15 / 96
第15話 友人の裏切りと突然の告白
しおりを挟む「ひどい目にあった……」
「あ、お疲れ様です。思ったより早い帰りですね」
「細江君……。もう店は終わり?」
「はい。ちょっとだけ早いんですけど、お客さんがまた外に並びたさないうちに今日は閉めようって。宮下さんはコカトリスの卵どうでした?」
「駄目だったぁ。何かめっちゃ強い男の人に邪魔されて……」
「あーもしかして『橘フーズ』の人ですか? あそこのダンジョンはあの会社がモンスターの発生を操作してるとか何とかって言いますし。実際俺達も『佐藤ジャーキー』にいた時はドラゴンを狩る時に、『橘フーズ』の探索者に何か言われたら黙っていう事を聞いておけって……」
「ドラゴンのいる階層は頑なに自分達だけのものにしたいって事か。上層階に目ぼしいモンスターの配置をするとかなんとか言って色んな企業と裏で契約でもしてるんかね? 全く、がめついのはどっちだよ」
「相当イラついてるみたいですけど、そんなに『橘フーズ』の探索者はヤバイ奴だったんですか?」
「いや、若くて乱暴で敬語も使えない奴だったけど、無邪気だったからかな、そんなにイライラはしなかった。それより、毒液を吐いてくれたあのコカトリスがもう嫌いで嫌いで」
「毒液……。流石です神様っ!毒もなんともない人間とか俺聞いたことないっすよ!」
「ま、まぁな」
誉めてくれる細江君の手前、毒液を飲んでしまったっていう失敗は話せない。
あー何かまた口の中洗いたくなってきた。
「でもその手……もしかして『橘フーズ』の探索者と?」
「『橘フーズ』っていうかその使役するドラゴンがな……。あそこのダンジョンを踏破するにはもうちょいレベル上げないといけないかも」
「レベル上げ!それなら俺もとことん付き合いますよ!経験値が多いって事考えると【NO9】ですよね! 1回神様とは一緒に探索に行きたいと思って――」
「駄目」
細江君と話していると休憩室に仕事で汗ばんだ景さんが入ってきた。
普通ならその艶やかさに目を奪われるところだけど、いつも以上に目が鋭く怖いからそんな邪な気持ちになる余裕がない。
何で景さんはこんなに不機嫌なんだ?
久々にクレーマーと一悶着あった?
「その駄目っていうのは今日クレーマーとか対応しててやっぱりそういった時の人手が足りないとかっていうと――」
「違う。……まずはその手を見せて。因みに手はもう洗った?」
「……はい」
俺の言葉を一刀両断した景さんは俺の手をとると、じっと見つめた。
そして、休憩室にある棚から救急キットを取り出し、しゅっと消毒液を俺の手に吹き掛けると傷の残らない大きめの絆創膏を貼って包帯を巻く。
「あの、これくらい放っておけば治るからそんなに大袈裟にしなくても」
「油断は駄目。きっとこの怪我も強くなって油断したから。それに私も油断して……。危険な場所って知ってたんだからもっとちゃんと止めて上げれば良かった」
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。それより卵とってこれなくてすみません」
「そんなの謝らなくていい。……とにかくしばらくは【NO9】は禁止! ドラゴンも禁止っ!」
「「はい」」
景さんは可愛らしく禁止宣言をするとじっと俺と細江君の顔を見つめた。
ドラゴンは別にどうでもいいけど【NO9】はまだ行きたかったなぁ……。
でもこの顔されちゃあなぁ。
仕方ない。今度休みの日によわよわなダンジョンでいそいそと細江君とレベル上げしよ。
「おーいっ! お客さんからいいもんもらったぞ! って何だみんなして黙って……その歳でにらめっこでもやってたのか?」
景さんの膨れっ面にたじろいでいると休憩室の扉が開き今度は店長が満面の笑みで部屋に入ってきた。
掲げられた手には紙袋。
お客さんからの差し入れなんて珍しいな。
「そんなんじゃない。ちょっと宮下君とついでに細江君に注意してただけ」
「そうか。まぁお説教タイムはいいとして、これを見てくれよ! こんなのが店の料理として以外で手に入るなんて中々ないぞ!いやぁ宮下、お前の知り合いにもまともそうな居て良かったな!」
「俺の知り合い?」
大学の時の仲間がSNSでも見て来たのかな?
いや待て、だとしても俺に差し入れなんてしてくれるような気の利いた人間は居なかった筈だぞ。
「『ドラゴン肉が気に入ったら連絡よろ』だってさ。袋の中に紙が入ってたぞ。一応電話番号も書いてある」
「……この字体は」
ドラゴンをテイムしてたあいつか。
また引き抜きの勧誘に来るとは行ってたけどまさかこんなに早いなんて……。
多分動画とかSNSとかで特定したんだろうけど、ここに来ようっていう判断が遅い、じゃない早い!
「後で一言お礼を言っておけよ。俺からはもう言っておいた」
「えーっとぉ……はい」
視界に入った景さんの顔を見て俺は引き抜きの件は伏せておく事にした。
機嫌が悪いのに追い討ちをかけるのも辛いし、しゃーないよな。また後で報告するか。
「――店長、今ドラゴンって言いました?」
「おう! 今日のまかない飯はドラゴン肉のすき焼きだあ!」
細江君の問いに嬉しそうに答えた店長は引き抜きなんて煩わしい事を知らずに紙袋に入れられたドラゴンの肉の入った箱を取り出して、早速その蓋を開けるのだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説


ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
私の隣は、心が見えない男の子
舟渡あさひ
青春
人の心を五感で感じ取れる少女、人見一透。
隣の席の男子は九十九くん。一透は彼の心が上手く読み取れない。
二人はこの春から、同じクラスの高校生。
一透は九十九くんの心の様子が気になって、彼の観察を始めることにしました。
きっと彼が、私の求める答えを持っている。そう信じて。
【完結】カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる