妹の友達と付き合うために必要なたった一つのこと

玄城 克博

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二章 彼女

2-6 おやすみからおはようまで

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「さて……じゃあ寝るか」

 部屋の電気を消して、ベッドに潜り込む。夕食と風呂を済ませ、時刻は十時過ぎとまだ早いが、いい加減引っ張り続けた睡魔が限界に来ていた。

「えぇー、もう寝るの? おしゃべりしようよ、おしゃべり」

「重い重い、どいて、柚木」

 腹の辺りに圧し掛かってきた重みにも、眠気はほとんど飛んでいかない。

「重くないよっ! ちゃんとお風呂入る前に体重計ったもんっ!」

 どこで寝たいかを聞いた結果、柚木は俺の部屋を選んでいた。おしゃべりを楽しみたかったのかもしれないが、残念ながら付き合ってやる余裕はなさそうだ。

「平均より、とかじゃなくて、やっぱり誰であっても人の命は重いんだよ」

「そんな話してないよねっ?」

 やはり、眠くてトークのキレもいまいちだ。柚木につまらない男だと思われるのは嫌なので、もう寝てしまおう。

「別に柚木はまだ寝なくてもいいし、友希とでも話してくればいいんじゃないか?」

「それはそうだけど……いいよ、私ももう寝る」

 もそもそと俺の布団に潜り込んで来た柚木の腕が、俺の胴に回される。

「流石にもう、このベッドも二人で寝るには狭くない?」

「だからこうやってくっついてるんじゃん。ほら、ひろ兄もギュッてして」

「まったく、寝てる間に落ちても知らないぞ」

 これが夏だったら意地でも拒否するが、幸いにも今は冬だ。かわいい従妹とくっついて寝る事自体には問題はない。ついでに、壁側の俺はベッドから落ちる心配もない。

「電気は消しても大丈夫だったっけ」

「もう、そんなにおこちゃまじゃないよ。明るい方が寝辛いくらいだし」

「そっか、じゃあ消そう」

 電気を消し、暗闇に包まれると、更に眠気が強くなる。

「……ねぇ、ひろ兄」

 ほとんど意識の落ちかけた頃、いや、一度意識を手放していたかもしれないが、柚木の囁き声がすぐ目の前から聞こえた。

「あれ、もう寝ちゃった?」

「いや、まだギリギリほんの少しだけ起きてる気がしないでもないでもない」

「起きてたか。じゃあ、寝ちゃうまででいいからおはなししよっ?」

「ああ、おはなしね。寝オチしてもいいなら行けるところまで行ってみようか、うん」

 どうせすぐ寝てしまうだろうが、ただ断るのもかわいそうなので了承してみる。

「ひろ兄は、妹の友達と付き合いたいんだよね?」

「それはもちろん。何かいい考えでも浮かんだか?」

「ううん、そうじゃないんだけど」

 少しだけ目が覚めかけたが、落胆と共に元に戻る。

「例えばの話、妹の友達以外の子に告白されたりしたらどうするのかな、って」

「そういう事か。それなら、そうだなぁ……まぁ、相手によるかな」

 考えてみようとしてもどうも思考がまとまらないので、答えにならない答えで濁す。

「じゃあ、あれは? あの海原とかいう人」

「可乃か? ないだろ、そもそもそういう展開自体」

「でもでも、一度は付き合ってもいいとは思ったんでしょ?」

 一度否定するも、柚木はまだ喰い付いてくる。

「あれで見た目はいいからな。しかもあっちが俺の事好きなんだと思ってたし、あえて断るほどの理由も無かったし」

「じゃあ今は? 今告白されたら、妹の友達と付き合いたいからって言って断る?」

「……多分断るかな。それこそ、あいつが妹の友達になるんでもなければ」

 ふわふわの頭では、可乃と付き合うなんてありえない事を想像するのも難しく、直感で答えてみる事しかできない。

「そうだよねっ! よかった、うん、よかった!」

