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第5話 保護された(2)
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「どうだった?」
「良くわかりませんね。日本の事を“ヒノモト”と言ったり、”南蛮“なんて言葉をつかったり、なんだか時代劇から抜け出してきたような子供たちですね。イントネーションも変な感じですし。方言は、岡山弁に近いような気がします。私の祖父が岡山の人なんですが、あんな感じの言葉なんですよ」
「そうか。怪我をしている子供の方は、刃物で切られた傷以外に矢が刺さったような傷があるそうだよ。ボウガンでやられた可能性もあるが、その肝心の矢が見つからない。それに、現場には争った形跡や遺留品も全く見当たらない。謎だらけだな」
病院の待合室で、紺色の制服に身を包んだ婦人警官と、捜査担当の刑事が話しをしている。
「怪我をした子は、幸い命に別状は無いそうだ。二人が意識を取り戻したらそっちの聴取も頼む」
――――
聴取を終え、信長達に食事が提供された。信長は蘭丸と布団のある畳部屋に案内され、今は二人だけだ。
「どう思う?蘭よ。ここは一体何処じゃ?あやつらのお国言葉は聞いたことが無い」
「上様、それがしにも何が何やら・・・・童の姿に戻っております故、元亀の終わりか天正の初めに時を遡ったのかとも思いましたが、そうでもなさそうですし・・」
「そうじゃの。おぬしらは十ほどの若返りであろうが、儂は四十は若返っておる。不思議な事じゃ。それに、このにぎりめしもどうじゃ?なにやら透けて見える紙にくるまれておる」
そんな事を言いながら、信長と蘭丸はにぎりめしを持ち上げて物珍しそうに見ていた。
「う、上様!裏側に文字が書いてあります。”町机小区北港市浜横県川奈神・・・”これは何でしょう?」
「・・・・もしかして、反対から読めるのではないか?“神奈川県横浜市港北区小机町・・・・ミツノブ食品・・・“か?神奈川・・とは“神奈川湊”のことか?小机は小机城・・小机衆か?ということは、ここはおそらく関東・・・北条の領地であろうか・・・」
※戦国時代は横書きの場合、右から読むことが一般的だった。
「上様、北条なら同盟でございます。事情を説明すれば庇護にあずかれるやもしれませぬ」
「いや、北条とは同盟とは言え、それは甲州征伐の為の一時的なものじゃ。織田家に臣従している訳では無い。このような姿で出て行けば、おそらく亡き者にされるであろう。今は何も出来ぬ。とにかく、何故にこのような事になったか調べるのが先じゃ」
――――
信長と蘭丸は一泊した後に、別の施設に移されることになった。坊丸と力丸とは、怪我の治療のためしばらく別行動となると告げられる。
「八王子児童相談所・・・・。八王子とは相模と武蔵の間にある八王子であろうな。やはり北条の所領か。しかし、蘭、どう思う?牛や馬も無く走ることの出来る車に、道中に見た町並み。ここは本当に日の本であろうか?」
「上様。顔は日の本の民の様ですし言葉もなんとか通じます。しかしながら、私が知っている日の本とはどうしても思えませぬ」
二人は現状に困惑しながら、情報の収集にあたった。外に出ることは出来そうに無いので、まずはこの部屋から見て回る。そこは20畳くらいの畳の部屋で、壁際にはたくさんの書物が置いてあった。
蘭丸は、興味深そうにその書物の背表紙を見る。そこには色とりどりの書物が置いてあり、人が描いたとは思えないほど精巧な絵などもあった。
「“まんが日本昔ばなし”・・・絵巻物の様な物か・・・。“アンパン○ン”・・・・・・う、上様!これをご覧下さい!このような書物が!」
蘭丸の顔はみるみる青ざめていき、そしてその書物を開いている両手はわなわなと震えていた。
「どうした?蘭。なにをそんなに驚いておる。なになに・・」
『まんが日本の歴史 8巻 本能寺の変から天下統一』
その書物を手に取った信長の顔は硬直し、ゴクリと蘭丸にも解るくらいの固唾を飲み込んだ。そして、二人で読み進めていく。
・・・・本能寺の変・・・・関ヶ原・・・・徳川幕府・・・・
「くくくっっ・・・あーはっはっはっは!見ろ!光秀のやつ、落ち武者狩りにあって討たれたとあるぞ!ざまあないのぉ!しかし、その後(のち)サル(豊臣秀吉)が関白か!あやつも偉ろぉなったもんじゃのぉ!うまくやりおって!おサルの関白など日の本も終わりよのぉ。そうじゃろ!蘭!ほうほう、それで徳川幕府か。竹千代が征夷大将軍じゃと?あーはっはっはっは!似合わぬ!あんな狸顔が大将軍か!それで徳川も滅びて天皇親政の世になると」
信長には、書いてある言葉の全てがわかるわけでは無かったが、漢字で書かれていればほぼ意味を理解でき、さらにマンガであるため、その絵によって概ねの書物の内容は飲み込めた。
「う、上様。笑い事ではありませぬ。この書物によると上様は本能寺で討ち死にされておりまする。つ、ついでにそれがしも・・・。ということは今の我らはどういうことでありましょうや?」
