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第20話 ガラシャの覚悟(1)
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「ガラシャ!馬が手に入ったぞ!お前、乗れるか?」
信長達は馬に騎乗して、ガラシャの居る方に向かって移動を開始した。とっさに飛び出してしまったので、ガラシャの事を“ちょっと”忘れていたのだ。
「あれは、煙?」
ガラシャがいると思われる方向から、ゆらゆらと煙が上がっている。
「ガラシャ!大丈夫か!?」
信長達は異常を感じて馬の足を急がせた。
ガラシャは、何かを抱えて座り込んでいる。そしてその5mほど向こうに、煙を上げている黒い物体がいくつかあった。
――――
数分前
「あれ、人間の子供じゃない?」
200mほど向こうの茂みから、人族の子供が飛び出してきた。その子供が弓で射られるのを見て、信長達は剣を抜いて駆けだした。そして、剣を振るうたびにエルフの男達が吹き飛んでいく。遠目に見ていたが、戦いは一瞬で決着が付いたようだ。立っているエルフはすでに無く、丁度木立の陰に移動したのか見えなくなってしまった。
ガラシャの足はガタガタと震えてしまい、その場から動けなかったのだ。ただ、あの子供が無事であって欲しいと、そう願っていた。
ガサガサ
「えっ?」
ガラシャが立っている場所の横の茂みから、枝のこすれる音がして10歳くらいの女の子がよろよろと歩き出してきた。その子の右肩には矢が刺さっている。
そしてガラシャはその女の子と目が合った。ガラシャの前に出てきた女の子の表情は恐怖に支配されていて、ガラシャを見てその場に立ち尽くしてしまう。ガラシャが味方なのか敵なのか判別できないのだ。
ガラシャも驚きのあまり、声を出す事が出来なかった。その目は瞬きもせず見開いたまま、女の子を凝視している。
次の瞬間、女の子の胸から矢が突き出てきた。そして、血を吐いて倒れる。
ガラシャはやはり声を出す事が出来なかったのだが、なんとか体を動かして女の子を抱きかかえた。
「・・・助け・・・て・・・・」
女の子は、最後の力を振り絞って助けを求め、そして、その小さな右手でガラシャの頬を触った。しかし震えるその手は、すぐに力なく垂れ下がってしまう。
「スティア様、このあたりのはずです」
茂みの向こうから、何人かの男の声が近づいてきた。
「馬の入れない茂みの中だと逃げ切れるとでも思ったのでしょう。浅はかなものですな」
「ああ、だから人族なんだよ。あんなのがこの美しい世界に存在していること自体間違いなんだよな。いっそ滅ぼしてしまえばいいのに」
「おっしゃるとおりですが、そうすると農業奴隷がいなくなってしまいます。神が人族にも役割を与えていると思えば、少しは慈悲の心も芽生えましょう」
「お前は優しいやつだな。お、居たぞ!・・・・・ん?大人の人族か?」
――――
エルフの男達は、女の子を抱えて座り込んでいるガラシャを取り囲んだ。
「この人族の女は、獲物じゃ無いよな?迷い込んだのか?」
スティア様と呼ばれた男が、傍らの従者に問いかけた。
「そうですね。獲物のリストには無かったと思います。こんなところに人族がいるのは珍しいですが、森で迷ってこっちに来てしまったのかも知れませんね。保護して、人族の領事館に引き渡しますか?」
「そうだな・・・しかし、よく見たら上玉じゃないか。我が家の玄関ホールを飾るには丁度良いと思わないか?」
スティアは品定めをするように、上から下までガラシャを凝視した。この世界では黒毛黒瞳は非常に珍しい。それに、鼻筋も通っており、輪郭も整っている。人族にしては肌のつやも良く、栄養状態が良い環境で育った事を物語っていた。剥製にして飾れば、他の貴族達に自慢が出来そうだとスティアは思った。
「しかし、スティア様。狩猟用の奴隷以外を狩るのは違反ですよ。逃げてきた奴隷かもしれません。とりあえず脱がして入れ墨を確認しましょう」
奴隷であれば、その所有者を示す入れ墨が入っているはずだった。まずはそれを確認する事にする。エルフ族の貴族である自分が、他人の所有物をかってに剥製にしたとあっては大問題だ。高い文明を持つエルフ族が、ルールを破る事があってはならない。
従者の一人がガラシャに近づき、右手でガラシャの肩をつかんだ。そして引っ張って立ち上がらせようとする。
「触るな」
「えっ?」
そのエルフは、一瞬の恐怖と違和感を覚えて右手を引っ込めようとした。しかし次の瞬間、ガラシャの肩をつかんでいた右手にヒビがはいり、バラバラと崩れてしまったのだ。
「ヒッーーー!」
「何だ!?何が起こった!?」