「そうだね、よかったね。じゃあ、もう寝よっか」

 なぜか柚木が嬉しそうなのはいいが、そろそろ本気で限界が近い。

「うん! ……あっ、最後にもう一つだけいい?」

「もう一つだけ? うん、もう一つだけね。もう一つだけなら」

 これが最後、と言われると結構がんばれたりするものだ。がんばってみよう。

「えっと……んと……その、あの……ちょっと待って」

 しかし、柚木はなかなか続きを口にしない。そうなると、繋ぎ止めるものの無くなった俺の意識はどんどんと遠ざかって行くわけで。

「……その、私が――」

 柚木が何かを言おうとした、と思った時には、完全に眠りへと引きずり込まれていた。




「ん、んん、ふぁ、眩し。もう朝かぁ……」

 柚木が上半身を起こして大きく伸びをする。幼い頃の記憶と比べるとそこそこある胸が突き出され、薄いパジャマを押し出していく。

「おはよう、柚木」

「わわっ、ひろ兄!? あれ、えっ、なんで!?」

 横から声をかけると、柚木の体がピクンと跳ねた。

「はは、昨日は俺の部屋で寝たじゃないか。寝ぼけてるのか?」

「なんでひろ兄がもう起きてるの!?」

「そっちかい」

 たしかに俺は寝起きの良い方ではないが、そこまで驚くほどの事だろうか。

「いつも寝るのが遅いだけで、早く寝れば早く起きるから」

「そうなんだ、知らなかった」

 ふむふむと頷くと、もう一度伸びをした後に布団から出て立ち上がる。

「じゃあ、とりあえず下行って朝ごはんでも食べよっか」

「あー、そうだな。じゃあ行こうかっ……」

 後に続くべく布団を退かしかけ、手が止まる。

「柚木、先行ってていいぞ」

「えっ、なんで? いっしょに行こうよ」

「……足、足がしびれて立てないんだ。多分、寝方が悪かったのかな」

「大丈夫? あっ、もしかして私といっしょに寝たからかも……」



「やめてくださいっ!!」



 足を見るためか、布団を退かそうとした柚木を直前で止める。

「ほ、ほら、アレだ。触られるとやばい感じだから。どうせだから、友希でも起こして先に下に行っててくれ」

「う、うん、じゃあ、そうするね。ひろ兄もがんばって」

 俺の懇願が伝わったのか、柚木はやや気圧されながらも部屋から立ち去ってくれた。足が痺れているからといってイタズラしたりしない良い子で本当に良かった。

「……いや、本当に良かったよ、なぁ」

 健常そのものの下半身で布団を蹴り退け、その中でも特に元気な一部分に語りかける。

「お前が朝行性だって事をすっかり忘れてたよ。朝行性なんて言葉あるのか知らんけど」

 普段は睡眠時間が足りないせいか経験した事は少なかったが、朝の男と言えば、これが普通なのだろう。いつになく元気な相棒(棒だけに)に少し嬉しくなる。

「しかし、ずっとこれじゃあ困るな。柚木が怖がってしまう」

 柚木と口にすると、なぜか相棒が小さく跳ねた。

「おお、お前は柚木が好きか。そうかそうか」

 そうかそうかじゃない。かわいい従妹をそんな目で見てはダメでしょうに。

『じゃあ誰ならいいんだよ、あの別嬪さんの先輩か? それとも佐々木さんか?』

 相棒が話す度に小さく跳ねる。なんて節操のない奴だ。

「俺は妹の友達に操を立ててるんだ、他の人はダメ」

『へっ、言うじゃねぇか相棒。気に入ったぜ……』

「そうだろ、相棒。……おい、相棒? 相棒っ!」

 一際大きく跳ねたと思うと、それを最後に相棒は話す事も立ち上がる事もなくなってしまった。

「……バカやってないでさっさと行くか」

 何にしても、立ち上がらなくなったなら好都合。もう堂々と大手を振って歩ける。

「一応、可乃、とか」

 確認のために口にした名前にもピクリとも反応しない事に安心して、家族の待つ食卓へと向かうことにした。
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