「あ、そうじゃの。摩訶不思議なことじゃの」
「良くわかりませんね。日本の事を“ヒノモト”と言ったり、”南蛮“なんて言葉をつかったり、なんだか時代劇から抜け出してきたような子供たちですね。イントネーションも変な感じですし。方言は、岡山弁に近いような気がします。私の祖父が岡山の人なんですが、あんな感じの言葉なんですよ」
「そうか。怪我をしている子供の方は、刃物で切られた傷以外に矢が刺さったような傷があるそうだよ。ボウガンでやられた可能性もあるが、その肝心の矢が見つからない。それに、現場には争った形跡や遺留品も全く見当たらない。謎だらけだな」
病院の待合室で、紺色の制服に身を包んだ婦人警官と、捜査担当の刑事が話しをしている。
「怪我をした子は、幸い命に別状は無いそうだ。二人が意識を取り戻したらそっちの聴取も頼む」
――――
聴取を終え、信長達に食事が提供された。信長は蘭丸と布団のある畳部屋に案内され、今は二人だけだ。
「どう思う?蘭よ。ここは一体何処じゃ?あやつらのお国言葉は聞いたことが無い」
「上様、それがしにも何が何やら・・・・童の姿に戻っております故、元亀の終わりか天正の初めに時を遡ったのかとも思いましたが、そうでもなさそうですし・・」
「そうじゃの。おぬしらは十ほどの若返りであろうが、儂は四十は若返っておる。不思議な事じゃ。それに、このにぎりめしもどうじゃ?なにやら透けて見える紙にくるまれておる」
そんな事を言いながら、信長と蘭丸はにぎりめしを持ち上げて物珍しそうに見ていた。
「う、上様!裏側に文字が書いてあります。”町机小区北港市浜横県川奈神・・・”これは何でしょう?」
「・・・・もしかして、反対から読めるのではないか?“神奈川県横浜市港北区小机町・・・・ミツノブ食品・・・“か?神奈川・・とは“神奈川湊”のことか?小机は小机城・・小机衆か?ということは、ここはおそらく関東・・・北条の領地であろうか・・・」
※戦国時代は横書きの場合、右から読むことが一般的だった。
「上様、北条なら同盟でございます。事情を説明すれば庇護にあずかれるやもしれませぬ」
「いや、北条とは同盟とは言え、それは甲州征伐の為の一時的なものじゃ。織田家に臣従している訳では無い。このような姿で出て行けば、おそらく亡き者にされるであろう。今は何も出来ぬ。とにかく、何故にこのような事になったか調べるのが先じゃ」
――――
信長と蘭丸は一泊した後に、別の施設に移されることになった。坊丸と力丸とは、怪我の治療のためしばらく別行動となると告げられる。
「八王子児童相談所・・・・。八王子とは相模と武蔵の間にある八王子であろうな。やはり北条の所領か。しかし、蘭、どう思う?牛や馬も無く走ることの出来る車に、道中に見た町並み。ここは本当に日の本であろうか?」
「上様。顔は日の本の民の様ですし言葉もなんとか通じます。しかしながら、私が知っている日の本とはどうしても思えませぬ」
二人は現状に困惑しながら、情報の収集にあたった。外に出ることは出来そうに無いので、まずはこの部屋から見て回る。そこは20畳くらいの畳の部屋で、壁際にはたくさんの書物が置いてあった。
蘭丸は、興味深そうにその書物の背表紙を見る。そこには色とりどりの書物が置いてあり、人が描いたとは思えないほど精巧な絵などもあった。
「“まんが日本昔ばなし”・・・絵巻物の様な物か・・・。“アンパン○ン”・・・・・・う、上様!これをご覧下さい!このような書物が!」
蘭丸の顔はみるみる青ざめていき、そしてその書物を開いている両手はわなわなと震えていた。
「どうした?蘭。なにをそんなに驚いておる。なになに・・」
『まんが日本の歴史 8巻 本能寺の変から天下統一』
その書物を手に取った信長の顔は硬直し、ゴクリと蘭丸にも解るくらいの固唾を飲み込んだ。そして、二人で読み進めていく。
・・・・本能寺の変・・・・関ヶ原・・・・徳川幕府・・・・
「くくくっっ・・・あーはっはっはっは!見ろ!光秀のやつ、落ち武者狩りにあって討たれたとあるぞ!ざまあないのぉ!しかし、その後(のち)サル(豊臣秀吉)が関白か!あやつも偉ろぉなったもんじゃのぉ!うまくやりおって!おサルの関白など日の本も終わりよのぉ。そうじゃろ!蘭!ほうほう、それで徳川幕府か。竹千代が征夷大将軍じゃと?あーはっはっはっは!似合わぬ!あんな狸顔が大将軍か!それで徳川も滅びて天皇親政の世になると」
信長には、書いてある言葉の全てがわかるわけでは無かったが、漢字で書かれていればほぼ意味を理解でき、さらにマンガであるため、その絵によって概ねの書物の内容は飲み込めた。
「う、上様。笑い事ではありませぬ。この書物によると上様は本能寺で討ち死にされておりまする。つ、ついでにそれがしも・・・。ということは今の我らはどういうことでありましょうや?」
「あ、そうじゃの。摩訶不思議なことじゃの」
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