29 / 36
四章 妹
4-4 真面目な話は場所を選んで
しおりを挟む
「――やっぱり、これは違うと思うな」
冷えた身体の表面から、一気に芯まで染み込んでくる湯の温かさを感じながら、頭の後ろから響く柚木の声を聞く。
「たしかに、これは正解ではないかもしれない。だが、今の俺達に取れる最適解なんだ」
俺の上に柚木はダメ。背中合わせは、かなり狭っ苦しい事になるので望ましくない。互いに向かい合い、足を広げて相手の頭を挟むように置くなんて案も思いついたが、考えるだけで色々とやばそうなので却下。
結果、湯船の中、俺が柚木の上に座る形で一応の決着を付けたのだが。
「これなら、私がひろ兄の上に座るのでもいいじゃん。むしろ、そっちの方がいいよ」
「わかってくれ、柚木。それはダメなんだ。ダメなんだそれは」
「これもダメだと思うけどなぁ……」
湯船の中、大の男が年下の女の子の上に座るという構図は、それだけ見れば滑稽でしかないわけで。
「まぁ、そう言わないで。俺の尻の感触でも楽しんでくれ」
「変な事意識させないでっ! ……っ」
勢い良く抗議して、その後で柚木はわずかに声を漏らした。
浮力が重さを軽減してくれているとはいえ、俺の身体が柚木の上に重なっている事に変わりはないわけで。逆であればどうなっていたか、やっと気付いたらしい。
ちなみに、上は上で、背中で柚木の胸の感触を味わう形にはなっているが、水着越しなのでなんとかセーフ。なんとかセーフだと思いたい。
「……や、やっぱり、一緒にお風呂はちょっと恥ずかしすぎたかな?」
「何を今更」
「だよね……あははっ」
後ろから、湯を口でぶくぶくする音が聞こえる。
「それなのに、どうして一緒に風呂に入ろうと思ったんだ?」
先程はなんだか有耶無耶になってしまった問いを、もう一度柚木に投げかける。
「……ひろ兄を、ゆーわくしようと思ったの」
「誘惑?」
「そう、ゆーわく」
どうにも柚木に似つかわしくない言葉に、後ろを振り向こうとするも、寸前で首を抑えられてしまい、柚木の顔が見えない。
「ひろ兄えっちだから、一緒にお風呂に入ったら喜ぶかなって」
「まぁ、間違ってはいない事もない事もないでもないような気もしないでもないな」
否定するとかえって怪しいので、とりあえず誤魔化してみる。
「私、明日でお家に帰っちゃうでしょ。そしたら、その間にひろ兄が他の人と付き合っちゃうんじゃないかって思って」
「なんだ、俺が妹の友達と付き合うのが寂しいのか?」
「……寂しいよ。私、ひろ兄の事好きだもん」
消え入りそうな声は、ごく近い距離と風呂場の反響で嫌でも耳に入る。
「俺も、柚木の事は大好きだぞ」
狭い湯船の中、無理矢理身体を反転させて柚子の頭を撫でる。わずかに背けられた柚木の顔が赤いのは、湯の暖かさだけが原因ではないだろう。
「違うよ、そうじゃないの。私は、ひろ兄の事、恋愛の意味で好きなの」
「…………」
腰のタオルがずれないように気を付けながら、頭をゆっくり撫で続ける。抱きしめたいのも山々だが、流石にこの状態ではまずいだろう。
「ごめんな、柚木。俺は、妹の友達と付き合うのが夢だから」
柚木が俺の事を好いているなんて事は、あえて考えるまでもなく知っていた。それが兄に対しての好意とは違うという事も、自惚れかと思いつつも気付いてはいた。
俺も、柚木の事は好きだ。それがどういった類の好きかは自分ではわからないが、柚木に対して性的な魅力を感じてしまう、というか今現在感じているのも事実である。
それでも、俺の口から出た言葉は謝罪だった。
「……じゃあ、いつかそれを諦めたら、ひろ兄は私と付き合ってくれる?」
「今のところ、妹の友達を諦める予定はないな」
「それなら、私が妹の友達になったら?」
畳み掛けるような柚木の言葉に、、じりじりと詰められていく。
「……それは、俺の事をお兄さん、って呼んでくれるのか?」
「ひろ兄が、ううん、お兄さんがそうしてほしいならいいよ」
その言葉を聞いた瞬間、自分の中の何かが突き動かされる音がした。
「うわぁぁああぁ!」
「あっ、ひろ兄!? ちょっと!?」
このままではまずい。湯船から上がり、慌てて脱衣場へと飛び出すと、体を拭くのもそこそこに着替えを済ませる。
脱衣場から廊下に出たところで、ようやく柚木の風呂場の扉を開ける音が聞こえた。
冷えた身体の表面から、一気に芯まで染み込んでくる湯の温かさを感じながら、頭の後ろから響く柚木の声を聞く。
「たしかに、これは正解ではないかもしれない。だが、今の俺達に取れる最適解なんだ」
