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第30話 人質(1)
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「お父さん・・・バンソニー・・・」
目の前で最愛の父と婚約者を惨殺されたメアリーは、覚えたばかりの治癒魔法を唱え続けていた。魔力がどんどん枯渇していき、視界がだんだん狭くなっていく。でも、すでに魂を失った父とバンソニーの体には、何の変化も起きなかった。
「許さない・・・・許さない・・・・人族・・・・」
――――
信長達は、奪った馬に乗って人族の領域の方へ移動していた。入手した本の中に、わりと詳細なこの世界の地図があったのだ。
「今日はここで野営をして、明日はあの山を超えるぞ」
手配されている可能性があるので、街道は通らずあえて山道に入っていった。
「しかし、いくら俺たちが強くなっているって言っても大軍を相手にすることは出来そうに無いな。今日も腕を飛ばされてひやひやしたぜ」
信長はそう言いながら左腕の傷跡を右手で触ってみる。ガラシャの治癒魔法のせいなのか、強靱な肉体のせいなのか傷はほとんど消えていた。しかし、まだ少ししびれが残っている。
「信長くん、ヒヤヒヤしてたの?全然そんな感じ無かったじゃない」
「ん?まあ、敵に弱みを見せるわけにはいかないからな。しかし、さっきの騎士クラスが100人同時に魔法と剣で襲ってきたら防ぎようがない。やはり、軍団が必要だな。よし、決めたぞ!人族の国を手に入れる!自国の民を奴隷に出すような王族は皆殺しにして城門に吊してやろう!」
信長は右手を握り天に突き上げた。そして力丸達全員を睥睨する。
「さすが信長様です。我ら一同、地獄の果てまでお供いたします」
蘭丸達は片膝をついて信長にひれ伏した。それを見ていたガラシャはあきれた顔をして天を見た。
――――
神聖エーフ帝国 帝都
ここエーフ帝国の蛮族管理省の一室に、人族の総領事が呼び出されていた。
「先日ボードレー伯爵邸に人族が押し入り、騎士団や伯爵たち40人を惨殺したとのことだ。お前達は何を考えている?こんな事をしてただですむと思っているのか?」
プラチナ色に輝くストレートの髪を持った女性エルフが、椅子に深く腰をかけ足を組んでいた。宝石を納めたような切れ長のその目は、まるで汚物を見るようまなざしを五体投地している男に向けている。
「も、申し訳ありません!し、しかし、ひ弱な人族がエルフの騎士の方々に危害を加えることなど出来ようはずがありません!な、何かの間違いではないでしょうか?」
額を床にこすりつけながら釈明しているのは、駐エーフ帝国人族総領事のムフェ・ミーユだ。人族のイーシ王国では、他国に外交窓口となる領事館を置いている。そして、エルフ族と魔族の国にある人族領事館の総領事は外務畑としてはエリートと言って間違いは無かった。
「ふぅ、それでは生き残ったボードレー伯爵夫人やご家族が嘘を吐いていると言うことか?」
エーフ帝国蛮族管理省の二等書記官カーミラ・キップは、深いため息をはく。蛮族管理省とは、主に人族のイーシ王国を管理するための部署だ。エーフ帝国ではイーシ王国から大量の食料やその他物産の朝貢を受けており、その量を管理し、毎年増量させることが仕事となっている。イーシ王国を“生かさず殺さず”がモットーだ。
「い、いえ、そんな嘘を吐いているなどそんな恐れ多いことは・・・。ただ、もしかすると何かの勘違いなのではないかと愚考する次第でありまして・・・」
ミーユ総領事にしてみても、人族がエルフに勝てるなどとはとても思えなかった。たしかに10人がかりで1人のエルフを取り囲めば、なんとか勝てる可能性はある。しかし、今回は騎士団を含めた40人もの男が殺されたと言うことだった。しかも、その賊は男4人女1人の5人だという。
「我らエルフの貴族が勘違いをしただと?しかも、そこに居たご婦人方や子息メイドに至るまで証言は一致している。我らを侮辱することは万死に値することだな。貴様はペルソナ・ノン・グラータ(好まざる人物)に指定する。すぐに荷物をまとめて帰国するのだな。それと、イーシ王国第八王子を出頭させろ。今回の件の責任をとってもらう」
イーシ王国は、各国に対して人質を差し出していた。基本、王族に連なる者で5歳から12歳くらいまでの子供が一人選ばれている。もちろん世話係の者達も一緒に来て、不自由のない暮らしをしていた。何も起こらない間は・・・。
――――
「王子様、お逃げください!このおばばが命に代えてもここは誰も通しません!」
イーシ王国第八王子ヨーファのところへ、蛮族管理省への出頭命令が来たのだ。そして、今回の事件のあらましを聞いていたお付きの者達は、ヨーファ王子が責任をとらされるのだと理解した。
「おばば、ありがとう。そなたの忠義は一生忘れないよ。しかし、こういう時の為に余がここにいるのだ。もし余が逃げれば、イーシ王国は滅ぼされてしまうかもしれない。そうなれば多くの民が死んでしまう。余の命一つで皆が助かるのであればそれで良い」
「おおおぉぉぉ・・・・・」
ヨーファ王子は7歳の時にエーフ帝国に来て5年になる。来年には次の人質である幼い王女が来て、代わりに帰国できる予定だったのだ。
“妹に代わる前で良かった”
ヨーファ王子は覚悟を決めて迎えの馬車に乗る。
目の前で最愛の父と婚約者を惨殺されたメアリーは、覚えたばかりの治癒魔法を唱え続けていた。魔力がどんどん枯渇していき、視界がだんだん狭くなっていく。でも、すでに魂を失った父とバンソニーの体には、何の変化も起きなかった。
「許さない・・・・許さない・・・・人族・・・・」
――――
信長達は、奪った馬に乗って人族の領域の方へ移動していた。入手した本の中に、わりと詳細なこの世界の地図があったのだ。
「今日はここで野営をして、明日はあの山を超えるぞ」
手配されている可能性があるので、街道は通らずあえて山道に入っていった。
「しかし、いくら俺たちが強くなっているって言っても大軍を相手にすることは出来そうに無いな。今日も腕を飛ばされてひやひやしたぜ」
信長はそう言いながら左腕の傷跡を右手で触ってみる。ガラシャの治癒魔法のせいなのか、強靱な肉体のせいなのか傷はほとんど消えていた。しかし、まだ少ししびれが残っている。
「信長くん、ヒヤヒヤしてたの?全然そんな感じ無かったじゃない」
「ん?まあ、敵に弱みを見せるわけにはいかないからな。しかし、さっきの騎士クラスが100人同時に魔法と剣で襲ってきたら防ぎようがない。やはり、軍団が必要だな。よし、決めたぞ!人族の国を手に入れる!自国の民を奴隷に出すような王族は皆殺しにして城門に吊してやろう!」
信長は右手を握り天に突き上げた。そして力丸達全員を睥睨する。
「さすが信長様です。我ら一同、地獄の果てまでお供いたします」
蘭丸達は片膝をついて信長にひれ伏した。それを見ていたガラシャはあきれた顔をして天を見た。
――――
神聖エーフ帝国 帝都
ここエーフ帝国の蛮族管理省の一室に、人族の総領事が呼び出されていた。
「先日ボードレー伯爵邸に人族が押し入り、騎士団や伯爵たち40人を惨殺したとのことだ。お前達は何を考えている?こんな事をしてただですむと思っているのか?」
プラチナ色に輝くストレートの髪を持った女性エルフが、椅子に深く腰をかけ足を組んでいた。宝石を納めたような切れ長のその目は、まるで汚物を見るようまなざしを五体投地している男に向けている。
「も、申し訳ありません!し、しかし、ひ弱な人族がエルフの騎士の方々に危害を加えることなど出来ようはずがありません!な、何かの間違いではないでしょうか?」
額を床にこすりつけながら釈明しているのは、駐エーフ帝国人族総領事のムフェ・ミーユだ。人族のイーシ王国では、他国に外交窓口となる領事館を置いている。そして、エルフ族と魔族の国にある人族領事館の総領事は外務畑としてはエリートと言って間違いは無かった。
「ふぅ、それでは生き残ったボードレー伯爵夫人やご家族が嘘を吐いていると言うことか?」
エーフ帝国蛮族管理省の二等書記官カーミラ・キップは、深いため息をはく。蛮族管理省とは、主に人族のイーシ王国を管理するための部署だ。エーフ帝国ではイーシ王国から大量の食料やその他物産の朝貢を受けており、その量を管理し、毎年増量させることが仕事となっている。イーシ王国を“生かさず殺さず”がモットーだ。
「い、いえ、そんな嘘を吐いているなどそんな恐れ多いことは・・・。ただ、もしかすると何かの勘違いなのではないかと愚考する次第でありまして・・・」
ミーユ総領事にしてみても、人族がエルフに勝てるなどとはとても思えなかった。たしかに10人がかりで1人のエルフを取り囲めば、なんとか勝てる可能性はある。しかし、今回は騎士団を含めた40人もの男が殺されたと言うことだった。しかも、その賊は男4人女1人の5人だという。
「我らエルフの貴族が勘違いをしただと?しかも、そこに居たご婦人方や子息メイドに至るまで証言は一致している。我らを侮辱することは万死に値することだな。貴様はペルソナ・ノン・グラータ(好まざる人物)に指定する。すぐに荷物をまとめて帰国するのだな。それと、イーシ王国第八王子を出頭させろ。今回の件の責任をとってもらう」
イーシ王国は、各国に対して人質を差し出していた。基本、王族に連なる者で5歳から12歳くらいまでの子供が一人選ばれている。もちろん世話係の者達も一緒に来て、不自由のない暮らしをしていた。何も起こらない間は・・・。
――――
「王子様、お逃げください!このおばばが命に代えてもここは誰も通しません!」
イーシ王国第八王子ヨーファのところへ、蛮族管理省への出頭命令が来たのだ。そして、今回の事件のあらましを聞いていたお付きの者達は、ヨーファ王子が責任をとらされるのだと理解した。
「おばば、ありがとう。そなたの忠義は一生忘れないよ。しかし、こういう時の為に余がここにいるのだ。もし余が逃げれば、イーシ王国は滅ぼされてしまうかもしれない。そうなれば多くの民が死んでしまう。余の命一つで皆が助かるのであればそれで良い」
「おおおぉぉぉ・・・・・」
ヨーファ王子は7歳の時にエーフ帝国に来て5年になる。来年には次の人質である幼い王女が来て、代わりに帰国できる予定だったのだ。
“妹に代わる前で良かった”
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