「スティア様!お下がりください!」
「まさか、魔法だと?人族が無詠唱で魔法を使ったというのか?」
信長達は馬に騎乗して、ガラシャの居る方に向かって移動を開始した。とっさに飛び出してしまったので、ガラシャの事を“ちょっと”忘れていたのだ。
「あれは、煙?」
ガラシャがいると思われる方向から、ゆらゆらと煙が上がっている。
「ガラシャ!大丈夫か!?」
信長達は異常を感じて馬の足を急がせた。
ガラシャは、何かを抱えて座り込んでいる。そしてその5mほど向こうに、煙を上げている黒い物体がいくつかあった。
――――
数分前
「あれ、人間の子供じゃない?」
200mほど向こうの茂みから、人族の子供が飛び出してきた。その子供が弓で射られるのを見て、信長達は剣を抜いて駆けだした。そして、剣を振るうたびにエルフの男達が吹き飛んでいく。遠目に見ていたが、戦いは一瞬で決着が付いたようだ。立っているエルフはすでに無く、丁度木立の陰に移動したのか見えなくなってしまった。
ガラシャの足はガタガタと震えてしまい、その場から動けなかったのだ。ただ、あの子供が無事であって欲しいと、そう願っていた。
ガサガサ
「えっ?」
ガラシャが立っている場所の横の茂みから、枝のこすれる音がして10歳くらいの女の子がよろよろと歩き出してきた。その子の右肩には矢が刺さっている。
そしてガラシャはその女の子と目が合った。ガラシャの前に出てきた女の子の表情は恐怖に支配されていて、ガラシャを見てその場に立ち尽くしてしまう。ガラシャが味方なのか敵なのか判別できないのだ。
ガラシャも驚きのあまり、声を出す事が出来なかった。その目は瞬きもせず見開いたまま、女の子を凝視している。
次の瞬間、女の子の胸から矢が突き出てきた。そして、血を吐いて倒れる。
ガラシャはやはり声を出す事が出来なかったのだが、なんとか体を動かして女の子を抱きかかえた。
「・・・助け・・・て・・・・」
女の子は、最後の力を振り絞って助けを求め、そして、その小さな右手でガラシャの頬を触った。しかし震えるその手は、すぐに力なく垂れ下がってしまう。
「スティア様、このあたりのはずです」
茂みの向こうから、何人かの男の声が近づいてきた。
「馬の入れない茂みの中だと逃げ切れるとでも思ったのでしょう。浅はかなものですな」
「ああ、だから人族なんだよ。あんなのがこの美しい世界に存在していること自体間違いなんだよな。いっそ滅ぼしてしまえばいいのに」
「おっしゃるとおりですが、そうすると農業奴隷がいなくなってしまいます。神が人族にも役割を与えていると思えば、少しは慈悲の心も芽生えましょう」
「お前は優しいやつだな。お、居たぞ!・・・・・ん?大人の人族か?」
――――
エルフの男達は、女の子を抱えて座り込んでいるガラシャを取り囲んだ。
「この人族の女は、獲物じゃ無いよな?迷い込んだのか?」
スティア様と呼ばれた男が、傍らの従者に問いかけた。
「そうですね。獲物のリストには無かったと思います。こんなところに人族がいるのは珍しいですが、森で迷ってこっちに来てしまったのかも知れませんね。保護して、人族の領事館に引き渡しますか?」
「そうだな・・・しかし、よく見たら上玉じゃないか。我が家の玄関ホールを飾るには丁度良いと思わないか?」
スティアは品定めをするように、上から下までガラシャを凝視した。この世界では黒毛黒瞳は非常に珍しい。それに、鼻筋も通っており、輪郭も整っている。人族にしては肌のつやも良く、栄養状態が良い環境で育った事を物語っていた。剥製にして飾れば、他の貴族達に自慢が出来そうだとスティアは思った。
「しかし、スティア様。狩猟用の奴隷以外を狩るのは違反ですよ。逃げてきた奴隷かもしれません。とりあえず脱がして入れ墨を確認しましょう」
奴隷であれば、その所有者を示す入れ墨が入っているはずだった。まずはそれを確認する事にする。エルフ族の貴族である自分が、他人の所有物をかってに剥製にしたとあっては大問題だ。高い文明を持つエルフ族が、ルールを破る事があってはならない。
従者の一人がガラシャに近づき、右手でガラシャの肩をつかんだ。そして引っ張って立ち上がらせようとする。
「触るな」
「えっ?」
そのエルフは、一瞬の恐怖と違和感を覚えて右手を引っ込めようとした。しかし次の瞬間、ガラシャの肩をつかんでいた右手にヒビがはいり、バラバラと崩れてしまったのだ。
「ヒッーーー!」
「何だ!?何が起こった!?」
「スティア様!お下がりください!」
「まさか、魔法だと?人族が無詠唱で魔法を使ったというのか?」
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