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第22話 騎士団副団長アルベルト(1)
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「バンソニー!スティア様が戻っていらしたわ!」
目のいいメアリーは、林から駆けだしてきた騎馬を見て、それがスティアだとすぐに解った。
「目がいいな、メアリー。おや、しかし従者が付いてきていないのはどうしたことだ?」
スティアの騎乗する馬は、平時とは思えない速度で走ってきている。その走りには鬼気迫るものさえ感じる事ができた。
「賊だ!賊に襲われた!従者が3人殺されてしまった!」
その場にいたボードレー家とスー家の者達は、スティアの言葉をすぐに理解する事が出来なかった。ここはボードレー家の領地で有り、エルフ族が支配している治安の良い場所なのだ。しかも、魔法も剣技も一流である護衛の従者が3人も殺されるなど、にわかには信じられなかった。
「落ち着け、スティア。どういうことだ?魔獣でも出たのか?」
バンソニーは水筒の水を渡して飲むように勧めた。
しかし、スティアにはそれを飲む余裕すら無かった。顔は尋常では無いほどの恐怖を感じたのか、汗をびっしょりかいていて蒼白になっている。
「魔獣じゃ無い!人族の女だ!火魔法によって3人が一瞬で焼き殺されたんだ!ニールイも右手を失って、なんとかその女を足止めしてくれて、おれだけ・・・おれだけ無様に逃げ帰ってきてしまった・・・」
「ばかな。人族がそんな魔法を使えるわけは無いだろう。悪い夢でも見たんじゃ無いのか?」
と、そこにもう1頭の馬が戻ってきた。その上には、かろうじてたてがみにしがみついているニールイの姿があった。
「ニールイ!無事だったのか!良く戻ってきた!」
スティアはニールイを抱きかかえて草むらに寝かせた。右腕を失った肩口からは、激しく出血をしている。スティアは両手をニールイの血で真っ赤に染めながら、心の底からニールイに感謝し、そして身を案じていた。
「まさか、ニールイほどの手練れが・・・」
「そんな、他の従者達は本当に・・・」
そこにいる者達は口々に「ありえない」と言うが、目の前のニールイの右肩が、それは事実であると如実に語っていた。
「私が治癒魔法をかけます」
ニールイに一人の貴婦人が歩み寄り治癒魔法の詠唱を始めた。ボードレー伯爵夫人のローズマリーだ。彼女は自分の服が土で汚れるのも気にせずに膝をつき、両手を傷口にかざして治癒魔法をかける。
「ありがとうございます。ボードレー伯爵夫人・・・、しかし、すぐにお逃げください・・・賊がおります。強力な魔法使いです・・・・・ここは危険です・・・・」
治癒魔法によって出血は止まり、なんとか命を救う事は出来るだろう。しかし、ニールイほどの手練に重傷を負わせる事ができる者など、人族にいるはずはなかった。
「これで解っただろう!ここは危険なんだ!みんなすぐに館に避難するんだ!」
スティアが叫ぶ。無詠唱で3人の手練れを同時に焼き殺す事が出来るなど、宮廷魔術師でも出来ない芸当だ。そんな魔獣のような人族の女がこの近くにいるという事実をなんとしても理解させなければならない。
「しかし、スティア。アーチャー達がまだ帰って来ていない。誰かを呼びに行かせよう」
何かしらの危機が迫っている事は理解できた。だが、バンソニーは従兄弟であるアーチャーを放って逃げる事は出来なかったのだ。
「バンソニー様。ここは我らにお任せください。騎士団の中から2名、アーチャー様を探しに行かせます」
そう言って片膝をついたのは、ボードレー伯爵家騎士団の副団長アルベルトだ。今日は、伯爵家の従者とは別に、より精鋭である騎士団の者が5名帯同している。
「皆様はすぐ館に避難してください。館には、テリューズ団長と10人の騎士がおります。そこなら何が来ようとも安全です。さあ、お急ぎください」
そして、騎士団の5名を残して館に避難する事になった。
「アルベルト様、どうかご無事で。無理をなさらないでください」
アルベルト副団長の下へメアリーは近づき、その手を握って言葉をかけた。メアリーは、重傷のニールイと三人の従者が殺されたという事実に涙を流していた。
「メアリー様。なんとお優しい。立派な淑女にお育ちになられましたな。このアルベルト、誠にうれしゅうございます。さあ、ここは我々に任せてすぐに避難を」
今から8年ほど前、アルベルトがスー家主催の園遊会に招かれてイリアン・パイプの演奏をしていたとき、泣いているメアリーと出会っていた。おてんばだったメアリーは、父親の言う事を聞かず怒られてしまったのだ。
『お嬢様には涙は似合いませんよ』
それが、メアリーに最初にかけた言葉だった。それ以来、メアリーはアルベルトの事を兄のように慕っていたのだ。
「お嬢様には涙は似合いませんよ」
アルベルトは、初めて会ったときにかけた言葉を今またメアリーになげかける。
その言葉は魔法のようにメアリーの心を勇気づけた。
「はいっ!」