俺の上に柚木はダメ。背中合わせは、かなり狭っ苦しい事になるので望ましくない。互いに向かい合い、足を広げて相手の頭を挟むように置くなんて案も思いついたが、考えるだけで色々とやばそうなので却下。
結果、湯船の中、俺が柚木の上に座る形で一応の決着を付けたのだが。
「これなら、私がひろ兄の上に座るのでもいいじゃん。むしろ、そっちの方がいいよ」
「わかってくれ、柚木。それはダメなんだ。ダメなんだそれは」
「これもダメだと思うけどなぁ……」
湯船の中、大の男が年下の女の子の上に座るという構図は、それだけ見れば滑稽でしかないわけで。
「まぁ、そう言わないで。俺の尻の感触でも楽しんでくれ」
「変な事意識させないでっ! ……っ」
勢い良く抗議して、その後で柚木はわずかに声を漏らした。
浮力が重さを軽減してくれているとはいえ、俺の身体が柚木の上に重なっている事に変わりはないわけで。逆であればどうなっていたか、やっと気付いたらしい。
ちなみに、上は上で、背中で柚木の胸の感触を味わう形にはなっているが、水着越しなのでなんとかセーフ。なんとかセーフだと思いたい。
「……や、やっぱり、一緒にお風呂はちょっと恥ずかしすぎたかな?」
「何を今更」
「だよね……あははっ」
後ろから、湯を口でぶくぶくする音が聞こえる。
「それなのに、どうして一緒に風呂に入ろうと思ったんだ?」
先程はなんだか有耶無耶になってしまった問いを、もう一度柚木に投げかける。
「……ひろ兄を、ゆーわくしようと思ったの」
「誘惑?」
「そう、ゆーわく」
どうにも柚木に似つかわしくない言葉に、後ろを振り向こうとするも、寸前で首を抑えられてしまい、柚木の顔が見えない。
「ひろ兄えっちだから、一緒にお風呂に入ったら喜ぶかなって」
「まぁ、間違ってはいない事もない事もないでもないような気もしないでもないな」
否定するとかえって怪しいので、とりあえず誤魔化してみる。
「私、明日でお家に帰っちゃうでしょ。そしたら、その間にひろ兄が他の人と付き合っちゃうんじゃないかって思って」
「なんだ、俺が妹の友達と付き合うのが寂しいのか?」
「……寂しいよ。私、ひろ兄の事好きだもん」
消え入りそうな声は、ごく近い距離と風呂場の反響で嫌でも耳に入る。
「俺も、柚木の事は大好きだぞ」
狭い湯船の中、無理矢理身体を反転させて柚子の頭を撫でる。わずかに背けられた柚木の顔が赤いのは、湯の暖かさだけが原因ではないだろう。
「違うよ、そうじゃないの。私は、ひろ兄の事、恋愛の意味で好きなの」
「…………」
腰のタオルがずれないように気を付けながら、頭をゆっくり撫で続ける。抱きしめたいのも山々だが、流石にこの状態ではまずいだろう。
「ごめんな、柚木。俺は、妹の友達と付き合うのが夢だから」
柚木が俺の事を好いているなんて事は、あえて考えるまでもなく知っていた。それが兄に対しての好意とは違うという事も、自惚れかと思いつつも気付いてはいた。
俺も、柚木の事は好きだ。それがどういった類の好きかは自分ではわからないが、柚木に対して性的な魅力を感じてしまう、というか今現在感じているのも事実である。
それでも、俺の口から出た言葉は謝罪だった。
「……じゃあ、いつかそれを諦めたら、ひろ兄は私と付き合ってくれる?」
「今のところ、妹の友達を諦める予定はないな」
「それなら、私が妹の友達になったら?」
畳み掛けるような柚木の言葉に、、じりじりと詰められていく。
「……それは、俺の事をお兄さん、って呼んでくれるのか?」
「ひろ兄が、ううん、お兄さんがそうしてほしいならいいよ」
その言葉を聞いた瞬間、自分の中の何かが突き動かされる音がした。
「うわぁぁああぁ!」
「あっ、ひろ兄!? ちょっと!?」
このままではまずい。湯船から上がり、慌てて脱衣場へと飛び出すと、体を拭くのもそこそこに着替えを済ませる。
脱衣場から廊下に出たところで、ようやく柚木の風呂場の扉を開ける音が聞こえた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/essay.png?id=5ada788558fa89228aea)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
猫にまつわる三択人生の末路
ねこ沢ふたよ
ライト文芸
街で黒猫を見かけた・・・さてどうする?
そこから始まる三択で行方が変わります。
超簡単なゲームブックです。
基本コメディで楽しく遊べる内容を目指しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる