子に乗るなよ!」
「お前の周りにいる強そうな護衛も戦闘に参加させてみるか? そうしたらこっちは、お前を炎で狙えるからありがたいぜ」
「ちいいっ! クソったれがぁぁぁ!」
激昂はしても護衛は動かさない。エルローは何よりも自分の安全を優先する。
カイルの指摘によって、エルローの脅しは実行されないと判断したのだろう。再び衛兵たちの纏う空気が緩む。
「飛び道具は無駄だぜ。ナナに炎の壁を作らせる。この場でそんなことになったら、どれだけの衛兵が犠牲になるだろうな」
「こけおどしだ! お尋ね者になるような真似が、冒険者にできるはずがない!」
エルローの言葉に、カイルは苦笑する。
「何を言ってんだ。お前は俺たちをお尋ね者にするつもりじゃないか。だから衛兵にも攻撃をしてる。今さらそんなことを言われてもな」
コケにするように笑ってやったカイルを見て、エルローが怒りを爆発させる。
「そのクズを逃がすな! 貴様らの代わりはいくらでもいる! 何人死んでもいい! 玉砕覚悟で突っ込め!」
あまりにも乱暴な物言いに、とうとう衛兵の何割かがエルローへ敵意を剥き出しにし始める。ネリュージュに滞在する衛兵のまとめ役と思われる者も、不愉快そうに眉をひそめた。
怒りで我を失いかけていて、自分がどのような状況に立っているのかを冷静に判断できないのだろう。とはいえ、衛兵が味方になってくれるわけではない。
衛兵にも生活があり、職を失う訳にはいかないのだ。だからこそ命令には従うが、全うしようとはすでに考えていないみたいだった。
これなら突破できる。カイルとナナの連携を恐れて、衛兵は必要以上に近づいてこなくなった。自由に動けるスペースが発生し、視界も広くなる。
「どらごんであるナナに逆らう愚かな人間は、焼き尽くしてしまうのです。ぐごー、なのです」
両手を上げて取るポーズは恐ろしいというより、なんとも可愛らしい。
だが、盛大に撒き散らされる炎は可愛いでは済まされない。
結果としてナナの脅しじみた台詞は効果を発揮し、衛兵たちを後退りさせる。
ネリュージュの防衛のために、結構な数の衛兵が詰所に滞在していたみたいだが、王都同様に屈強な騎士がいるわけではない。今回はそれが、カイルたちを助けてくれた。
エルローの側近は衛兵よりも強そうだが、エルローは自分の身を守ることしか考えていないので、戦闘に参加させようとはしない。それもありがたかった。
「ナナの火から身を守るために盾を使えば、今度はがら空きになった部分に俺が攻撃をします。怪我をしたくなければ、素直に退けてください」
「……申し訳ないが、我々にも町を守るという使命がある。そう簡単には通せないのだよ」
そう言ったのは、指揮官と思われる衛兵だった。装備は他の衛兵と同じだが、身に纏っているオーラみたいなものが違うような気がした。
本来ならすみませんと頭を下げて相手に従うところだが、事が事だけにカイルもそうですよねとは言えない。
「町に迷惑をかけるつもりはありませんよ。俺たちは町を出て行きます。それでどうですか」
「どうですかと言われてもな。死者は出ていないが、こちらにも負傷者はでている。それに、エルロー殿の屋敷を燃やしたのは事実なのだろう?」
「そうですが、仲間が身を守るために仕方なくやった行為です。それとも誘拐された仲間は抵抗せず、エルローの玩具にされてればよかったんですか?」
「むう……君の話が事実だと証明できるものはあるのかね」
「ありません。後頭部につけられた傷も、決定的ではないでしょうしね。そもそも、証拠なんて残すような相手ではないでしょう」
だからこそ必死に逃げようとしているし、衛兵たちも懸命ではないかもしれないが、カイルを捕らえようとしている。
肩車をしているので両手は自由。加えて、どらごんというわりにはナナの体重はさほど重くない。恐らく同年代の人間の子供と変わらないだろう。
ひとりでいる時ほど素早い動きはできなくとも、走ったりはできる。カイルはロングソードを構えて、剣先を衛兵に向ける。
「何のつもりだ。我々に剣を向けるとは」
「こうする以外にないでしょう。貴方たちに捕まれば、例えエルローに非があっても、こちらが悪者にされるんですから。本当、たいした正義ですよね」
カイルが皮肉交じりに言うと、大多数の衛兵がムッとした。しかし、少数は申し訳なさそうにする。この町でエルローに逆らえないのを、忌々しく思っている衛兵も中にはいるのだ。もっとも、今回は助けになってくれそうもないが。