メアリーは力強く返事をして愛馬にまたがった。そして皆と一緒に館に避難する。
目のいいメアリーは、林から駆けだしてきた騎馬を見て、それがスティアだとすぐに解った。
「目がいいな、メアリー。おや、しかし従者が付いてきていないのはどうしたことだ?」
スティアの騎乗する馬は、平時とは思えない速度で走ってきている。その走りには鬼気迫るものさえ感じる事ができた。
「賊だ!賊に襲われた!従者が3人殺されてしまった!」
その場にいたボードレー家とスー家の者達は、スティアの言葉をすぐに理解する事が出来なかった。ここはボードレー家の領地で有り、エルフ族が支配している治安の良い場所なのだ。しかも、魔法も剣技も一流である護衛の従者が3人も殺されるなど、にわかには信じられなかった。
「落ち着け、スティア。どういうことだ?魔獣でも出たのか?」
バンソニーは水筒の水を渡して飲むように勧めた。
しかし、スティアにはそれを飲む余裕すら無かった。顔は尋常では無いほどの恐怖を感じたのか、汗をびっしょりかいていて蒼白になっている。
「魔獣じゃ無い!人族の女だ!火魔法によって3人が一瞬で焼き殺されたんだ!ニールイも右手を失って、なんとかその女を足止めしてくれて、おれだけ・・・おれだけ無様に逃げ帰ってきてしまった・・・」
「ばかな。人族がそんな魔法を使えるわけは無いだろう。悪い夢でも見たんじゃ無いのか?」
と、そこにもう1頭の馬が戻ってきた。その上には、かろうじてたてがみにしがみついているニールイの姿があった。
「ニールイ!無事だったのか!良く戻ってきた!」
スティアはニールイを抱きかかえて草むらに寝かせた。右腕を失った肩口からは、激しく出血をしている。スティアは両手をニールイの血で真っ赤に染めながら、心の底からニールイに感謝し、そして身を案じていた。
「まさか、ニールイほどの手練れが・・・」
「そんな、他の従者達は本当に・・・」
そこにいる者達は口々に「ありえない」と言うが、目の前のニールイの右肩が、それは事実であると如実に語っていた。
「私が治癒魔法をかけます」
ニールイに一人の貴婦人が歩み寄り治癒魔法の詠唱を始めた。ボードレー伯爵夫人のローズマリーだ。彼女は自分の服が土で汚れるのも気にせずに膝をつき、両手を傷口にかざして治癒魔法をかける。
「ありがとうございます。ボードレー伯爵夫人・・・、しかし、すぐにお逃げください・・・賊がおります。強力な魔法使いです・・・・・ここは危険です・・・・」
治癒魔法によって出血は止まり、なんとか命を救う事は出来るだろう。しかし、ニールイほどの手練に重傷を負わせる事ができる者など、人族にいるはずはなかった。
「これで解っただろう!ここは危険なんだ!みんなすぐに館に避難するんだ!」
スティアが叫ぶ。無詠唱で3人の手練れを同時に焼き殺す事が出来るなど、宮廷魔術師でも出来ない芸当だ。そんな魔獣のような人族の女がこの近くにいるという事実をなんとしても理解させなければならない。
「しかし、スティア。アーチャー達がまだ帰って来ていない。誰かを呼びに行かせよう」
何かしらの危機が迫っている事は理解できた。だが、バンソニーは従兄弟であるアーチャーを放って逃げる事は出来なかったのだ。
「バンソニー様。ここは我らにお任せください。騎士団の中から2名、アーチャー様を探しに行かせます」
そう言って片膝をついたのは、ボードレー伯爵家騎士団の副団長アルベルトだ。今日は、伯爵家の従者とは別に、より精鋭である騎士団の者が5名帯同している。
「皆様はすぐ館に避難してください。館には、テリューズ団長と10人の騎士がおります。そこなら何が来ようとも安全です。さあ、お急ぎください」
そして、騎士団の5名を残して館に避難する事になった。
「アルベルト様、どうかご無事で。無理をなさらないでください」
アルベルト副団長の下へメアリーは近づき、その手を握って言葉をかけた。メアリーは、重傷のニールイと三人の従者が殺されたという事実に涙を流していた。
「メアリー様。なんとお優しい。立派な淑女にお育ちになられましたな。このアルベルト、誠にうれしゅうございます。さあ、ここは我々に任せてすぐに避難を」
今から8年ほど前、アルベルトがスー家主催の園遊会に招かれてイリアン・パイプの演奏をしていたとき、泣いているメアリーと出会っていた。おてんばだったメアリーは、父親の言う事を聞かず怒られてしまったのだ。
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それが、メアリーに最初にかけた言葉だった。それ以来、メアリーはアルベルトの事を兄のように慕っていたのだ。
「お嬢様には涙は似合いませんよ」
アルベルトは、初めて会ったときにかけた言葉を今またメアリーになげかける。
その言葉は魔法のようにメアリーの心を勇気づけた。
「はいっ!」
メアリーは力強く返事をして愛馬にまたがった。そして皆と一緒に館に避難する。
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