捕まったら全面的にこちらが悪いことにされた挙句、大きな罪を背負わせられる。逃げればお尋ね者にされるだろうが、汚名を返上する機会を得られる可能性は多少であっても残る。現在の状況下で、どちらがいいのかは比べるまでもなかった。
「行くぞ。ナナ、俺の合図で火を吐いてくれ」
「嫌なのです。誇り高きどらごんは、人間の命令など聞かないのです」
さらりと頼みを拒絶された。カイル単独での突破は難しい。包囲網を抜けるには、ナナの力が必要不可欠だ。
どうすれば快く協力してもらえるか。考えるカイルは、ふとズボンのポケットに公園で拾ってきた水あめの空瓶が入ってるのに気づく。
これだと、頭上でカイルの髪の毛を掴んで体勢を維持しているナナに優しく話しかける。
「俺のお願いを聞いてくれたら、水あめをご馳走するんだけどな。そうか、嫌か。残念だ」
ナナの全身がピクッとする。肩車をしているだけに、小さな反応であっても伝わってくる。
「ふにゅ……そ、そこまで言うのなら、し、仕方ないので、聞いてあげるのです。誇り高いどらごんである、ナナの器の大きさに感謝するのです」
「ああ、もちろんだ。それじゃ、振り落とされないように、しっかり掴まっててくれよ」
「カイルごときが偉そうなのです。どらごんであるナナが、無様に落っこちるなどありえないのです」
頭上から降り注ぐ、ふふんという笑い声を合図代わりに、勢いよくカイルは両足を動かす。
真っ直ぐに突っ込み、盾を構える衛兵へロングソードを放つ。
「フン。破れかぶれの突撃か。所詮は冒険者といえど、底辺の存在だな」
嘲り笑うエルローの声を逆に一笑し、カイルは体勢を変える。振り下ろされたロングソードを、盾で受け止めたのが仇になる。
「今だ、ナナ。衛兵を狙って火を吐け!」
「ぐごー、なのです!」
くわっと目を見開いたナナが口も開け、要望どおりに火を吐いてくれる。
目の前にいる衛兵がしまったという顔をする。ナナの炎を遮る頼みの綱だった盾は、ロングソードを防ぐのに使ってしまっている。
攻撃されれば咄嗟に防ぎたくなるのは戦士の常。訓練された衛兵ならなおさらだ。慌てて盾の位置を変えようとしても遅い。カイルに肩車されたナナが高所――構える盾の隙間からここぞとばかりに火を浴びせる。
殺さないようにと喋ったのを覚えていたらしく、ある程度は手加減された火が盾の加護を失った衛兵に襲い掛かる。
火にまみれ、悲鳴を上げる衛兵が盾を手放す。床を転げ回るうちに火は消えるも、すぐには隊列に戻れない。
せっかくの防御網も穴ができれば無意味。加えてカイルのロングソードと、ナナの火炎を同時に警戒しなければならないのだ。衛兵が自らの身を守る難度は、先ほどに比べてかなり上昇していた。
隙をついてカイルを攻撃しようにも、後衛にいるサレッタが投げナイフで妨害する。援護を受けたカイルは、さらにナナと連携して衛兵の守りを崩していく。
敵を全滅させる必要はなく、この場を抜けられればいいカイルたちと違い、攻撃の許可が出ているとはいえ、向こうはこちらを仕留めなければならない。徐々に、衛兵にあった余裕が失われていく。
多勢に無勢の状況下でも、有利になりつつあるのはナナのおかげだった。口から火を吐くのは魔力を必要としないらしく、燃料切れみたいな状態にもならない。
一方で衛兵側は、味方を巻き込むのを恐れて広範囲に攻撃可能な魔法を使えない。ならばと氷の矢を放ったところで、カイルの頭上にいるナナが火を吐いて撃ち落とす。逆に氷の矢を溶かした火が、術者を燃やすべく飛んでいく。
ナナがいてくれるおかげで、多数の衛兵とも互角にやり合える。エルローの配下はといえば、戦闘の巻き添えを恐れて遠目で様子を窺っているだけだ。
強そうな側近は、エルローの周囲から動かない。警護を疎かにした結果、人質にされたりしないよう警戒しているのだ。ゆえにエルローは、実力ある部下を衛兵の援軍にしなかった。
町を守る役目があるので当然とはいえ、自分たちばかり戦わせられていれば、好意的な感情など生まれない。ただでさえ衛兵がエルローに従っているのは、寄付金を多額に支払う有力者だからだ。決して人柄に惚れているとか、忠誠を誓っているなどの理由ではない。
「何をしている! 早くそいつらを仕留めろ。お前らは役立たずか!」
権力を有している者の特性なのか、火に油を注ぐような叱責をエルローが繰り返す。
なら自分でやれよと任務を放棄する衛兵はひとりもいないが、すでに半数以上がやる気を失っているみたいだった。
そもそも衛兵たちが盗賊を捕らえた時のように、犠牲を顧みずにカイルたちを捕らえようとしていたら、とっくに勝敗がついていた。
町の有力者として逆らえない存在であっても、良くない噂を衛兵たちは知っているのだろう。だからこそ些細な不満を抱くだけで覇気がなくなる。
ナナの火を浴びて辛い思いをするくらいなら、手を抜いてさっさとカイルたちを通してしまおうと考える衛兵が現れても不思議ではなかった。
「何のために王国にも寄付をしていると思っているのだ! さっさとそのクズどもを撃退せんと、お前らのせいで寄付ができなくなったと国へ言うぞ!」
エルローの脅しに衛兵たちがビクッとする。そうなったら大変だと思っているのだろうが、そう簡単にはいかない。
「いいのか? 寄付をやめたら、この町で好き勝手できなくなるぞ。ここにいる衛兵が、明日にはお前を捕らえる側になってたりしてな」
「ぐ……! クソガキが! あまり調子に乗るなよ!」
「お前の周りにいる強そうな護衛も戦闘に参加させてみるか? そうしたらこっちは、お前を炎で狙えるからありがたいぜ」
「ちいいっ! クソったれがぁぁぁ!」
激昂はしても護衛は動かさない。エルローは何よりも自分の安全を優先する。
カイルの指摘によって、エルローの脅しは実行されないと判断したのだろう。再び衛兵たちの纏う空気が緩む。
「飛び道具は無駄だぜ。ナナに炎の壁を作らせる。この場でそんなことになったら、どれだけの衛兵が犠牲になるだろうな」
「こけおどしだ! お尋ね者になるような真似が、冒険者にできるはずがない!」
エルローの言葉に、カイルは苦笑する。
「何を言ってんだ。お前は俺たちをお尋ね者にするつもりじゃないか。だから衛兵にも攻撃をしてる。今さらそんなことを言われてもな」
コケにするように笑ってやったカイルを見て、エルローが怒りを爆発させる。
「そのクズを逃がすな! 貴様らの代わりはいくらでもいる! 何人死んでもいい! 玉砕覚悟で突っ込め!」
あまりにも乱暴な物言いに、とうとう衛兵の何割かがエルローへ敵意を剥き出しにし始める。ネリュージュに滞在する衛兵のまとめ役と思われる者も、不愉快そうに眉をひそめた。
怒りで我を失いかけていて、自分がどのような状況に立っているのかを冷静に判断できないのだろう。とはいえ、衛兵が味方になってくれるわけではない。
衛兵にも生活があり、職を失う訳にはいかないのだ。だからこそ命令には従うが、全うしようとはすでに考えていないみたいだった。
これなら突破できる。カイルとナナの連携を恐れて、衛兵は必要以上に近づいてこなくなった。自由に動けるスペースが発生し、視界も広くなる。
「どらごんであるナナに逆らう愚かな人間は、焼き尽くしてしまうのです。ぐごー、なのです」
両手を上げて取るポーズは恐ろしいというより、なんとも可愛らしい。
だが、盛大に撒き散らされる炎は可愛いでは済まされない。
結果としてナナの脅しじみた台詞は効果を発揮し、衛兵たちを後退りさせる。
ネリュージュの防衛のために、結構な数の衛兵が詰所に滞在していたみたいだが、王都同様に屈強な騎士がいるわけではない。今回はそれが、カイルたちを助けてくれた。
エルローの側近は衛兵よりも強そうだが、エルローは自分の身を守ることしか考えていないので、戦闘に参加させようとはしない。それもありがたかった。
「ナナの火から身を守るために盾を使えば、今度はがら空きになった部分に俺が攻撃をします。怪我をしたくなければ、素直に退けてください」
「……申し訳ないが、我々にも町を守るという使命がある。そう簡単には通せないのだよ」
そう言ったのは、指揮官と思われる衛兵だった。装備は他の衛兵と同じだが、身に纏っているオーラみたいなものが違うような気がした。
本来ならすみませんと頭を下げて相手に従うところだが、事が事だけにカイルもそうですよねとは言えない。
「町に迷惑をかけるつもりはありませんよ。俺たちは町を出て行きます。それでどうですか」
「どうですかと言われてもな。死者は出ていないが、こちらにも負傷者はでている。それに、エルロー殿の屋敷を燃やしたのは事実なのだろう?」
「そうですが、仲間が身を守るために仕方なくやった行為です。それとも誘拐された仲間は抵抗せず、エルローの玩具にされてればよかったんですか?」
「むう……君の話が事実だと証明できるものはあるのかね」
「ありません。後頭部につけられた傷も、決定的ではないでしょうしね。そもそも、証拠なんて残すような相手ではないでしょう」
だからこそ必死に逃げようとしているし、衛兵たちも懸命ではないかもしれないが、カイルを捕らえようとしている。
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